6 / 17
6 食堂での騒ぎ
しおりを挟む「はっ。浮かれやがって馬鹿馬鹿しい」
ほんわかした空気を、嘲笑が斬り裂いた。だるそうな職員さんたちと同じように顔を向ければ、輪切りさんが入ってくる。周囲に二人ほどを連れて。
「エラー職員が揃いも揃ってガキのご機嫌伺いなんぞしやがって。みっともねぇったら」
取り巻きがゲラゲラと笑う。
「こいつらは所詮、戦う力を持たない無能、無能、無能。ついでにあいつも無能」
職員を一人一人指差していく。
「俺たち戦闘員がお前らのおまんまを稼いでやってるっていうのに、媚を売る相手が違うんじゃないですかー?」
「まったくだぜ。こっちは命がけだってのに、安全なところでぬくぬくとしてるだけの奴らが楽しそうだな。俺たちはストレス抱えまくりなんだわ。お前らでストレス発散してやってもいいんだぜ?」
輪切りさんはトレイを雑に置くと、おばちゃんに「おい! 早く飯持って来い!」と怒鳴りつけている。なんでそんな、酷いことができるのか。
僕は信じられなくて、悲しくなった。
自分に優しくしてくれる人がどれほど貴重で、尊いものか。僕は嫌でも知っている。
無言で睨みつけ、不快を露わにする職員さんたち。その目が気に入らないのか取り巻きがテーブルをぶっ叩いた。
近くに居た女性職員が悲鳴を上げる。
「きゃっ!」
「んだその目は! やるってのか? 戦う『能力』を持たない非戦闘員ごときが。いいぜ。どっちが上か躾けてやるよ。純然たる力、でな‼」
取り巻きの手の甲が光る。何か、良くない力の使い方をしようとしているのを感じたのに僕は、何もできずに震えるだけだった。
「やめろお前!」
「逃げて」
職員数名が女性を庇うように引っ張り、遠ざけようとする。標的を自分に移そうと一人の男性職員が殴りかかったが、取り巻きが何か力を使ったのだろう。
大きな男性が、大砲の弾のように吹き飛ばされた。テーブルや椅子を巻き込んで倒れ込む。食器類が割れ、耳をつんざく音が響く。
「ぎゃあ!」
「はっはあ! ヒーロー気取りで向かってきたのになぁ! だっせぇ! 身の程を思い知れカス共がぁ! おい。いいぞ。もっとやっちまえ」
輪切りさんが面白そうに指示を飛ばす。逃げ惑う人々で、食堂は阿鼻叫喚の騒ぎとなった。
ガタッと、僕の横で誰かが立ち上がる。
その瞬間、騒がしかった食堂が静まり返った。
「え……?」
「ボ、ボス」
「おられた、んで?」
残念なほど青ざめている。どうやら彼らは一番隅っこに座っていたボスさんの存在に、今初めて気がついたようだ。
「『輪切り』。『キャノン』。『冷華』。私の前でいい度胸だ」
取り巻きはささっと輪切りさんの背後に隠れてしまうが、一人に隠れられるはずもなく。「俺を盾にするな!」「輪切りさんが揶揄いに行こうって言い出したんじゃないですか!」「なんでボスが。いつも部屋で食べてるのにッ」と仲良く仲間割れし出す。
「お前たち戦闘員のストレスも分かる。平和な国で生きていたのに、急に命をかけろと言われた責任の重さ。辛いだろう。恐ろしかったはずだ。……だがそれを非戦闘員に向けるのなら」
ボスさんは両手の指をバキバキと鳴らす。いい笑顔で。
「私(ボス)がお前たち(戦闘員)に当たり散らしても良い、ってことだよな? ちょっと書類整理が三日徹夜しても終わらないんだ。苛々するからお前らの前歯へし折らせてくれ」
バグスフェラトゥと渡り合える力を持っているはずの戦闘員たちが震え上がった。
「急に腹がいっぱいに。で、では‼ 俺たちはこの辺で」
「さっさようなら~」
ボスさんの眼光に耐えきれなくなったのか、汗だく輪切りさんたちは素早く食堂から出て行ってくれた。
嵐が過ぎ、ホッと胸を撫で下ろす。
怖かった。
「大丈夫か? 坊主」
「怖かったでしょ? ごめんね? 美味しく食べてたのにね?」
職員さんたちは真っ先に僕を気遣ってくれた。あんな目にあったのに……。僕なんかを。
じわっと、目の奥が熱く痛くなって、何かが込み上げた。「大丈夫ですっ」と強がる。
「シェル呼んできてー」
「はい!」
ボスさんの穏やかな声。倒れた男の人を抱え上げて指示を出していた。食堂のおばちゃんがボスさんに「もっと早く注意せんかい!」と叱っている。
僕はボスさんの足元に駆け寄った。
「大丈夫ですか⁉」
「ああ、ちょっと気絶してるだけだよ。アル君にまで心配かけて、ごめんねぇ本当に。あの子たちはあとで腹ぶち抜いておくからね」
食堂に「そこまでせんでも……」と空気で満ちたが、ボスさんが本気で怒っているのは伝わってきた。僕はどうしてか嬉しかった。人を気遣える人が、トップだということが。
「何事ですか⁉」
走ってきた白衣姿のシェルさんが口をあんぐりと開ける。散らかった食堂を見て頭が痛そうだ。
「ごめーん。シェル。この子診てあげて」
「ボス。お怪我は? あ、アル君! 怪我は⁉」
がっと僕の両肩に手を置いてきた。わざわざしゃがんで。ボスさんに訊ねる時より必死な顔で。
