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―第1章:リベルタス騒乱―
第4.5話:氷解
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――翌日。
正午、賑わい溢れるノトスの繁華街。
そこに、風情漂う石造りの酒場「浅瀬の海坊主」がある。
多くの客で溢れかえる店内の角席には、ラルゴ達の姿があった。
ラルゴ一人に対して、三人は何とも言えない表情で向かい合っている。
「ということで、親睦を深める為に飯でもどうかなと思ってな」
ぎこちない笑みを浮かべるラルゴに対して、ウィルが遠慮がちに答えた。
「なんか無理していませんか? いくら僕たちの面倒を任されたからって、あまり変な気を使われても……」
「はぁ、わからないやつだな、パーティっていうのは運命共同体みたいなもんだ。 いつまでもお前たちがそんなんじゃ俺も困るんだよ」
「ふん、いくら強いからって犯罪者を身内に抱えるこっちの身にもなってよね」
「はぁ、あんまりな言い分だなアニー。ここまでで俺が犯罪者っぽい事を一つでもしたか?」
「昨日の今日でわかるわけないでしょ! それに、アタシ達の見えないところでやってても別におかしくないし?」
「はぁ……埒が明かねぇ。それじゃシャーヴィスの親父さんに掛け合って、別の奴を探してもらうか?」
「アハハ!いい案出すじゃない!」
「アニー!父上の顔に泥を塗るのは僕が許さないぞ!」
「なによ、元々はアンタのせいじゃない! 責任取ってよね、ふん!」
「ちょっと二人とも……流石に酷すぎるよ……」
そんな風に一行がピリピリとした雰囲気を撒き散らしていると、店主である男が痺れを切らした様子で近寄ってきた。
「よぉ神聖冒涜者! 客足が遠のくんでなぁ、喧嘩するなら外でやってくれい!」
――酒場「浅瀬の海坊主亭」の店主、モルト。
筋骨隆々、禿げ頭に髭面の厳つい大男。
年齢は40~50代、元金級冒険者だが、怪我を理由に引退し今はギルドに酒場の経営を任されている。
「おいオッサン、会話聞いてたか? 今の会話で俺が詰められるのかよ」
「なんてな。珍しくお前が団体で来たもんだから、ついこっちから話しかけちまったぜ」
「ドルフに押し付けられただけだがな……一応この三人は俺の教え子ってことになる。」
「ガッハッハ!これはドルフもいい仕事をしたんじゃねぇか?」
えらく上機嫌なモルトに、ウィルは困惑した表情で尋ねた。
「……随分仲が良いみたいですね?」
「どう見てもウザ絡みされてるわけだが……お前にはそう映るか」
「ガッハッハ! 照れ屋なんだよこいつは!」
そう言ってモルトはラルゴの背中をバンバンと叩く。
「まぁ……ノトスで美味い飯となりゃ大体ここに落ち着くからな……顔を覚えられちまったのはこの町に来て一番の失態かもしれん」
「・・・・・・こんな事言ってるが、こいつがここに来るのは大抵ウチの看板娘目当てなんだぜ!」
「馬鹿野郎、そんなんじゃねぇっつの」
「ラルゴは恥ずかしそうに視線を逸らす。」
その様子を見て、アニーとシャーヴィスはゆっくりと肩を落とした。
「なんか……ちょっとだけど、悪い奴じゃないのかなって、思ったり……しなくもないわね?」
「なんだ嬢ちゃん、ギルドが流したデマを馬鹿正直に信じてるのかい?」
「デマ!?」
「おう!何度も来る客の素行を見てりゃ、そいつの人間性なんて言わずと知れてくるもんよ! こいつが神聖冒涜なんてするタマじゃねえんだ!」
「えらく信用されているんですね、モルトさん」
「まぁ、歴戦の勘だがな!」
先ほどまで気まずい雰囲気を放っていた一行であったが、モルトの介入により次第にその空気は和らいでいった。
「えーと……とりあえず注文いいかしら?」
「おう、何にする?」
すると、ラルゴがすかさず口を挟む。
