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組織(ハウス)入団編
ー 14 ー 最終試験③
しおりを挟む- 勝負の行方 -
お椀の底のような我闘山の火口…。
乾いた山風が、ゆっくりと砂煙を剥がしていく…。
徐々に浮かび上がる2つの影…。
デュラム (ど、どうじゃ!?クリティカルヒットだぞ、これなら…!)
デュラムの両手は天狗の鳩尾あたりに据えられている…。
デュラム (…気絶…しておるのか?…気が探れんから判断が付かんが…)
天狗はスイッチが切られたように、ぴくりとも動かない。
デュラム「!!!…ぐうっ!」
不意に全身に刺すような痛みが走る…天狗から受けたダメージはたったの一撃だったが、殊の外大きい…!
デュラム (…ぐぐっ、こうしちゃいられん…!い、今のうちに背中の羽を…!)
震える右手を、ゆっくりと天狗の背後に伸ばす…
その時!
ガシっ!!!
唐突に天狗の掌がデュラムの腕を掴んだ!
!!!
天狗「くっくっく、なんだったんだ?今のは?」
デュラム「そ、そんな…!!!き、効いておらんということか!!!」
クロロ「う、うそだろ!?」
コン太「そ、そんなことが…!!!」
白州「…」
デュラム「は、発勁は気をもって気を制す、気そのものに働きかけて動転させる技…!よ、妖気には効かぬということか…ぐっ…」
そのまま糸が途切れように、膝から崩れ落ちた…。
クロロ「じ、じいちゃん!」
天狗が徐に、倒れたデュラムの襟首をつかむと、クロロらに向かってブンっと放り投げた。
弧を描き、地面にたたきつけられる…!
ドザッ!!!
クロロたちが慌てて駆け寄る!
クロロ「じいちゃん!」
コン太「だ、大丈夫ですか!?」
デュラムが眉間に皺を寄せながら、薄目を開いた。
デュラム「…あ、ああ…。お、大きなダメージを食らったのもそうじゃが…、き、気を使いすぎたようじゃ…。つ、使っちゃならん気まで…」
ペンネ「ちょっと待ってね、いくつか応急処置的に使えるツールがあるから…」
デュラム「ふ、ふぉふぉふぉ…それには及ばんよ。ちっとギュウっと抱きしめてくれれば…」
ペンネ「…安心したわ。もう一発殴られても大丈夫そうね」
そう言って拳を振り上げた。
デュラム「じょ、冗談じゃよ!」
コン太 (あ、ある意味すごい人だ…)
…
デュラム「…じゃ、じゃが…調子の良いことを言ってしまったが、完敗じゃ…。せ、せっかくおぬしらに抜群にカッコイイところを見せられればと思ったんだがの…」
クロロ、コン太に目を遣る。
デュラム「…い、いいか、よく聞きなさい。…戦う前にわしが言った『倒し方がわかった』は嘘じゃ。おぬしらを、特にクロロ、お前を止めるための、な」
クロロ「ええっ?な、なんで?」
デュラム「あやつには、あの天狗からは、気が感じられんかった。お、おそらく、本当に妖怪の類か…人外の存在であることには違いない…」
クロロ「気が…?そ、そんな…ぜ、全然わかんなかった…」
白州「…」
デュラム「ふぉふぉふぉ、分からんのはしょうがない。だがの、分からんからといって、なんの策も無しにむやみに勝負に出るのは、無謀というもんじゃぞ」
クロロ「ぎくっ!」
デュラム「無策では、間違いなく一瞬で叩きのめされていたじゃろう…」
クロロ「た、確かに、考えるより先に、やってみなきゃわかんねえって思ってたが…だから止めてくれたってことか…」
コン太「おい、ほら。ボクがいつも言ってるだろう、行き当たりばったり、だって」
クロロ「ああ、あれはそういう意味だったのか、あはは」
コン太「て、てめえ!いままでわかってなかったのか!」
クロロがポリポリと頭を掻く。
クロロ「…で、でもよ、じいちゃん。なんで?」
デュラム「ふぉふぉふぉ、本来は止める義理はないんじゃが…。クロロ、コン太。さっきも言ったように、お前たちには光が見える。みすみすここで負けるのは勿体無いと思った、老人のお節介と思ってもらえればいい」
クロロ・コン太「…」
