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14 宇佐美さんのトラウマ
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日本のために戦う宇佐美さんを僕が支える。完璧な構図ですね。
仕事にも慣れてきてランク一の時に限り、僕と宇佐美さんだけでの出動の許可も下りました。宇佐美さんは「道雄さんに休みやれるぜ」って喜んでましたけど、僕的には一番休んでほしいのは宇佐美さんなんですぅー。なんかこの辺だけうまくいきませんね。強いから、頼りにされてるってことなんでしょうけど。
「気になったんですけどランク一とか、どうやって見分けるんです?」
「相手の強さを見抜く能力持ちがいるんだよ。今回も動くなよ。俺が合図したらこっちにこい」
二人でカロリーメイートと齧りながら作戦会議。といっても宇佐美さんの指示に従うだけですけど。それ以外の行動は認められていないので。
迷彩服の人が駆け寄ってきた。
「血染めさん。広場へのおびき寄せに成功です」
「はい。じゃ、行ってくるな」
「お気をつけて」
今回のバグスはすばしっこく再生もするため、自衛隊の人たちも協力してくれている。ボスさんがトップになる前はこういった援護もなかったというので、楽になったと宇佐美さんたち戦闘員はよく話している。
腕輪をガントレットに変えると突っ込んでいく。
「アルさん。もう少し下がりましょう」
僕は囚われの宇宙人のごとく両腕を掴まれて引きずられてった。確かに自衛隊の人たちより走るの遅いですけどぉ。もうちょっとあるでしょおお。
『キシャアアアアーーー!』
バグスの叫びが鼓膜を震わせる。
逃げ回るバグスはヘドロのような外見。左右別の方向を見ている眼球に人間そっくりな歯茎。毒色の身体に、町中のゴミを鎧のように纏い巨大化している。成人男性の倍以上はある。スライムのような見た目なのにかなりすばしっこい。カンガルーのように跳ねて移動する。
『シャアアーーーーアアアア―――』
「耳が潰れる。ゴミ収集車に転生しろ」
先回りした宇佐美さんが殴り飛ばす。ゴミを零しながら飛んだヘドロは、マンションの壁に叩きつけられ、トマトのように飛び散った。
「くせぇ」
どろどろと壁から落ちて水溜まりとなっていくスライム。見守っていた自衛隊の人たちがぐっと拳を握りしめた。だが警戒は解かない。ヘドロバグスにいくら銃弾を浴びせても効果がなかったのだ。パンチ一発で死ぬとは思っていないのだろう。現に宇佐美さんも油断なくヘドロを険しい目で見つめている。
バグスは銃火器でも倒すことはできる。しかし能力者の「能力」で戦った方が、ゲームで例えるなら体力ゲージが一気に削れるのだ。人間に能力持ちが現れ始めたのはバグスが出現する五十年も昔。まるで神が、バグスと戦えと言わんばかりに人類に与えたかのような……。それなら平等に、人類全員に配ってほしかったです。
もちろん神云々は仮説で、原因は未だ不明。
「やっぱ生きてやがる」
自衛隊の誰かが奥歯を噛みしめる。
飛び散った身体を一つに集めると、また眼球が動き出した。宇佐美さんを恐れたようにマンションの壁を登り出す。
民間人は避難させているが、建物の中に身を潜められると面倒だ。風呂場や台所から水道管の中へ逃げ込むかもしれない。
「冷華を連れてくりゃよかったか」
宇佐美さんはぼやくも、ヘドロバグスに当たるギリギリで拳を「空振り」させた。
『シャ?』
拳のとんでもない風圧で壁から引き剥がされる。
ヘドロは宙を舞うと――いきなり質感の違う球体に身体を変化させた。
この場にいた全員に緊張が走る。
「まずい!」
バグスがランク二に成長してしまう兆しだ。
「血染め! 早くトドメを」
「分かってるよ」
ランク二は、エラーの戦闘員をかき集めなくてはならない。……宇佐美さんがいない場合は、だが。
「孵化はさせねぇよ」
バグス卵に拳を叩き込もうとする。これで終わりだ。
――雨が降る。
ビクッと、宇佐美さんの拳が止まった。
僕と自衛隊の人たちは天を仰ぐ。
「……雨? じゃない!」
顔に付着した雫を拭った指先を見ると、紫色だった。――あのヘドロバグスと、同じ、色。
「あふ……」
「か、ああ」
「皆さん⁉」
武装した人々が泡を吹いて倒れていく。一人を抱え起こすが、完全に白目を剥いている。僕は咄嗟にフードを被った。
「な、なにが――? 宇佐美さん!」
あちこちのマンホールを吹き飛ばし、ヘドロが勢いよく地上に出てくる。
『アル! その場から離れろ』
腕に付けた無線からボスさんの声が響く。いきなりだったので心臓が大きく跳ねた。僕は焦って応答ボタンを押す。
「なん、なにが。どうなってます⁉」
『いいから逃げろ! 今まで戦っていたのはヘドロの「切れ端」だ! 本体は雲の中と下水に潜んでたんだ!』
洪水のようにヘドロの本体が卵を守るように押し寄せる。その近くに居た宇佐美さんは……怪我でもしたのか蹲って動かない。
「宇佐美さん!」
『アル!』
宇佐美さんは雨がダメなのに!
