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9 苺のケーキ
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宇佐美さんに貰ったうささん貯金箱が満タンになった。
「やった」
これがいっぱいになれば宇佐美さんへ贈るケーキ材料を買うことが出来る。自分で必要経費を計算したらとんでもない額になったので、ボスさんに横で教えてもらいながらやってみた。
クリスマスから数ヶ月。僕は十三歳になりました。体重は十三歳の平均をちょっとオーバーする。太ったかなぁ。でも食べないとクッションさんに負けそうで、あと食堂のご飯が美味しい……。
貯金箱を抱えながら一階のエントランスへ。
「お買い物行きたいです。外出許可ください!」
受付に行って敬礼する。受付のおねえさんはにこにこ笑顔で長方形の小さい紙を出す。
「はい。アルさん。ここにコードネームと行く場所。帰る予定時刻を書き込んでください。……あと、貯金箱そのまま持って行くのは、エラーの敷地内とはいえ危険なので、こっちに中身を入れ替えませんか?」
おねえさんが手作りといった風の財布を差し出してくる。カッコイイ赤色で、中央にはうさぎさんの顔が、フェルトで縫い付けられていた。……? なんで僕がうさぎさんを好きなの、みんな知ってるんですかね。サンタさんは不思議パワーがあるので当然として。
「おおー。……借りても良いんですか?」
「うーん。私こういうの作るの趣味だから。もらってくれない?」
おねえさんは小銭だらけの貯金箱の中身を手作り財布に移してくれた。パンパンになって底抜けそう。
「いいんですか?」
「うん。うさぎさん貯金箱は、割れたら危険だし。ここに置いとこうね」
軽くなったうさぎさん貯金箱を受付のカウンターに置いてくれた。そこなら帰ってきたら真っ先に会える。
「ありがとうございます。おねえさん」
「気を付けてね」
「はい」
走らずに早足でエントランスを抜ける。
「アルさんいつも、おねえさんって呼んでくれるの。かわいいわ~」
「ねー。可愛いよねぇ~。将来、輪切りさんみたいにならないと良いけど。あのまま育ってほしいわ」
「輪切りさんも修復可能年齢じゃない? まだギリ未成年、だっけ?」
「んーん。ウチの最強と同い年だから、もう成人よ。十八だし」
受付のおねえさんたちの会話。背後で自動ドアが閉まる寸前。僕の耳は宇佐美さんの年齢だけばっちり拾っていた。
たった五つしか違わないの⁉ とかなり驚く。
(大人っぽいなぁ。宇佐美さん。それに比べて僕は……。あんな風に、なれ)
そこで頭を振った。これから宇佐美さんのケーキ材料を買いに行くのに、こんな暗い気持ちじゃ失礼だ。
――真っ赤な苺さんを選ぶぞ!
拳を天に突き上げた。
どういうわけか食堂を、女性職員さんたちが大勢覗いている。
「レシピ。貸してくれて、ありがとうございます。おねえさん」
「がっはっは! おばちゃんでいいよ。流石におねえさんって歳じゃないね」
食堂の支配者が豪快に笑う。
僕は真顔で首を横に振る。
「駄目です。女性はいくつになってもおねえさんだって、ボスさんが言ってました」
「……あんたはあんなチャラ男になっちゃダメだからね?」
チャラオ?
買い物を終えた僕は食堂に直行した。前もって知らせてあったので、快く場所を提供してくれる。しぼんだ財布の代わりにぱんぱんに膨らんだビニール袋。すれ違う職員さんたちが百回ほど「持とうか?」と言ってくれたが断った。自分でやってみたいんです。
三角巾とエプロンを装着して準備完了!
「あら。似合うじゃない。可愛いよ」
「え?」
そ、そんなことを言ってくれるなんて。照れるかな……
「……」
「あらあら! 真っ赤になっちゃって。あんたかなり可愛くなったよ。最初見た頃、痩せすぎで驚いたもんさ! こりゃ飯、いっぱい食わせてやろうって思ったね」
うう。心配かけちゃってる。でも、ご飯がいつもギッチギチに詰められていた理由が判明してホッとしてます。いつまでも減らない魔法の白米だと思ってました。
「宇佐美さんの役に立ちたくて」
材料を計量していく。
「そう。その宇佐美んも来た当初はガリガリだったんよ。あんたみたいに」
「うえ?」
白い粉を机にこぼしてしまい、真っ白だ。食堂のおねえさんたちと一緒に掃除する。ごめんなさ……ありがとうございます。
「宇佐美さん、初めからエラーの職員じゃ、なかったんです?」
「違うさ。日本のエラー設立は三十年も前だよ? 保護された、よくいるただの子どもだったのよ。ま、飯食わしたら、バグスより強くなったけどね。戦闘員に立候補してたよ。まだ子どもだってのに」
卵を割ろうとしたらゴシャァと音がして砕けた。手がべとべと。
「宇佐美さんも、なにか、あったんですか? バグスに襲われた、とか……」
「さぁねぇ。あたしらはあんまり職員の事情に深入りしないようにしてっから。分け隔てなく、飯を食わせる。これが仕事だかんね」
粉をふるいにかけると周囲が白い霧に包まれる。
「ここにいる皆さんは、辛い思いをした人ばかり……なんですね」
「やめなよ。子どものアンタがそんな顔するの。ウチの職員共がなんで笑ってると思うの? アルに笑ってほしいからだよ?」
「え?」
生地をホイッパー(泡立て器)でかき混ぜると中身が飛び散っていく。
「僕に? な、なんで?」
「別にアンタだけじゃないさ。ウチの職員共は、仲間の笑顔が見たいだけ。辛い思いをした人もしてない人も、共に戦う仲間だから。だって悔しいだろ? よくわからん化け物に、歯を食いしばって泣きながら戦うの。アタシらは負けてない。どれだけ踏み荒らされても笑顔で乗り越えてやるって意思表示さ。非戦闘員は非戦闘員なりに、戦ってんだよ」
「……」
僕には、難しい話だった。
生地を焼いている間に、おねえさんが握ってくれたおむすびを食べる。「アンタらいつまで覗いてんだい。仕事しな!」と、おねえさんが覗いている人たちをオタマで追い払っていた。
「だって甘酸っぱい気配が」「青春のにおいがする!」「十三歳の恋を応援させて」「アルのほっぺむにむにしたいのにぃぃ」と声が遠ざかっていく。あれ? 今ボスさんいませんでした?
