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―第1章:リベルタス騒乱―
第8話:邂逅――陰謀の夜――
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第八話:邂逅――陰謀の夜――
――残響が止む。
さっきの少女の声は一体なんだ?
明らかに外から聞こえたものじゃない。
今までこんなことは一度も……いや、強敵と出くわすたびに、心臓の高鳴りを感じることはあった。
これが武者震いでないのだとすれば……一体なんだ?
俺の中で、何かが目を覚まそうとしている――そんな直感があった。
「奴はどこへ行った?!」
魔力の痕跡が途絶えた。――まるで初めから存在しなかったかのように。
(マンドランの能力か?) 断定するには、不可解すぎる。
そしてあの亡者のようなならず者達……奴ら全員が魔力に対する異常な執着を見せていた。
魔力とは、自己の資質により練り上げていく物だと学んできたが。
もしも、他者の魔力を糧にする力があるのだとすれば……合点がいく。
そうか!奴らの狙いは……魔力の高い者を捕らえて、それを糧にすることだったのか!
だとすると妙だ。
この行方不明依頼、発行したのはギルド……ということは、この事故は偶然じゃねぇってことだ。
つうと、無意識に頭から冷や汗が垂れる。
まずったな、こいつは……左遷先でとんだとばっちりに巻き込まれちまったのかもしれねぇ。
行方不明者はまず全員生きていない、しかしその痕跡も間違いなく隠されてる。
ひとまずは仕切り直しか……あまりこの森に長居するのも体に悪そうだしな。
あいつらには森の入り口で落ち合うよう合図を送った。
それにもし、俺が半日経っても戻らなかったらギルドに戻るよう、普段から口を酸っぱくして言いつけているからな、まず無事だと考えていいだろう。
これ以上ここで得られるものは無い、そう思いながら吹き飛ばされていたラスターイージスを拾い上げた。
瞬間だった。
――ドクン!
不意に心臓が高鳴る。
風が止み、森の音が消えた。
世界から音だけが抜け落ちる。
視線を上げると、樹上に立つ二人の女の影がある。
その片方から、俺めがけて発せられている異様なまでの――圧。
俺が今まで相対した何よりも強い……。
これは――逃げられない。
「腹括るか……」
俺はゆっくりと大盾を構え、呼吸を整える。
いつでも応戦できるよう、悟られないように身体中に魔力を這わせる。
もしかしたらラッキーヒットで勝てるかもしれない、完全に諦めるにはまだ早――
「動くな」
刹那、構えた大盾と俺の間に女がいた。
この世の者とは思えない、妖艶で美しい相貌。
怪しく輝く紫色の瞳が、力強く俺を見据えている。
心臓が早鐘を打つ。
女は何も言わない。
ただ風だけが、黒紫の美しい髪を静かに揺らしている。
女の出で立ちは見慣れないもので、その美しいシルエットを極力崩さない黒の鎧を全身にまとっていた。
その鎧もまた、今までに見たことがないほど美術品のように繊細で美しい。
俺はこんな状況だというのに、その鎧を纏っている女が羨ましく思えてしまった。
だが、いつまでこうしていても埒が明かない。
俺は死ぬほどか細い声で、恐る恐る女に問いかけた。
「何者だ……」
「――喋るな。」
女が鋭い眼光を放つと同時に、身体がピクリとも動かなくなる。
拒絶――俺が行う所作全てを紛らわしいとでも言うように、女は言い放った。
今の俺はまな板の上の鯉も同然で、全ての主導権が俺にはない。
ただ死を待つだけの存在、冷や汗だけが滝のように身体中を伝っている。
「……ふむ」
すると女は、静かに動き出した。
そのまま俺が動けない事をいいことに、俺の身体へと手を伸ばす。
手甲越しでもわかる、繊細でしなやかな指――
