血染めうさぎ

水無月

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13 恋を自覚したらあとは

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                 🐰 🐇 🐰







「僕、宇佐美さんについていきたいです」
「それって、バグス退治に同行したいってこと?」
「はい」

 僕の、宇佐美さんへお気持ちは憧れでも尊敬でもなく(それらも含まれるけど)恋だった。

 恋心を自覚してからというもの、彼の帰りをただ待つのが苦痛に感じる。留守番も立派な役目だと分かっているのに。恋とは思ったより厄介なものだ。自分で制御ができない。

 まさか人を好きになれる人生を送れるとは。僕は、幸せ者です。

 僕の目を見て、ボスさんは頬杖をついた。

「恋が人を強くするってやつか」
「え?」

 ボスさんは頭を振る。

「いや。そうだね……。薄々感じてはいるだろうけど、エラーは人手と人材不足だ。でーもー。血染めが派遣されるのは一際危険なバグスのところ。正直、気軽についていっていいよとは、言えないな」
「戦闘中は、じっとしてます!」
「どうだろうね。アルは宇佐美が危なくなったら、すぐすっ飛んで行きそうだ」
「……」

 なにも言い返せない。

 じっとボスさんを見続ける。

「アルさ。変わったね」

 ボスさんは背もたれに身を預けた。

「変わ……。僕は僕ですよ? 偽物じゃないです! そうだ! その証拠に。宇佐美さんのいいところ百個言いますから!」
「あーいい、いい。宇佐美に恋してるのは君だけだから大丈夫。そうじゃなくて。うつむかなくなったよね。何かあると謝って、目を逸らして、うじうじしていた君はどこ行ったのかな?」
「どこって……。うつむいていたら、大好きな宇佐美さんや、皆さんの顔が見えないなって気づいたんです」
(そうやって大好きって口滑らすから、皆に宇佐美が好きだって知られるんだよ)

 笑顔で続きを促す。

「それに……。エラーの人たち、綺麗な人が多いですから。その……目で追ってしまって」
「良いことだ。うつむいているより、サーチライトのように視線そらさず見続ける奴の方が舐められにくい。宇佐美についてくなら、背筋伸ばしといてくれ。じゃないと血染めが舐められる」

 カッとなって反射的に言い返した。

「誰ですか! そんな羨ましいことをしているのは。僕が舐めます!」
「ちげーよ。君どんだけ……。まあいいわ。人材育成もやらないといけないし。いつも宇佐美につけてるサポートの人から離れないで、彼の指示を守るなら、考えてもいいよ」
「早く考えてください」
「……」

 ボスさんは呆れたような笑みだ。

「怪我するし、危ない目にも会うよ?」
「はい」
「それでも行く? 死ぬよ?」
「行きます」
「迷いないなぁ……。でもやる気ある子って貴重だから。許可しようか。道雄(みちお)呼んできて」

 傍で控えていた秘書の女性が一礼して部屋を出て行く。

 背後でドアが閉まる音を聞きながら、口を開いた。

「道雄さんって、いつも宇佐美さんとへとへとになって帰ってくる人? ですか?」
「そうよー。宇佐美のサポーター。戦闘訓練は受けてるけど戦闘員よりかは弱いから、アルを守るので精一杯だと思う。絶対彼から離れんなよ」
「はい」

 踵をそろえて敬礼する。


 ボスさんが頷くと、秘書さんが戻ってきた。仕事が早すぎる。


「道雄様です」
「ボス。お呼びですか? もしかして休暇をもらえるとか?」

 希望を言いながら入ってきた男性は真面目そうで、表情はかなり不愛想だった。でもすれ違う時、いつも目を合わせて礼をしてくれる。

 ボスはにっこりと、だが容赦なく告げた。

「人材育成の話なんだけど。道雄。後輩欲しくない?」
「休暇の話じゃなさそうなので失礼します」

 回れ右した彼の前に、秘書さんが立ちふさがる。大の字で通せんぼされ、道雄さんはため息をついた。ボスに向き直る。

「たまにはいい話を持ってきてくださいよ。宇佐美さんにがっかりされるのは俺なんですよ?」
「うるせーな。そこにアルがいるだろ? サポーター希望だ。仕事を叩き込んでやってくれ」

 道雄さんは僕の肩に手を置く。

「本当か? 本当に自分から立候補したのか? ボスにやれと言われて仕方なく立候補したのか? 正直に言え」

 ボスさんが笑顔で高速貧乏ゆすりをしている。

 僕は彼の顔を真っすぐに見た。

「お願いします! 道雄さん。僕は自分から言いました。ボスさんはむしろ否定気味でした。それなのに僕が無理を言って、道雄さんを呼んでもらったんです。お願いします。宇佐美さんに、ついていけるようにしてください」

 九十度に腰を折る。

「……やる気があるなら結構だ」

 人手不足というのは深刻らしく、僕の決意にこれ以上何も言ってこなかった。

「俺の言ったこと、すべて頭に叩きこめ。いいな?」
「はい!」

 道雄さんが手を差し出してくる。「これからよろしく」の握手だ。だが人生経験が乏しい僕は何も考えずハグした。にっこにこで。

 違うんです。エラーの人たち=くっついても怒らないという図式が出来上がっていて。

 辛い過去を埋めるように抱きつきまくる。

「俺は握手しようとしたんだ。相手の動きをよく観察してから行動しろ」

 そう言いながらも、頭をポンポンしてくれた。



 ……道雄さんの指導めちゃくちゃ、厳しかったですけどね。








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