デュラム「わしの戦闘を見ていて分かったと思うが、あやつは、目で相手を見ておらん…死角もないようじゃ…尚且つ攻撃も防御も恐ろしく能力が高い…。じゃが、不可解な攻撃動作もあった…」
クロロ「!!!確かに、あの足で踏みつけたとき…!」
ー… 大の字に倒れ、動けないデュラムに向かって、天狗が足を振り下ろした… しかしその攻撃は外れたのだった …ー
デュラム「…そうじゃ。あれだけは『たまたま』だとは思えん…わしはもうここまでじゃが、…戦闘に生かしてくれ…」
コン太「デュラムさん…」
クロロ「わ、わかった!ありがとうな、じいちゃん!めっちゃ参考になることばかりだよ!じいちゃんの言う通り、真向勝負を仕掛けていたら間違いなくやられていた…あいつの戦いが見られただけでもオレたちにとっては貴重だ!短い間だったけど、色々教えてもらえて…ほんとの師匠みたいだったぜ!」
コン太 (クロロ…! 珍しくまともなことを…)
クロロ「だから…だから!あの世に行っても元気でいてくれよな!」
デュラム「ご、ごほっ!ば、ばかもん!まるで死にゆくみたいなことをいうな!」
クロロ「えっ!?違うのか?て、てっきり…!」
デュラム「てっきりじゃないわい!ちょっと気を多用しすぎただけじゃと言ったじゃろう!縁起でもない!」
クロロ「あ、あはは!ごめんごめん!」
コン太「こ、こいつは~(…やっぱアホなオチをつけやがる…!)」
ペンネ「…はい、おまたせ」
ペンネがパラフィン紙をデュラムに差し出した。パラフィン紙のうえには、白い粉末が乗っている。
ペンネ「これを飲めば、超即効的に痛みを緩和し、気分もアガるわ。怪我は治らないから、あとでちゃんと診てもらうことね」
デュラム「おお、これはすまんの…!」
デュラムが口をあんぐり開けて粉末を飲み込んだ。
デュラム「!!!」
デュラムが目を見開き、すぐに立ち上がった!
クロロ「!!!おおっ!!!」
デュラム「ほおっ!こ、これはたまげた!嘘のように痛みが引いたわい!して…あの粉末は一体!?」
ペンネ「ふふ、中身は聞かないで」
- 次のチャレンジャーは? -
デュラム「モーリーさんよい」
ドアの脇で戦いを見守っていたモーリーに声を掛ける。
デュラム「残念じゃが、わしはここでリタイアじゃ」
そう言って、髭をくいくいっと引っ張った。
クロロ「ええーっ!!!」
目をまん丸にして思わずのけぞった。
デュラム「ふぉふぉふぉ、わしは完敗じゃった。あとはおぬしら若いもんに任せるわい」
クロロ「じ、じいちゃん…」
モーリーがふっと軽く息を吐く。
モーリー「はい、承知しました。お疲れ様でした。しかし良い戦いでしたよ」
…
モーリーが残った受験者の顔を眺める。
モーリー「さあ、では…次の挑戦者はどなたでしょう?」
…
ペンネが、髪をかきあげながら、前に出た。
コン太(ええっ?ま、まさか、ペンネさんが?)
コン太が目を見開く。
ペンネ「…あたしもここでリアイアするわ」
コン太「えーーーーー!」
コン太が顔中を口にして、飛び上がった。
ペンネ「はっきり言って、レベルが違うわ。あんな化け物じみたヤツ、あたしの持ってるツールじゃ、どうにもならないもん」
両手をヒラヒラとしながらため息をついた。
モーリー「…わかりました。残念ですが、それもまた一つの判断でしょう」
ペンネがツカツカと歩き、空間にぽっかりと開いたドアの前に立った。
ペンネ「ふふ、チャレンジする人は頑張ってね。またどこかで会いましょ」
そうして、右目でウインクをすると、白い部屋の中へと姿を消した…。
コン太 (あああ~、そんなあ!!!ぺ、ペンネさんと一緒に合格して、同じチームで薔薇ライフの夢が~!き、消え去ってしまった…!!!)
コン太がくらくらとふらつきながら頭を抱える。
デュラム「なんとまあ。紅一点が去ってしまうか…わしの戦いの後で良かった…。戦い前じゃったら、張り合いがなさすぎて瞬殺されてたかもしれんものな…ふぉふぉふぉ」
コン太「…(ほ、ほんとに少輪寺のレジェンドか、この人?いや、確かに強かったけれども…)」
…
まさかの2名リタイア!
