全種族の男の子、コンプリートを目指す魔女っ娘♂のお話

水無月

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惨劇に挑め

02 隠れ里

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 久しぶりに朝日と共に目覚めた。
 眩しさから逃げるように帽子に這い寄り、ぎゅっと深めに被る。起きているのかとアゲハの方を見ると、上半身裸の後ろ姿が目に入った。具合が悪くなった。

「なにやっとんじゃ……」
「と……〈黄金〉。おはようございます」

 おしぼりを持っているので身体を拭いていただけのようだ。半分寝ぼけていた主人はおしぼりを奪い取る。

「かせ。背中拭いてやる」
「……エ? ……」

 ごしごし。
 まったくこの子は。いつまで経っても手がかかる――

 ……ん? なんで成人の身体を拭いているんだ? 俺。

「おぎゃああああっ!」
「……目が覚めましたか?」

 後ろに二回転した魔女っ娘に苦笑する。

「ふふっ。ありがとうございます」
「おぼぼぼぼっ」

 アゲハが何か言っていたが、痙攣している主人には聞こえていなかった。

 最悪の目覚めから数日。
 森を抜け、雪山登山を開始。とはいっても俺は終始背中にぶら下がっていたので体力は満タンだ。
 出現するモンスターも手ごわくなり、俺も戦う準備をしたが同行者が頼もしすぎたため結局出番はなく。

「ここです」

 アゲハの背中で爆睡していたら到着していた。

「もう着いたのか……」

 こんなにぐっすり眠ったのは久しぶりだ。目を擦りながら地面に降りると、ずぼっと膝まで雪に沈んだ。一気に目が覚めた。引き抜こうとするが、身体を左右に揺すっただけとなる。
 素直に手を伸ばす。

「……助けて」
「はいはい」

 あきれ顔で引っこ抜いてくれる。
 そのまま小脇に抱えられて進んでいく。降ろして。じたばた。

「また雪にズボるでしょ?」
「ぐぬうっ。ちょっと身長あるからって生意気な」
「父さんの方がでかいでしょ……」

 目印のように赤い虫が止まっている樹木の前で、足を止める。

「分かりますか」
「ああ」

 手を伸ばせば届く目の前。山の一角がシャボン玉のような薄い膜が張られている。バリアのような……いい言葉が見つからんな。結界、のようなものか。

「姿隠しの魔法です。何か後ろめたいことがある集落などが、よく張っていますね」
「……ああ」

 幻獣種は妖精族ほどではないにしろ、人権が踏みにじられている種族だ。なにしろ妖精族が回復薬の原料なら、幻獣種の『水晶種』は特殊な条件下で涙が宝石になる生き物だ。地球だったとしても二秒で乱獲され、とうに絶滅しているだろう。生き残れているのは姿を隠せる魔法があるおかげと、それを得意とする体質。多い魔力量によるものだろう。

 その姿隠しのバリアも、隣の青髪に見破られているわけだが。

「……どうやってここが分かった?」
「はい? 俺の虫ちゃんがたまたま散歩していたら見つけたんですが。姿隠しで騙せるのは人やモンスターで、その辺の虫は素通りできるの……知ってますよね?」

 呼吸しないと死にますよね? といった感じで言われても。俺はテメェの魔法の全容を知ってるわけじゃないねん。
 これがこいつの恐ろしいところだ。ストーカーとしての腕は特級。どこに逃げても虫がいる限りアゲハに報告されてしまう。本当に、虫のいない南極あたりに逃げるしか、〈優雅灯〉の監視網から逃れられる術はない。

 ……我ながら何でこんなバケモンを生み出してしまったのか……

 過去に戻ってやり直せたら。……過去に戻っても超絶可愛い未成年アゲハがいるだけで、結局はいはい言うこと聞いているな、俺は……。過去に戻っても過去を変えられないわ、俺。駄目だ。

「ここから先は?」
「俺も知りません。……それでは」

 帰ろうとした〈優雅灯〉のマントを掴む。

「どこへ行く?」
「へ? 帰ります。誘拐シーンとか、見たくないし」
「駄目だ。俺のそばにいろ」
「……嬉しい言葉で一瞬喜びかけましたけど。めんどくさいモンスターが出たらめんどくさいので、俺に対処させたいだけですよね?」
「ったりめーだろ。山や森で無双できる便利な奴がいるんだから」