――ぴたり。
指先が触れた瞬間、骨の髄にまで氷を流し込まれたような感覚。
だが不思議と、その冷たさに抗う気も起きなかった。
「なるほど……なるほど……」
「うあっ!ちょっ」
「――動くな」
女が遠慮なく身体を弄り、俺が反応しようものならすぐに止めてくる。
不条理の女神と形容するに相応しい。
「うむ……大体わかった。楽にするがいい」
「はぁ……?――ッ!」
突然解放されたかのように身体がスッと軽くなる。
驚く俺を前に、女は一言だけ呟いた。
「もはや、その身体はお前の物だけではない。粗末にしてくれるなよ」
「おいっ!」
一瞬風が過ぎ去ったかと思うと、既に女の姿は無かった。
瞬きすらしていないというのに。
ただ残された妖艶な魔の香りだけが、これは夢ではないのだと教えてくれる。
――それからしばらくして、俺は無事森の入り口で3人と合流を果たした。
さっきの女の事も気になりすぎるが、一旦は俺の心のうちに留めておこう。
そして……外は今まさに、夕陽が沈もうとしていた。
俺の顔を見るや否や、3人が安堵と共に駆け寄ってくる。
「無事でしたか師匠!」
「流石に今回のは駄目かと思ったわよ……」
「すいませんラルゴさん……俺、何の力にもなれませんでした……」
「そう自分を卑下するな、十分やれる事をやっていたさ」
「うっ……うう……」
激励も空しく、ウィルは悔し涙を流し続けていた。
他の二人もそれなりに思うところはあったようだが、ウィルの自分の弱さに対するコンプレックスは人一倍あるのだろう。
それでも本当に、あの状況でよくやれていたとは思うんだが。
「そういえば師匠、あいつらは……一体なんだったんです?」
「わからん……あの異形だった奴は、自分をマンドランだと名乗っていたが……どこかで聞いた気がするんだが思い出せん」
「マンドラン、マンドラン……あっ!」
アニーが何かを思い出したとばかりに手を打った。
「ほら、レイジーさんが説明してくれたじゃない!ノトスギルド所属の金級冒険者!算術……?のマンドラン!」
「断空だ馬鹿」
ボケるアニーにすかさずシャーヴィスが突っ込みを入れた。
「いたっ!叩くことないじゃない、キーッ!」
「やれやれ……所属ギルドの強者の名前も覚えられていないとは……先が思いやられるよ」
二人はのんきに漫才を続けている。
というかシャーヴィスの言葉は俺にも刺さっているのだが……いや、そんなことはどうでもいい。
「こいつはとんでもないことになった」
「???」
3人は俺の言葉に、一斉に疑問符を浮かべる。
「冒険者の行方不明事件に、金級冒険者が関わっていた。しかもこれは、ギルドが発行した依頼だ……俺が言いたいこと、分かるか?」
「そ、そんな……」
落ち着きを取り戻していたウィルが、再び焦りの表情を浮かべる。
「悪いが今回の依頼……諦めてもらってもいいか?」
「え、ちょっとどういうこと!?」
「僕達にもわかるようにお願いします」
(シャーヴィス……お前がいいのは記憶力だけか……)
「いいか?この依頼は、冒険者を狙って作られた依頼なんだ」
「冒険者に発注しているのだから、それは当たり前のことじゃないの?」
「違う。ここでいう狙うっていうのは、身体の話だ」
「な、なんだって!? 一体何の為に!?」
「そこまでは分からん。だが、今回行方不明になってた奴らは全員マンドランにやられていた。そしてマンドランを操っていたのが依頼を発行した奴ら……それが」
「ギルドの上層部……ってことですよね?」
「そういうことだウィル。これ以上この依頼に関わるのは危険すぎる」
「なら……諦めるしかないわよね……」
3人の表情は見るからに沈んでいるが、逆にここで手を引いてもらえるのは心配事の種が消えて助かる。
「仕方ありませんね……では師匠、犠牲になった馬車代はエルトルス家が負担いたしますので、どうか気になさらないでください」