「いつもの奴を人数分」
「ガッハッハ! 飽きねぇなぁお前も」
「ガッハッハじゃないわよ! アタシに選ばせて!」
「まあそう言うな、ここに来てこれを食わないのは罪だぜ? 神聖冒涜なんて比較にならねぇほどにな……」
――……
「これ、笑っていいんですかね……?」
「……忘れてくれ」
「ま、まあ……なにはともあれ、お前もついにパーティの仲間入りか。ようやくゴミ拾いから卒業できそうだな!」
「ゴミ拾い?」
シャーヴィスがモルトに問いかける。
「こいつの二つ名だが……なんだガキ共、知らないのか?」
「おい、勝手に二つ名にすんな」
「何分新米なものでして……こちらに配属されたのも昨日からなもので、正直ラルゴ殿の事はあまり存じ上げません」
シャーヴィスの言葉を聞き、モルトは得意げに顎鬚を撫でた。
「ほぉ、じゃあ俺が代わりに教えてやる」
「やめろ、そういうつもりで来たわけじゃない」
ラルゴの制止にも構わず、モルトは上機嫌に言葉をつづけた。
「冒険者なって日が経つと嫌でもわかるんだがよぉ、犯罪者のソロ低級冒険者なんぞはロクに依頼も回してもらえねぇんだ。 だというのにこいつと来たら、銅級になるまで誰も受けないゴミ拾いの依頼を毎日毎日こなし続けてたのさ」
「おいオッサン、早く飯」
「照れんな照れんな! 正直そこらの冒険者なんか比べ物にならない程強いんだろ? そんな奴と組めるなんてラッキーじゃねぇかガキ共!」
モルトの言葉を聞いて、三人のラルゴを見る目が変わった。
「へ、へぇ……」
「ま、ちょっと長話しすぎたな。 とびきりのいつものを持ってきてやる、期待して待ってろよ、ガッハッハ!」
そう言ってモルトは、ノシノシと厨房へ歩いていった。
そして入れ替わるように、この店の看板娘・ホリーが人数分の樽ジョッキに入った水を持ってくる。
腰まで伸びた赤い髪をなびかせ、屈託のない笑顔を浮かべている。
「やっほーラルゴ君! 今日はとっても賑やかだね!」
「や、やぁホリーさん……賑やかったって、この店に比べたらまだまだ負けちゃうぜ」
「ふふ、相変わらず口がうまいのね! それじゃ、みんなごゆっくり~!」
そう言うとホリーもまた、厨房へと戻っていった。
その様子を呆けた表情で見送るラルゴを見て、3人は思わず笑いをこらえる。
「なに、ラルゴ? ああいう女がタイプなの?」
「えっ、いや別にそういうわけじゃ!」
「・・・・・・ふーん」
アニーはそう言って、さも面白そうに口元を隠している。
それを見てラルゴは、苦い表情を浮かべながら問いを投げかけた。
「ずっと気になってんだが……聞いていいか?」
「な、何よ」
「トライスタって……なんだ?」
それを聞いて、シャーヴィスは目を輝かせる。
「よくぞ聞いてくださったラルゴ殿。 我々三人、ノトスの期待の星……つまり三ツ星、トライスタである!」
「とりあえずお前がつけたのはわかった……」
熱く語るシャーヴィスの横でげんなりしている二人が、温度差を物語っていた。
「パーティって基本四人だろ、そしたらフォースター? じゃねぇのか? まさかずっと三人でやるつもりだったとか?」
「ぎく……」
「こいつ、こう見えて結構頭悪いのよ」
「なっ! アニー、君も大概じゃないか!」
「まあ、僕達は普段からこんな感じです……」
「ウィル……苦労してるんだな……」
「ははは……」
ウィルの乾いた笑いが響いた。
「それで、なんで今になって冒険者を目指したんだ? 全員シャーヴィスの親父さんの影響ってわけでもあるまいに」
そのラルゴの問いに、シャーヴィスが悔しそうに目を閉じた。
「――3カ月程前、我が領内にあるウィル・・・・・・グランツ家の農場が大規模な魔物の被害にあったんです」
「凄い数の魔物が大量発生したの。 それはもう、今までに見たこともないくらい」
「周期的に、赤い月の時期か。 そいつは災難だったな」
ラルゴは何かを思い出したかのように目を細めた。
