11 / 20
十話 不安だから、その
しおりを挟む
くぐると真っ暗だった。何も見えない。
「へ?」
「あ、そっか……。人間って、見えないのか」
あまりの暗さに怖くなり、隣のモフモフに体当たりする勢いでしがみつく。
「おっと。……そんな熱烈にくっついてきてくれるなら、暗いままでも、いいかな~」
「……」
「うん。明かりつけます」
絶望顔に憐れんでくれたのか、室内(樹木内)が明るくなった。ぱっと。
見れば、天井や壁にぶら下げられた木の実が光っている。
「なにそれ」
「人間からすれば珍しいかな? こっちじゃ普通に見かけるよ。さ、適当に座って、あたたかい飲み物淹れるから」
あれだけ寒かったのに、この大樹の中は暖かい。真冬装備を脱いで、ベイ〇ックス体型からおさらばする。
「服はその辺に置いといて」
「うん」
「上着預かりまーす」
なんだか今。子どもみたいな可愛い声が。どこかで聞いたような。
「あれ? きみたち⁉」
足元に目を落としてギョッと飛び跳ねる。
キャンプ場にいた小学生カップルではないか……って、狼耳と尻尾があああああ⁉ タクトくんの時と同様。ケモノの姿に変わっていく。
「ああああ? ああ? ああああああ⁉」
ムンクになる俺に、タクトくんがしれっと答える。
「俺の弟たち。どっちもオスだよ」
「はあっ⁉ キャンプしてたの?」
「あそこは俺の縄張りで、あの場にいた人間は全員狼男。俺の見習い」
「……っ……! ……?」
脳の処理が追い付かない俺の前に、ことっとカップを置く。
「ベリちゃん。コーヒー好きでしょ? お砂糖は、どうする?」
「…………ひ……ひと、つ。で」
「はーい」
角砂糖がとぽんっと、黒い水面に落ちる。
「気づかないもんなんだね。あのキャンプ場で、みんな肉しか食べてなかったから。流石にバレるかなって冷や汗かいてたんだけど」
銀の細いスプーンで、ぐるぐるとコーヒーをかき混ぜる。
「…………」
「座らないの?」
「…………?」
丸太を切っただけのようなワイルドな椅子に腰かけた。
流れるようにテーブルに突っ伏す。
「……?」
「疲れちゃった? コーヒー飲んだら、もう寝ちゃう?」
コーヒーが美味しかったことだけは、覚えている。
違う世界に来てから二日目の朝。
天候、土砂降り。
目を開けるともう大雨だった。木の実ランプが二個だけ灯っていて薄暗いので真夜中かと思えば。
俺を抱き締めて寝ていたモフモフが教えてくれた。
「おはよう。よく眠れた?」
「……おは、よう。タクトくん、だよね?」
「人の姿の方が、落ち着くかな?」
ちゅっと、鼻に鼻キスしてくれる。獣の鼻先は、しっとりしていて冷たかった。
寝台はワラの上に毛布を敷いた簡素な物だが、掛け布団(タクトくん)があったかくてもふもふでふわふわなので何も文句はない。
(タ、タクトくんと、寝てたの? ……お、俺)
なぜだろうか。顔が熱い。彼と寝るのは、初めてではないってのに。
身を起こそうとする彼の腕を掴む。
「?」
「どこ行くの? もうちょっと、もうちょっとだけ。隣にいてて」
なんだろう。物凄く心細い。慣れない環境の、せいかな。
タクトくんがたらりと汗を流す。
「……あんまり可愛いこと言われると、その。理性が飛ぶんだけど」
「嫌なら、いいよ」
嫌がることを強制させられない。そんな思いをするのは自分だけでいい。
フイッと顔を背ける。
「……わう」
ぺたんと狼耳がへにょってしまった。え! かわいい。
何か葛藤しているようだったが、再びごろんと横になってくれた。
「どうしたのかな? ベリちゃんは」
「どうしたじゃないよ。勝手に連れてきて……。不安なの」
よしよしと、俺の肩を撫でてくれる肉球。
「不安? なにが? ここじゃ『あいつ』以外誰も俺も逆らわないし。家に居るのは兄弟と見習いだけだし。……えっと?」
本気で分かってないな。
そっと、額を彼の胸毛に押し付ける。
「か、かわ……」
「どんな生物がいるのかとか、虫とか。立ち入ったら駄目な場所とか、虫とか。何にも分からないと不安なの。タクトくんも初めは、人間の中に混じって、不安だったでしょ?」
きっと睨むが、彼は目元を押さえていた。
「どしたの?」
「お願いだから。あんまり可愛いことしないでね?」
「はい?」
タクトくんにとっての「可愛いこと」とはなんだろうか。
「聞いてる?」
「……はい。俺はそんなに不安じゃなかったよ? ある程度調べて行ったし。あ、そっか。ベリちゃんは俺が、予習もなしに連れて来たから。そりゃ不安、か」
「そうだよ」
ようやくわかってくれたんだね!
「だから! 俺が落ち着くまでもうちょっと……」
すりすりとあたたかな体毛に顔を擦りつける。
お、落ち着く……。
「ベリちゃん」
尻尾を一振りしたタクトくんは困った顔で、助けを求めるように顔を上げるも、弟たちは見ないふりして衣服を置いて出て行った。俺は、弟君たちがこの部屋にいたことに気づいてなくて……タクトくんに甘えているのをばっちり目撃されていたわけなんですが。
そのことで悶絶するまであと三十分。
「へ?」
「あ、そっか……。人間って、見えないのか」
あまりの暗さに怖くなり、隣のモフモフに体当たりする勢いでしがみつく。
「おっと。……そんな熱烈にくっついてきてくれるなら、暗いままでも、いいかな~」
「……」
「うん。明かりつけます」
絶望顔に憐れんでくれたのか、室内(樹木内)が明るくなった。ぱっと。
見れば、天井や壁にぶら下げられた木の実が光っている。
「なにそれ」
「人間からすれば珍しいかな? こっちじゃ普通に見かけるよ。さ、適当に座って、あたたかい飲み物淹れるから」
あれだけ寒かったのに、この大樹の中は暖かい。真冬装備を脱いで、ベイ〇ックス体型からおさらばする。
「服はその辺に置いといて」
「うん」
「上着預かりまーす」
なんだか今。子どもみたいな可愛い声が。どこかで聞いたような。
「あれ? きみたち⁉」
足元に目を落としてギョッと飛び跳ねる。
キャンプ場にいた小学生カップルではないか……って、狼耳と尻尾があああああ⁉ タクトくんの時と同様。ケモノの姿に変わっていく。
「ああああ? ああ? ああああああ⁉」
ムンクになる俺に、タクトくんがしれっと答える。
「俺の弟たち。どっちもオスだよ」
「はあっ⁉ キャンプしてたの?」
「あそこは俺の縄張りで、あの場にいた人間は全員狼男。俺の見習い」
「……っ……! ……?」
脳の処理が追い付かない俺の前に、ことっとカップを置く。
「ベリちゃん。コーヒー好きでしょ? お砂糖は、どうする?」
「…………ひ……ひと、つ。で」
「はーい」
角砂糖がとぽんっと、黒い水面に落ちる。
「気づかないもんなんだね。あのキャンプ場で、みんな肉しか食べてなかったから。流石にバレるかなって冷や汗かいてたんだけど」
銀の細いスプーンで、ぐるぐるとコーヒーをかき混ぜる。
「…………」
「座らないの?」
「…………?」
丸太を切っただけのようなワイルドな椅子に腰かけた。
流れるようにテーブルに突っ伏す。
「……?」
「疲れちゃった? コーヒー飲んだら、もう寝ちゃう?」
コーヒーが美味しかったことだけは、覚えている。
違う世界に来てから二日目の朝。
天候、土砂降り。
目を開けるともう大雨だった。木の実ランプが二個だけ灯っていて薄暗いので真夜中かと思えば。
俺を抱き締めて寝ていたモフモフが教えてくれた。
「おはよう。よく眠れた?」
「……おは、よう。タクトくん、だよね?」
「人の姿の方が、落ち着くかな?」
ちゅっと、鼻に鼻キスしてくれる。獣の鼻先は、しっとりしていて冷たかった。
寝台はワラの上に毛布を敷いた簡素な物だが、掛け布団(タクトくん)があったかくてもふもふでふわふわなので何も文句はない。
(タ、タクトくんと、寝てたの? ……お、俺)
なぜだろうか。顔が熱い。彼と寝るのは、初めてではないってのに。
身を起こそうとする彼の腕を掴む。
「?」
「どこ行くの? もうちょっと、もうちょっとだけ。隣にいてて」
なんだろう。物凄く心細い。慣れない環境の、せいかな。
タクトくんがたらりと汗を流す。
「……あんまり可愛いこと言われると、その。理性が飛ぶんだけど」
「嫌なら、いいよ」
嫌がることを強制させられない。そんな思いをするのは自分だけでいい。
フイッと顔を背ける。
「……わう」
ぺたんと狼耳がへにょってしまった。え! かわいい。
何か葛藤しているようだったが、再びごろんと横になってくれた。
「どうしたのかな? ベリちゃんは」
「どうしたじゃないよ。勝手に連れてきて……。不安なの」
よしよしと、俺の肩を撫でてくれる肉球。
「不安? なにが? ここじゃ『あいつ』以外誰も俺も逆らわないし。家に居るのは兄弟と見習いだけだし。……えっと?」
本気で分かってないな。
そっと、額を彼の胸毛に押し付ける。
「か、かわ……」
「どんな生物がいるのかとか、虫とか。立ち入ったら駄目な場所とか、虫とか。何にも分からないと不安なの。タクトくんも初めは、人間の中に混じって、不安だったでしょ?」
きっと睨むが、彼は目元を押さえていた。
「どしたの?」
「お願いだから。あんまり可愛いことしないでね?」
「はい?」
タクトくんにとっての「可愛いこと」とはなんだろうか。
「聞いてる?」
「……はい。俺はそんなに不安じゃなかったよ? ある程度調べて行ったし。あ、そっか。ベリちゃんは俺が、予習もなしに連れて来たから。そりゃ不安、か」
「そうだよ」
ようやくわかってくれたんだね!
「だから! 俺が落ち着くまでもうちょっと……」
すりすりとあたたかな体毛に顔を擦りつける。
お、落ち着く……。
「ベリちゃん」
尻尾を一振りしたタクトくんは困った顔で、助けを求めるように顔を上げるも、弟たちは見ないふりして衣服を置いて出て行った。俺は、弟君たちがこの部屋にいたことに気づいてなくて……タクトくんに甘えているのをばっちり目撃されていたわけなんですが。
そのことで悶絶するまであと三十分。
15
あなたにおすすめの小説
つまりは相思相愛
nano ひにゃ
BL
ご主人様にイかないように命令された僕はおもちゃの刺激にただ耐えるばかり。
限界まで耐えさせられた後、抱かれるのだが、それもまたしつこく、僕はもう僕でいられない。
とことん甘やかしたいご主人様は目的達成のために僕を追い詰めるだけの短い話です。
最初からR表現です、ご注意ください。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
愛人少年は王に寵愛される
時枝蓮夜
BL
女性なら、三年夫婦の生活がなければ白い結婚として離縁ができる。
僕には三年待っても、白い結婚は訪れない。この国では、王の愛人は男と定められており、白い結婚であっても離婚は認められていないためだ。
初めから要らぬ子供を増やさないために、男を愛人にと定められているのだ。子ができなくて当然なのだから、離婚を論じるられる事もなかった。
そして若い間に抱き潰されたあと、修道院に幽閉されて一生を終える。
僕はもうすぐ王の愛人に召し出され、2年になる。夜のお召もあるが、ただ抱きしめられて眠るだけのお召だ。
そんな生活に変化があったのは、僕に遅い精通があってからだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる