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ロッドウルム編
16 亀裂の入った友情を
しおりを挟むリスさんを潰さないように可愛斗の上に突っ伏す。
「どうすれば~」
「ほとりー。出るって。アイス出る」
ちょんちょんと背中をたたいてくる。
面白そうに見えたのか、リスさんが俺の背中に乗っかってきた。小さい足が背中を歩いている。くすぐったい。
「こらこら。おいで」
くすぐったさに耐えていると、卿次さんがリスさんを抱っこしてくれた。
「俺の最大戦力がエトナなんだけど。あのマリアと互角っぽいし。確実に守ってやるとは言えないのが悔しいね。……いや、エトナを兵士にするつもりはないけど」
エトナさんが卿次さんのシャツを引っ張っている。「えー? 戦うのにー」と言っているように見えた。見えただけです。
「ま、焦らず、ミチくんが起きるのを待てばいいよ。どうせ夏休みでしょ? ゆっくりしていきなよ」
「いや俺バイトあっから」
「無暗に行かない方が良いんじゃない? あいつら、バイト先に襲撃するかもしれないよ」
愉しげに目を細める卿次さん。何か言いたそうな目をしながら、可愛斗はスマホを取り出した。
「じゃ、サボるって連絡入れておくか」
「ごめん。可愛斗。俺が巻き込んだんだ。働けない間の分の給料、払うよ」
「いらんわ。バカ」
即答だった。
「ええっ⁉」
絶対喜ぶと思ったのに!
「どうした⁉ 可愛斗。腹か? 腹の具合が良くないのか⁉」
わんこをわしゃわしゃする勢いでお腹を撫でまくった。可愛斗は飛び上がる。
「だから出るってアイスが‼ 押すな、腹を‼ ……俺は、貯金額をお前に見せてドヤ顔する目的があんだよ! お前から金もらってどうする」
宇宙生物たちの頭上にもハテナが浮かぶ。
「なんで俺に見せるの?」
「はあ? ……だ、だから! 俺はこれだけ、自分のことできるようになったって言いたい、というか。……お前に見直して、もらいたいって言うの? 俺がバカだから。友情に亀裂入れたじゃん。それを……その。修復したいなーって。少しでも」
青春の波動を感知したのか、卿次さんが奥の部屋に走り去っていく。エトナさんは屋根の上に。廊下に出かけたルンバさんも部屋にUターンしていった。
すごく、二人きりにさせようという気遣いを感じる。
いらないですその気遣い‼
「……あー。そ、そうだったの」
「まあ……うん。だから、目標金額に達するまで。死んでも金は受け取らない」
「俺。可愛斗のこともう、見直してるよ?」
ここ数日の可愛斗を振り返る。ライバルがそばにいたというのも影響しているのだろうが。亀裂の原因となったノンデリ成分は減っているように感じた。
茶色の髪を振る。
「駄目だ! 俺が納得できない。せめて知り合いから『友達』枠に昇格させてもらわないと。あのイケメンジャージと競うこともできない! 俺は、ほとりを諦めてねーから!」
可愛斗の真剣な顔。
「……」
ぐっと、言葉に詰まった。
今まで可愛斗のことは大型犬にしか見えていなかったが、ようやく、一人の人間として見られるようになったかも、しれない。
「お前はあのイケメン宇宙生物が好きなんだろうけど。俺は『二人の幸せを祈って身を引きます』とかしねーから」
ぶわわっと顔が熱くなった。暑さとは違った汗が噴き出す。え、え、えっ?
「んな何言ってんだよ⁉」
「……え? いやいや。バレバレだって。お前があいつ好きなの。隠すなってバレてっから」
可愛斗に呆れた目を向けられ、俺は蹲った。
「うあああああっ⁉」
「嘘だろお前。バレてないと思ってたんか? 誰だって気づくっての。ほとり、あのイケメンが近くに来るだけでどんな顔してると思っ」
「それ以上言うな―――っ」
可愛斗にタックルした。バイト先が表示されたスマホは飛んでった。
10
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