勉強の休み時間にボスさんが話してくれた、宇佐美さんの過去。僕が「一色って知ってます?」と訊いた時だ。一色は、一色さんは宇佐美さんのお兄さん。宇佐美さんの目の前でバグスに食べられ、宇佐美さんはその血と臓物を頭から被ったのだとか。宇佐美さんが僕ぐらいの年齢の時の話。
最強の、トラウマスイッチでもある。
紫の雨が地表を激しく叩く。
「宇佐美さん!」
ボスさんの声も道雄さんの教えも、すべて頭から飛んでいた。倒れている人たちをほったらかし、宇佐美さんに駆け寄る。
「宇佐美さ……」
震えていた。綺麗な雪の髪が地面で汚れるのも構わずに。蹲って。小さな子どものように。
(……子どもですよ。まだ十代なんですから)
雨となって降ったヘドロと地下にいたヘドロが一つに混ざり合う。大津波のような巨体に変化し、僕たちのすぐそばでそびえたっていたが、気にしなかった。
宇佐美さんを抱き締める。
「宇佐美さん……。大丈夫です。ゆっくりでいいですから。ゆっくり呼吸しましょう」
ゆっくりしてていいはずがない。ヘドロが圧し掛かってこようとする。僕の腕力では彼を抱えて走ることもできない。
宇佐美さんが僕の制服を握りしめる。ガントレットは障子紙のように制服に穴を開けた。腕から血が流れる。
「い……一色……」
「雨です。一色さんじゃありません。宇佐美さん。僕を見てください」
彼の顔を挟んで持ち上げる。泣いていた。赤い瞳は、過去の惨劇を映しているようだった。
僕は自暴自棄になんてなっていない。命を諦めたわけでもない。
このヘドロを倒すのに宇佐美さんが必要だ。
生きて帰るために。この場にいる人たちを家に帰すために、僕は引き攣る顔で無理矢理笑みを作る。
宇佐美さんがようやく僕を見てくれた。
「……おまえ……」
「帰りましょう。宇佐美さん。僕は何もできませんけど。死ぬまで、死んでも、貴方に寄り添います」
今だから言いますけど、この時、無線のスイッチ入れっぱなしだったんですよ。ボスさんと道雄さんに説教されまくるし、あの場で告白するとはと、末長く揶揄われるんですけどね。
「アル……」
宇佐美さんが名前を読んでくれた。それだけで天にも昇るほど嬉しくて。心を埋め尽くしていた恐怖がどこかへ飛んでいく。我ながら単純だ。
ヘドロの洪水が僕たちを飲み込む。
でもすでに僕たちはマンションの屋上まで飛んでいた。
宇佐美さんが僕を抱えて跳躍したのだ。
引き攣った笑みで、半眼になる宇佐美さん。
「あとで説教コースだな……。俺たち」
「はいっ!」
落ちないように、彼の邪魔にならないようにしっかりと抱きつく。幸せだった。
『シャアアアアアーーーーーッ‼』
「お前のせいで嫌なこと思い出すし、アルに危ないことさせるし……散々だ。シェルに顔面蹴られるの俺だぞ」
飲み込もうと大口を開けるヘドロ目掛け、拳を突き出した。ただの人間のパンチ。
鼓膜を破るような破裂音が空気を引き裂き、ヘドロを卵ごと木っ端微塵に散らした。
爆音の耳鳴りが脳を揺らす。
パンチの衝撃で僕は意識を失ったが、バグスは完全に沈黙した。
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