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肆意
15 健康チェック
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🌙
洋館の地下室。
階段を下りてきたヴァッサーが床、壁、天井を、記憶をたどるように眺めている。……そのおばあちゃんにしがみついているちびっ子たち。歩きにくそうだ羨ましいそこ代われよ。
「ずいぶんと変わった気がするね」
「元はただの拷問部屋だったからなー」
使わなくなったので子どもたちに悪戯、お仕置きという名の調教、躾するための部屋とすることにした。我ながらもっと可愛さ重視のお部屋にリフォームしたいのだが、ここに入った子どもたちの怖がる顔が可愛いのでやめた。現に唯一おばあちゃんではなくエイオットの肩に手を置いているムギは真っ青だ。んんーっ。かわゆのう。
「ここが必要なくなったのはあの子のおかげかい……?」
「そう……だな。アゲハが便利有能すぎるのは認めよう。いちいち詳しい奴をとっ捕まえる必要が減ったというか」
地球に帰れる(絶対ではないが試すしかない)方法が判明してからというもの、俺がまだ手に入れていない種族や『幻獣種』の情報を搾り取るために大変だった。何しろ世界は広い。俺ひとりじゃ到底不可能だ。いや、成し遂げて見せるけど、何百年かかるかどうか。
あと、必要な種族は……この世界に何種類の獣人蟲人がいるのかすら判明してない。こればっかりは魔王様も「知るか」だった。ですよね。魔王は魔族の守護神のような存在だ。他種族を気にかけたりしない。それでも洋館内がぎくしゃくしないのは、「魔王」ではなく「ごっちん」でいてくれているからだ。
俺が今まで手に入れた獣人(子ども)リストを見たヴァッサー曰く。
『あと四種類くらいだと思うねぇ……。でもその一種類は随分と昔に滅びたって聞くから、三種類か』
『こっちの世界でも絶滅は止まらないものなのだな』
『……は?』
『おごごなんでもない! ありがとう』
リストを引っ手繰り、お礼に砕宝糖(さいほうとう)詰め合わせ箱を渡しておいた。琥珀糖と同じでキラキラして美しいお菓子だ。おばあちゃんの好物。
残りの種族はほぼ幻獣種だった。
っかー! 気が遠くなるぜ。正直、初っ端に龍人とここ最近で狸獣人と黒鳥人が見つかったの、奇跡だと思っているから。やべぇわ。一生分の奇跡を使い果たしたかもしれん。……構うものか。
たとえ神でも、俺の歩みは止められんぞ。
まぶたの裏に浮かぶ愛しい顔。目を開けて一旦その面影を消し、眼前の獣人たちを見つめる。獣の特徴を備えた子どもたち。
「うふふ~。可愛いねぇー。さ、皆でム」
言葉の途中なのにエイオットが飛びついてきた。ぎゅうぎゅうと抱きつき、頬を擦りつけてくる。やわらかくてあったかくて、ぐぐ苦しいくるじい!
盾がなくなったムギはおろおろとしている。
エイオットは抱きついたままぶんぶんと振り回し(俺を)、気が済むとようやく解放してくれた。すっきりした表情をしている。俺と違って。
「ど、どうしたんだい? エイオッうぷっ」
「くっつきたくなっただけー」
両手を後ろで握り合わせ、にっと笑ってくる。白い歯が眩しい。
かっ…………わいいな、おい! くっつきたくなっただけって。ふふっ。いつでもいいからね? ぐふふ。
「キモイねぇ」
「あんだと!」
ぎっと睨んでから、ゴホンと咳払い。仕切り直す。
「エイオットとアクア、ファイアはここに来たことあるよね? 覚えてるかな?」
アクアがビシッと俺を指差す。
「覚えてるぞ! そうだ。おま……ごすじんこの野郎! よくもやりやがったな。ファイアと引き離しただけでなく、宙づりにしやがってえええ~。ファイアも何か言ってやれ」
「たのちかったね?」
「そうだぞ! たのしか……っあれ?」
「?」
ぽかんとするアクアと、きょとんとするファイア。んっふふ。
ファイアにとってはいい思い出のようだね。
ハテナを浮かべながら片割れの頬を両手で挟んでぽよぽよしているアクアを見てから、ヴァッサーが目線を寄こしてくる。なんか言いたげだなぁあ?
