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―第1章:リベルタス騒乱―
第9話:待ち受ける罠――ノトスの金級冒険者達――
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その日、ノトスに着いたのは深夜だった。
人通りが完全に止み、ただ潮騒だけが耳の中を響いてくる。
俺は街外れにあるいつものボロ宿へと辿り着く。
幸いにも、この時間でも店は開いていた。
いや……宿主が利かして開けてくれていたのだろう。
汚れを落としきれなかった身体で申し訳ないが、出来るだけ音を立てないよう静かに宿の中へと転がり込む。
カランと看板の鈴がなる。
受付には、蝋燭の火を頼りに帳簿をつける宿主の爺さんの姿があった。
「やあ。今日はもう来ないと思っていたよ」
「ああすまねぇ、依頼が立て込んじまってな……悪いが浴場を借りてもいいか?」
「この時間はシャワーだけじゃが、それでも良ければ使ってくれて構わんよ」
「……助かる」
そうして俺は、重い歩を進めていく。
1階の隅にあるタイル貼りの小さな浴場。
――キュッ
蛇口を捻ると、シャワーから溢れ出た冷たい水が身体を洗い流していく。
にも拘わらず、あの女が触った痕に冷たい感覚が残っている。
結局、あの女は誰だったのか……この身体は、俺一人のものではないとは一体どういう意味を持つのか。
考えれば考えるほど、疑問が止まない。
しかしまずは、今日の件をレイジーに確認しなければならない。
俺は決意を新たに、ゆっくりと身体を休めた。
――窓から聞こえる波の音が、警鐘を鳴らしている気がした。
翌朝、俺は朝一番で行動を開始した。
港の繁華街を抜け、崖上のノトスギルドへと急ぐ。
しかし妙だ。
いつも聞こえる何でもないような喧噪が、今日はやけに静かに感じる。
そして、通り過ぎる俺を見る人達の視線。
初めて神聖冒涜者としてこの町に来た時の侮蔑と怯えの混じった目。
あれから一月は経ったというのに、なんら変わった様子がない。
いやそれどころか、以前にも増して……
ふと足を止める。
眼前には、ノトスギルドの錚々たる顔ぶれ。
レイジー、そしてお初にお目にかかる、金級の冒険者たち。
黄金の甲冑に身を包んだリリー・マルレーン嬢。
そして、名前を忘れてしまった……回収なんとかとスラ……だっけか?
髪で目を隠したやせ細った男と、しなやかな体つきをした白髪の女。
その先頭にいるのは、マルレーン領から帰還したであろうドルフの姿だった。
「ドルフ!戻ったのか、まあいい。報告したい事が――」
俺の言葉を聞こうともせず、ドルフが静かに手をあげる。
それを合図に、金級冒険者達が一斉に武器を抜いた。
そのままドルフは俺を見据えると、力強く声を上げる。
「神聖冒涜者ラルゴ……冒険者拉致及び殺害の容疑で拘束する!」
「はぁっ!? なんのつもりだ? レイジー!」
しかしレイジーは、静かに首を横に振った。
それと同時に、リリーが山羊の兜の奥から怒気を孕んだ声音で語りかけてきた。
「ノトスの恥さらしめ。これ以上罪を重ねる前に、大人しく投降しなさい!」
「落ち着け! お前ら一体、何を……」
言葉が途中で途切れた。
皆、俺を“敵”として見ている。
胸の奥で何かが焼けるように軋んだ。
「ふざけるな……俺が、いつ誰を殺した!?」
喉の奥から噛み殺した声が漏れる。
「あくまで白を切るというのならそれもいいでしょう。続きは牢屋で聞かせてもらいますわ!」
リリーが構える。
その手には黄金の輝きを放つ馬上槍と大盾。
風が吹き荒れる。リリーの後ろに、凄まじい緑の魔力が迸っていた。
この力は……――ヤバイ!
「ラスターイージス!」
――ギュンッ
大盾を構えたと同時に、走る衝撃。
そのまま、凄まじい勢いで突っ込んできたリリーに跳ね飛ばされる。
馬車……いや、大型の四足獣が突っ込んできたような衝撃が身体中に走った。
「ぐっ!!」
「全然大したことありませんわね。本当にあのマンドランを打ち負かしたんですの?」
背後、既に二撃目の準備を整えているリリーが、余裕を含んだ声音で語りかけてくる。
だがそれを窘めるように、ドルフが再び声をあげた。
「油断するな、奴は恐るべき力を隠している!全力で掛かれ!最悪の場合は――」
ドルフの目が怪しく光る。
「――殺しても構わん」
「なっ!?」
――ドックン!