「ぼ、僕は……。でもみんなが、嫌な思いを……。僕は何もできなくて」
「どういうことです?」
「輪切りたちだよー。もう、やんなっちゃう」
男性は担架(タンカ)に乗せられて運ばれていく。
貴方がいてなんでこんな事態に⁉ とシェルさんにまで叱られていた。
🐰
「輪切りとキャノンと冷華が謹慎⁉ なんで?」
シェルは肩を竦める。
「暴れたんだよ。食堂で」
「……え、戦闘員がさらに減ったってことか? いやいやいや。俺、今月は休みをもらおうと思ってて」
「今月『も』頑張れよ。血染め」
「神様。俺何かしましたか」
1
あなたにおすすめの小説
青龍将軍の新婚生活
蒼井あざらし
BL
犬猿の仲だった青辰国と涼白国は長年の争いに終止符を打ち、友好を結ぶこととなった。その友好の証として、それぞれの国を代表する二人の将軍――青龍将軍と白虎将軍の婚姻話が持ち上がる。
武勇名高い二人の将軍の婚姻は政略結婚であることが火を見るより明らかで、国民の誰もが「国境沿いで睨み合いをしていた将軍同士の結婚など上手くいくはずがない」と心の中では思っていた。
そんな国民たちの心配と期待を背負い、青辰の青龍将軍・星燐は家族に高らかに宣言し母国を旅立った。
「私は……良き伴侶となり幸せな家庭を築いて参ります!」
幼少期から伴侶となる人に尽くしたいという願望を持っていた星燐の願いは叶うのか。
中華風政略結婚ラブコメ。
※他のサイトにも投稿しています。
手紙
ドラマチカ
BL
忘れらない思い出。高校で知り合って親友になった益子と郡山。一年、二年と共に過ごし、いつの間にか郡山に恋心を抱いていた益子。カッコよく、優しい郡山と一緒にいればいるほど好きになっていく。きっと郡山も同じ気持ちなのだろうと感じながらも、告白をする勇気もなく日々が過ぎていく。
そうこうしているうちに三年になり、高校生活も終わりが見えてきた。ずっと一緒にいたいと思いながら気持ちを伝えることができない益子。そして、誰よりも益子を大切に想っている郡山。二人の想いは思い出とともに記憶の中に残り続けている……。
もう観念しなよ、呆れた顔の彼に諦めの悪い僕は財布の3万円を机の上に置いた
谷地
BL
お昼寝コース(※2時間)8000円。
就寝コースは、8時間/1万5千円・10時間/2万円・12時間/3万円~お選びいただけます。
お好みのキャストを選んで御予約下さい。はじめてに限り2000円値引きキャンペーン実施中!
液晶の中で光るポップなフォントは安っぽくぴかぴかと光っていた。
完結しました *・゚
2025.5.10 少し修正しました。
幸せごはんの作り方
コッシー
BL
他界した姉の娘、雫ちゃんを引き取ることになった天野宗二朗。
しかし三十七年間独り身だった天野は、子供との接し方が分からず、料理も作れず、仕事ばかりの日々で、ずさんな育て方になっていた。
そんな天野を見かねた部下の水島彰がとった行動はーー。
仕事もプライベートも完璧優秀部下×仕事中心寡黙上司が、我が儘を知らない五歳の女の子と一緒に過ごすお話し。
完結|好きから一番遠いはずだった
七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。
しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。
なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。
…はずだった。
貴族軍人と聖夜の再会~ただ君の幸せだけを~
倉くらの
BL
「こんな姿であの人に会えるわけがない…」
大陸を2つに分けた戦争は終結した。
終戦間際に重症を負った軍人のルーカスは心から慕う上官のスノービル少佐と離れ離れになり、帝都の片隅で路上生活を送ることになる。
一方、少佐は屋敷の者の策略によってルーカスが死んだと知らされて…。
互いを思う2人が戦勝パレードが開催された聖夜祭の日に再会を果たす。
純愛のお話です。
主人公は顔の右半分に火傷を負っていて、右手が無いという状態です。
全3話完結。
【完結】言えない言葉
未希かずは(Miki)
BL
双子の弟・水瀬碧依は、明るい兄・翼と比べられ、自信がない引っ込み思案な大学生。
同じゼミの気さくで眩しい如月大和に密かに恋するが、話しかける勇気はない。
ある日、碧依は兄になりすまし、本屋のバイトで大和に近づく大胆な計画を立てる。
兄の笑顔で大和と心を通わせる碧依だが、嘘の自分に葛藤し……。
すれ違いを経て本当の想いを伝える、切なく甘い青春BLストーリー。
第1回青春BLカップ参加作品です。
1章 「出会い」が長くなってしまったので、前後編に分けました。
2章、3章も長くなってしまって、分けました。碧依の恋心を丁寧に書き直しました。(2025/9/2 18:40)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる