全種族の男の子、コンプリートを目指す魔女っ娘♂のお話

水無月

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双子

15 海上の戦い

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 エイオットは我慢できないと自分もベッドにダイブする
 ボッフンとベッドが凹み、双子は反動で左右別方向に吹っ飛ぶ。

「「ああ~」」
「わ、ごめん」

 すぐさま立ち上がると駆け出し、ファイアを両手で受け止めて一安心。アクアはソファーのクッションの山にずぼっと埋まった。

「なにすんだよ! てめー」
「ごめんごめん。怪我はない?」

 ファイアを抱いたまま、ソファーに勢いよく座る。その反動でまたアクアが飛んだ。

「わざとやってんのか」
「ごへーん」

 膝の上に乗り、狐の頬を両手で掴んでぎゅいぎゅいと伸ばす。

「ねえねえ。二人のことは名前で呼んでいい? アクアとファイアだよね」
「はあー? 何言ってんだ」
「……うん」
「おい。ファイア」
「だって……アクアしか、名前、呼んでくれる人、いなかったもん」

 アクアがむくれる。

「俺だけじゃふまんだってのかよ」
「アクア……だいすき……」
「…………」

 照れたような納得いかないような顔で黙り込んでしまう。

「アクアは名前呼ばれるの嫌いなの?」
「お前は! きやすく呼ぶなーっ」

 むきゃーっとエイオット(の膝の上)で地団太を踏むが、小麦頭はにこにこして尻尾を揺らしている。

「名前って呼ぶためにあるのに。おれはごしゅじんさまに名前呼ばれたら、嬉しいよ。お父さんは……あまり呼んでくれなかったからさ」
「……父親が、いるのか?」
「あの金髪の、白い服の、人?」

 一瞬「?」となったが、ピンときた。恐らく大人ごしゅじんさまのことを言っているのだろう。
 エイオットは首を横に振る。

「ううん。あの人もごしゅじんさま、だよ」
「「?」」

 今のままでは意味が解らないんだろう。

(そうだ。洋館に帰ったら、大人ごしゅじんさまを見せてあげよう!)

 名案! とばかりに両足をぱたぱたと上下に振る。主人は盛大にくしゃみをして悪寒に身を震わせていた。

 父親がいると聞いて、羨ましいやら憎らしいやら。アクアは顔をしかめる。

「父親って……名前を呼ばないものなのか?」
「どうだろうね? 父さんはおれのこといっぱい叩いてきたから。おれのこと、好きじゃなかったんだと思う……」

 久々に思い出す父のぼやけた顔。鮮明に思い出せる汗臭い背中。
 悲しかった。大事にしてほしかった。名前を呼んで、抱きしめてほしかった。いい思い出は無い。褒められたこともない。でも……大好きだった。愛してほしかった。

「「……っ!」」

 静かに涙を流すエイオットに、ふたりは目に見えて狼狽え出す。

「お兄さん……泣かないでね?」
「なんだよ。おまえも泣き虫かよ。年上のくせに、みっともねー」

 ファイアは短い舌を必死に伸ばしてしょっぱい雫を舐め取り、アクアはワンピースの裾で乱雑に顔を拭く。そのせいでパンツが丸見えだ。
 狸柄パンツにエイオットはクスッとほほ笑む。

「ありがとう。やさしいね」
「お兄さん、よしよし」
「やーい。泣き虫ー」

 ファイアはエイオットの頭を撫で、アクアは狐尻尾の先をぺしぺしと手で叩く。

 静かな時間。三人は他愛もないおしゃべりをたくさんした。

「ふたりともいくつ?」
「何が?」
「年齢」
「しらない……」

 生まれて何年経っているのか、どれだけの季節が過ぎているのか、ふたりには分かりようがない。誕生日や年齢を知っていることは、当たり前ではなかった。
 エイオットはふたりを抱きしめ、くんくんとにおいを嗅ぐ。