「覚えてるよー?」
エイオットが手をあげ、ムギは控えめに黒ローブを摘んでいる。だからなんでそんなに懐かれるの早いんだよおばあちゃんよおお!
「ふふふ。ムギちゃんも命の危機を脱するほど肥えてきたし? 健康チェックしないとね」
「命の危機を脱する程度の脂肪」なので、まだまだ細っこい。特に乱暴に引き抜かれた黒翼は痛みが激しく、不揃いで飛行は出来ないままだ。だが心配はしていない。キャットの栄養豊富飯を食べ続けていれば、羽もそのうち回復すると見込んでいる。万が一、飛べない未来が待っていたとしても、変わらない未来がひとつだけあるから安心しろ。
「健康チェック、ですか? そういえばわたし。ここにきてから、全然咳をしなくなったんです」
ムギちゃんが喉を摩っている。ムギちゃん本人には教えてなかったっけ。俺が勝手に治したこと。……またヴァッサーに「言葉が足らない」って叱られる。
「ムギちゃん。きみは自分がなんの病にかかっていたのか、知っているかい?」
「え……? 病にかかってたんですか⁉ 妙に咳き込むとは思ってましたが……」
ムギちゃんが患っていたのは「ハイエン」と呼ばれる病。前世の肺炎と名前が同じ過ぎて、初めて知った時は驚いたが似ているようで違う病だ。
免疫が落ちている者がかかりやすく、咳、発熱、頭痛、手足のまひ。しかも空気感染しやすく、小さな村など一日で蔓延してしまう感染力を持つ(蟲人獣人の村は除く)。
余談だが。この世界の病や怪我は回復薬がぶ飲みで治ってしまう。そのため、俺がビビるほど医療医学が発達していない。
蟲人は病への耐性が高く、獣人は身体が丈夫で、小さな怪我なら一日で治る。一番身体が雑魚い人族が多く住むエリアはそこそこ進んでいるところも見かけたが、日本とは比べることも出来なかった。下手に豊かな国から転生するもんじゃないな。したくてしたわけでは無いが。
ムギちゃんのハイエンは重症化していた。丈夫な獣人からすれば重症化は珍しいことだが、それだけ弱っていたのだ。クロスさまが命の糸を繋いでくれた。
医療が発達していないと言うことは、病への理解度も低いと言うこと。大きな街であっても「病」は「呪い」だと信じられ、それを払うことのできる呪術師が権力を握っているところもある。
俺は自分の子どもたちに―ー俺が素人なので―ー最低限の医療知識を叩き込むようにしている。
いま、ムギちゃんが「呪いにかかっていた」ではなく「病にかかっていた」と言ってくれてホッとした。あの里は天から贔屓されまくった(嫉妬)聡明そうな長が仕切っていたもんな。多少の知識はあったか。
「ああそうだ。咳が出て辛かっただろう?」
「はい……」
胸を押さえ頷くムギの背中を、よく分かってない顔でエイオットが摩っている。んんんなんて優しいんだ。その愛情が世界を救う。
「なんだ苦しいのか?」
「よしよし……」
双子もムギを撫でだした。うつむいちゃうムギの頬が染まる。可愛いが可愛いをしている。
「お前の元で暮らしているとは思えないほど、いい子たちだね……」
「言いたいことは分かるが胸に仕舞っておけ。この子たちはこれまでの境遇が、酷かったからな。確かにグレ……性格が歪んだりねじ曲がったりしてもおかしくはなかった、かな」
「……? お前自身もどうしてこの子たちが優しい性格に育ったのか、把握してないのかい?」
「この俺を見くびるなよ? 俺に子育ての自信などないわ!」
ヴァッサーがこっちを見てくれなくなった。よしよしし合っている子どもたちを見ている。
拷問器具に腰掛け、ヴァッサーは子どもたちと目線を合わせる。
「あんたたち……。この変……こいつに『他者には優しくしろ』とでも、教わったのかい?」
