全種族の男の子、コンプリートを目指す魔女っ娘♂のお話

水無月

文字の大きさ
37 / 189
双子

16 赤ランク最強

しおりを挟む


「で? 何の真似だよ〈黄金〉」
「ディビィに『タイムを見かけたら轢いといてくれない? リカフにいると思うから』って頼まれたからな」

 あの髭。
 金ランクに何頼んでやがる。殺す気か!

「どうせまた金ランクへの昇級の話を蹴ったんだろ?」

 そっぽを向いて口笛を吹いているファンキーおやじ。妙に美味い。

「だってお前ら見てると金ランクになりてぇ~って思わないぜ?」
「知るか。お前も金ランクになって苦しめ」

 これが人を地獄に引きずり込もうとする人間の顔か。いつ見ても愛らしいな。……外見だけな?

「お断りじゃ」
「駄目か……」

 しゅんとなる金ランク。

「やめて? その外見でしょんぼりしないで? おじさんめっちゃヒソヒソされているから」

 野次馬達から「いじめられてる……?」「警備隊、呼ぶ?」「誘拐?」と言う社会的に死にそうな不穏ワードがいくつか聞こえる。なんてこった。こいつの方が年上なのに。

「にしても珍しいじゃねぇか。オメェがこんな依頼引き受けるなんて。なんかあった?」

 パラソルを立て直しながら訊ねると、暑いのか魔女っ娘はパラソルの影の下にさっさと座る。

「……なあ、グラサン。お前、ギルマスに孫がいたの、知ってたか?」

 俺はグラサンじゃないけれど、その言葉でだいたい察せた。
 手を腰に当てる。

「どうした? まさかとは思うが。その孫に「依頼受けて?」って、可愛く頼まれたのか?」

 〈黄金〉は両手で顔を覆う。

「そうだよ。悪いかクソが。セーラー服だったんだぞ……」

 後半何言っているのかわからねぇが、がっちり手綱を握られていて笑う。

「あーあ。そりゃまあ。ご愁傷様」
「ふざけんなー! ズルだろあんなん。あああもう! 可愛い!」

 ひっくり返った虫のようにじたばた暴れている。お前、そんなんだから。お前のせいで金ランクは変人しかいないって噂が。いや、変人率高いけども。自分の影響力をちったぁ考えろよ。

「なあ、〈黄金〉――」
『キャアアアアアアアァァ!』

 突如鳴り響いたありえない高音に耳を塞ぐ。俺と〈黄金〉はうるせえなくらいで済んだが、ビーチにいた一般人たちはばたばたと倒れ、無事だった者は目まいや頭痛に襲われている。

「なんだぁ?」

 海を見ると、もう一体のディープサーペントがめちゃくちゃに暴れながら浜辺に向かってくる。

「もう一体いたのか」
「恐らくあれと争ってるうちに、浅瀬に来ちゃったんだろうな……」

 うんうんと冷静に分析している魔女っ娘に戦う気配はない。依頼以外では動きたがらないハンターは別に珍しくないが。たくさんの人が倒れたまま避難できずにいる。このままでは――

 視界に収まりきらない巨体が迫る。辛うじて意識のあった人々は、せめて大事な人に覆いかぶさることしかできなかった。
 タイムは疲れたように頭部を掻く。

「……はあ。俺の出番かね」

 ――カチッ。
 ――コチッ。

 前世でよく聞いた時計の針が動く音が二回聞こえたと同時、ディープサーペントは輪切り姿で海に浮かんでいた。

「……え?」
「……な、なにが?」

 海猫が鳴く静かな砂浜。寄せては引く波の音。赤い色に染まる海。
 そこにはもうモンスターの脅威はなく。意識のあった人たちの表情はまさに「ぽかん」だった。

「――いやあ、見事見事」

 気合いの入っていない拍手の音が聞こえる。
 微塵も心が込められていなかったが、金ランクに褒められるのは悪い気分ではない。俺様がハンターを志すきっかけとなったこいつになら、なおさらだ。

「前より発動が早くなったな。お前のズルい魔法」
「……ズルいってのは否定しねぇよ?」

 アロハシャツおやじことタイム・ビーセント。赤ランクハンター。
 固有魔法・『時間停止(タイムアウト)』

 文字通り時間を止める反則技。
 だがタイムはため息をつく。

 俺もな~。固有魔法がこれって知った時は三日ぐらい興奮して眠れなかったぜ。アホみたいにはしゃいでたな。若かったんだ。これがあれば最強だと。恐れるものはないとさっそく天狗になった。実際俺は最強だった。

 ――……世界の広さを知るまでは。

 対策されていたら防がれるし、止めていられる時間も長くないとはいえ、どうしたって時間系は最強だと思うじゃん! そうじゃなかったんよ。
 身の程をわきまえず金ランクに挑んだ日だ。魔法を発動する前に意識を刈り取られた。もうやだ。怖い。金ランクとかモンスターより怖い。

