血染めうさぎ

水無月

文字の大きさ
8 / 17

8 あわてんぼうなのはサンタクロースじゃなくて、僕

しおりを挟む



 包装紙のにおいがする。

 目を覚ますと宇佐美さんはいなくて、代わりに枕元にどでんと赤い包み紙が。僕の背丈半分くらいの大きさで、ラメが散る緑のリボンで封をされている。

 ――もしかして、サンタさん?

(僕のところにも、サンタさん。来てくれたの⁉)

 信じられなくて震える。

 いますぐこれを宇佐美さんに自慢したかったが、仕事に行っていていない。

 はやる気持ちを押さえて、フンスフンスと鼻息荒くリボンを解く。

 なるべく包装紙を破かないように開ければ、ふわんとしたうさぎさんが出てきた。

「……わあ」

 うっすら空色で、くりくりな真っ赤なお目目。首にリボンが巻かれており、茶色い紳士服を身に着けている。

「わああああ。おっきい。わああああ」

 ばふっと抱きついてみる。ふかふかだ! やわらかい!

 んん~。大きなうさぎさん。

「……」

 うさぎさんに顔を埋めていたら二度寝してしまった。

 今日は漢字の勉強の日なのに!

 うさぎさんを背中に括り付けて廊下をダッシュした。

「おはようございます!」
「おはよう」

 前からやって来た男性職員さんに挨拶すると抱き上げられた。地面が無くなったため、足場ばたばたと宙を蹴る。

「あれ?」
「あー。ぬいぐるみ背負ってたのか。びっくりした……。アル君にうさ耳が生えたのかと思った」

 そっと床に戻してくれる。

「廊下、走っちゃダメだよ。歩いてね。ぶつかったら、怪我するから。歩いて」

 しゃがんで目線を合わせると、落ち着かせるようなゆっくり口調で注意してくれる。

 僕の焦りがすんと抜けた。

「あ……。ごめんなさい」
「うん。でもな? 何も悪いことしてないときは、ごめんなさいって言わなくていいよ。アル君よく謝ってるの見かけるし。悲しい気持ちになるから」
「えっ? じゃあ、どうすれば……」

 すぐうつむく僕の頬を両手で挟むと、顔を上にあげてくれた。

「うえ?」
「ありがとうって言えばいいよ。この台詞言われて、嫌な気持ちになる人は少ないし。世界で一番、人を不快にしない言葉かもしれんな。ありがとうは」

 僕とうさぎさんを撫でると、男性職員さんは行ってしまう。

「あ、あう。あう……」

 ありがとう。

 ごめんなさい、じゃなくていいの? 僕がここにいることに、謝らなくてもいいの?


「ありがとうございます!」


 男性職員さんの背中に向かって叫ぶと、手を振ってくれた。

 ……確かに。言った僕でさえ、嫌な気分にならない。

 胸の前で手を握ると、勉強部屋にてててててっと早足で向かう。


「遅れました!」

 ボスさんの部屋を開けると、ボスさんと職員の女性が話をしていた。僕の声に二人とも振り返る。

「……あ」

 大切な話をしているんだ。邪魔をしては駄目だ。

 僕はそっとドアを閉めようとしたが、ヒールの女性が僕を抱き上げた。本をどかしてソファーに座らせる。もしゅうう。う、埋ま、う。

「では、私はこれで」
「はいはーい」

 ボスさんが手を振ると女性は一礼し、僕ににこっと微笑んで部屋を出て行った。また行儀悪くデスクに座っていたボスさんが僕を引っこ抜いてくれる。

「ごめーん。話し込んでたわ。なんか、可愛いの背負ってるね」
「そうです! 見てください! サンタさん! 僕にもサンタさんが来たんですよ!」

 紐を解いてうさぎさんを突き出す。

 中腰のボスさんは目じりを下げ、うんうんと頷いてくれる。

「良かったじゃないか。アル君が頑張ってたの、サンタさんも見ていたんだね。もちろん私も、宇佐美も見ていたよ」

 宇佐美さんまで? 嬉しかった。僕はいい子なんだって、言ってもらえた気がした。

「ボスさんは、何を貰ったんです?」
「え? いやー私はほら、大人だし。特に何も」
「あう……」

 そんなぁ。ボスさんも頑張ってるのに。どうして……?

 その時、僕の頭上にクリスマス仕様のLEDライトが灯る。

「じゃ、じゃあ! クリスマスプレゼント、半分こしましょう!」
「ん?」
「僕のうさぎさん。抱っこしに来てもいいですよ。僕の部屋で、留守番してくれてますから。うさぎさん。抱っこしに来てください!」

 ぐいぐいとボスさんにうさぎさんを押し当てる。どうです? ふかふかでいい気分になれるでしょう? ボスさんにプレゼントがないなんて駄目です。

 しばしうさぎさんに顔を埋め(られ)ていたボスさんは、中腰を止めて顔を離した。

 髪を耳にかける。

「おや。やさしいじゃないか。嬉しいよ。アル君。ありがとうね」
「はい! ……あ、それと、遅刻してご……」

 ごめんなさいと言いかけ、ふと唇に触れる。

 あれ? でもこの場合に「ありがとう」って言うのは変かな? 「遅刻してありがとうございます」? なんだこの日本語は。

「どした?」
「あ、えっと。あまり、謝るのは良くないと先ほど教わって……。遅刻した場合はどうしたらいいのかと、思っちゃって」
「ああ」

 ウチ世話焼き多いよねーと、ボスさんが笑っている。

「なんで遅れたのかな?」
「うさぎさんに抱きついたら、寝ちゃいました」
「ぶっ。なんだそれ可愛い。遅刻した際は素直に謝って原因を言う。これでいいと思うよ」
「ごめんなさい。寝ました」

 ソファーから下りて、うさぎさんを抱っこしたまま頭を下げる。

「うん。じゃ、勉強始めようか。筆記用具は? 持ってきた?」
「えっ‼ あああああ……」

 青ざめた。

 うさぎさんはしっかり持ってきたのに。手ぶら! ていうか、僕、パジャマのままだし! 着替えてもいない!