 ぐいぐいと引っ張るが奴は微動だにしない。それでも諦めず引っ張り続けると、〈優雅灯〉が折れてくれた。ふふん。お前は優しい奴だからな。
 ぼわんとシャボン玉っぽい膜を通り抜ける。シャボン玉のように弾けたりはしなかった。

 が――

「侵入したのがバレましたね」

 地球にも動きを感知して光が灯るサーチライトなる防犯グッズがあったな。

「だいたい姿隠しとセットになっているサーチの魔法かな? そういうのが二重三重にかけてあるな……。まさに隠れ里って感じだ」

 ざくざくと茂みを進んでいると、囲まれた。姿は見えないが気配で分かる。全員が武器を持ち、殺気に近いものをぶつけてくる。
 猫背になった〈優雅灯〉がさっそく弱音を吐く。

「もうぅ……帰りたい」
「どうした腹痛か?」
「父親の誘拐現場とか、見たくないんだって」

 のんきに会話していると代表らしき人物が声を荒げる。姿を見せる気はないようだ。

『動くな! 何者かは知らんが。ここは我らの土地。……お帰り願おうか』

 くぐもっていて男かも女かも判断しづらい。反響していて声がした方角もさっぱりだ。
 いきなり攻撃はしてこない、か。

「何もせず出て行けと言うことか? ここに来た理由などは聞かないのかい?」

 虚空に語り掛ける。

『語ることはない。――立ち去れ』
「ちょっと、話は出来ないかい?」
『これが最後だ。去(い)ね!』

 殺気が濃厚なものとなる。
 この先一歩でも進めば総攻撃を受けるだろう。主人は肩を落とす。

「帰るか……」

 くるりと背を向け、来た道をきれいに戻っていく。その後ろをついて行きながら、アゲハはレアな虫がいないかなーと辺りを見回している。

『……』

 ピリピリした空気を隠しもせず、数人がかなり後ろを監視するようについてくる。

 ぼわんとシャボン玉の外に出ると、凍るような強風が吹きつけてきた。帽子が飛んでいきそうになり、バサバサとモルフォ蝶の羽のようなマントがはためく。
 シャボン玉の中はけっこう暖かかった。
 風や寒さまで遮断するとは。一体なんの魔法やら。ううむ。是非解明したい。うずうずする! ……が、その前にやらねばならん。
 森だけでなく、あいにく山にも『空の封印』がかけられている。

「奴ら、まだこっちを見ているか?」
「はい。すっごく」
「はーあ。お前がイケメンだからだな」
「んなわけないでしょ……」

 軽口をたたき合いながら歩く。三十分ほど来た道を戻って、やっと視線を感じなくなった。

「どうだ?」
「……んー? もう帰ったようです」

 彼らも里の周囲から離れられないだろう。ここが限界、か。

「よっし! やるか。集落を襲うのは久しぶりだな。腕が鳴るぞ」

 意気揚々と丸めた拳を、雪を吐き出す雲に向けて突き出す。念のためちらっと〈優雅灯〉を見れば、退屈そうにテントウムシモドキで手毬をしていた。
 こいつは善人寄りの性格だ。俺がこう言うことを言えば間違いなく止めに入ってくる。状況によっては〈優雅灯〉との殺し合いに発展しかねない。
 それなのにこの態度。……水晶種の人権の無さを物語っている。

 うむ。こいつが止めてこないのなら、恐れるものはない。こいつと戦うとか悪夢以上に悪夢だからな。

「〈優雅灯〉手を貸せ」

 水晶種を一匹たりとも逃がさない。こいつの虫で里を包囲させよう。金ランクをただでこき使えるって便利だわー。
 〈優雅灯〉は面倒くさそうにテントウムシモドキをぽーんと蹴っ飛ばす。こちらを見もしない。

「お一人でどうぞ」

 ただでこき使え……

「よ、よし。デートの時、ひとつ言うことを聞いてやろうじゃないか」
「……」

 胡散臭い物を見る目をされた。それでも協力してくれる気になったようだ。
 銀の首飾りを外すとうじゃうじゃ現れる、〈優雅灯〉の虫モンスターたち。申し訳ないがまず悲鳴を上げた。

