全種族の男の子、コンプリートを目指す魔女っ娘♂のお話

水無月

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惨劇に挑め

20 マジックドレイン

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 黒い雪『ブラックスノウ』。
 雪のように細かな黒球を複数降らせ、それに触れたモンスターの活力をわずかに奪い取るという弱体化魔法。なの、だが。

『ウボオオオオオッ……』

 雪が触れた個所が、スプーンでくりぬかれたように、パッパッと消滅していく。その度に水風船が弾けるように血が飛び散る。
 雪が降り終わる頃。巨人型のモンスターはきれいな蜂の巣に変わり果てていた。
 ずず……ん、と地面を揺らしながら巨体が倒れる。
 討伐完了。
 ホッとして振り返ると、後ろで見守っていたクリアとロイツが抱き合っていた。

「……寒いのですか?」
「いえ」
「僕の知ってるブラックスノウと違う……」

 二人に歩み寄る。

「お見事です」
「あなた方が弱らせておいてくれたおかげですよ」

 野営した日から三日。すっかり懐いたロイツが飛びついてくる。

「おっと。急に飛びついたら危ないですよ」
「レムナント様。もっと褒めてくださいよ! ていうか、この人いつまでついてくるんです?」

 邪魔者を見るようにクリアを睨む。

「こーのクソガキャァ……」
「クリアさんも。私の家の誰かに見守るよう雇われた口ですか?」

 怒りの表情をすぐさま消し、レムナントの腰を抱き寄せる。

「っ」
「よーやく俺に興味持ってくれましたか。このあとお茶でもしながらグウッ!」

 魔法学園の靴がクリアの足を踏んづけていた。

「てめー! いい加減にしろよ」
「んべー」

 ささっとレムナントの後ろに隠れながら赤い舌を突き出す。

 レムナントはようやくレベルが年齢と並び、ロイツは十五となった。ロイツがこれで十五とか信じられないが、レベルが上がることで上昇するスタータスの数字。レベル一上がってもステータスが一しか上がらない人もいれば、一気に十や二十上がる人もいる。上昇幅は個人差があるのだとか。
 レベル十五のロイツのステータスは、二十六のレムナントを魔力量除いて上回っているのがいい例だろう。
 青ランクはありそうな眼鏡の受付嬢でもレムナントの魔力量は文字化けしており、正確な数字は分からなかった。
 クリアに生意気全開だったロイツはぱっと表情を切り替え、レムナントに上目遣い攻撃をかます。

「レムナントさまぁ~。僕、頑張りましたよね~?」
「……まあ、はい」

 ロイツ少年は自信の指をぱくっと銜える。

「それなら! もらってもいいですよね? レムナント様の……美味しい蜜」

 レムナントは盛大に顔をしかめる。

「変な言い方をするんじゃありません……」

 高さ十メートルを超えるシャンパングラス型の不思議な岩がそびえる岩石地帯。全体的にオレンジで、日中はオレンジの輝きで少々目が辛い。
 適当な岩陰に腰を下ろし、レムナントは周囲を確認する。

「暑いですね」
「じめっとしてない分、僕は好みですけどね。この暑さ」
「俺は苦手だわ~」

 上半身裸になり、水筒の水を一気飲みしている。白い肌に汗が輝いて見える。

「……」

 クリアさんの腹筋が……割れている。
 レムナントはぺらっと自分の服を捲り上げる。……割れていない。
 むすっと眉間にしわを寄せ、服を下ろそうとするとロイツがヘソをちょんっとつついてきた。

「ひゃわっ!」
「ブッ」

 驚いて後ろに下がったレムナントの背がクリアの足にぶつかり、げぼげほと咳き込んでいる。

「す、すみません。クリアさん。……ロイツ? 何をするのです!」

 罰としてお鼻をつんつんする刑に処す!

「んへへ」
「罰が優しすぎですって、ゴホゲホッ!」

 ロイツは舌を出し、てへぺろする。

「だってレムナント様がいきなり、きれいなオヘソ見せびらかすから~」
「え? なんで急にそんなサービスを? 俺にも見せてください」
「違います!」

 服を捲り上げようとしてくるクリアの脳天に肘を落とす。彼は動かなくなったが放っておこう。
 レムナントは自分の肘を摩りながら注意する。

「いった……。いきなり相手の身体に触るのは良くないですよ」
「大丈夫ですか? はい。分かりました」

 奴隷の身分なだけあり言えば素直に了承してくれる。……言わないと平気でラインを越えてくるのが厄介だが。

「で、では」

 そわそわしながらレムナントの手を握ると、指先をそっと口に含む。きれいに切ってある爪をぺろりと舐め、赤子のようにちゅうちゅうと吸う。

「……んっ、んあ……。おいしい、おいしいです。……ん、ちゅぱ、ん」
「…………」
「ふわあ……。レムナント様の、んっ、おいしい、です」

 黙って吸ってほしい。

 ロイツは減った魔力が急速に、ぐーんと回復していくのを感じる。普通これだけ吸えば嫌がられるのだが、レムナントは毎回もういいのかと言いたげな顔をする。
 ロイツの手がレムナントの腰に伸びるが、(やさしく)叩き落とされる。

「え?」
「調べましたよ。『マジックドレイン』はいちいちエッチな気分にさせなくても吸うことが出来る魔法だと。せ、セックスを省略できるのが利点と書いてありました」

 マジックドレインのために身体を触られるのを我慢していたレムナントだが、調べてみてびっくり。

「な、なんで調べちゃうんですか! 合法的にレムナント様にセクハラ出来るチャンスがぁ~」
「むしろ何故黙ってたんですか! 今回は厳しめの罰を与えますからね!」

 ほっぺをつんつんする刑に処す!
 むいむい。
 や、やわらかい……マシュマロ。

「ですから罰がゲロ甘なんですって。俺が手本を見せますよ」
「クリアさんはこっち来な、ぎゅわあああっ」

 少年の足首を左右の脇に挟むと、ぐるんぐるんと振り回し始めた。ジャイアントスイング。
 手加減しているので「あーれーおたすけー」と可愛い声が通り過ぎては戻ってくる。見ている側はほほ笑ましいがやられている側は結構きつい。ロイツは解放されたあと、地面にべっちゃり倒れていた。

「うぐぐぐぐ……」
「このくらいやらないと罰になりませんよ!」
「罰で体力使いたくなくて」

 膝にロイツが縋りついてくる。

「おえっぷ……。クリアさんが虐める! レムナント様。どっかやってくださいよ!」

 汗ばむ桃色の髪を撫でる。

「休んだらさっさと『スクリーン』に戻りますよ。私はレベルを上げたいのです」

 汗を拭き終え、服を着直したクリアが隣にしゃがむ。

「そんな焦らなくとも。白ランクにしてはレベル高い方だぜ?」

 べしべしとロイツの突き出した尻を叩いているクリアの手を「やめなさい」と払う。

「私は、早く強くなりたくて……」
「……」
「いたいです~」

 ロイツの尻の肉を摘んでいるクリアの頬を「やめなさいと言ってるでしょ」と摘む。

「ほーん? それならどんどんモンスター退治をしないと、だな」
「ええ。さ。そろそろ行きましょう。休みすぎました」

 早足で行ってしまう後ろ姿を見ながら、クリアたちものそのそと移動する。

「レムナント様は何を目指しているんでしょう?」
「……」

 クリアは何も答えずに追いかけた。


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