胸の奥が、誰かに内側から叩かれたように跳ねた。
次の瞬間、耳の奥でかすかに笑う声がする。
(……あれ……ほんもの……ほしい……)
それは声というより、血の流れる音が言葉になったような感覚だった。
吐息が、他人のもののように冷たく感じる。
本物?欲しい?まるで意味がわからない。
そんな折、不意に俺の中の魔力が蠢き出した。
それは大きな炎のようにうねり、凄まじい魔力を放っている。
「ようやく本気を出しましたのね。相手にとって不足は……」
まずい、さっきの攻撃が来る!
「――ないですわ!」
――ガキィン!
無意識に身体が動く。
右腕から延びる炎のような魔力が大盾を包み、猛スピードで突っ込んできたリリーをいとも簡単に防いでいる。
「な、なんなんですの?」
体勢を崩したリリーの動きが大きく鈍っている。
装備と戦闘スタイルから考えるに、大きく動くには風の魔力の再チャージが必要なんだ。
――カァン!
しかしその隙を打ち消すように、後ろに立った二人の金級が攻撃を仕掛けてきた。
飛来した槍と、二つのチャクラム……いや、これは圈!
西部の部族が用いると言われているが、実際に使われているのを見るのは初めて。
いや、そんな事を考えてる場合じゃない。
気づけば目の前でリリーが、槍に凄まじい風の魔力を纏わせていた。
「これならどうですの!!」
竜巻が黒鉄を削り火花を散らす。
人間の攻撃とは思えない、凄まじい一撃だ。
こちらもとてつもない魔力が湧き出してはいるが、身体はゆうことを聞かない。
このまま動けなければ挟み撃ちにされてしまう。
そしてあいつらもそれがわかっている。
二人の金級が俺の左右に躍り出た。
そして一番の実力者であるドルフ……はなぜか、動きがない。
それどころか、どこかこちらを恐れているような素振りすら見受けられる。
「悪いけど」
「悪いな」
二人の金級が同時に語り掛けてくる。
俺は完全に間合いに入っていた。
――ドクン!
瞬間、残響が止み、身体の自由が戻った。
――ヒュウッ
反射的に身体がねじれた。
刃が頬を掠め、時間が一瞬止まる。
赤い雫が宙に浮いたまま、落ちてこない。
世界が遅くなる。呼吸が痛い。
「何よこれ」
「ッ……!」
「あなた……なんなんですの……」
そして何故か、それを見た冒険者達は驚きの表情をしていた。
「何がそんなにおかしい? ……?」
釣られて、俺は傷口を指でなぞった。
そこには、紫色の血が付着している。
「人の形をした悪魔め……私がここで、決着をつけてさしあげますの!」
体勢を整えたリリーが、再びチャージを開始した。
それにその魔力は、先ほどよりも更にパワーを上げている。
まずい、先ほどまで迸っていた魔力は嘘のように無くなっている。
黒鉄化したところで防ぎきれる保証はない。
「ラルゴさん!!」
――ボシュウ!
ウィルの叫び声が聞こえたと同時に、目の前で黒煙が舞い上がった。
「ゴホッゴホッ!なんですの!?」
ついてきていたのか?
全く気づけなかった……なるほど、これが魔力無しの為せる業か……。
なんて感心してる場合じゃない、急いでこの場を離れなければ。
俺は黒煙を抜け出し、遠くで合図をするウィルの元へと全力疾走した。
特注の煙幕を使ったのか、黒煙は未だ晴れる気配がない。
「大丈夫ですか、ラルゴさん!」
「今回ばかりは……お前に救われたな、ありがとう」
そう言うと、ウィルは目に涙を浮かべ始めた。
「感動してる暇があるか、走れウィル! ギルドはもう俺たちの敵だ!」
「りょ、了解です!」
俺たちはギルドの追跡から逃げる為、一心不乱に走り続けた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
黒煙がゆっくりと晴れ、やがて中から五人の影が姿を現す。
しかし辺りを見渡しても、ラルゴの姿はどこにもなかった。
「逃げられましたの……」
そう言ってがっくりと肩を落とすリリーをよそに、金級冒険者・双月のスライは訝しげに問いかけた。
「マスター、なんで戦わなかったの?」
「ん?」
それを聞いて、ドルフは苦笑いを浮かべる。
その表情を見て、スライは更に詰めるようにドルフに問いかけていく。
「レイジーはまあ、受付嬢だし、戦わなくてもまあ……わからなくはないよ?でもさ、マスターが戦わないのは違うんじゃない?」
「た、戦ってないわけじゃない。隙を探していただけだ」
「そう? 結構隙だらけだったと思うけど。ひょっとして、びびってるとか?」
「ははは……私がびびってる?冗談も大概にしたまえよ」
その言葉を聞いて、三人の金級冒険者はドルフに疑いのまなざしを向けた。
しかし、レイジーはその静寂を打ち破るかのように、金級冒険者の一人・回収者カリオンへと問いかける。
「追えますか、カリオンさん」
「ん……ああ、これだけ痕跡が残っているのなら造作もない」
カリオンは肩まで伸びた長い黒髪をボリボリと搔きながら、静かに答える。
「それに、俺とスライの武器には特注の麻痺毒が塗ってある。並の魔物じゃすぐにでも動けなる代物だ、今頃はどこかで動けなっていることだろう」
「わかりました、では追撃を……」
――風がそよぐ。
レイジーが一瞬耳に手を当てたかと思うと、すぐにこう続けた。
「追撃はカリオンさん一人でお願いします」
「どういうことですの?」
「ノトスギルドにとって数少ない金級の皆さんを、いつまでも拘束していてはこちらとしても不利益ですので」
「レイジー、あんたねぇ……あいつの力、見たでしょ? 流石にカリオン一人じゃ荷が重いって」
「そうですね、交戦はせずとも結構です。痕跡を辿っていただければ、後はこちらで対処いたしますので」
「そういうことか。まあわかった、依頼料は弾んでくれよ?」
「ええ、ご心配なく」
そう言ってカリオンは、ラルゴが通ったと思われる道をゆっくりと辿って行った。
「それで、私達はこれからどうすればいいんですの?」
「そうですね。リリーさん達には引き続き、南部の魔物討伐の依頼をお願いいたします」
「……了解ですわ」
――ピィー!
リリーが指笛を鳴らすと、黄金の意匠を纏った白馬が駆け込んでくる。
流れるような動作でそれに飛び乗ると、風と共に去っていった。
「では、ウチもこれで失礼するわね」
スライもまた、呆れたような足取りで繁華街へと消えていった。
残されたドルフとレイジーの間に、気まずい空気が漂っている。
「マスター」
「な、なんだ……?」
「あまり情けない姿は見せぬようお願いいたします」
レイジーは冷たい視線でそう告げると、坂上のギルドへと歩き出した。
残されたドルフもそれを追う。
――陽光に照らされた二人の影が、ノトスの町に向かって長く伸びた。
人通りが完全に止み、ただ潮騒だけが耳の中を響いてくる。
俺は街外れにあるいつものボロ宿へと辿り着く。
幸いにも、この時間でも店は開いていた。
いや……宿主が利かして開けてくれていたのだろう。
汚れを落としきれなかった身体で申し訳ないが、出来るだけ音を立てないよう静かに宿の中へと転がり込む。
カランと看板の鈴がなる。
受付には、蝋燭の火を頼りに帳簿をつける宿主の爺さんの姿があった。
「やあ。今日はもう来ないと思っていたよ」
「ああすまねぇ、依頼が立て込んじまってな……悪いが浴場を借りてもいいか?」
「この時間はシャワーだけじゃが、それでも良ければ使ってくれて構わんよ」
「……助かる」
そうして俺は、重い歩を進めていく。
1階の隅にあるタイル貼りの小さな浴場。
――キュッ
蛇口を捻ると、シャワーから溢れ出た冷たい水が身体を洗い流していく。
にも拘わらず、あの女が触った痕に冷たい感覚が残っている。
結局、あの女は誰だったのか……この身体は、俺一人のものではないとは一体どういう意味を持つのか。
考えれば考えるほど、疑問が止まない。
しかしまずは、今日の件をレイジーに確認しなければならない。
俺は決意を新たに、ゆっくりと身体を休めた。
――窓から聞こえる波の音が、警鐘を鳴らしている気がした。
翌朝、俺は朝一番で行動を開始した。
港の繁華街を抜け、崖上のノトスギルドへと急ぐ。
しかし妙だ。
いつも聞こえる何でもないような喧噪が、今日はやけに静かに感じる。
そして、通り過ぎる俺を見る人達の視線。
初めて神聖冒涜者としてこの町に来た時の侮蔑と怯えの混じった目。
あれから一月は経ったというのに、なんら変わった様子がない。
いやそれどころか、以前にも増して……
ふと足を止める。
眼前には、ノトスギルドの錚々たる顔ぶれ。
レイジー、そしてお初にお目にかかる、金級の冒険者たち。
黄金の甲冑に身を包んだリリー・マルレーン嬢。
そして、名前を忘れてしまった……回収なんとかとスラ……だっけか?
