ケモノな彼氏

水無月

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十一話 ミキマキ

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 タクトくんが寒がりの俺用に選んでくれた服は、フード付きの裾の長い服。ズボンはレギンスのように肌に貼りつく薄い素材なのに、まったく風を通さない。撥水性も抜群なんだとか……どこかで聞いた情報だね?

 フードには狼耳に似た三角と、腰の当たりには狼の尾らしきふさふさがぶら下がっている。色はどっちも黒。フードを被ればタクトくんとお揃いになる。

 成人男性が着るには抵抗があったが、これの他はもふもふ服しかないと言われた。

 俺一応、百七十以上あるんだけど。こんな可愛い服を俺が着るなんて、犯罪じゃないかな?

「に、似合う?」
「……お」
「どしたの?」

 膝から崩れ落ちた友人に駆け寄る。

「い、いや。……み、狼耳の、ベリちゃんの破壊力がッ! 胸が」
「胸がどうした⁉ ちょ、誰か。お、弟君!」

 助けを求めるが弟君たちの視線は「はいはい」と生温かなものだった。

「兄様(あにさま)はほっといていいですよ。ベリー様。お食事にしましょ」
「ご飯! ご飯!」

 タクトくんの弟君たち。流暢に喋っている方がミキ君で、俺が女の子と勘違いしてしまった方がマキ君。

 自己紹介した際、「苺です」「あれ⁉ ベリー様というお名前では⁉」と驚いてたのが面白かったな。タクトくんが「ベリちゃんベリちゃん」と言ってたせいだろうね。

 あれはあだ名なんだけど、結局はあだ名の方で呼んでもらうことにした。呼び方が二つあったらこんがらがるし。

 二人とも、真っ白な毛並みが素晴らしい。和風チックな侍従服を着た狼が二足歩行しているだけなので、靴を履かない彼らの脚はまんま狼。マキちゃんの方は……冬毛が限界突破しているようで、はっきり言って毛玉が歩いている。春になるまで、顔は拝めそうにない。

 二人に手を握られて食卓へ。

「……ベリー様?」
「あ、ごめん!」

 手を離したくなくてつい。肉球が、肉球の魔力が。

 二人からしぶしぶ手を離す。

 椅子を引いてくれたので席に座る。

「ありがとう。ミキ君」
「我らに礼など不要ですよ。ベリー様」

 凛々しい少年狼がかっこいい。瞳の色は、タクトくんと同じ。きれいなグレーブルー。

 料理が運ばれてくると、タクトくんも正面の席に座った。

「はあ……」

 彼には少し小さいんじゃないかと思うテーブル。丸太のごついダイニングテーブルなのだが、三メートルからすればミニチュアだろう。椅子も、お尻が半分はみ出ている。

「気にしなくていいよ」
「!」

 あまりにじろじろと、テーブルとタクトくんを交互に見ていたせいか勘付かれてしまう。

 タクトくんは苦笑を浮かべていた。

「もしかして……。俺に合わせて作ったの?」
「かっこよく『そうだよ』って言いたいけど。少し違うかな。人間サイズに合わせてあるだけさ。俺らは、人間の社会に混じって勉強して、こっちの世界に帰る際。気に入った人間を持ち帰るからね」
「……俺みたいに?」
「そう」

 じゃあ、この世界にも、俺以外の人間はいるのか。友達になれるかな……って! なんでこの世界に馴染む気満々なんだよ。

「……」

 帰りたい、とは思うが、帰れるとも思わない。

(どうやって元の世界に帰るのか分かんないし。吸血鬼や雪男もいるって言ってたから、独りで気楽に動き回れないし!)

