ケモノな彼氏

水無月

文字の大きさ
4 / 20

三話 キャンプ用品

しおりを挟む
 枯葉舞う十一月の空。
 寒い。

「帰ろっか」
「家出たばっかりなのに⁉」

 目を剥くタクトくんの横で両腕を摩る。

「この寒風の中で、テントで寝るとか、死んでしまう」
「寝袋あったかいから」

 タクトくんに引きずって行かれた。

 電車の座席に座っている間も、タクトくんは逃がすまいと俺の腕を掴んでいた。ここまできて逃げないって。
 大型複合施設内に入ると帽子とマフラーとコートを脱ぐ。

「よし。探そう」
(よかった。あったかい場所に入ると元気になってくれた)

 ホッとした様子のタクトくんが手を握ってくる。

「流石にさぁ……。もう子どもじゃないんだから。やめようよ」
「なにを?」

 繋いだ手を持ち上げる。

「俺らいい大人だろ?」
「大人が手を繋いでも、罰せられないよ? そんな国、あるの?」
「……」

 これは、俺は。なんて言い返せばよかったんだろうか。

 俺は真面目に、人生で手を繋いだ人はタクトくんしかいない。

 仲良く手を繋いで、店の前にキャンプ用品が並んでいる店に入る。

「ほへー。最近のテントって、こんなんかぁ」
「テント欲しいの? 俺のテントを使えばよくない?」
「タクトくんの、二人も入るのか?」
「俺が買ったのはこれ~」

 手を繋いでいるので強制的に連れていかれる。

 現れたのは店の隅っこを占拠している大きなテント。

 成人男性ふたりくらい余裕そうだ。

「え。タクトくん。こんな大きなテント買ったの?」
「他に趣味も無いので、何かにお金を使おうと思いまして」

 経済回してて偉いぞ。若いのに。

 頭を撫でてやると嬉しそうに目を細める。

「じゃあ。タクトくんのテントにお邪魔するかな」
「! 寝袋見に行きましょう」

 嬉しいのか、あっちこっちにぐいぐい引っ張っていかれる。大型犬の散歩をしているようだ。

「これおススメです。元はダイビングスーツとか作ってた会社の製品で。とにかくあったかくて撥水性抜群なのです。テント破れて雨が降ってきても耐えられますよ」

 店員さんのように滑らかに教えてくれる。ぶんぶんと左右に揺れる尾が見え、つい顔が緩んでしまいそうになった。

 他にキャンプ仲間いないから、語るのも楽しいんだろうなぁ。テント破れて雨降ってきたらもう、車で寝ようよ。

「寝心地は?」
「人によります」

 それは、そう。

「それより、虫よけだ」
「はい」

 強敵に挑むような真面目な顔で頷き合う。

「蚊取り線香は無いのか?」
「スプレータイプの方が、便利ですよ?」
「俺はあの、線香の、独特な香りが好きなんだ」
 
 タクトくんはうっすら嫌そうに眉根を寄せる。

「俺より?」
「そういう質問は彼女にしなさい」

 あらかた買い込むと結構な荷物になった。店員さんが頑丈な鞄にまとめて入れてくれたが。引っ越し屋の段ボール二個分はある。

「待て。ゆっくり車まで運ぶから。落ち着いて。俺。急に重いものを持つと倒れかねない」
「はい」

 ひょいっと、タクトくんが抱え上げる。ぽかんと見上げてしまった。

 そのまま店を出る長身の後を追う。

「あ、あ。持ってくれてありがと。重くない?」

 彼は笑顔で振り返る。

「いえいえー。軽いもんです」
「……」

 ああもう。何かしてくれただけで泣きそうになってくる。俺に優しくしてくれるのは、世界でタクトくんだけだ。
 でも、この子は誰にでも優しいから……。

(俺にだけの、優しさじゃ、ない)

 ――って、何を考えてるの、俺は!

