龍と旅する。

水無月

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冬島 フェーレッテ

ロッドの宝箱

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 海底には千トンを超える金塊が沈んでいると言われている。


 海上事故や嵐による転覆。なんなら海に沈んだ都もあるのだ。


 その全てがロッドの財産ではないが、今回レリスを競り落とした金はロッドの財布から出したもの。誰にも文句を言われる筋合いはない。……屋根を壊しちゃったがあの宝箱の価値は、十億以上は余裕であるのでそれで直してほしい。


 巨体を引きずり、海へと進む。

『お馬鹿。のろま。ドジ』

 角に掴まる元気もないレリスは、ロッドの口の中で外の景色を眺める。

『愚か者。あほ。マヌケ』
「……ごめん。ありがとう。助けてくれて。ちょっと惚れそうだった」
『頭打ったか?』

 罵倒を並べるが、レリスが「ありがとう」しか言わなくて不安になってきた。

『何がどうなって競売にかけられていたんだたわけ! 言ってみよ』
「い、犬ソリに轢かれた……」

 ロッドの口から二人分の声音がする。

 ロッドの頭上にハテナが浮かぶ。陸地の風景に疎い海龍では犬ソリを想像できなかった。

『わんこに負けたのか……?』
「……負けた」

 ロッドは呆れて声も出ない。

 雨音だけが響く。

 海龍が得意とする神秘「雨降らし」。文字通り、雨雲が渦巻き雨が降る。一応、身体が濡れているので呼吸は出来るが、ロッドの吐き出す息に疲労が混じり始めた。早く、海に入らなければ不味い。人間で例えるなら、酸素が薄い高地にいるようなもの。それに加えて、この巨体は陸地で動かすには大きく重すぎる。

 ゴリゴリと体力を削られていく。

 レリスが牙を拳でノックした。

「大丈夫か? 何かできることあるか?」
『余計なお世話じゃ犬以下が。黙って休んでおれクソ雑魚アメンボ』

 酷い言われようだが、レリスはロッドが心配でそれどころではない。身を乗り出そうとするが、それを感じ取ったロッドが呼吸隙間だけ残して口を閉じる。

「俺は、お前に何かあるのが一番嫌なんだ」
『その台詞そのまま返してやろう。……アッ! 何でもない何も言ってない‼ 我は、何も、言ってないっ!』
「う、うん」

 必死なので聞かなかったことにしてあげた。

「……」

 レリスの脳裏には、鬼の少女の面影が浮かぶ。食われかけたとはいえ、怖くて泣いていたのだ。少し、心に引っかかった。

 陸地が途切れ、雪鳥の鳴き声が近づいてくる。海に近づいたことで胸を撫で下ろし、龍は崖から飛び降りた。













「おかえりなさいませ。海龍の旦那。……レリス様」

 寒すぎる海域から離れ、雪が止んだ辺りでケルツァが近寄ってきた。

『うむ』

 レリスはロッドの頭によじ登った。倉庫鞄からバスタオルを引っ張り出す。

「お久しぶりです。ケルツァ様」
「……はい」

 ロッドにあれほど振りまいていた愛想はなく、魚人は会話するのも煩わしそうだった。これはレリスが人間なので仕方がない。

 タオルを被って顔を隠すと、ほうっと肩の力を抜いた。

 悲惨なレリスの服を見て、ケルツァは鋭い爪で自身の顎を撫でる。

「レリス様。予備の服をお持ちでないんで?」
「え? ……はい。クォーツで買うのを忘れていました」

 タオルで頭部と胸を隠しているが、タオル一枚。それを失くせば瞳も耳も、神気結晶も丸見えの状態となる。

 ケルツァは眉間を指で揉んだ。

「……あちしの商品に服がありますが、見てみますか?」
「ありがとうございます。見せてください」
『ったく。すまぬな。ケルツァ』
「滅相もございません。では、少々お待ちを」

 ケルツァは直径三センチほどのフグを手のひらに四匹乗せる。一匹ずつ空気を入れて五十センチほどに膨らませた。

 プカプカ浮かぶようになった四匹に、ロッドが上陸している間に取りに戻ったリュックを乗せると、スーツケースのようにがばっと開けた。

「臨時ケルツァ店開店です。さあ、見てってください?」

 気になるのか、ロッドも顔を近づける。

 三メートルが背負う鞄なのでかなり大きく、色んなものが入っている。

 細々した日用品から薬、非常食、身体を清潔に保つ石鹸などもあった。

『……』

 ロッドは一瞬で興味が失せたようだ。プカプカフグをつんつんして遊び出す。

「服……」

 レリスが手に取った服を広げてみる。

 なんだか妙に色鮮やかで、ひらひらがたくさんついた着物のようなドレス? だった。

「あ、あの。これって……」
「お気づきですかい? そう! 竜宮城の乙姫様が着ているドレスと同じ型、でしてね。流行っているのですよ。人間(レリス)にも、似合うと思いますが?」

 自信満々におススメするが、レリスは青い顔で着物を丁寧に畳むと、そっと元の位置に戻した。

「色が駄目でしたか?」
「いえ、あの。女物はちょっと……」

 ケルツァは自身の額をぺちっと叩いた。

「おっといけねぇ。あちしとしたことが。人間の性格をド忘れしてましたよ」

 人間の、異性の服はなるべく着たくないという心境が、魚人には理解不能だった。顔と結晶さえ隠せればいいや、と軽く考えてしまった。

「ではこちらはどうでしょう」

『ああもう! いつまでどうでもいいことに時間をかけているのだ!』

 せっかち龍がキレた。

「ロッド。もうちょっと待っ」
『もうそれで良いわ! 寄こせ』

 ケルツァの手から奪い取ると、桜鱗(おうりん)貝を数枚、ケルツァの頭に乗せる。

『世話になったなぁあ! では行ってくる!』
「ロッドってば! ……ケルツァ様! 今度ちゃんとお礼するからぁー!」

 大声を出すレリスを乗せたまま、海龍が泳ぎ去って行く。この島は色々危険なのでさっさと離れたかったのだろう。追いつけない超スピードだった。


「……ま、まいどー……」


 ひらひらと手を振り、頭上の貝を手に取って数える。桜鱗貝は陸地で例えるならば、水中専用のお金ということになる。ロッドから渡された金額は少々多めだった。

 ケルツァはがっくしと肩を落とす。

「まーた貰いすぎちまったよ」

 励ますように、フグがぽよぽよと体当たりしてきた。


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