「六才……くらいかな?」

 まとめて抱きしめるせいで双子の頬同士がくっつく。そのせいでアクアは暴れられなかった。照れが混じったような不満顔だ。

「六才……なの? ぼくたち」
「ごめん。分かんないや。でもだいたいそのくら……」

 言葉の途中でハッとする。ハテナを浮かべて見上げてくる二人を、黒い瞳でじっと「視」る。


 名前  アクア
 年齢  もうすぐ七才。

 名前  ファイア
 年齢  もうすぐ七才。


「ふたりとも六才だった! 当たってた」

 急に座ったまま尻を弾ませはしゃぎ出すエイオットに、双子も一緒に揺れる。

「は? なんで分かんだよ?」
「えへーん。おれはね。相手の数字が視えるんだよ」
「? ねんれいが、分かるってこと?」
「なんだしょぼい能力だな」

 年下の言葉がグサリと胸に刺さる。

 ずーんと項垂れた狐っ子に、ファイアがアクアを叱る。

「いじめたら、だめ」
「お、俺がわるいってのかよ!」

 エイオットはすっと頭を上げる。その顔に表情はなく、ふたりは思わずお互いの手を取り合う。
 だがエイオットはすぐに、ニヤリと笑う。

「そんな意地悪言う子には~」

 アクアをぽいっとベッドに投げると、その上に覆いかぶさった。

「くすぐっちゃうぞ~」
「なんだよやめ……にゅははふふははっ、ひゃ、ふへへへへへ」

 お腹をくすぐられ、じたばたと暴れるが体格差が大きい。

「はわわ」

 口に鰻モドキを押し込まれたことを思い出したのか青ざめたファイアは果敢にも、自らも戦場(ベッド)へおもむく。

「アクアをいじめないで~」

 夢中でエイオットのワンピースを引っ張るが、「にゅふふふふ」と楽しそうな声が聞こえる。見ると、アクアは涙を浮かべているが笑っていた。大きく口を開けて。

「にゃははははっ。ふひーっ、ひぃーっ! こしょばい……にゅにゅにゅははは」

 アクアが笑っているのが嬉しいのか、ファイアは顔の側までいき、見つめる。

「ファイア……にげ……にゅふふふふ」
「……」
「ひゃははははっ。逃げないなら、たひゅけっ……にゅああああ」
「あれま」

 相当アクアの笑顔や笑い声が好きなのだろう。ファイアは心地よさそうに眠っていた。

「アクアさあ。普段からもっと笑ってあげた方が良いよ」
「ふひーっ、ふひーっ。……なんだよ、いきなり……」
「そしたら、ファイアのこんな顔、いつも見られるんじゃない?」
「……」

 身体を丸めて眠っているファイア。楽しい夢でも見ているのか、口角がほんのり上がっている。こんな安らかな寝顔を見たのはいつ以来……初めてだ。常に何かに怯えて、怒って、お腹を空かせていた。
 アクアの手が片割れの前髪を撫でる。

「なんだよ……」

 ぎゅっとファイアを抱きしめる。いつもの、ファイアのにおい。
 エイオットが顔を覗き込めば、涎を垂らしてアクアも寝息を立てていた。

「……」

 エイオットはそっと、もこもこのタオルケットをふたりにかけてやる。
 自分も昼寝をしようと思ったが、寝ている間に双子がいなくなると思うと、なんだが眠れなくて。

 眠りやすいように照明魔具の光を弱めると、自分は窓際で字の練習をしておいた。

「うーん。アクアとファイアはどう書くんだろ……」

 ステータスに書いてあるが、エイオットはどれがアクアでファイアなのか、判別つかなかった。








🌙







 風の強い海上。
 観光地の海に出没するようになった蒼鱗水龍(ディープサーペント)。本来深い海の底で暮らす大蛇が、陸地から目視できる距離にてたびたび目撃されるようになった。珍しいことだが、地球でも深海魚が浅瀬で見つかったニュースもあったし、縄張りを追われたとかそんなんだろう。こういうのを調べるのは調査隊の役目だ。
 きれいに骨だけとなったディープサーペントがぐらりと倒れ、水底に消えて行く。