髪で目を隠したやせ細った男と、しなやかな体つきをした白髪の女。
その先頭にいるのは、マルレーン領から帰還したであろうドルフの姿だった。
「ドルフ!戻ったのか、まあいい。報告したい事が――」
俺の言葉を聞こうともせず、ドルフが静かに手をあげる。
それを合図に、金級冒険者達が一斉に武器を抜いた。
そのままドルフは俺を見据えると、力強く声を上げる。
「神聖冒涜者ラルゴ……冒険者拉致及び殺害の容疑で拘束する!」
「はぁっ!? なんのつもりだ? レイジー!」
しかしレイジーは、静かに首を横に振った。
それと同時に、リリーが山羊の兜の奥から怒気を孕んだ声音で語りかけてきた。
「ノトスの恥さらしめ。これ以上罪を重ねる前に、大人しく投降しなさい!」
「落ち着け! お前ら一体、何を……」
言葉が途中で途切れた。
皆、俺を“敵”として見ている。
胸の奥で何かが焼けるように軋んだ。
「ふざけるな……俺が、いつ誰を殺した!?」
喉の奥から噛み殺した声が漏れる。
「あくまで白を切るというのならそれもいいでしょう。続きは牢屋で聞かせてもらいますわ!」
リリーが構える。
その手には黄金の輝きを放つ馬上槍と大盾。
風が吹き荒れる。リリーの後ろに、凄まじい緑の魔力が迸っていた。
この力は……――ヤバイ!
「ラスターイージス!」
――ギュンッ
大盾を構えたと同時に、走る衝撃。
そのまま、凄まじい勢いで突っ込んできたリリーに跳ね飛ばされる。
馬車……いや、大型の四足獣が突っ込んできたような衝撃が身体中に走った。
「ぐっ!!」
「全然大したことありませんわね。本当にあのマンドランを打ち負かしたんですの?」
背後、既に二撃目の準備を整えているリリーが、余裕を含んだ声音で語りかけてくる。
だがそれを窘めるように、ドルフが再び声をあげた。
「油断するな、奴は恐るべき力を隠している!全力で掛かれ!最悪の場合は――」
ドルフの目が怪しく光る。
「――殺しても構わん」
「なっ!?」
――ドックン!
胸の奥が、誰かに内側から叩かれたように跳ねた。
次の瞬間、耳の奥でかすかに笑う声がする。
(……あれ……ほんもの……ほしい……)
それは声というより、血の流れる音が言葉になったような感覚だった。
吐息が、他人のもののように冷たく感じる。
本物?欲しい?まるで意味がわからない。
そんな折、不意に俺の中の魔力が蠢き出した。
それは大きな炎のようにうねり、凄まじい魔力を放っている。
「ようやく本気を出しましたのね。相手にとって不足は……」
まずい、さっきの攻撃が来る!
「――ないですわ!」
――ガキィン!
無意識に身体が動く。
右腕から延びる炎のような魔力が大盾を包み、猛スピードで突っ込んできたリリーをいとも簡単に防いでいる。
「な、なんなんですの?」
体勢を崩したリリーの動きが大きく鈍っている。
装備と戦闘スタイルから考えるに、大きく動くには風の魔力の再チャージが必要なんだ。
――カァン!
しかしその隙を打ち消すように、後ろに立った二人の金級が攻撃を仕掛けてきた。
飛来した槍と、二つのチャクラム……いや、これは圈!
西部の部族が用いると言われているが、実際に使われているのを見るのは初めて。
いや、そんな事を考えてる場合じゃない。
気づけば目の前でリリーが、槍に凄まじい風の魔力を纏わせていた。
「これならどうですの!!」
竜巻が黒鉄を削り火花を散らす。
人間の攻撃とは思えない、凄まじい一撃だ。
こちらもとてつもない魔力が湧き出してはいるが、身体はゆうことを聞かない。
このまま動けなければ挟み撃ちにされてしまう。
そしてあいつらもそれがわかっている。
二人の金級が俺の左右に躍り出た。
そして一番の実力者であるドルフ……はなぜか、動きがない。
それどころか、どこかこちらを恐れているような素振りすら見受けられる。
「悪いけど」
「悪いな」
二人の金級が同時に語り掛けてくる。
俺は完全に間合いに入っていた。
――ドクン!