飛んできたクッションを受け止め、おばあちゃんはそれを尻に敷く。
エイオットはムギを抱きしめたままピコピコっと耳を揺らす。ムギちゃん真っ赤になってるよ。
「言われてないよー?」
「じゃあ、どうして他者に優しくするんだい?」
「してないよ? 優しくないもん。おれ」
アクアとファイアだけでなく、ムギちゃんまでエイオットを見上げている。俺も見ている。
「そうかい? ……じゃあどうしてその羽の子の背中を摩ってあげたんだい?」
「? 大人ごしゅじんさまがゴミ箱抱えてた時、背中摩ってって言ったから。こうすると楽になるのかな、って思って」
全員でこっちを見るな。頬が緩むほど可愛いから許そう。
「わたしは……。エイオットさまは、お優しい方だと思っております」
「そうかな~? 優しいって、よく分かってなくて」
見つめ合っている二人。背中押して事故ちゅーさせたい。
そんな妄想をしていると、くるっとエイオットの首がこちらを向く。
「ごしゅじんさま。優しいって何?」
「うぐ」
哲学的な質問が飛んできた。そうだな~。人によって違うと流すのは簡単だが、俺の思う「優しい」とは、でも伝えておこうかな。
「優しさは愛で、時に愛ではない」
「「「「?」」」」
ヴァッサーを除く全員が見事に目を点としたが、俺はこうだと思っている。押しつけるつもりはない。あくまで俺の思う「優しい」「優しさ」だ。
人生経験の長いおばあちゃんは顎を撫でる。
「言いたいことはなんとなく分かるよ」
「そうか」
「ただ、あんたの口からまともな言葉がでるとキショイね……。慰謝料払ってほしいよ」
はっはっはっ。おいおいあまり調子に乗るなよ。泣くぞ?
「愛なの?」
そろそろムギちゃん放してあげて。
「俺の思う優しさは、な。これを鵜呑みにしないでくれ。人生の中で、自分で見つけていってほしい」
「優しいって、見つかるの? 落ちてるものなの?」
「……ヴァッサー助けてくれ早く」
「あんたが親だろ。子どもの『何故何期』くらい乗り越えな、自力で」
そ、そうだ。今まで「自分の疑問が解消されるまで永遠に質問を続けてきた子」がいたじゃないか。あれはあれで。血反吐吐いて本を読み漁ったが、楽しかった。
エイオットの頭をポンポンする。
「見つからなくても気にするな。見つけようとするエイオットの心が好きだ」
「……んーよく分かんないけど、大人になれば見つかるかな?」
「そうそう。焦らなくていい」
例えジジイになろうと、生きている限り人生これからだ。
「おれは優しくないけど、ムギちゃんのことだいすき~」
「ほっ⁉ えええエイオットさま!」
ぎゅう~と抱きしめている。バッサバッサと黒い羽が荒ぶり、風が天井の鎖を揺らす。
アクアとファイアを羨ましそうに見ていたもんね。
「なんだよ! 俺らのことは好きじゃないのかよ」
「むすう……」
ファイアと手を繋いだアクアが狐尾をツンツンしてくる。ファイアはツンツンしないが、むすっとした目で見上げてくる。
笑顔のエイオットはまとめて抱きしめた。
「もちろんだいすきだよ~」
「むぎゅうう」
「うぎゅうう」
ちょっと子どもたちのレベルをエイオットに合わせた方がいいかもしれん。ほっぺが潰れている。可愛いからいいか。
「はい。ではムギちゃんで遊、健康チェックしようかな」
エイオットがムギを放して双子を抱きしめた瞬間を狙い、鎖が襲い掛かる。
「え、なに?」
怯えたムギが身を竦めた途端、鎖が弾き飛ばされた。凄まじい勢いで天井に突き刺さり、沈黙する。
洋館の地下室。
階段を下りてきたヴァッサーが床、壁、天井を、記憶をたどるように眺めている。……そのおばあちゃんにしがみついているちびっ子たち。歩きにくそうだ羨ましいそこ代われよ。
