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惨劇に挑め
12 思い出を料理に
しおりを挟む夏真っ盛り。
陽光知らずの森は天から殺人日光が差し込まないだけマシだが、気温は高い。
熱帯夜を思い出す。
とはいえ、湿気大国(愛すべき故郷)に比べればカラッとした暑さだ。ローブを着こんでいてもギリ死ぬことはない。それに――最奥はたまに雪が降るから油断できない。俺の部屋で常に暖炉が頑張っているのも、急な氷河期で洋館が凍らないようにするためだ。
早朝。
俺が食堂に行くと、ちびっ子たちがぐへ~っと伸びていた。冷たい白石の食堂の床で。
「どうした?」
近寄ってしゃがむと、アクアとファイアが同時に顔をこちらに向ける。
「あぢー」
「あちゅい……でしゅ」
舌を出し、伸びちゃっている。ムギにいたってはぴくりとも動かないし。
唯一、エイオットだけが困った顔で床に座っており、ちびっ子たちを団扇(うちわ)で扇いであげている。体操座りなので、黒パンツの良い景色が拝める。冷たさを求めて床に座ってるために、黒パンツからはみ出たお尻のお肉が……まだ脂肪が足らないようだ。お尻がむちっとしていない!
主人も同じように床にへばりついてエイオットの股間と尻を凝視している。
「おはよー。ごしゅじんさま。あついねー」
「おはよう。エイオット。エイオットは、平気か?」
どこ見て喋っているのかな? という顔になる。
「平気じゃないけど……。この子たちよりはねー」
しっかり服を着ている子たちと、ほぼ全裸の違いだろうか。今日もアラージュの衣装が良く似合っている。この洋館は地下からの冷気で気温がそこまで上昇しないようになっているけれど、真夏の間はどうしても魔石が負けてしまう。太陽恐るべし。
「うわ……」
「にゅう……」
狸双子は俺の厚着ローブを見て引いてやがる。なんだその顔は。俺だって暑いです。
主人は手を叩く。
「ほらほら。椅子に腰かけたまえ。キャットがそろそろご飯運んでくるよ。叱られてしまうぞ」
そう言うと子どもたちはささっと椅子によじ登って行く。素早い動きだ。あと、ムギがちゃんと動いてくれて安心した。
主人は唯一椅子に腰かけ、すまし顔の男の子に声をかける。
「ごっちんもおはようさん」
「ああ。視界に入らないでくれ」
「ごめんねローブ姿で」
ごっちんはベストを脱いでおり、胸元のボタンも一つ外している。全部外してもいいよ? なんならシャツ脱いでもいいよ?
パンツ一枚でも。
「何言ってやがる!」
ばしんと頭をはたかれ、帽子が飛んでいく。おっと口に出していたか。
全員分の料理を乗せたワゴンを押してきたキャットは……いつもと変わらぬ姿だった。
白手袋までしたきっちりした姿に、子どもたちが青ざめている。
「うわ……お前。うわ……」
信じられないものを見る目のアクア。
「ふええぇ」
ファイアは言葉になっていない。
「……っ」
言葉に詰まっているムギ。
「お兄ちゃん。上着脱いでいいんじゃない?」
エイオットが団扇でキャットを扇ぎ出す。
皿を各自の前に置きながら、キャットは舌打ちした。
「うるせえぞ。これが俺の正装なんだよ。文句あっか?」
「文句しかない。見た目が暑い。全部脱げよ」
「お兄しゃん……。倒れないでね?」
キャットにも慣れてきたのか、双子が怖がらずに言いたいことを言っている。いいことだ。高レベルでも、熱中症になるときはなる。生き物だからな~。レベルも万能じゃないんだな。
それを言うならごっちんもそこまで暑くはないだろうけど、視覚テロにならないよう、涼しげな見た目になってくれている。
キャットは苛々しながらも、黙してお皿を置いていく。
「なんだこれ?」
皿の上に銀の半円型の帽子のような物が置いてあり、料理と香りを隠している。
アクアはジロジロ角度を変えて見ながら、自分の顔が映るそれを指でつつく。
「クローシュだよ。料理の鮮度や温かさを保つ意味がある。それを取るのはお店の人の仕事だから、俺たちは触っちゃいけないよ」
主人がそう言うと、てっぺんのつまみを持ってそろ~っと開けようとしていたアクアはすぐに指を引っ込め、冷たいので頬を押し当てていたファイアも顔を離す。
ムギは食べていいというまで、机の上のものに手を振れようともしない。
「何が入ってるんだろ。わくわくする」
可愛い反応を見せるエイオットも、鼻を近づけてにおいで料理を当てようと頑張っている。
真っ先にごっちんのクローシュを取るんだろうな、とほんわかしていた主人だが、キャットはアクアの背後に回り込んだ。
「え?」
「え?」
俺とアクアの反応が被ってしまう。キャットは気にせずクローシュを取っ払い、皿の上の料理を晒した。
「どうぞ。夏野菜のスープです」
スープと言うが、出てきたのは透き通った丸い水晶だった。
「なんだこれ!」
驚くアクアに、ファイアがのほほんとくっつく。
主人は身を乗り出して透明な物体を見つめる。
「ほーう。スープをゼラチンで固めて球体上にしたのか。やるじゃないか」
「チッ」
舌打ちやめて?
「……スープは透明になるほどこしましたが、味はしっかりしますよ」
一口サイズにカットされた色とりどりの野菜が、水晶の中に沈んでいる。とてもきれいだ。暑いからね。見た目で涼しくなれる料理は大歓迎だ。
「あれ? これってあれじゃね? あの……丸いドームの……」
アクアがおにぎりを握るジェスチャーをしている。なんのことやらサッパリだったが、エイオットはピンと来たようだ。
「あー。オーシャンドーム(スノードーム的なもの)だね。レイクドームでアクアが欲しがってたやつ」
「ほう?」
水路の街での土産話は聞いているぞ。
あの日から料理が魚料理中心になったんだよね。元日本人の俺、大歓喜。
「そう、それだ!」
代わりに思い出してくれたエイオットにアクアがビシッと指差している。エイオットはわーいと喜び、ファイアが軽く嫉妬している。ムギはそんな年下たちを一歩引いて眺めている感じだ。だが表情に疎外感や寂しさの色はないので、これがこの子の距離感なのだろう。俺を含めテンション高めの子が多いから、ムギやファイアのように落ち着いた子がいてくれると安心できちゃう。
「作るって約束したからな」
「お前……」
オーシャンドームが買えなくて落ち込んでいたようだったから。アクアも自分のために作ってくれたのが嬉しいようだ。頑張ってうっすら微笑んでいるキャットにアクアが照れたように頭部を掻いている。ファイアが膨らんだお餅となり、ムギはキャットをぼうっと見つめている。えーっと、ムギちゃん。きみのその表情はそういう感情からくるものなのかな?
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