 向こうに、いい思い出があまり無いのも事実。

「ベリちゃん。嫌いなものだった?」

 ハッと顔を上げると、タクトくんだけでなくミキ君と毛玉……マキちゃんもこっちを見ていた。

「え? 何?」

 俺の前には、湯気を立てる美味しそうなカボチャ入りのお粥が。

「うつむいてたから、カボチャ苦手だったかなって」
「すぐ、違うものを作りますよ」
「たまごがゆの方がいい~? シャケもあるよ?」

 少年狼二人が近寄ってきて、じっと見上げてくる。か、かわいい。撫でたい。

「あ、ああ。ごめん。ぼーっとしてた」
「寒い中、兄様(あにさま)が連れ回したので風邪を召されたのかと……」

 タクトくんが胸を押さえている。

「いやいや! タクトくんあったかあったし。平気。元気だよ」

 にこっと笑うと、ミキ君とマキちゃんはホッと頬を緩めてくれた。

 手を合わせて、

「「いただきます」」

 木のスプーンを手に取る。

「ミキ君たちは食べないの?」

 部屋の隅に下がった少年狼たちを目で追う。

「俺の弟とはいえ、あの子たちも『見習い』だからね」
「見習いって?」

 タクトくんを見つめながら掬ったお粥にふうふうと息を吹きかける。カボチャの種まで入っていて、カリコリして美味しい。食感が色々あって飽きない。

 自分を見つめながらはふはふしている俺を、嬉しそうに眺める。

「見習いってのは、成人してない未オスのことだよ。人間社会に混じるために、こうやって人間がいるオスの元で働いて経験を積むのさ。いきなり人間に混じっても、力加減間違うと事件になるし、ね」
「じゃあ。この家に居る、侍従服を着ている狼たちって、みんな見習い?」
「そ。俺がベリちゃんの話をしまくっていたら、母ちゃんが『こいつ絶対人間を連れ帰ってくる』って予知してて……一ヵ月前から未オスたちを押し付けられたよ」

 タクトくんが泣いてる。「二人っきりの甘々暮らしがぁ」って言ってるけど、成人オスの義務なんでしょ。泣かないの。

 ハンカチを差し出そうとしたが、

「鞄!」
「あ、荷物はこちらで預かっていますので、必要な際はお声がけください」

 壁際で控えているミキ君がハキハキと答えている。

「そうなの? ありがとう。タクトくんに強引に連れてこられたから、荷物も回収できなくて。助かったよ」
「いいんです。兄様はベリー様のお話しかしないくらい、メロメロでしたので。いつかはこうなるだろうなぁと、思っておりましたから」

 メ、メロメロ……?

 余計なこと言うなと、タクトくんがむすっとしている。

「鞄、取って参りましょうか?」
「あ! あっと、今は良いよ。ありがとね」
「いえ」

 マキちゃんまでにぱっと笑ってくれる。和んでいると正面の狼が唸り出す。

「弟たちばっかり可愛がらないで」
「……」
「ベリちゃんを一番好きなのは、俺!」

 ずずいっと身を乗り出してくる。

 こ、この甘えん坊オオカミ。

「はいはい。ごめんね?」
「もうっ。だから二人っきりが良かったのに!」

 大きな口であっという間にカボチャ粥を平らげる。

「……じゃあさ、今の王様って、誰なの?」
「空席」
「え⁉ 王様いないの?」

 タクトくんが興味薄そうに頷く。

「王候補たちの戦いが長引いちゃってね~」
「兄様の参戦が遅かったからですよ」
 
 どこか自慢げなミキ君。「自慢のお兄ちゃん」という感じがしてほほ笑ましい。

 さっきの話からして、あと残ってる候補はタクトくんとタクトくんのお友達の黒狼。かな?

「食べたら、散歩にでも行かない? こっちのこと色々教えてあげるよ」
「……」

 ちらっと丸窓(幹をくり抜いただけ)に目をやる。

 滝のような雨。

 言葉がない俺に代わって、ミキ君がため息を吐いた。

「兄様」
「なに? 俺たちの会話に入ってこないで」
「人間さんは、濡れたら、風邪を引かれるのでは、なかったのですか?」
「……」

 あ、と口を開けている。おーい。今までの彼女たちも大雨の時に連れ出してたんじゃないだろうね?

「教えてくれたのは兄様ですよ?」
「ぐう」

 言葉に詰まっているタクトくん。

 思わず笑ってしまう。

「あはは。弟さんの方がしっかりしてるんじゃない?」
「むぐぐ」

 頬を膨らませる。あまりに可愛いので腕を伸ばして撫でようと思ったけど、届かないので諦めてお粥を食べる。カボチャもほっくほく。

「おいしい」
「むうう」

 不満だったのか、わざわざ立ち上がって真横に来てくれた。しゃがんで、見上げてくる。

「……」
「……」
「よしよし」

 頭に手を乗せると、毛皮に沈む。そのまま撫でるとふわふわと尾が揺れた。

「えへへ」
「あにさま、子どもみた」

 いらんこと言いかけたマキちゃんの口を、ミキ君が塞いでいた。










「こっちの世界このと、実際に見ながら教えようと思ってたけど、止みそうにないね」

 窓から顔を出す。夜のように暗い中を、銀の狼たちは普通に歩き回っている。雨でもお構いなしだ。

「こっちとあっちじゃ分かりづらいけど、名前とか、あるの?」

 タクトくんは首を振る。

「無いよ。こっちとあっちで事足りるし」
「そっか」

 食後。樹木ハウスを探検しようと思ったが寝室に連れてこられた。

「お昼寝?」
「ん? お外で食べれないのは残念だけど、ベリちゃんはどこで食べてもね、美味しいし」

 さあーっと血の気が引いた。そういえば、身体を献上してもらうとかどうとかって。古代の権力者みたいなこと言ってた気がする。
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