「ずいぶんと変わった気がするね」
「元はただの拷問部屋だったからなー」
使わなくなったので子どもたちに悪戯、お仕置きという名の調教、躾するための部屋とすることにした。我ながらもっと可愛さ重視のお部屋にリフォームしたいのだが、ここに入った子どもたちの怖がる顔が可愛いのでやめた。現に唯一おばあちゃんではなくエイオットの肩に手を置いているムギは真っ青だ。んんーっ。かわゆのう。
「ここが必要なくなったのはあの子のおかげかい……?」
「そう……だな。アゲハが便利有能すぎるのは認めよう。いちいち詳しい奴をとっ捕まえる必要が減ったというか」
地球に帰れる(絶対ではないが試すしかない)方法が判明してからというもの、俺がまだ手に入れていない種族や『幻獣種』の情報を搾り取るために大変だった。何しろ世界は広い。俺ひとりじゃ到底不可能だ。いや、成し遂げて見せるけど、何百年かかるかどうか。
あと、必要な種族は……この世界に何種類の獣人蟲人がいるのかすら判明してない。こればっかりは魔王様も「知るか」だった。ですよね。魔王は魔族の守護神のような存在だ。他種族を気にかけたりしない。それでも洋館内がぎくしゃくしないのは、「魔王」ではなく「ごっちん」でいてくれているからだ。
俺が今まで手に入れた獣人(子ども)リストを見たヴァッサー曰く。
『あと四種類くらいだと思うねぇ……。でもその一種類は随分と昔に滅びたって聞くから、三種類か』
『こっちの世界でも絶滅は止まらないものなのだな』
『……は?』
『おごごなんでもない! ありがとう』
リストを引っ手繰り、お礼に砕宝糖(さいほうとう)詰め合わせ箱を渡しておいた。琥珀糖と同じでキラキラして美しいお菓子だ。おばあちゃんの好物。
残りの種族はほぼ幻獣種だった。
っかー! 気が遠くなるぜ。正直、初っ端に龍人とここ最近で狸獣人と黒鳥人が見つかったの、奇跡だと思っているから。やべぇわ。一生分の奇跡を使い果たしたかもしれん。……構うものか。
たとえ神でも、俺の歩みは止められんぞ。
まぶたの裏に浮かぶ愛しい顔。目を開けて一旦その面影を消し、眼前の獣人たちを見つめる。獣の特徴を備えた子どもたち。
「うふふ~。可愛いねぇー。さ、皆でム」
言葉の途中なのにエイオットが飛びついてきた。ぎゅうぎゅうと抱きつき、頬を擦りつけてくる。やわらかくてあったかくて、ぐぐ苦しいくるじい!
盾がなくなったムギはおろおろとしている。
エイオットは抱きついたままぶんぶんと振り回し(俺を)、気が済むとようやく解放してくれた。すっきりした表情をしている。俺と違って。
「ど、どうしたんだい? エイオッうぷっ」
「くっつきたくなっただけー」
両手を後ろで握り合わせ、にっと笑ってくる。白い歯が眩しい。
かっ…………わいいな、おい! くっつきたくなっただけって。ふふっ。いつでもいいからね? ぐふふ。
「キモイねぇ」
「あんだと!」
ぎっと睨んでから、ゴホンと咳払い。仕切り直す。
「エイオットとアクア、ファイアはここに来たことあるよね? 覚えてるかな?」
アクアがビシッと俺を指差す。
「覚えてるぞ! そうだ。おま……ごすじんこの野郎! よくもやりやがったな。ファイアと引き離しただけでなく、宙づりにしやがってえええ~。ファイアも何か言ってやれ」
「たのちかったね?」
「そうだぞ! たのしか……っあれ?」
「?」
ぽかんとするアクアと、きょとんとするファイア。んっふふ。
ファイアにとってはいい思い出のようだね。
ハテナを浮かべながら片割れの頬を両手で挟んでぽよぽよしているアクアを見てから、ヴァッサーが目線を寄こしてくる。なんか言いたげだなぁあ?