おむすびは中身が昆布で、とっても美味しい。
食後は単語帳を見ながら時間を潰す。
焼けた生地を逆さまにして熱を取っている間に、生クリームの準備。
「エラーにも、バグスが襲ってきたりするんでしょうか? この建物も、壊れちゃうんでしょうか」
「それはないない。シェルが常駐してるからね。シェルのバリアってかったいらしいよ? 今度触らせてもらいな」
氷水に付けて生クリームを必死にかき混ぜる。
「ここかなり広いですけど。バリアって、足りるんですか? シェルさん一人しかいないのに」
エラーの全体図を見せてもらったことがある。学校より広くてたくさんの高ぁい建物が入ってあった。散歩で迷子になったこともしばしば。お恥ずかしながら。
「心配いらんよ。シェルのバリアはここを包み込めるほどだからね。あの子は戦地を回って救護活動したがってたけど、大規模討伐以外ではこっから出られなくなっちまってよ。エラーを失うことを恐れたお偉いさん方が縛りつけちまって」
「え? 監禁ですか?」
生クリームは角が立つようになったが、僕の腕が動かなくなった。
「か、監禁って……。難しい言葉知ってるね。外出許可が下りなかっただけだよ。当時はまだボスがいなかったからね。戦闘員の人権とかめちゃくちゃだったんさ」
「ボスさんは、いつボスさんになったんです? 最近、ですか?」
生地を三等分にして、中に苺を挟む。均等に三分割する……予定だったんです。
「ああ。本当に最近さ。エラーがこんな綺麗な建物になったのも。給料が出るようになったのも。住みやすくなったのも。鉄砲玉のように能力持ちが消費されることがなくなったのも。ボスのおーかーげ」
生クリームを塗り、薄く切った苺を並べていく。
「だから皆、ボスについていくし、失いたくないのさ。元はどっかの権力者だったぽいけどね。エラーの惨状を見てられなかったらしい」
ボスさんも戦ったんですね。
回転台に乗せ、なっぺ(ケーキの周りにクリームを塗ること)をしていく。あうあうあうあう。目が回うぅ……
「宇佐美さんがボスについていくぜって言ってました。かっこよかったです」
「あら。宇佐美んがそんなことを? ……ん? 今アタシ、惚気られた? まぁね。前任のトップは酷い奴だったから。宇佐美んはよくぶつかってたよ」
「宇佐美さんが? ……前任の人、吹っ飛ばされたんですね」
「あーいや。ぶつかるって物理的にぶつかるって意味じゃなくてね? よく言い合いを、ね。アタシ個人的には物理的にぶつかってほしかったけどね」
おねえさんから静かな怒りを感じる。
「おねえさんは、皆さんを見守ってきたんですね」
ほぼ僕が散らかしたものの掃除をやってくれているおねえさんの手が止まった。
「そんな大層なもんじゃないよ。アンタあれだね、人の良い所見つけるの上手いね。感心感心」
「だって良い所しかないじゃないですか」
殴らない。差別しない。暴言を吐いてこない。人として、扱ってくれて……
僕の発言に、おねえさんは痛みを堪えるような顔をした。
生クリームを絞り苺を飾り付けていく。転げ落ちかけた苺を、おねえさんが神速キャッチしてくれた。水洗いして手渡してくれる。
それを一番上に置いて完成。
「出来ました! 苺のケーキです!」
「わー。よく頑張った。頑張ったよ」
おねえさんが熱烈ハグしてくれました。ううううふかふかのお、おぱ、おっぱい。
「ぷしゅう」
「あれ? 疲れちまったかい? 余った苺でも食べな」
苺を詰め込まれていると、背後から歓声が上がった。
「ケーキ出来たの⁉」「いついつ? いつ最強に渡しに行くの?」「こ、告白とか……するんですか?」「見に行っていい⁉」と、青春に飢えてそうな方々が盛り上がっている。僕のために、拍手してくれていた。
「まだいたのかい。仕事に戻りな! アンタたち」
そして追い払われていた。
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