 時間を止まるのにかかる時間はコンディションにもよるが、2秒から0,01秒。実質、それだけの時間があれば金ランクでなくとも攻撃を仕掛けることは可能だ。だが俺の身体能力は赤ランクでも上位。発動するまで逃げ続ければいい。
 でもあいつは絶対に許さない。金ランクで一番若造の〈優雅灯〉。止まった時間のなか、魔法使い殺しの異名を持つ虫が突っ込んできた恐怖は忘れない。大人げなく『虫を使うな!』と虫縛りにしたら本人が向かってきた。虫よりなによりあいつが一番怖かった。

 0,001秒で顎かち割られた。自分より遥か年下のガキに。

 見物していた金ランク共が爆笑していたのだけは覚えている。〈優雅灯〉の製造元だけは興味ない顔でミルクを飲んでいたが……うごごごご。いらんこと思い出していたら具合が悪くなってきた。
 でも、ま。そのおかげで大海を知れたし、自惚れずに済んだがな。

 あいつは許さないけど。

「割と重症者が多いな。〈黄金〉よ。回復薬……」
「切らしている」

 タイムはぽりぽりと頭を掻いた。

「……ギルドに運ぼうか」

 病院に行くよりは近い。

「まあ、そのくらいはしよう」

 魔女っ娘はやる気のない顔で、意識のない人々をぽいぽいっと三日月に積んでいく。

(危なかった……)

 ここに未成年がいなくて本当に良かった。
 タイムも担げるだけ担ぎ、ギルドに走った。



「どうしよっか」
「ん? ディープサーペントはお前が倒したことにしていいぞ? えーっと。顎髭野郎」
「タイム・サービングです」

 リカフのギルドに怪我人を運び込んでホッとしたのも束の間。新たな問題が浮上した。依頼達成の報酬をどうするか、だ。

「いいのかよ。お前、金が必要なんだろ」
「……まあ、今回結構使ったからね。でも構わない」

 ごくごくとミルクを飲む魔女っ娘。タイムはサングラスで見えない目元をわずかに赤くする。

 なんだよ照れるじゃねーか。まるでお前にちょっとでも認められたみたいでよ。

「そうか? それなら報酬は頂いちまうぜ?」

 全部頂くのは気が引けっから、その金でここは俺が奢るとしよう。

「ああ。そうやって手柄を上げてまた金ランクになれってしつこく追い回されろ」

 認められたからではなかった。
 スケープゴート(金ランク)を増やしたいだけだった。俺様の喜びを返せ。
 タイムの顔からスンと表情が抜け落ちる。

「いや、いいわ。報酬はお前にやる」
「いらん。受け取っとけ」

 ぐいぐいと依頼表を押しつけ合う上位ハンター二名。
 受付嬢が「まだですか?」みたいな顔で見てくる。

「いいんだって。俺は金ランクの器じゃねぇ……。一個下の赤ランク辺りが気に入ってんだよ」
「……お前はやたら金ランクを化け物扱いするが、お前も十分妖怪だぞ。もう観念してこっちに来い。じゃないと定期的にディビィに嫌がらせされるぞ?」

 嫌がらせっつーか、殺されかけたんだが? 三日月で。ようかいって何?
 タイムはタバコを銜える。

「いーんだよ。『スクリーン』にあまり寄り付かないようにすっから」
「そうか」

 依頼表を手にすると受付まで歩いていく。その小さな後ろ姿を見つめ、タイムは紫煙を吐き出す。

 俺は、ちったぁお前に近づけてんのかね?
 タイムアウトという反則魔法をもってしてもなお遠い背中。煙を吐いても胸の中にモヤモヤが残り続けた。




しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜

春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、 癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!? トラブルを避ける為、夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)。 彼は見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい穏健派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!? 
他にも幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良だけど面倒見のいい悪友ワーウルフ(同級生)まで……なぜか異種族イケメンたちが次々と接近してきて―― 運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない! 恋愛感情もまだわからない! 
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。 個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!? 
甘くて可笑しい、そして時々執着も見え隠れする 愛され体質な主人公の青春ファンタジー学園BLラブコメディ! 月、水、金、日曜日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新) 基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

弟がガチ勢すぎて愛が重い~魔王の座をささげられたんだけど、どうしたらいい?~

マツヲ。
BL
久しぶりに会った弟は、現魔王の長兄への謀反を企てた張本人だった。 王家を恨む弟の気持ちを知る主人公は死を覚悟するものの、なぜかその弟は王の座を捧げてきて……。 というヤンデレ弟×良識派の兄の話が読みたくて書いたものです。 この先はきっと弟にめっちゃ執着されて、おいしく食われるにちがいない。

処理中です...