残るのは、クロロとコン太、そして白州のみだ。
…
……
クロロ「…おい、白州!」
クロロがずいっと前に出る。
クロロ「オレらが先に行くぜ、いいな!」
ビシっと指を突きつける。
白州がジロリとクロロを睨みつける。
白州「…ふん、勝手にしろ。俺もここでリタイアだ」
クロロ「えっ!?」
コン太・デュラム「なにっ!?」
一同にピンとした衝撃が走る。
モーリー「…」
クロロ「な、なんでだ!た、戦わねえうちから…」
クロロが拳を握りしめる。
白州「…ふん、言っただろ。ここでリタイアだ」
白州はそのままゆっくり背を向けると、空間に立つドアの中へと消えていった。
クロロ「お、おいっ!待てよ!」
慌ててドアへと駆け寄るが、入り口の手前でモーリーが腕を広げた。
クロロが急ブレーキをかける。
モーリー「…クロロさん、このドアの中に入ることは、すなわちリタイア…ということになりますよ」
クロロ「ぐっ!……ちきしょう!」
ガクっと肩を落とす。
そして、ドアに向かってキッと睨みつけると、大きく息を吸い込んだ。
クロロ「おいこら白州!!!こんな勝ち逃げみてーなことってないぞ!いいか!オレは絶対に組織に、ハウスに合格する!そんでもって、今よりもっと強くなってやる!そしたらオレと戦え!お前に勝ってやるからな!忘れるなよ!」
白州「…ふん…(…クロロ、とかいったな…。うるさい野郎だ…)」
クロロの叫びは、白い空間に虚しく吸い込まれていった。
…
……
クロロ「く、くそっ、こんな不完全燃焼な気分は初めてだぜ…!あいつの本当の力すら、分からず仕舞いだったってことか…」
クロロが歯を食いしばり、拳を握りしめる。
…一次試験、荒れ狂って襲いかかるアルマジロウスを一撃で地に沈めたこと…
…二次試験前の白い空間…、一瞬で間合いを詰められ、瞬きの隙もないまま殴られかけたこと…
…デュラムのじっちゃんが、車のヘッドライトくらい、気のポテンシャルを感じるって言ってたこと…
どれもこれもが、クロロとは圧倒的な力の差を感じさせるものばかりだ…
コン太 (クロロが珍しく下を向いたままだ…こいつは相当ショックだったとみえるな…)
と、不意にクロロがバッと顔を上げた!
クロロ「まっ、でもいっか!なんだかあいつとはまた会う気がしてならねえし…!さっきの言葉通り、今よりもっと腕を磨いてやる!あいつを「凄い」って思わなくなるくらいまでな…!有言実行だっ!!!よしっ、「組織での大冒険」に加えて、「あいつに勝つこと」!!!へへっ、この先の楽しみが増えたってことだ!よしっ!やってやるぞ!!!ファイトだ!オー!!!」
肩を落としていたのも束の間、ライバルの(クロロが一方的にそう思っているだけだが)突然の退場も、後の目的にすり替えて、さらにメラメラと闘志を燃やしたようだ。
コン太 (…や、やっぱりどポジティブな野郎だな…、こいつは…)
…
……
クロロは知る由もなかったが、まさに近い将来、クロロたちと白州は再び出会うこととなる…
今とは全く異なる状況で…
この試験での出会いはあくまで序章に過ぎなかったということを、後に知ることになろうだろう…
……
…
クロロが闘志を煮えたぎらせて震えている頃、コン太は割と真剣に自身の進退について頭をフル回転させていた。
コン太 (…ふう…あそこまでどポジティブとなると逆にうらやましいな…。さてと、どポジのことは置いておいて、冷静に考えるぞ。そう、冷静に考えると、あの白州までリタイアだぞ!?デュラムさんでさえ、強さを認めてた奴が…!!!そ、そんなにヤバいのか天狗って…いや、確かに尋常じゃない感じは十分伝わってるけど…!ちょっとこれは真面目にボクも退散したほうが賢明なんじゃないか?いやもとい、そうすべきだろう、この状況だったら…。だって、どう考えてもボクより格上の人たちでさえ勝てなかったか、リアイアを選択するような相手だぞ…。そんな相手に勝負を挑むのはやはり無謀…。…でも、本当にそれでいいのか!?ここまで…最終試験まで辿り着いたってことは、紛れも無い事実!もうすぐそこに、組織員としてのボクが待ってる!のし上がれば、大富豪生活も夢じゃないだろう…。超モテモテライフが現実味を帯びている…あっでもペンネさんがもういないのか…。いやでもすぐに組織で偉くなって試験なしのヘッドハンティングしちゃえば…いやでも…ぶつぶつ)
「おい!コン太!」
不意に背中をバシンと叩かれ我に返った!