「その時実感したんです、僕たちにもっと力があれば、領民を・・・・・・ウィルの家族を守れたのにと・・・・・・」
「んじゃ、もっと強くならなきゃだな」
「……はい!」
「戦い方はどこで習った? 正直三カ月程度で身に付けたにしては出来が良すぎるぞ」
「そうでしょうか? 僕たちはエルトルス家の銀騎士団……主に団長のロイエンタール先生のもと学んできましたが・・・・・・ご存知ですよね?」
「いや、貴族お抱えの騎士団長の名前なんて把握してるわけないぞ」
「そうですか。いつか団長と手合わせするラルゴ殿を見てみたくもあります」
「……まあ、機会があれば考えてみるか。にしてもメシが来ねぇ、モルトの野郎張り切りすぎだろ」
――ぐぅ
言葉と同時に、アニーの腹の虫が泣いた。
「なによ」
「まあ面白いのも聞けたところで、暇つぶしに、どれだけ冒険者について知ってるか聞かせてもらおうか」
「おお、受けて立ちましょう!」
「じゃあシャーヴィス、階級の仕組みは?」
ラルゴの問いに、シャーヴィスは咳払いの後、ゆっくりと語り出した。
「まず・・・・・・ギルドに冒険者として登録すると、最初は鉄級冒険者として登録されます」
それから一つ階級を上げた3人の首には、銅級冒険者を示す銅製のドッグタグがぶら下がっている。
「それから?」
「依頼をこなして一定の功績を積めれば、昇格。以後はこの繰り返し・・・・・・であってますよね?」
「まあ、銀級まではそうだな」
「えっ?」
シャーヴィスとアニーがキョトンとした表情を浮かべている。
そしてそれを見たウィルもまた、驚きの表情を浮かべた。
「ウィルがなんか言いたそうだが?」
「金級から先は、昇格するのに特別な依頼をこなさなきゃならないって……」
「……知りませんでした」
「トホホ……」
ウィルは一人頭を抱えて机に突っ伏した。
「正直シャーヴィスの親父さんからは、銀級までの面倒しか頼まれてないが……ぶっちゃけどこまで行きたい?」
「そりゃあもちろん、特級でしょ!」
アニーが意気揚々と声を上げる。
すると、さっきまで賑やかだった酒場の中が、嘘のように静まり返った。
「えっ・・・・・・?」
遅れて、嘲笑と侮蔑の波が押し寄せてくる。
「あの子、馬鹿なんじゃないの?」
「身の程を知れよな」
よく見ればそれは、普段からラルゴに陰口を叩いている冒険者達であった。
アニーはラルゴに申し訳なさそうに額の汗をぬぐう。
「アンタの気持ち、ちょっとだけわかったかも」
「まあ雑魚の言葉なんていちいち気にするな。別に目標くらいでかく持っていいじゃねぇか」
「むー・・・・・・」
「おっまたせー!」
静寂を打ち破るように、モルトとホリーが大量の食事を手に現れる。
トレイいっぱいのふっくらとしたパン、こんがりとした牛、鶏、豚の肉、そして色とりどりの野菜。
栄養満点の料理がこれでもかと積み込まれている。
「待たせたな! たらふく食べろよ坊主共! って真の坊主は俺か! ガッハッハ!!!」
「ちょっと店長! そのネタ食傷気味なんだから勘弁してよ~」
二人は小気味よい漫才を演じながら、机の上に料理を並べ始める。
「ようやくか……にしてもすげぇ量だな?」
「なあに、新たなパーティの門出だ! 遠慮せずたらふく食えよ!」
豪華な食卓を前に、一際アニーが目を輝かせる。
「わぁ~、すっごい美味しそう!」
「これは……是非我が家にお出迎えしたい出来栄え!」
「……じゅるり」
微笑ましい光景を前に、モルト達も得意げに頷いた。
そしてホリーが高らかに掛け声を上げる。
「では……皆さんご一緒に~? せーの――」
「いただきます!!!!」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
――夕刻、潮騒の音のみが響き渡るノトスギルド。
その窓際で、レイジーが静かに海の様子を眺めていた。
――カラン!
