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8 あわてんぼうなのはサンタクロースじゃなくて、僕
しおりを挟む包装紙のにおいがする。
目を覚ますと宇佐美さんはいなくて、代わりに枕元にどでんと赤い包み紙が。僕の背丈半分くらいの大きさで、ラメが散る緑のリボンで封をされている。
――もしかして、サンタさん?
(僕のところにも、サンタさん。来てくれたの⁉)
信じられなくて震える。
いますぐこれを宇佐美さんに自慢したかったが、仕事に行っていていない。
はやる気持ちを押さえて、フンスフンスと鼻息荒くリボンを解く。
なるべく包装紙を破かないように開ければ、ふわんとしたうさぎさんが出てきた。
「……わあ」
うっすら空色で、くりくりな真っ赤なお目目。首にリボンが巻かれており、茶色い紳士服を身に着けている。
「わああああ。おっきい。わああああ」
ばふっと抱きついてみる。ふかふかだ! やわらかい!
んん~。大きなうさぎさん。
「……」
うさぎさんに顔を埋めていたら二度寝してしまった。
今日は漢字の勉強の日なのに!
うさぎさんを背中に括り付けて廊下をダッシュした。
「おはようございます!」
「おはよう」
前からやって来た男性職員さんに挨拶すると抱き上げられた。地面が無くなったため、足場ばたばたと宙を蹴る。
「あれ?」
「あー。ぬいぐるみ背負ってたのか。びっくりした……。アル君にうさ耳が生えたのかと思った」
そっと床に戻してくれる。
「廊下、走っちゃダメだよ。歩いてね。ぶつかったら、怪我するから。歩いて」
しゃがんで目線を合わせると、落ち着かせるようなゆっくり口調で注意してくれる。
僕の焦りがすんと抜けた。
「あ……。ごめんなさい」
「うん。でもな? 何も悪いことしてないときは、ごめんなさいって言わなくていいよ。アル君よく謝ってるの見かけるし。悲しい気持ちになるから」
「えっ? じゃあ、どうすれば……」
すぐうつむく僕の頬を両手で挟むと、顔を上にあげてくれた。
「うえ?」
「ありがとうって言えばいいよ。この台詞言われて、嫌な気持ちになる人は少ないし。世界で一番、人を不快にしない言葉かもしれんな。ありがとうは」
僕とうさぎさんを撫でると、男性職員さんは行ってしまう。
「あ、あう。あう……」
ありがとう。
ごめんなさい、じゃなくていいの? 僕がここにいることに、謝らなくてもいいの?
「ありがとうございます!」
男性職員さんの背中に向かって叫ぶと、手を振ってくれた。
……確かに。言った僕でさえ、嫌な気分にならない。
胸の前で手を握ると、勉強部屋にてててててっと早足で向かう。
「遅れました!」
ボスさんの部屋を開けると、ボスさんと職員の女性が話をしていた。僕の声に二人とも振り返る。
「……あ」
大切な話をしているんだ。邪魔をしては駄目だ。
僕はそっとドアを閉めようとしたが、ヒールの女性が僕を抱き上げた。本をどかしてソファーに座らせる。もしゅうう。う、埋ま、う。
「では、私はこれで」
「はいはーい」
ボスさんが手を振ると女性は一礼し、僕ににこっと微笑んで部屋を出て行った。また行儀悪くデスクに座っていたボスさんが僕を引っこ抜いてくれる。
「ごめーん。話し込んでたわ。なんか、可愛いの背負ってるね」
「そうです! 見てください! サンタさん! 僕にもサンタさんが来たんですよ!」
紐を解いてうさぎさんを突き出す。
中腰のボスさんは目じりを下げ、うんうんと頷いてくれる。
「良かったじゃないか。アル君が頑張ってたの、サンタさんも見ていたんだね。もちろん私も、宇佐美も見ていたよ」
宇佐美さんまで? 嬉しかった。僕はいい子なんだって、言ってもらえた気がした。
「ボスさんは、何を貰ったんです?」
「え? いやー私はほら、大人だし。特に何も」
「あう……」
そんなぁ。ボスさんも頑張ってるのに。どうして……?
その時、僕の頭上にクリスマス仕様のLEDライトが灯る。
「じゃ、じゃあ! クリスマスプレゼント、半分こしましょう!」
「ん?」
「僕のうさぎさん。抱っこしに来てもいいですよ。僕の部屋で、留守番してくれてますから。うさぎさん。抱っこしに来てください!」
ぐいぐいとボスさんにうさぎさんを押し当てる。どうです? ふかふかでいい気分になれるでしょう? ボスさんにプレゼントがないなんて駄目です。
しばしうさぎさんに顔を埋め(られ)ていたボスさんは、中腰を止めて顔を離した。
髪を耳にかける。
「おや。やさしいじゃないか。嬉しいよ。アル君。ありがとうね」
「はい! ……あ、それと、遅刻してご……」
ごめんなさいと言いかけ、ふと唇に触れる。
あれ? でもこの場合に「ありがとう」って言うのは変かな? 「遅刻してありがとうございます」? なんだこの日本語は。
「どした?」
「あ、えっと。あまり、謝るのは良くないと先ほど教わって……。遅刻した場合はどうしたらいいのかと、思っちゃって」
「ああ」
ウチ世話焼き多いよねーと、ボスさんが笑っている。
「なんで遅れたのかな?」
「うさぎさんに抱きついたら、寝ちゃいました」
「ぶっ。なんだそれ可愛い。遅刻した際は素直に謝って原因を言う。これでいいと思うよ」
「ごめんなさい。寝ました」
ソファーから下りて、うさぎさんを抱っこしたまま頭を下げる。
「うん。じゃ、勉強始めようか。筆記用具は? 持ってきた?」
「えっ‼ あああああ……」
青ざめた。
うさぎさんはしっかり持ってきたのに。手ぶら! ていうか、僕、パジャマのままだし! 着替えてもいない!
「あうううぅぅ」
恥ずかしくて自分からソファーに埋まっていくと、両足を掴まれ引っこ抜かれた。
「はい。歯を磨くところからしておいで」
僕は逆さまのまま頷いた。
「はぁい。しゅみません……」
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