「あ……ぁぁ……完全に忘れていた……金持ちがパーティーにいるってのはいいもんだな」
「師匠?」
「いや失礼。しかし、この後どうするか……一番不味いのは、マンドランが生きていて、俺たちの事を報告していた場合だが……」
「ギルドに戻るのも危険……ってことですよね?」
「そうだな。シャーヴィス、お前たちは一旦実家に帰れ」
「ええっ!?」
「一応銀級になるところまではいけたんだ、事情を話せば親父さんも納得してくれるだろう」
「で、ですが師匠はどうされるんです!?」
「もしかしたら、レイジーなら力になってくれるだろう。簡単にはあの依頼を受けさせなかったんだ、信頼できるだろうよ」
「な、なるほど!」
そうして、俺たちは次の目的地に向かうべく別れる。
「シャーヴィスの実家なら、少なくともノトスよりは近いだろう。お前ら、報告があるまでは大人しくしておくんだぞ」
「師匠こそ、どうかご無事で!」
「何かあったら、頼ってくださいよラルゴさん!」
「ラルゴ……死なないでね!」
「当たり前だ。それじゃあな」
街道の分かれ道、各々が進む道を行く。
不吉な夜風が運ぶは……大いなる波乱か、争乱か。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
松明が照らす、暗く広い石畳の空間。
そこに這いつくばる一つの影……それはマンドランだった。
そしてそれを見下ろす、二つの影がある。
金の髪に浅黒い肌、筋骨隆々の男が一人。
そして、髑髏の仮面をつけた背の高い老躯。
「あーあ、せっかく力を得たっていうのに、どこの馬の骨ともわからん奴にやられちまうとは……」
マンドランが慌てて言葉を返す。
「そ、そうだっ!あれは初めて見る魔法だった!対策を知らねぇから負けただけだ!初見殺しだ、初見殺し!」
必死で弁明しながら、マンドランは自身を見下ろす浅黒い肌の男の脚にすがりついた。
「チッ、みっともねぇ。冒険者様の誇りはどうしたよ」
「た、頼むザイール!次こそは!もっと力をもらえれば、必ず勝って見せッ――!?」
命乞いをするマンドランを、ザイールと呼ばれた男はその左腕で無慈悲に掴んだ。
その横で、髑髏の仮面をつけた影がしわがれた声で囁く。
「儂らはのう、お主に出来る限りの力は与えたんじゃ。だのに、お主と来たら……他責も大概にしてほしいのう」
「ほんとそれな。んじゃマンドラン……消えてくれや」
「まっ!待って!待ってくれぇぇあああぁぁ――」
ザイールの左腕が紫色の輝きを放ち、マンドランの身体がゆっくりと、粒子状になって吸い込まれていく。
やがてそれは完全に消失し、ザイールはだるそうに手を叩いた。
「くそ不味いわ、まがいものだなこりゃ」
「フォッフォ、金級とはいえピンキリじゃのう。もしくは、あの女の下地が出来すぎていただけじゃったか」
――ピピ
「っと、噂をすればじゃ」
髑髏の耳元に埋め込まれた、怪しく光る黒い宝石が妙な音を上げた。
老躯はその骨のような手を静かに宝石に当てた。
「定時連絡です、スカラー様。首尾はいかがでしょうか」
「残念じゃが、マンドランは失敗じゃよ」
「……はぁ。それで、次はどうするのです?」
「そうじゃのう、そろそろ奴らも準備が整う頃じゃろうて……お主もそろそろ、動けるようにしておくんじゃよ」
「……承知しました。では」
不愛想な返事と共に、ブツリと音が途切れる。
「やれやれ、愛想の無い娘じゃのう」
「んで爺さん、俺達はこれから何をすればいい?」
「さあのう、一つだけわかるのは……」
髑髏の口元が、大きくゆがんだ笑みを浮かべる。
「――我らの新たな時代が、この地から始まるということじゃな」
地の底から、何かが蠢くような音がした。
――残響が止む。
さっきの少女の声は一体なんだ?