静寂を裂くように、戸口に掛けられた看板の鈴が鳴り響いた。
それと同時に、現れた四人の冒険者。
それは昼間、酒場でラルゴ達を笑っていた冒険者たちであった。
「たのもーっ!」
勇み足で受付横の掲示板まで進むと、大きな音を立てて一枚の紙を剝ぎ取った。
そのまま、意気揚々と受付へと歩を進める。
これを迎え撃つかのように、レイジーはゆっくりと向き直った。
「ようこそ、銀級パーティ・ナイトランサーズの皆さん」
「レイジー、この依頼を受けたいんだが」
バンッと力強く、レイジーの前に依頼の紙を叩きつける。
そこにはこう書かれていた。
『当ギルド所属・銀級パーティ行方不明。
捜索者求ム。
報酬:50万ガルド』
「この依頼を受けられるんですね?」
「ああ、こんな美味い依頼、受けない手はないだろう!」
「危険な依頼だと思いますが……構いませんか?」
「大丈夫だ、問題ない」
ナイトランサーズのリーダーは、自信満々に頷いた。
――「承知いたしました。それでは、依頼の内容を説明いたします」
正午、賑わい溢れるノトスの繁華街。
そこに、風情漂う石造りの酒場「浅瀬の海坊主」がある。
多くの客で溢れかえる店内の角席には、ラルゴ達の姿があった。
ラルゴ一人に対して、三人は何とも言えない表情で向かい合っている。
「ということで、親睦を深める為に飯でもどうかなと思ってな」
ぎこちない笑みを浮かべるラルゴに対して、ウィルが遠慮がちに答えた。
「なんか無理していませんか? いくら僕たちの面倒を任されたからって、あまり変な気を使われても……」
「はぁ、わからないやつだな、パーティっていうのは運命共同体みたいなもんだ。 いつまでもお前たちがそんなんじゃ俺も困るんだよ」
「ふん、いくら強いからって犯罪者を身内に抱えるこっちの身にもなってよね」
「はぁ、あんまりな言い分だなアニー。ここまでで俺が犯罪者っぽい事を一つでもしたか?」
「昨日の今日でわかるわけないでしょ! それに、アタシ達の見えないところでやってても別におかしくないし?」
「はぁ……埒が明かねぇ。それじゃシャーヴィスの親父さんに掛け合って、別の奴を探してもらうか?」
「アハハ!いい案出すじゃない!」
「アニー!父上の顔に泥を塗るのは僕が許さないぞ!」
「なによ、元々はアンタのせいじゃない! 責任取ってよね、ふん!」
「ちょっと二人とも……流石に酷すぎるよ……」
そんな風に一行がピリピリとした雰囲気を撒き散らしていると、店主である男が痺れを切らした様子で近寄ってきた。
「よぉ神聖冒涜者! 客足が遠のくんでなぁ、喧嘩するなら外でやってくれい!」
――酒場「浅瀬の海坊主亭」の店主、モルト。
筋骨隆々、禿げ頭に髭面の厳つい大男。
年齢は40~50代、元金級冒険者だが、怪我を理由に引退し今はギルドに酒場の経営を任されている。
「おいオッサン、会話聞いてたか? 今の会話で俺が詰められるのかよ」
「なんてな。珍しくお前が団体で来たもんだから、ついこっちから話しかけちまったぜ」
「ドルフに押し付けられただけだがな……一応この三人は俺の教え子ってことになる。」
「ガッハッハ!これはドルフもいい仕事をしたんじゃねぇか?」
えらく上機嫌なモルトに、ウィルは困惑した表情で尋ねた。
「……随分仲が良いみたいですね?」
「どう見てもウザ絡みされてるわけだが……お前にはそう映るか」
「ガッハッハ! 照れ屋なんだよこいつは!」
そう言ってモルトはラルゴの背中をバンバンと叩く。