「ふうー……」

 ローブに付着した水滴を手で払い、剥ぎ取った鱗や宝珠を帽子の中に仕舞っていく。


 ♢主人メモ♢
 剥ぎ取ったモンスターの素材はギルドが買い取ってくれるよ。
 ハンターに欠かせない武器や防具。貴族が好む美術品や調度品。庶民でも手が出る回復薬に生まれ変わるよ。どの世界でも、職人ってすごいよね。すごいからカメラ作って……
 ワニモンスターの皮はバッグになるよ。どの世界でもワニの皮は鞄になってしまうのかな?
 終わるよ。


 海のモンスター討伐は人気が低い。理由は簡単。戦いにくいからだ。
 落ちたら終わりだし、船が壊されてもお終い。
 海モンスター相手に特化した討伐船なんてものもあるが、すべての国が保有しているわけではないし、保有していても数台と貴重で、気軽に使えないようだ。いや、こういう時のための船だろう。躊躇ってどうすると思わなくもないが、修理費とかえぐいし、全壊しちゃったら戦争の時に不利になるからね……。気持ちは分からなくもない。

「っし。帰るか」

 蛇がなかなか海から顔を出さないから時間がかかった。早くエイオットの顔が見たい。
 三日月の向きを変え、陸地に戻る。

 リカフのギルドに金ランクはいないようなので、『スクリーン』に助けを求めたそうだ。海のモンスターを討伐しているのはだいたい金ランク。そのせいで金ランクになりたがらず、赤のままで止めているハンターもいる。
 そう。ちょうどあいつみたいな。






 青い空。白い雲。輝く海。骨になる大蛇。
 大蛇討伐を観ようと砂浜に集まった野次馬の中に、海を満喫している男が一人。
 サイドが短く刈り上げられた髪に、日光を跳ね返すグラサン。アロハシャツの前のボタンを全開にして、鍛え上げられた肉体を惜しげもなく晒している。体毛が濃いのかヘソの下から毛が生え、海パンから伸びる足もすね毛がサボテンのようにチクチクしている。

 水着姿の女性たちがちらちらと見ていく。

 ファンキーな見た目のおっさんは、青と白のビーチパラソルの下で日光浴を楽しんでいた。
 静寂が戻る海。喝采を上げる野次馬。
 おっさんはグラサンを額まで上げ、金の瞳を晒す。

「さっすが〈黄金〉。強すぎて気味わりぃな」

 〈優雅灯〉がひょこっと現れるまで、金ランク最強は間違いなくあいつだった。海の上でモンスターを瞬殺できるなど、もはや人間業ではない。

 ガキの頃。憧れた姿のままで、あいつは今日も三日月に跨って――

「ふっ。だがおかげで俺様が出なくて助かっ……た……?」

 三日月がぐんぐんと近づいてくる。水上馬(水上バイクのようなもの。上級魔具)以上の速度で。

「お、おい! こっち来るぞ」
「え……? 子ども?」
「馬鹿! 逃げろ逃げろ」

 野次馬たちが道を開けるようにどたばたと左右に避けていく。海から出ても三日月は減速する気配すら見せず、ファンシーおやじに突っ込んできた。

「ちょ――嘘だろぉ⁉」

 パラソルの下で優雅に寝そべっていたおっさんは、横っ飛びで躱す。
 砂を巻き上げ地面をえぐり、パラソルをなぎ倒して三日月は停止した。
 ざわざわと違う意味で賑わうビーチ。

「……おいおいお~い」

 頭から砂を被ったグラサンが起き上がる。
 ぱっちりした青い瞳と目が合うと舌打ちが聞こえた。

「そりゃないだろ〈黄金〉。随分なご挨拶じゃねぇか」
「死ななかったか……」

 よいせっと三日月から降りると、とてとてと歩いてくる。季節感を無視した暑っ苦しいローブ姿の少女……のように愛らしい顔の男。

「久しいな。グラサン野郎」
「タイム・ビーセントだ。……毎回変なあだ名つけるのやめてちょうだいね?」

 百九十以上ある背ぇ高おやじは、やれやれとしゃがんで目線を合わせる。



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