明らかに外から聞こえたものじゃない。
今までこんなことは一度も……いや、強敵と出くわすたびに、心臓の高鳴りを感じることはあった。
これが武者震いでないのだとすれば……一体なんだ?
俺の中で、何かが目を覚まそうとしている――そんな直感があった。
「奴はどこへ行った?!」
魔力の痕跡が途絶えた。――まるで初めから存在しなかったかのように。
(マンドランの能力か?) 断定するには、不可解すぎる。
そしてあの亡者のようなならず者達……奴ら全員が魔力に対する異常な執着を見せていた。
魔力とは、自己の資質により練り上げていく物だと学んできたが。
もしも、他者の魔力を糧にする力があるのだとすれば……合点がいく。
そうか!奴らの狙いは……魔力の高い者を捕らえて、それを糧にすることだったのか!
だとすると妙だ。
この行方不明依頼、発行したのはギルド……ということは、この事故は偶然じゃねぇってことだ。
つうと、無意識に頭から冷や汗が垂れる。
まずったな、こいつは……左遷先でとんだとばっちりに巻き込まれちまったのかもしれねぇ。
行方不明者はまず全員生きていない、しかしその痕跡も間違いなく隠されてる。
ひとまずは仕切り直しか……あまりこの森に長居するのも体に悪そうだしな。
あいつらには森の入り口で落ち合うよう合図を送った。
それにもし、俺が半日経っても戻らなかったらギルドに戻るよう、普段から口を酸っぱくして言いつけているからな、まず無事だと考えていいだろう。
これ以上ここで得られるものは無い、そう思いながら吹き飛ばされていたラスターイージスを拾い上げた。
瞬間だった。
――ドクン!
不意に心臓が高鳴る。
風が止み、森の音が消えた。
世界から音だけが抜け落ちる。
視線を上げると、樹上に立つ二人の女の影がある。
その片方から、俺めがけて発せられている異様なまでの――圧。
俺が今まで相対した何よりも強い……。
これは――逃げられない。
「腹括るか……」
俺はゆっくりと大盾を構え、呼吸を整える。
いつでも応戦できるよう、悟られないように身体中に魔力を這わせる。
もしかしたらラッキーヒットで勝てるかもしれない、完全に諦めるにはまだ早――
「動くな」
刹那、構えた大盾と俺の間に女がいた。
この世の者とは思えない、妖艶で美しい相貌。
怪しく輝く紫色の瞳が、力強く俺を見据えている。
心臓が早鐘を打つ。
女は何も言わない。
ただ風だけが、黒紫の美しい髪を静かに揺らしている。
女の出で立ちは見慣れないもので、その美しいシルエットを極力崩さない黒の鎧を全身にまとっていた。
その鎧もまた、今までに見たことがないほど美術品のように繊細で美しい。
俺はこんな状況だというのに、その鎧を纏っている女が羨ましく思えてしまった。
だが、いつまでこうしていても埒が明かない。
俺は死ぬほどか細い声で、恐る恐る女に問いかけた。
「何者だ……」
「――喋るな。」
女が鋭い眼光を放つと同時に、身体がピクリとも動かなくなる。
拒絶――俺が行う所作全てを紛らわしいとでも言うように、女は言い放った。
今の俺はまな板の上の鯉も同然で、全ての主導権が俺にはない。
ただ死を待つだけの存在、冷や汗だけが滝のように身体中を伝っている。
「……ふむ」
すると女は、静かに動き出した。
そのまま俺が動けない事をいいことに、俺の身体へと手を伸ばす。
手甲越しでもわかる、繊細でしなやかな指――
――ぴたり。
指先が触れた瞬間、骨の髄にまで氷を流し込まれたような感覚。
だが不思議と、その冷たさに抗う気も起きなかった。
「なるほど……なるほど……」
「うあっ!ちょっ」
「――動くな」
女が遠慮なく身体を弄り、俺が反応しようものならすぐに止めてくる。
不条理の女神と形容するに相応しい。
「うむ……大体わかった。楽にするがいい」