「まぁ……ノトスで美味い飯となりゃ大体ここに落ち着くからな……顔を覚えられちまったのはこの町に来て一番の失態かもしれん」
「・・・・・・こんな事言ってるが、こいつがここに来るのは大抵ウチの看板娘目当てなんだぜ!」
「馬鹿野郎、そんなんじゃねぇっつの」
「ラルゴは恥ずかしそうに視線を逸らす。」
その様子を見て、アニーとシャーヴィスはゆっくりと肩を落とした。
「なんか……ちょっとだけど、悪い奴じゃないのかなって、思ったり……しなくもないわね?」
「なんだ嬢ちゃん、ギルドが流したデマを馬鹿正直に信じてるのかい?」
「デマ!?」
「おう!何度も来る客の素行を見てりゃ、そいつの人間性なんて言わずと知れてくるもんよ! こいつが神聖冒涜なんてするタマじゃねえんだ!」
「えらく信用されているんですね、モルトさん」
「まぁ、歴戦の勘だがな!」
先ほどまで気まずい雰囲気を放っていた一行であったが、モルトの介入により次第にその空気は和らいでいった。
「えーと……とりあえず注文いいかしら?」
「おう、何にする?」
すると、ラルゴがすかさず口を挟む。
「いつもの奴を人数分」
「ガッハッハ! 飽きねぇなぁお前も」
「ガッハッハじゃないわよ! アタシに選ばせて!」
「まあそう言うな、ここに来てこれを食わないのは罪だぜ? 神聖冒涜なんて比較にならねぇほどにな……」
――……
「これ、笑っていいんですかね……?」
「……忘れてくれ」
「ま、まあ……なにはともあれ、お前もついにパーティの仲間入りか。ようやくゴミ拾いから卒業できそうだな!」
「ゴミ拾い?」
シャーヴィスがモルトに問いかける。
「こいつの二つ名だが……なんだガキ共、知らないのか?」
「おい、勝手に二つ名にすんな」
「何分新米なものでして……こちらに配属されたのも昨日からなもので、正直ラルゴ殿の事はあまり存じ上げません」
シャーヴィスの言葉を聞き、モルトは得意げに顎鬚を撫でた。
「ほぉ、じゃあ俺が代わりに教えてやる」
「やめろ、そういうつもりで来たわけじゃない」
ラルゴの制止にも構わず、モルトは上機嫌に言葉をつづけた。
「冒険者なって日が経つと嫌でもわかるんだがよぉ、犯罪者のソロ低級冒険者なんぞはロクに依頼も回してもらえねぇんだ。 だというのにこいつと来たら、銅級になるまで誰も受けないゴミ拾いの依頼を毎日毎日こなし続けてたのさ」
「おいオッサン、早く飯」
「照れんな照れんな! 正直そこらの冒険者なんか比べ物にならない程強いんだろ? そんな奴と組めるなんてラッキーじゃねぇかガキ共!」
モルトの言葉を聞いて、三人のラルゴを見る目が変わった。
「へ、へぇ……」
「ま、ちょっと長話しすぎたな。 とびきりのいつものを持ってきてやる、期待して待ってろよ、ガッハッハ!」
そう言ってモルトは、ノシノシと厨房へ歩いていった。
そして入れ替わるように、この店の看板娘・ホリーが人数分の樽ジョッキに入った水を持ってくる。
腰まで伸びた赤い髪をなびかせ、屈託のない笑顔を浮かべている。
「やっほーラルゴ君! 今日はとっても賑やかだね!」
「や、やぁホリーさん……賑やかったって、この店に比べたらまだまだ負けちゃうぜ」
「ふふ、相変わらず口がうまいのね! それじゃ、みんなごゆっくり~!」
そう言うとホリーもまた、厨房へと戻っていった。
その様子を呆けた表情で見送るラルゴを見て、3人は思わず笑いをこらえる。
