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双子
16 赤ランク最強
しおりを挟む「で? 何の真似だよ〈黄金〉」
「ディビィに『タイムを見かけたら轢いといてくれない? リカフにいると思うから』って頼まれたからな」
あの髭。
金ランクに何頼んでやがる。殺す気か!
「どうせまた金ランクへの昇級の話を蹴ったんだろ?」
そっぽを向いて口笛を吹いているファンキーおやじ。妙に美味い。
「だってお前ら見てると金ランクになりてぇ~って思わないぜ?」
「知るか。お前も金ランクになって苦しめ」
これが人を地獄に引きずり込もうとする人間の顔か。いつ見ても愛らしいな。……外見だけな?
「お断りじゃ」
「駄目か……」
しゅんとなる金ランク。
「やめて? その外見でしょんぼりしないで? おじさんめっちゃヒソヒソされているから」
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「にしても珍しいじゃねぇか。オメェがこんな依頼引き受けるなんて。なんかあった?」
パラソルを立て直しながら訊ねると、暑いのか魔女っ娘はパラソルの影の下にさっさと座る。
「……なあ、グラサン。お前、ギルマスに孫がいたの、知ってたか?」
俺はグラサンじゃないけれど、その言葉でだいたい察せた。
手を腰に当てる。
「どうした? まさかとは思うが。その孫に「依頼受けて?」って、可愛く頼まれたのか?」
〈黄金〉は両手で顔を覆う。
「そうだよ。悪いかクソが。セーラー服だったんだぞ……」
後半何言っているのかわからねぇが、がっちり手綱を握られていて笑う。
「あーあ。そりゃまあ。ご愁傷様」
「ふざけんなー! ズルだろあんなん。あああもう! 可愛い!」
ひっくり返った虫のようにじたばた暴れている。お前、そんなんだから。お前のせいで金ランクは変人しかいないって噂が。いや、変人率高いけども。自分の影響力をちったぁ考えろよ。
「なあ、〈黄金〉――」
『キャアアアアアアアァァ!』
突如鳴り響いたありえない高音に耳を塞ぐ。俺と〈黄金〉はうるせえなくらいで済んだが、ビーチにいた一般人たちはばたばたと倒れ、無事だった者は目まいや頭痛に襲われている。
「なんだぁ?」
海を見ると、もう一体のディープサーペントがめちゃくちゃに暴れながら浜辺に向かってくる。
「もう一体いたのか」
「恐らくあれと争ってるうちに、浅瀬に来ちゃったんだろうな……」
うんうんと冷静に分析している魔女っ娘に戦う気配はない。依頼以外では動きたがらないハンターは別に珍しくないが。たくさんの人が倒れたまま避難できずにいる。このままでは――
視界に収まりきらない巨体が迫る。辛うじて意識のあった人々は、せめて大事な人に覆いかぶさることしかできなかった。
タイムは疲れたように頭部を掻く。
「……はあ。俺の出番かね」
――カチッ。
――コチッ。
前世でよく聞いた時計の針が動く音が二回聞こえたと同時、ディープサーペントは輪切り姿で海に浮かんでいた。
「……え?」
「……な、なにが?」
海猫が鳴く静かな砂浜。寄せては引く波の音。赤い色に染まる海。
そこにはもうモンスターの脅威はなく。意識のあった人たちの表情はまさに「ぽかん」だった。
「――いやあ、見事見事」
気合いの入っていない拍手の音が聞こえる。
微塵も心が込められていなかったが、金ランクに褒められるのは悪い気分ではない。俺様がハンターを志すきっかけとなったこいつになら、なおさらだ。
「前より発動が早くなったな。お前のズルい魔法」
「……ズルいってのは否定しねぇよ?」
アロハシャツおやじことタイム・ビーセント。赤ランクハンター。
固有魔法・『時間停止(タイムアウト)』
文字通り時間を止める反則技。
だがタイムはため息をつく。