「はぁ……?――ッ!」
突然解放されたかのように身体がスッと軽くなる。
驚く俺を前に、女は一言だけ呟いた。
「もはや、その身体はお前の物だけではない。粗末にしてくれるなよ」
「おいっ!」
一瞬風が過ぎ去ったかと思うと、既に女の姿は無かった。
瞬きすらしていないというのに。
ただ残された妖艶な魔の香りだけが、これは夢ではないのだと教えてくれる。
――それからしばらくして、俺は無事森の入り口で3人と合流を果たした。
さっきの女の事も気になりすぎるが、一旦は俺の心のうちに留めておこう。
そして……外は今まさに、夕陽が沈もうとしていた。
俺の顔を見るや否や、3人が安堵と共に駆け寄ってくる。
「無事でしたか師匠!」
「流石に今回のは駄目かと思ったわよ……」
「すいませんラルゴさん……俺、何の力にもなれませんでした……」
「そう自分を卑下するな、十分やれる事をやっていたさ」
「うっ……うう……」
激励も空しく、ウィルは悔し涙を流し続けていた。
他の二人もそれなりに思うところはあったようだが、ウィルの自分の弱さに対するコンプレックスは人一倍あるのだろう。
それでも本当に、あの状況でよくやれていたとは思うんだが。
「そういえば師匠、あいつらは……一体なんだったんです?」
「わからん……あの異形だった奴は、自分をマンドランだと名乗っていたが……どこかで聞いた気がするんだが思い出せん」
「マンドラン、マンドラン……あっ!」
アニーが何かを思い出したとばかりに手を打った。
「ほら、レイジーさんが説明してくれたじゃない!ノトスギルド所属の金級冒険者!算術……?のマンドラン!」
「断空だ馬鹿」
ボケるアニーにすかさずシャーヴィスが突っ込みを入れた。
「いたっ!叩くことないじゃない、キーッ!」
「やれやれ……所属ギルドの強者の名前も覚えられていないとは……先が思いやられるよ」
二人はのんきに漫才を続けている。
というかシャーヴィスの言葉は俺にも刺さっているのだが……いや、そんなことはどうでもいい。
「こいつはとんでもないことになった」
「???」
3人は俺の言葉に、一斉に疑問符を浮かべる。
「冒険者の行方不明事件に、金級冒険者が関わっていた。しかもこれは、ギルドが発行した依頼だ……俺が言いたいこと、分かるか?」
「そ、そんな……」
落ち着きを取り戻していたウィルが、再び焦りの表情を浮かべる。
「悪いが今回の依頼……諦めてもらってもいいか?」
「え、ちょっとどういうこと!?」
「僕達にもわかるようにお願いします」
(シャーヴィス……お前がいいのは記憶力だけか……)
「いいか?この依頼は、冒険者を狙って作られた依頼なんだ」
「冒険者に発注しているのだから、それは当たり前のことじゃないの?」
「違う。ここでいう狙うっていうのは、身体の話だ」
「な、なんだって!? 一体何の為に!?」
「そこまでは分からん。だが、今回行方不明になってた奴らは全員マンドランにやられていた。そしてマンドランを操っていたのが依頼を発行した奴ら……それが」
「ギルドの上層部……ってことですよね?」
「そういうことだウィル。これ以上この依頼に関わるのは危険すぎる」
「なら……諦めるしかないわよね……」
3人の表情は見るからに沈んでいるが、逆にここで手を引いてもらえるのは心配事の種が消えて助かる。
「仕方ありませんね……では師匠、犠牲になった馬車代はエルトルス家が負担いたしますので、どうか気になさらないでください」
「あ……ぁぁ……完全に忘れていた……金持ちがパーティーにいるってのはいいもんだな」
「師匠?」
「いや失礼。しかし、この後どうするか……一番不味いのは、マンドランが生きていて、俺たちの事を報告していた場合だが……」
「ギルドに戻るのも危険……ってことですよね?」
「そうだな。シャーヴィス、お前たちは一旦実家に帰れ」
「ええっ!?」
「一応銀級になるところまではいけたんだ、事情を話せば親父さんも納得してくれるだろう」
「で、ですが師匠はどうされるんです!?」
「もしかしたら、レイジーなら力になってくれるだろう。簡単にはあの依頼を受けさせなかったんだ、信頼できるだろうよ」
「な、なるほど!」
そうして、俺たちは次の目的地に向かうべく別れる。
「シャーヴィスの実家なら、少なくともノトスよりは近いだろう。お前ら、報告があるまでは大人しくしておくんだぞ」
「師匠こそ、どうかご無事で!」
「何かあったら、頼ってくださいよラルゴさん!」
「ラルゴ……死なないでね!」
「当たり前だ。それじゃあな」
街道の分かれ道、各々が進む道を行く。
不吉な夜風が運ぶは……大いなる波乱か、争乱か。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
松明が照らす、暗く広い石畳の空間。
そこに這いつくばる一つの影……それはマンドランだった。
そしてそれを見下ろす、二つの影がある。
金の髪に浅黒い肌、筋骨隆々の男が一人。
そして、髑髏の仮面をつけた背の高い老躯。
「あーあ、せっかく力を得たっていうのに、どこの馬の骨ともわからん奴にやられちまうとは……」
マンドランが慌てて言葉を返す。
「そ、そうだっ!あれは初めて見る魔法だった!対策を知らねぇから負けただけだ!初見殺しだ、初見殺し!」
必死で弁明しながら、マンドランは自身を見下ろす浅黒い肌の男の脚にすがりついた。
「チッ、みっともねぇ。冒険者様の誇りはどうしたよ」
「た、頼むザイール!次こそは!もっと力をもらえれば、必ず勝って見せッ――!?」
命乞いをするマンドランを、ザイールと呼ばれた男はその左腕で無慈悲に掴んだ。
その横で、髑髏の仮面をつけた影がしわがれた声で囁く。
「儂らはのう、お主に出来る限りの力は与えたんじゃ。だのに、お主と来たら……他責も大概にしてほしいのう」
「ほんとそれな。んじゃマンドラン……消えてくれや」
「まっ!待って!待ってくれぇぇあああぁぁ――」
ザイールの左腕が紫色の輝きを放ち、マンドランの身体がゆっくりと、粒子状になって吸い込まれていく。
やがてそれは完全に消失し、ザイールはだるそうに手を叩いた。
「くそ不味いわ、まがいものだなこりゃ」
「フォッフォ、金級とはいえピンキリじゃのう。もしくは、あの女の下地が出来すぎていただけじゃったか」
――ピピ
「っと、噂をすればじゃ」
髑髏の耳元に埋め込まれた、怪しく光る黒い宝石が妙な音を上げた。
老躯はその骨のような手を静かに宝石に当てた。
「定時連絡です、スカラー様。首尾はいかがでしょうか」
「残念じゃが、マンドランは失敗じゃよ」
「……はぁ。それで、次はどうするのです?」
「そうじゃのう、そろそろ奴らも準備が整う頃じゃろうて……お主もそろそろ、動けるようにしておくんじゃよ」
「……承知しました。では」
不愛想な返事と共に、ブツリと音が途切れる。
「やれやれ、愛想の無い娘じゃのう」
「んで爺さん、俺達はこれから何をすればいい?」
「さあのう、一つだけわかるのは……」
髑髏の口元が、大きくゆがんだ笑みを浮かべる。
「――我らの新たな時代が、この地から始まるということじゃな」
地の底から、何かが蠢くような音がした。
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しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
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