「なに、ラルゴ? ああいう女がタイプなの?」
「えっ、いや別にそういうわけじゃ!」
「・・・・・・ふーん」
アニーはそう言って、さも面白そうに口元を隠している。
それを見てラルゴは、苦い表情を浮かべながら問いを投げかけた。
「ずっと気になってんだが……聞いていいか?」
「な、何よ」
「トライスタって……なんだ?」
それを聞いて、シャーヴィスは目を輝かせる。
「よくぞ聞いてくださったラルゴ殿。 我々三人、ノトスの期待の星……つまり三ツ星、トライスタである!」
「とりあえずお前がつけたのはわかった……」
熱く語るシャーヴィスの横でげんなりしている二人が、温度差を物語っていた。
「パーティって基本四人だろ、そしたらフォースター? じゃねぇのか? まさかずっと三人でやるつもりだったとか?」
「ぎく……」
「こいつ、こう見えて結構頭悪いのよ」
「なっ! アニー、君も大概じゃないか!」
「まあ、僕達は普段からこんな感じです……」
「ウィル……苦労してるんだな……」
「ははは……」
ウィルの乾いた笑いが響いた。
「それで、なんで今になって冒険者を目指したんだ? 全員シャーヴィスの親父さんの影響ってわけでもあるまいに」
そのラルゴの問いに、シャーヴィスが悔しそうに目を閉じた。
「――3カ月程前、我が領内にあるウィル・・・・・・グランツ家の農場が大規模な魔物の被害にあったんです」
「凄い数の魔物が大量発生したの。 それはもう、今までに見たこともないくらい」
「周期的に、赤い月の時期か。 そいつは災難だったな」
ラルゴは何かを思い出したかのように目を細めた。
「その時実感したんです、僕たちにもっと力があれば、領民を・・・・・・ウィルの家族を守れたのにと・・・・・・」
「んじゃ、もっと強くならなきゃだな」
「……はい!」
「戦い方はどこで習った? 正直三カ月程度で身に付けたにしては出来が良すぎるぞ」
「そうでしょうか? 僕たちはエルトルス家の銀騎士団……主に団長のロイエンタール先生のもと学んできましたが・・・・・・ご存知ですよね?」
「いや、貴族お抱えの騎士団長の名前なんて把握してるわけないぞ」
「そうですか。いつか団長と手合わせするラルゴ殿を見てみたくもあります」
「……まあ、機会があれば考えてみるか。にしてもメシが来ねぇ、モルトの野郎張り切りすぎだろ」
――ぐぅ
言葉と同時に、アニーの腹の虫が泣いた。
「なによ」
「まあ面白いのも聞けたところで、暇つぶしに、どれだけ冒険者について知ってるか聞かせてもらおうか」
「おお、受けて立ちましょう!」
「じゃあシャーヴィス、階級の仕組みは?」
ラルゴの問いに、シャーヴィスは咳払いの後、ゆっくりと語り出した。
「まず・・・・・・ギルドに冒険者として登録すると、最初は鉄級冒険者として登録されます」
それから一つ階級を上げた3人の首には、銅級冒険者を示す銅製のドッグタグがぶら下がっている。
「それから?」
「依頼をこなして一定の功績を積めれば、昇格。以後はこの繰り返し・・・・・・であってますよね?」
「まあ、銀級まではそうだな」
「えっ?」
シャーヴィスとアニーがキョトンとした表情を浮かべている。
そしてそれを見たウィルもまた、驚きの表情を浮かべた。
「ウィルがなんか言いたそうだが?」
「金級から先は、昇格するのに特別な依頼をこなさなきゃならないって……」
「……知りませんでした」
「トホホ……」
ウィルは一人頭を抱えて机に突っ伏した。