「あうううぅぅ」

 恥ずかしくて自分からソファーに埋まっていくと、両足を掴まれ引っこ抜かれた。

「はい。歯を磨くところからしておいで」

 僕は逆さまのまま頷いた。

「はぁい。しゅみません……」





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

青龍将軍の新婚生活

蒼井あざらし
BL
犬猿の仲だった青辰国と涼白国は長年の争いに終止符を打ち、友好を結ぶこととなった。その友好の証として、それぞれの国を代表する二人の将軍――青龍将軍と白虎将軍の婚姻話が持ち上がる。 武勇名高い二人の将軍の婚姻は政略結婚であることが火を見るより明らかで、国民の誰もが「国境沿いで睨み合いをしていた将軍同士の結婚など上手くいくはずがない」と心の中では思っていた。 そんな国民たちの心配と期待を背負い、青辰の青龍将軍・星燐は家族に高らかに宣言し母国を旅立った。 「私は……良き伴侶となり幸せな家庭を築いて参ります!」 幼少期から伴侶となる人に尽くしたいという願望を持っていた星燐の願いは叶うのか。 中華風政略結婚ラブコメ。 ※他のサイトにも投稿しています。

手紙

ドラマチカ
BL
忘れらない思い出。高校で知り合って親友になった益子と郡山。一年、二年と共に過ごし、いつの間にか郡山に恋心を抱いていた益子。カッコよく、優しい郡山と一緒にいればいるほど好きになっていく。きっと郡山も同じ気持ちなのだろうと感じながらも、告白をする勇気もなく日々が過ぎていく。 そうこうしているうちに三年になり、高校生活も終わりが見えてきた。ずっと一緒にいたいと思いながら気持ちを伝えることができない益子。そして、誰よりも益子を大切に想っている郡山。二人の想いは思い出とともに記憶の中に残り続けている……。

もう観念しなよ、呆れた顔の彼に諦めの悪い僕は財布の3万円を机の上に置いた

谷地
BL
お昼寝コース(※2時間)8000円。 就寝コースは、8時間/1万5千円・10時間/2万円・12時間/3万円~お選びいただけます。 お好みのキャストを選んで御予約下さい。はじめてに限り2000円値引きキャンペーン実施中! 液晶の中で光るポップなフォントは安っぽくぴかぴかと光っていた。 完結しました *・゚ 2025.5.10 少し修正しました。

幸せごはんの作り方

コッシー
BL
他界した姉の娘、雫ちゃんを引き取ることになった天野宗二朗。 しかし三十七年間独り身だった天野は、子供との接し方が分からず、料理も作れず、仕事ばかりの日々で、ずさんな育て方になっていた。 そんな天野を見かねた部下の水島彰がとった行動はーー。 仕事もプライベートも完璧優秀部下×仕事中心寡黙上司が、我が儘を知らない五歳の女の子と一緒に過ごすお話し。

休憩時間10分の内緒の恋人チャージ(高校生ver)

子犬一 はぁて
BL
俺様攻め×一途受け。学校の休み時間10分の内緒の恋人チャージ方法は、ちゅーとぎゅーの他にも内緒でしています。

完結|好きから一番遠いはずだった

七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。 しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。 なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。 …はずだった。

貴族軍人と聖夜の再会~ただ君の幸せだけを~

倉くらの
BL
「こんな姿であの人に会えるわけがない…」 大陸を2つに分けた戦争は終結した。 終戦間際に重症を負った軍人のルーカスは心から慕う上官のスノービル少佐と離れ離れになり、帝都の片隅で路上生活を送ることになる。 一方、少佐は屋敷の者の策略によってルーカスが死んだと知らされて…。 互いを思う2人が戦勝パレードが開催された聖夜祭の日に再会を果たす。 純愛のお話です。 主人公は顔の右半分に火傷を負っていて、右手が無いという状態です。 全3話完結。

【完結】言えない言葉

未希かずは(Miki)
BL
 双子の弟・水瀬碧依は、明るい兄・翼と比べられ、自信がない引っ込み思案な大学生。  同じゼミの気さくで眩しい如月大和に密かに恋するが、話しかける勇気はない。  ある日、碧依は兄になりすまし、本屋のバイトで大和に近づく大胆な計画を立てる。  兄の笑顔で大和と心を通わせる碧依だが、嘘の自分に葛藤し……。  すれ違いを経て本当の想いを伝える、切なく甘い青春BLストーリー。 第1回青春BLカップ参加作品です。 1章 「出会い」が長くなってしまったので、前後編に分けました。 2章、3章も長くなってしまって、分けました。碧依の恋心を丁寧に書き直しました。(2025/9/2 18:40)

処理中です...