血染めうさぎ

水無月

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6 食堂での騒ぎ

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「はっ。浮かれやがって馬鹿馬鹿しい」



 ほんわかした空気を、嘲笑が斬り裂いた。だるそうな職員さんたちと同じように顔を向ければ、輪切りさんが入ってくる。周囲に二人ほどを連れて。

「エラー職員が揃いも揃ってガキのご機嫌伺いなんぞしやがって。みっともねぇったら」

 取り巻きがゲラゲラと笑う。

「こいつらは所詮、戦う力を持たない無能、無能、無能。ついでにあいつも無能」

 職員を一人一人指差していく。

「俺たち戦闘員がお前らのおまんまを稼いでやってるっていうのに、媚を売る相手が違うんじゃないですかー?」
「まったくだぜ。こっちは命がけだってのに、安全なところでぬくぬくとしてるだけの奴らが楽しそうだな。俺たちはストレス抱えまくりなんだわ。お前らでストレス発散してやってもいいんだぜ?」

 輪切りさんはトレイを雑に置くと、おばちゃんに「おい! 早く飯持って来い!」と怒鳴りつけている。なんでそんな、酷いことができるのか。

 僕は信じられなくて、悲しくなった。

 自分に優しくしてくれる人がどれほど貴重で、尊いものか。僕は嫌でも知っている。

 無言で睨みつけ、不快を露わにする職員さんたち。その目が気に入らないのか取り巻きがテーブルをぶっ叩いた。
 近くに居た女性職員が悲鳴を上げる。

「きゃっ!」
「んだその目は! やるってのか? 戦う『能力』を持たない非戦闘員ごときが。いいぜ。どっちが上か躾けてやるよ。純然たる力、でな‼」

 取り巻きの手の甲が光る。何か、良くない力の使い方をしようとしているのを感じたのに僕は、何もできずに震えるだけだった。

「やめろお前!」
「逃げて」

 職員数名が女性を庇うように引っ張り、遠ざけようとする。標的を自分に移そうと一人の男性職員が殴りかかったが、取り巻きが何か力を使ったのだろう。
 大きな男性が、大砲の弾のように吹き飛ばされた。テーブルや椅子を巻き込んで倒れ込む。食器類が割れ、耳をつんざく音が響く。

「ぎゃあ!」
「はっはあ! ヒーロー気取りで向かってきたのになぁ! だっせぇ! 身の程を思い知れカス共がぁ! おい。いいぞ。もっとやっちまえ」

 輪切りさんが面白そうに指示を飛ばす。逃げ惑う人々で、食堂は阿鼻叫喚の騒ぎとなった。

 ガタッと、僕の横で誰かが立ち上がる。



 その瞬間、騒がしかった食堂が静まり返った。

「え……?」
「ボ、ボス」
「おられた、んで?」

 残念なほど青ざめている。どうやら彼らは一番隅っこに座っていたボスさんの存在に、今初めて気がついたようだ。


「『輪切り』。『キャノン』。『冷華』。私の前でいい度胸だ」


 取り巻きはささっと輪切りさんの背後に隠れてしまうが、一人に隠れられるはずもなく。「俺を盾にするな!」「輪切りさんが揶揄いに行こうって言い出したんじゃないですか!」「なんでボスが。いつも部屋で食べてるのにッ」と仲良く仲間割れし出す。


「お前たち戦闘員のストレスも分かる。平和な国で生きていたのに、急に命をかけろと言われた責任の重さ。辛いだろう。恐ろしかったはずだ。……だがそれを非戦闘員に向けるのなら」


 ボスさんは両手の指をバキバキと鳴らす。いい笑顔で。

「私(ボス)がお前たち(戦闘員)に当たり散らしても良い、ってことだよな? ちょっと書類整理が三日徹夜しても終わらないんだ。苛々するからお前らの前歯へし折らせてくれ」

 バグスフェラトゥと渡り合える力を持っているはずの戦闘員たちが震え上がった。

「急に腹がいっぱいに。で、では‼ 俺たちはこの辺で」
「さっさようなら~」

 ボスさんの眼光に耐えきれなくなったのか、汗だく輪切りさんたちは素早く食堂から出て行ってくれた。

 嵐が過ぎ、ホッと胸を撫で下ろす。
 怖かった。

「大丈夫か? 坊主」
「怖かったでしょ? ごめんね? 美味しく食べてたのにね?」

 職員さんたちは真っ先に僕を気遣ってくれた。あんな目にあったのに……。僕なんかを。

 じわっと、目の奥が熱く痛くなって、何かが込み上げた。「大丈夫ですっ」と強がる。

「シェル呼んできてー」
「はい!」

 ボスさんの穏やかな声。倒れた男の人を抱え上げて指示を出していた。食堂のおばちゃんがボスさんに「もっと早く注意せんかい!」と叱っている。

 僕はボスさんの足元に駆け寄った。

「大丈夫ですか⁉」
「ああ、ちょっと気絶してるだけだよ。アル君にまで心配かけて、ごめんねぇ本当に。あの子たちはあとで腹ぶち抜いておくからね」

 食堂に「そこまでせんでも……」と空気で満ちたが、ボスさんが本気で怒っているのは伝わってきた。僕はどうしてか嬉しかった。人を気遣える人が、トップだということが。

「何事ですか⁉」

 走ってきた白衣姿のシェルさんが口をあんぐりと開ける。散らかった食堂を見て頭が痛そうだ。

「ごめーん。シェル。この子診てあげて」
「ボス。お怪我は? あ、アル君! 怪我は⁉」

 がっと僕の両肩に手を置いてきた。わざわざしゃがんで。ボスさんに訊ねる時より必死な顔で。

「ぼ、僕は……。でもみんなが、嫌な思いを……。僕は何もできなくて」
「どういうことです?」
「輪切りたちだよー。もう、やんなっちゃう」

 男性は担架(タンカ)に乗せられて運ばれていく。

 貴方がいてなんでこんな事態に⁉ とシェルさんにまで叱られていた。












🐰









「輪切りとキャノンと冷華が謹慎⁉ なんで?」

 シェルは肩を竦める。

「暴れたんだよ。食堂で」
「……え、戦闘員がさらに減ったってことか? いやいやいや。俺、今月は休みをもらおうと思ってて」
「今月『も』頑張れよ。血染め」
「神様。俺何かしましたか」




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