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赤髪編
3 拐われたほとり
しおりを挟むスーパーの帰り道。道を塞ぐように黒のバンが急停車した。
「あっぶね……」
ぶつかりそうだったことにイラつきながら自転車を下りる。道は塞がれているが、自転車を押しながら慎重に行けば通れそうだ。
今だから言えるが、この時の俺はスーパーに引き返すべきだった。
黒いバンから黒服の男たちが降りてくる。
「は? え?」
取り囲むと口を塞がれた。手も縛られ、バンに押し込まれる。持ち主が無くなった自転車が倒れ、エコバッグから食材や生活用品が道に撒かれる。
男の一人が目につかないようにと、自転車をガードレールの向こう。崖下に投げ捨てる。
一瞬の、出来事だった。
「……」
目隠しまでされた俺が連れてこられたのは、どこかの地下だろうか。階段を下りたのは覚えている。
目隠しを外されても俺の目は虚ろで、力無くソファーにもたれている状態だ。
誰かが、俺の頬をするりと撫でた。
「おーい。まだ喋れる状態じゃねぇじゃーん。薬、強かったんじゃないのぉ?」
「も、申し訳ありません」
「自転車に乗っていたので、呼吸量が多かったのかと……」
口と鼻に当てられた布。何かが染み込ませてあったのか、強烈なにおいがした。と同時に瞼が下り、頭が働かなくなる。
で、気がつけばこんな場所にいたのだ。
赤髪の男が顎を掴むと、顔を覗き込んでくる。
「……」
「へぇ。可愛いね。この状態で悪戯したら、どんな反応するかな?」
ナイフを取り出すも、俺は恐怖することもできなかった。
刃先が滑り落ち、服を裂く。薄着一枚だった俺の肌が露わになる。
「うーん。高校生……いや大学生くらいかな? はあ。ガキは好みじゃないわ」
どすんと俺の横に座ると肩を組んでくる。片手でナイフを弄ぶ。抱き寄せられ、俺は赤髪の男にもたれるかたちになった。
香水の、においがする。
乗り気じゃなくなった赤髪の反応に、周囲の男たちがニヤけ出す。
「じゃあ、俺たちが遊んでやってもいいっすか?」
「ああ?」
赤髪のイヤリングがきらりと光る。
「だーめ」
「そんな!」
「独り占めはずるいっすよ!」
赤髪は腰を上げると、シンプルにサングラス男を殴った。巨体が華麗に宙を舞う。
「――ぶはぁ‼」
机を巻き込み、サングラス男はひっくり返る。周囲の男たちはビシッと整列した。
赤髪は白手袋を捨てると、予備の手袋を装着した。すぐにスーツも整える。
「駄目って言ったじゃ~ん? お前らすぐ壊すんだもん。……この子はベッドに寝かしておいて。ついでに足も縛っといて」
「ハイッ!」
怯えた雰囲気の男たちが一斉に頭を下げた。
「よろ~」と手を振りながら、赤髪は王のように退室していく。
俺はそっと抱えられるとシーツの上に横たえさせられる。赤髪のパンチが利いたのか、俺に手を出してくる者はいなかった。
(……ミチ)
帰るの、遅くなりそうだ。
のんきにそんなことを思いながら、目を閉じた。
5
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