 ぶんぶんと頭を振って暗い考えを振り払う。

(ひとりでも気遣ってくれる人がいれば、それは幸せなことなんだ)

 駐車場まで戻り、荷物を押し込む。フォーツーほどではないが小さい車なのでぎゅうぎゅうだ。

「せっかく来たんですし。何か食べて行きません?」
「ごめん。俺もう金ない」

 キャンプ用品ですっからかんだ。財布が風邪引きそう。銀行で……カード家だわ。忘れちゃった。お金やカードは家に帰ると鍵付きの引き出しの中に移す。そうしないと、「あの家」ではよく、お金が無くなっていたから。

「奢りますよ!」
「帰ったら返すからね」

 二人で特盛ラーメンを食べた。
 俺はお腹いっぱいで死にかけたが、タクトくんは追加でチャーハンと餃子を頼みに行ったので、あの子は食べたものがすぐに栄養になって身長に回るんだと思った。

「デザートはどうします?」
「嘘でしょ……?」

 腹いっぱいですぐに動けないため、雑談で時間を潰した。他愛のない話ばかりなのにタクトくんはずっと笑顔で、つられて俺も微笑を浮かべる。




 帰宅。
 荷物を運んでもらい、いよいよキャンプの予定を立てる。タクトくんはずっと楽しそうだ。

「あ、そうそう。忘れないうちに。はい」
「ん?」
「ほら。ラーメン代」
「うん……」

 なんで急にテンション下がるの⁉ あ、もしかして聞こえなかった?

「ラーメン代ね。これ」
「……」

 見えてないのかと思って顔に押し付ける。

「……」
「タクトくん? 受け取ってよ」
「……くぅん」
「えーっと。晩飯、食べてく?」
「! うんっ」

 特盛ラーメン代を受け取ろうとしないので晩御飯をご馳走した。……俺の手料理より、絶対お金を受け取る方が良いと思うんだけどな。
 そう思いつつ、食後の皿を洗う。

 手を拭きながら居間に戻ると、クッションを抱き締めてタクトくんが眠っていた。

「あらららら」

 もう遅いし、眠くなっちゃったか。

 スマホでアニメを結構な音量で流し見するが、彼が目を覚ます気配はない。

(起こした方がいいか? 帰って寝た方が安眠できるだろうし)

 スマホを置いて肩を揺する。

「タクトくんタクトくん。起きよう」
「んう」

 返事はしたが目も開けないしクッションも放さない。

「タークトくん」
「わう」

 可愛い返事が返ってくるだけだ。

「ほら。起きて!」

 クッションを奪い取る。彼の方が力はあると思うが、眠っているので取り上げることができた。

「ぐうー。なにするんでうかぁ?」
「ちょ!」

 取り返そうと思ったのか腕を伸ばし、俺の服を掴む。

「タク……」
 
 ――それはクッションじゃない。俺の服!

 引き剥がそうともたついていると、床を這ってずっしりとのしかかってこられ、ぎゅうぎゅうに抱きしめられた。

「タクトくん? 俺だよ! クッションはこっち!」
「ベリちゃん……」

 両手をじたばたさせるも逃れられず、テレビを消すのがやっとだった。

「お、おもい」

 え? ずっとこのまま?

 煌々と電気の付いた部屋で一夜を明かす。



 布団も被っていなかったのにどういうわけか寒くはなく。風邪もひかなかった。まるで上等な毛皮の布団を被っていたような……
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

貧乏Ωが御曹司αの将来のために逃げた話。

ミカン
BL
オメガバース

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

魔王を倒した勇者の凱旋に、親友の俺だけが行かなかった理由

スノウマン(ユッキー)
BL
スラム育ちの少年二人は、15歳になり神の祝福でスキルを得た事で道をたがえる。彼らはやがて青年となり、片方は魔王討伐に旅立つ勇者として華々しい活躍をし、もう片方はただ彼の帰還を待つ相変わらずスラム暮らしの存在となる。 これは何も持たない青年がただ勇者の帰りを待つ日常を描いた作品です。 無自覚両片想いの勇者×親友。 読了後、もう一度だけ読み直して頂けると何か見える世界が変わるかもしれません。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

処理中です...