「覚えてるよー?」
エイオットが手をあげ、ムギは控えめに黒ローブを摘んでいる。だからなんでそんなに懐かれるの早いんだよおばあちゃんよおお!
「ふふふ。ムギちゃんも命の危機を脱するほど肥えてきたし? 健康チェックしないとね」
「命の危機を脱する程度の脂肪」なので、まだまだ細っこい。特に乱暴に引き抜かれた黒翼は痛みが激しく、不揃いで飛行は出来ないままだ。だが心配はしていない。キャットの栄養豊富飯を食べ続けていれば、羽もそのうち回復すると見込んでいる。万が一、飛べない未来が待っていたとしても、変わらない未来がひとつだけあるから安心しろ。
「健康チェック、ですか? そういえばわたし。ここにきてから、全然咳をしなくなったんです」
ムギちゃんが喉を摩っている。ムギちゃん本人には教えてなかったっけ。俺が勝手に治したこと。……またヴァッサーに「言葉が足らない」って叱られる。
「ムギちゃん。きみは自分がなんの病にかかっていたのか、知っているかい?」
「え……? 病にかかってたんですか⁉ 妙に咳き込むとは思ってましたが……」
ムギちゃんが患っていたのは「ハイエン」と呼ばれる病。前世の肺炎と名前が同じ過ぎて、初めて知った時は驚いたが似ているようで違う病だ。
免疫が落ちている者がかかりやすく、咳、発熱、頭痛、手足のまひ。しかも空気感染しやすく、小さな村など一日で蔓延してしまう感染力を持つ(蟲人獣人の村は除く)。
余談だが。この世界の病や怪我は回復薬がぶ飲みで治ってしまう。そのため、俺がビビるほど医療医学が発達していない。
蟲人は病への耐性が高く、獣人は身体が丈夫で、小さな怪我なら一日で治る。一番身体が雑魚い人族が多く住むエリアはそこそこ進んでいるところも見かけたが、日本とは比べることも出来なかった。下手に豊かな国から転生するもんじゃないな。したくてしたわけでは無いが。
ムギちゃんのハイエンは重症化していた。丈夫な獣人からすれば重症化は珍しいことだが、それだけ弱っていたのだ。クロスさまが命の糸を繋いでくれた。
医療が発達していないと言うことは、病への理解度も低いと言うこと。大きな街であっても「病」は「呪い」だと信じられ、それを払うことのできる呪術師が権力を握っているところもある。
俺は自分の子どもたちに―ー俺が素人なので―ー最低限の医療知識を叩き込むようにしている。
いま、ムギちゃんが「呪いにかかっていた」ではなく「病にかかっていた」と言ってくれてホッとした。あの里は天から贔屓されまくった(嫉妬)聡明そうな長が仕切っていたもんな。多少の知識はあったか。
「ああそうだ。咳が出て辛かっただろう?」
「はい……」
胸を押さえ頷くムギの背中を、よく分かってない顔でエイオットが摩っている。んんんなんて優しいんだ。その愛情が世界を救う。
「なんだ苦しいのか?」
「よしよし……」
双子もムギを撫でだした。うつむいちゃうムギの頬が染まる。可愛いが可愛いをしている。
「お前の元で暮らしているとは思えないほど、いい子たちだね……」
「言いたいことは分かるが胸に仕舞っておけ。この子たちはこれまでの境遇が、酷かったからな。確かにグレ……性格が歪んだりねじ曲がったりしてもおかしくはなかった、かな」
「……? お前自身もどうしてこの子たちが優しい性格に育ったのか、把握してないのかい?」
「この俺を見くびるなよ? 俺に子育ての自信などないわ!」
ヴァッサーがこっちを見てくれなくなった。よしよしし合っている子どもたちを見ている。
拷問器具に腰掛け、ヴァッサーは子どもたちと目線を合わせる。
「あんたたち……。この変……こいつに『他者には優しくしろ』とでも、教わったのかい?」
