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一話 苺とタクト
しおりを挟む「ベリちゃああぁん!」
友人が突撃してきた。
俺にしがみついてわんわん泣き始める。
「どうした?」
扉が蝶番ごと外れたが、毎度のことなのでもういいや。
頭を撫でてやると少し落ち着いたのか、ぐずぐずと鼻をすすり上げる。
「焚き火で優雅にマシュマロ焼いてたら……。なんかっ、ずび、見知らぬおっしゃんがひへ……『一人じゃ危ないよ。それに不安だろう。おじさんが色々教えてあげるよ』って近寄ってきて……。あぶねーのはお前だよ! ってなったああああん」
俺の優雅な朝のコーヒータイムを破壊してくれているこの子は友人のタクトくん。いや、恩人、かな?
ソロキャンプが趣味のキャンパー男子だ。
成人式の時に二人で富士山登って以来、登山ではなくキャンプにハマった不思議な子。
高校が同じで大学も会社も違うところだったが、家が近すぎるせいで交流が続いている。俺が引っ越してきた数日後に、隣に引っ越してきてからずっと仲良しさん。
二つ下だが立派な社会人の成人男性が、鼻水垂らして泣いている。
(そんなんだから彼女もお姉さん系ばかりが多いんだろうな)
こういった泣き言を聞くのは彼女の役目なのだろうが。あまりの頼りなさに長続きしても数年で別れている。そしてなんたることか。この子は今、彼女いない期間なので、愚痴を聞くのが俺しかいない……。
スポーツでもやっていそうな短い黒髪。幼さを感じる澄んだ瞳に、正反対のようにがっしりした体躯。何事も無ければ甘え上手で、スーツの似合うキリッとした好青年なのだが。
「ベリじゃあああ。なぐざべべよぉ~」
本性はこのざまだ。
テーブルの上のティッシュを二枚ほど抜き取る。
「鼻水出てるよ」
思わず拭いかけたが、いやいやいやこの子は成人男性だ! 身長は俺よりも高い。
ティッシュはぽんと頭の上に置いた。彼はそれでずびーっと鼻をかむ。
「うぐぐぐぐぐ……。ごわがっだよ」
そのおじさんもよくこんな高身長に声をかけたよな。と思ったが、普段の情けないオーラのせいで威圧感がまるでない。
俺だってタクトくんが立ったら身長の高さに驚くくらいだ。それくらい、普段は人に圧迫感を与えない男である。
「純粋な善意だった可能性は? 無さそうなの?」
タクトくんは首を横に振る。
「ない。あっても、無断で人のテントに入って『どんな道具持ってる?』って、勝手に鞄漁る人だった」
レッドカード。退場!
「無事で良かったわ。タクトくん」
「ああああああん! ベリちゃん!」
俺の名前は苺。あだ名がベリ男。
不審者に遭遇した友人が無事だったことに安堵し、ふたりで抱き合った。肩に鼻水が付いた。
「あっ、ごめん!」
「いいよ」
こんな賑やかな子が隣に住んでて、ことあるごとに我が家に突撃してくるものだから。寂しさなどとうの昔に吹き飛んでしまった。
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