俺もな~。固有魔法がこれって知った時は三日ぐらい興奮して眠れなかったぜ。アホみたいにはしゃいでたな。若かったんだ。これがあれば最強だと。恐れるものはないとさっそく天狗になった。実際俺は最強だった。
――……世界の広さを知るまでは。
対策されていたら防がれるし、止めていられる時間も長くないとはいえ、どうしたって時間系は最強だと思うじゃん! そうじゃなかったんよ。
身の程をわきまえず金ランクに挑んだ日だ。魔法を発動する前に意識を刈り取られた。もうやだ。怖い。金ランクとかモンスターより怖い。
時間を止まるのにかかる時間はコンディションにもよるが、2秒から0,01秒。実質、それだけの時間があれば金ランクでなくとも攻撃を仕掛けることは可能だ。だが俺の身体能力は赤ランクでも上位。発動するまで逃げ続ければいい。
でもあいつは絶対に許さない。金ランクで一番若造の〈優雅灯〉。止まった時間のなか、魔法使い殺しの異名を持つ虫が突っ込んできた恐怖は忘れない。大人げなく『虫を使うな!』と虫縛りにしたら本人が向かってきた。虫よりなによりあいつが一番怖かった。
0,001秒で顎かち割られた。自分より遥か年下のガキに。
見物していた金ランク共が爆笑していたのだけは覚えている。〈優雅灯〉の製造元だけは興味ない顔でミルクを飲んでいたが……うごごごご。いらんこと思い出していたら具合が悪くなってきた。
でも、ま。そのおかげで大海を知れたし、自惚れずに済んだがな。
あいつは許さないけど。
「割と重症者が多いな。〈黄金〉よ。回復薬……」
「切らしている」
タイムはぽりぽりと頭を掻いた。
「……ギルドに運ぼうか」
病院に行くよりは近い。
「まあ、そのくらいはしよう」
魔女っ娘はやる気のない顔で、意識のない人々をぽいぽいっと三日月に積んでいく。
(危なかった……)
ここに未成年がいなくて本当に良かった。
タイムも担げるだけ担ぎ、ギルドに走った。
「どうしよっか」
「ん? ディープサーペントはお前が倒したことにしていいぞ? えーっと。顎髭野郎」
「タイム・サービングです」
リカフのギルドに怪我人を運び込んでホッとしたのも束の間。新たな問題が浮上した。依頼達成の報酬をどうするか、だ。
「いいのかよ。お前、金が必要なんだろ」
「……まあ、今回結構使ったからね。でも構わない」
ごくごくとミルクを飲む魔女っ娘。タイムはサングラスで見えない目元をわずかに赤くする。
なんだよ照れるじゃねーか。まるでお前にちょっとでも認められたみたいでよ。
「そうか? それなら報酬は頂いちまうぜ?」
全部頂くのは気が引けっから、その金でここは俺が奢るとしよう。
「ああ。そうやって手柄を上げてまた金ランクになれってしつこく追い回されろ」
認められたからではなかった。
スケープゴート(金ランク)を増やしたいだけだった。俺様の喜びを返せ。
タイムの顔からスンと表情が抜け落ちる。
「いや、いいわ。報酬はお前にやる」
「いらん。受け取っとけ」
ぐいぐいと依頼表を押しつけ合う上位ハンター二名。
受付嬢が「まだですか?」みたいな顔で見てくる。
「いいんだって。俺は金ランクの器じゃねぇ……。一個下の赤ランク辺りが気に入ってんだよ」
「……お前はやたら金ランクを化け物扱いするが、お前も十分妖怪だぞ。もう観念してこっちに来い。じゃないと定期的にディビィに嫌がらせされるぞ?」
嫌がらせっつーか、殺されかけたんだが? 三日月で。ようかいって何?
タイムはタバコを銜える。
「いーんだよ。『スクリーン』にあまり寄り付かないようにすっから」
「そうか」
依頼表を手にすると受付まで歩いていく。その小さな後ろ姿を見つめ、タイムは紫煙を吐き出す。
俺は、ちったぁお前に近づけてんのかね?
タイムアウトという反則魔法をもってしてもなお遠い背中。煙を吐いても胸の中にモヤモヤが残り続けた。
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