飛んできたクッションを受け止め、おばあちゃんはそれを尻に敷く。
エイオットはムギを抱きしめたままピコピコっと耳を揺らす。ムギちゃん真っ赤になってるよ。
「言われてないよー?」
「じゃあ、どうして他者に優しくするんだい?」
「してないよ? 優しくないもん。おれ」
アクアとファイアだけでなく、ムギちゃんまでエイオットを見上げている。俺も見ている。
「そうかい? ……じゃあどうしてその羽の子の背中を摩ってあげたんだい?」
「? 大人ごしゅじんさまがゴミ箱抱えてた時、背中摩ってって言ったから。こうすると楽になるのかな、って思って」
全員でこっちを見るな。頬が緩むほど可愛いから許そう。
「わたしは……。エイオットさまは、お優しい方だと思っております」
「そうかな~? 優しいって、よく分かってなくて」
見つめ合っている二人。背中押して事故ちゅーさせたい。
そんな妄想をしていると、くるっとエイオットの首がこちらを向く。
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「うぐ」
哲学的な質問が飛んできた。そうだな~。人によって違うと流すのは簡単だが、俺の思う「優しい」とは、でも伝えておこうかな。
「優しさは愛で、時に愛ではない」
「「「「?」」」」
ヴァッサーを除く全員が見事に目を点としたが、俺はこうだと思っている。押しつけるつもりはない。あくまで俺の思う「優しい」「優しさ」だ。
人生経験の長いおばあちゃんは顎を撫でる。
「言いたいことはなんとなく分かるよ」
「そうか」
「ただ、あんたの口からまともな言葉がでるとキショイね……。慰謝料払ってほしいよ」
はっはっはっ。おいおいあまり調子に乗るなよ。泣くぞ?
「愛なの?」
そろそろムギちゃん放してあげて。
「俺の思う優しさは、な。これを鵜呑みにしないでくれ。人生の中で、自分で見つけていってほしい」
「優しいって、見つかるの? 落ちてるものなの?」
「……ヴァッサー助けてくれ早く」
「あんたが親だろ。子どもの『何故何期』くらい乗り越えな、自力で」
そ、そうだ。今まで「自分の疑問が解消されるまで永遠に質問を続けてきた子」がいたじゃないか。あれはあれで。血反吐吐いて本を読み漁ったが、楽しかった。
エイオットの頭をポンポンする。
「見つからなくても気にするな。見つけようとするエイオットの心が好きだ」
「……んーよく分かんないけど、大人になれば見つかるかな?」
「そうそう。焦らなくていい」
例えジジイになろうと、生きている限り人生これからだ。
「おれは優しくないけど、ムギちゃんのことだいすき~」
「ほっ⁉ えええエイオットさま!」
ぎゅう~と抱きしめている。バッサバッサと黒い羽が荒ぶり、風が天井の鎖を揺らす。
アクアとファイアを羨ましそうに見ていたもんね。
「なんだよ! 俺らのことは好きじゃないのかよ」
「むすう……」
ファイアと手を繋いだアクアが狐尾をツンツンしてくる。ファイアはツンツンしないが、むすっとした目で見上げてくる。
笑顔のエイオットはまとめて抱きしめた。
「もちろんだいすきだよ~」
「むぎゅうう」
「うぎゅうう」
ちょっと子どもたちのレベルをエイオットに合わせた方がいいかもしれん。ほっぺが潰れている。可愛いからいいか。
「はい。ではムギちゃんで遊、健康チェックしようかな」
エイオットがムギを放して双子を抱きしめた瞬間を狙い、鎖が襲い掛かる。
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