瞬間、残響が止み、身体の自由が戻った。
――ヒュウッ
反射的に身体がねじれた。
刃が頬を掠め、時間が一瞬止まる。
赤い雫が宙に浮いたまま、落ちてこない。
世界が遅くなる。呼吸が痛い。
「何よこれ」
「ッ……!」
「あなた……なんなんですの……」
そして何故か、それを見た冒険者達は驚きの表情をしていた。
「何がそんなにおかしい? ……?」
釣られて、俺は傷口を指でなぞった。
そこには、紫色の血が付着している。
「人の形をした悪魔め……私がここで、決着をつけてさしあげますの!」
体勢を整えたリリーが、再びチャージを開始した。
それにその魔力は、先ほどよりも更にパワーを上げている。
まずい、先ほどまで迸っていた魔力は嘘のように無くなっている。
黒鉄化したところで防ぎきれる保証はない。
「ラルゴさん!!」
――ボシュウ!
ウィルの叫び声が聞こえたと同時に、目の前で黒煙が舞い上がった。
「ゴホッゴホッ!なんですの!?」
ついてきていたのか?
全く気づけなかった……なるほど、これが魔力無しの為せる業か……。
なんて感心してる場合じゃない、急いでこの場を離れなければ。
俺は黒煙を抜け出し、遠くで合図をするウィルの元へと全力疾走した。
特注の煙幕を使ったのか、黒煙は未だ晴れる気配がない。
「大丈夫ですか、ラルゴさん!」
「今回ばかりは……お前に救われたな、ありがとう」
そう言うと、ウィルは目に涙を浮かべ始めた。
「感動してる暇があるか、走れウィル! ギルドはもう俺たちの敵だ!」
「りょ、了解です!」
俺たちはギルドの追跡から逃げる為、一心不乱に走り続けた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
黒煙がゆっくりと晴れ、やがて中から五人の影が姿を現す。
しかし辺りを見渡しても、ラルゴの姿はどこにもなかった。
「逃げられましたの……」
そう言ってがっくりと肩を落とすリリーをよそに、金級冒険者・双月のスライは訝しげに問いかけた。
「マスター、なんで戦わなかったの?」
「ん?」
それを聞いて、ドルフは苦笑いを浮かべる。
その表情を見て、スライは更に詰めるようにドルフに問いかけていく。
「レイジーはまあ、受付嬢だし、戦わなくてもまあ……わからなくはないよ?でもさ、マスターが戦わないのは違うんじゃない?」
「た、戦ってないわけじゃない。隙を探していただけだ」
「そう? 結構隙だらけだったと思うけど。ひょっとして、びびってるとか?」
「ははは……私がびびってる?冗談も大概にしたまえよ」
その言葉を聞いて、三人の金級冒険者はドルフに疑いのまなざしを向けた。
しかし、レイジーはその静寂を打ち破るかのように、金級冒険者の一人・回収者カリオンへと問いかける。
「追えますか、カリオンさん」
「ん……ああ、これだけ痕跡が残っているのなら造作もない」
カリオンは肩まで伸びた長い黒髪をボリボリと搔きながら、静かに答える。
「それに、俺とスライの武器には特注の麻痺毒が塗ってある。並の魔物じゃすぐにでも動けなる代物だ、今頃はどこかで動けなっていることだろう」
「わかりました、では追撃を……」
――風がそよぐ。
レイジーが一瞬耳に手を当てたかと思うと、すぐにこう続けた。
「追撃はカリオンさん一人でお願いします」
「どういうことですの?」
「ノトスギルドにとって数少ない金級の皆さんを、いつまでも拘束していてはこちらとしても不利益ですので」
「レイジー、あんたねぇ……あいつの力、見たでしょ? 流石にカリオン一人じゃ荷が重いって」
「そうですね、交戦はせずとも結構です。痕跡を辿っていただければ、後はこちらで対処いたしますので」
「そういうことか。まあわかった、依頼料は弾んでくれよ?」
「ええ、ご心配なく」
そう言ってカリオンは、ラルゴが通ったと思われる道をゆっくりと辿って行った。
「それで、私達はこれからどうすればいいんですの?」
「そうですね。リリーさん達には引き続き、南部の魔物討伐の依頼をお願いいたします」
「……了解ですわ」
――ピィー!
リリーが指笛を鳴らすと、黄金の意匠を纏った白馬が駆け込んでくる。
流れるような動作でそれに飛び乗ると、風と共に去っていった。
「では、ウチもこれで失礼するわね」
スライもまた、呆れたような足取りで繁華街へと消えていった。
残されたドルフとレイジーの間に、気まずい空気が漂っている。
「マスター」
「な、なんだ……?」
「あまり情けない姿は見せぬようお願いいたします」
レイジーは冷たい視線でそう告げると、坂上のギルドへと歩き出した。
残されたドルフもそれを追う。
――陽光に照らされた二人の影が、ノトスの町に向かって長く伸びた。
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