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5 イケメンときどき子ども
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「買い物行ってくる」
「そうか」
「留守番よろしくな」
「待て待て。ドアを閉めるな」
ドアの押し合いが始まる。蝶番がしんどい音を奏でた。
「ミチは留守番!」
「何故だ。退屈だろうが」
「人前で姿変えないなら連れて行くけど?」
「分かった。そうしよう」
ジャージイケメンを連れて外に出る。
一番近いスーパーまで自転車で二十分。二人乗り……は駄目だな。ヘルメットもないし。
「なんだその乗り物は」
「自転車なんだけど、ミチさぁ。また子どもの姿になれない?」
俺以外人の姿はなかったので、ミチは堂々と縮んだ。どういうわけかジャージまで子どもサイズになる。
「どうなってんだ」
「俺はどこに乗ればいい?」
言いながら自転車によじ登ろうとしている三歳児。うーん。可愛い。
ミチを背中に括り付けて自転車を走らせた。山道を登ったり下ったりすると集落が見えてくる。
「こっちの方はまだあんまり寒くないね。ミチは平気?」
「宇宙空間の気温までは平気だ」
えーと? マイナス二百七十度だっけ? 寒いとかそういう話じゃないな。
「あ、はい」
スーパーの壁にくっつけるように自転車を停める。
「じゃあ逆に、日本の夏は辛いかもよ? これから真夏になるし」
「心配しなくとも、灼熱になる前には帰る」
「ごめん。人がいるからあまり流暢に喋らないで」
「あううぅ」
切り替えが早い。頑張って背中を見ると、ミチは親指をしゃぶっていた。かわいい。抱っこしたい。
紐を回して、前で抱っこする形に持ってくる。
「あえ?」
「しっかりくっついといてね?」
「うー」
ぽにっとほっぺを押しつけてくる。今すぐ買い物かごを放り投げて撫でまわしたい。
「あら。ほとりさん、おはよう~」
「おはようございます」
スーパーの近くに住んでいるおばちゃんが話しかけてくる。のほほん笑顔だったのにミチを強烈に二度見した。
「あ、あんた! いつ産んだの?」
産んでません。
「あー。親戚の子が、遊びに来てるんです」
「なぁんだ。びっくりした。ほとりさんにはうちの娘を貰ってもらおうと思ってたから」
「じゃあ失礼します」
スーパーの奥の冷凍食品売り場に逃げる。あの人いつもああ言うので困ってしまう。
「知り合いか?」
「まぁね。ミチは何か、食べたいものないの? 作るよ?」
適当に冷凍食品をかごに投入していく。
「いらん」
「地球の食べ物は、口に合わない?」
気持ち声を潜める。
「そうではなく、元々食べん」
「……おう」
どうやって生きていられるんだろう。
「俺の財布を気遣って、食べないって言ってるだけじゃなくて?」
「食べん」
そうですか。
食品を選んでいる間やレジ待ちの間、ミチのほっぺをぷにぷに。摘んだりつついたり。無意識にやっていたこれのせいで、意見を通したいとき、ミチは子どもの姿になるようになってしまった。うぐぐ。かわいいからってぇえ……。
袋を下げて自転車置き場に行くと、俺の自転車の横に誰かいる。
(俺の自転車だぞ……?)
不審げに眉根を寄せた。
まあ、間違えることなど誰にでもあるだろう。そっと声をかけた。
「どうかしました?」
「おお。ほとり」
「なーんだ。お前かい」
はは、と乾いた笑いが零れた。不審者じゃなくて良かったけどさ。
「! おま、なんだそれ! お前の子か⁉」
さっきのおばちゃんと同じボケをかましてくるこいつは友人の可愛斗(きゅうと)。同い年だ。
「親戚の子だよ」
「な、んだよ……。はあ、無駄に焦らせやがって」
買い込んだ品物を自転車のかごに乗せたいんだが。重いし。そこ退いてくれないかな。
わきを通り抜けようとすると前に立って道を塞いでくる。
「邪魔だ。じゃーま」
「な、なあ。ほとり。俺たち、やり直さないか?」
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