「キャーーーーッッッ!」
「うるさいです」








 茂みに袖や髪を引っかけることなく、里隠し(姿隠し)の膜の中へと戻る。武器を手にしていた一同はホッと胸を撫で下ろしたようだった。
 だが、表情は浮かない。

「なんだか……不気味だったな」
「ああ。素直に帰って行ったが絶対裏があると見ていい。数日は警戒を怠るな」
「「了解」」

 髪に白髪が混じり始めた狩猟頭の言葉に、若い衆が表情を引き締める。
 見回りは彼らに任せ、里長へ報告するために一度、狩猟頭は里へ戻った。保温性に優れた雪藁屋根の家。外界に怯えるようにこぢんまりとした、たまらなく陰気で暗く、あたたかな里。
 水晶種の里。

(腹立たしい。我らは水晶種などではない……っ)

 古くは黒鳥(こくちょう)人と呼ばれた獣人の一種だった。背中か腕に生まれながらに羽毛を持ち、空を駆けることが出来るただの獣人。他と何も変わらぬ、ただの、獣人……だった。

 一際大きな屋敷に入る。静まり返っている廊下。
 締め切り、明かりが一切入らぬ暗い室内。空気も重く感じ、狩猟頭はごくりと唾を呑む。唯一の光源は囲炉裏の火だけで、それも頼りなくパチパチとゆれている。
 狩猟頭は定位置で片膝をつき、頭を垂れた。

「長。狩猟頭がお戻りになられましたよ」

 お側仕えのおばばが柔和な笑みで黙する者に話しかける。
 すだれのような物が垂れ下がっており、長のお姿をはっきりと見ることは叶わない。この地位に上り詰めても、長の顔を拝めたのは一度きりだけ――
 衣擦れの音がし、紫の御簾(みす)の向こうで何者かが身じろぎしたのを感じた。

「ご苦労、様です……。お怪我は、ありませんか?」

 笛のように澄んだ、少女の声。
 狩猟頭はさらに深く頭を下げる。

「はっ! 若い衆にも、怪我ひとつありませぬ」
「それは……なによりです」
「侵入者はふたり。少女と若い男でした」
「少女……?」

 すだれにぼんやり浮かび上がる影が、小鳥のように首を傾げる。

 長の疑問ももっともだ。ここは気軽に来られるような場所ではない。少女の成りをしていようが、実力者であることは疑いようもない。我らで言うなら狩猟頭。下界で例えるなら赤ランク以上の力を保有しているはずだ。
 狩猟頭は見てきたこと全てを事細かに報告した。
 黙って聞いていた長がややあって口を開く。

「……すんなりと帰ったのですね。何用だったのかは、聞いておりますか?」

 狩猟頭は首を横に振る。

「いえ。どうせ我らの涙目当てでしょう。怪しい者をこれ以上、我らの里に。里隠しの中に長居させるのも不快故」

 袖で口元を隠し、おばばが汚いものを見るように顔をしかめる。

「これ。長になんという口を」
「申し訳ありませぬ」
「いいえ……」

 狩猟頭は目つきを鋭くする。

「数日は警備を強化します――」






 狩猟頭が退室した謁見の間にて。

「……疲れたわ」

 脇息(肘掛け)にもたれかかり凛とした表情をへにょらせ、肩をもんでいる長。流れ落ちる豊かな黒髪と艶のある黒い翼が貴人の証。
 老婆はそれをいたわるように眺める。

「お疲れさまです。……これ、薬湯を」

 小間使いに命じると、黒い着物の女は一礼して下がっていく。

「狩猟頭は迫力があって息が詰まるわ。次代からは狩猟頭も女性にしましょう」

 両足を伸ばし、完全にリラックスした風体でお気に入りの人形を細い指でピンと弾く。その人形は長によく似ていた。

「――かしこまりました」

 おばばは文句など何も言わずに少女に従う。我が儘な長の命でどんどん里の男の肩身が狭くなってきているが、出世にしか興味のない老婆にはよい環境と言えた。


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