クロロ「いくぜ、最後の勝負だ!」
クロロがニッと笑って前に出た。
コン太「…」
クロロ「おい、どうした?」
クロロが振り返る。
コン太「いや…。やっぱりどうするか、はっきり言って今リタイアも考えてる…」
クロロ「ええっ!?」
コン太「実際のところはさ、おまえほど強くは無いし、正直勝てる気もしないしさ…」
試験に参加した瞬間から肌で感じていたことだ…。特に一次試験の通過者たちと自分は、あらゆる面での強さ、経験に差を感じていたのだ。
コン太「…だから」
クロロがもう一度、バンっと強く背中を叩いた!
クロロ「おい!何を訳の分からないことを言ってんだ!強いだろ、コン太は!正拳突きもタフさも頭の良さもすげえじゃんかよ!リタイアなんて言うなら、絶対に止めるぞ!」
コン太「いや、でも!」
クロロ「コン太、おまえがいてくれたからここまで来れたんだぜ!」
コン太「…」
「ふぉふぉふぉ」
デュラムがトンと、コン太の肩に手を置いた。
デュラム「…迷っておるな、気がブレブレじゃい」
コン太「…」
デュラム「恐ろしいのは良く分かる。じゃが、よく聞きなさい。さっきも言ったとおり、お主には確かに光が見える!はっきりとした、気の光じゃ!」
コン太「!」
デュラム「ふぉふぉふぉ、このわしが言うんじゃ。少しは自分に自信を持てい!!!よいか、強靭な敵を打ち負かすことが強さの証じゃないぞ。どんな敵だろうと、立ち向かったことが、強さの証じゃ!」
コン太「…!!!」
コン太の脳内に、この試験での記憶がフラッシュバックする。
…暴走ダンプカーみたいなアルマジロウスの猛追…
…宇宙人コミュニティ・エリア排水溝内での謎の宇宙人との戦闘…
なんだかんだ言っても、逃げずに向かった結果、乗り越えられたことは確かだ。
クロロ「コン太、勝てるかどうかは今は後回しだ!そんなのオレらが決められることじゃねえ。だが、挑むかどうかはオレらが決められる!!!」
クロロが拳を突き出した!
クロロ「行こうぜ!!!」
コン太は歯を食いしばった。
コン太「…勝ち負けは後回しか…、なるほどな。今までは勝ち負けを気にして、勝てるか負けないか、そんな基準で無意識に判断してたかもしれないな…」
コン太が、クロロの拳に己の拳を打ちつけた。力強く。
コン太「…最初で最後の当たって砕けろかもしれんが…。わかったよ!やってやろうじゃんか!」
クロロ「そうこなくっちゃな!」
クロロとコン太は再びガチっと拳と拳を鳴らし、前に出た!
デュラム「ふぉふぉふぉ、これは大したコンビじゃの。この後の戦いが楽しみじゃわい」
…
……
モーリー「最終のチャレンジャーが決まりましたね。相手もお待ちかねのようです…」
いつの間にか天狗は巨大欅の根元に腰を下ろしていた。
モーリー「…デュラムさん、大変心苦しいのですが、リアイアを選択された方はこちらのドアから出ていただくことになっています」
コン太「えっ!?」
クロロ「そ、そんなあ!」
クロロとコン太が振り返る。
デュラム「なんと!それは残念じゃな…最後まで見届けたかったんじゃが」
デュラムがクロロとコン太に目を遣る。
デュラム「ふぉふぉふぉ、ほんの短い間じゃったが、まるで長年の弟子たちと過ごせたみたいじゃったわい…」
クロロ「…じっちゃん!」
コン太「デュラムさん…」
デュラム「二人とも、良い目をしとるわい。後悔せんように挑みなさい。風の噂でもいい、良き報告を待っておるぞ」
そして、背を向けると、ふぉふぉふぉとお馴染みの笑い声を上げながら、ドアの中へを消えていった…。
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