「正直シャーヴィスの親父さんからは、銀級までの面倒しか頼まれてないが……ぶっちゃけどこまで行きたい?」
「そりゃあもちろん、特級でしょ!」
アニーが意気揚々と声を上げる。
すると、さっきまで賑やかだった酒場の中が、嘘のように静まり返った。
「えっ・・・・・・?」
遅れて、嘲笑と侮蔑の波が押し寄せてくる。
「あの子、馬鹿なんじゃないの?」
「身の程を知れよな」
よく見ればそれは、普段からラルゴに陰口を叩いている冒険者達であった。
アニーはラルゴに申し訳なさそうに額の汗をぬぐう。
「アンタの気持ち、ちょっとだけわかったかも」
「まあ雑魚の言葉なんていちいち気にするな。別に目標くらいでかく持っていいじゃねぇか」
「むー・・・・・・」
「おっまたせー!」
静寂を打ち破るように、モルトとホリーが大量の食事を手に現れる。
トレイいっぱいのふっくらとしたパン、こんがりとした牛、鶏、豚の肉、そして色とりどりの野菜。
栄養満点の料理がこれでもかと積み込まれている。
「待たせたな! たらふく食べろよ坊主共! って真の坊主は俺か! ガッハッハ!!!」
「ちょっと店長! そのネタ食傷気味なんだから勘弁してよ~」
二人は小気味よい漫才を演じながら、机の上に料理を並べ始める。
「ようやくか……にしてもすげぇ量だな?」
「なあに、新たなパーティの門出だ! 遠慮せずたらふく食えよ!」
豪華な食卓を前に、一際アニーが目を輝かせる。
「わぁ~、すっごい美味しそう!」
「これは……是非我が家にお出迎えしたい出来栄え!」
「……じゅるり」
微笑ましい光景を前に、モルト達も得意げに頷いた。
そしてホリーが高らかに掛け声を上げる。
「では……皆さんご一緒に~? せーの――」
「いただきます!!!!」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
――夕刻、潮騒の音のみが響き渡るノトスギルド。
その窓際で、レイジーが静かに海の様子を眺めていた。
――カラン!
静寂を裂くように、戸口に掛けられた看板の鈴が鳴り響いた。
それと同時に、現れた四人の冒険者。
それは昼間、酒場でラルゴ達を笑っていた冒険者たちであった。
「たのもーっ!」
勇み足で受付横の掲示板まで進むと、大きな音を立てて一枚の紙を剝ぎ取った。
そのまま、意気揚々と受付へと歩を進める。
これを迎え撃つかのように、レイジーはゆっくりと向き直った。
「ようこそ、銀級パーティ・ナイトランサーズの皆さん」
「レイジー、この依頼を受けたいんだが」
バンッと力強く、レイジーの前に依頼の紙を叩きつける。
そこにはこう書かれていた。
『当ギルド所属・銀級パーティ行方不明。
捜索者求ム。
報酬:50万ガルド』
「この依頼を受けられるんですね?」
「ああ、こんな美味い依頼、受けない手はないだろう!」
「危険な依頼だと思いますが……構いませんか?」
「大丈夫だ、問題ない」
ナイトランサーズのリーダーは、自信満々に頷いた。
――「承知いたしました。それでは、依頼の内容を説明いたします」
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弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
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