全種族の男の子、コンプリートを目指す魔女っ娘♂のお話

水無月

文字の大きさ
88 / 189
肆意

15 健康チェック

しおりを挟む
🌙










 洋館の地下室。
 階段を下りてきたヴァッサーが床、壁、天井を、記憶をたどるように眺めている。……そのおばあちゃんにしがみついているちびっ子たち。歩きにくそうだ羨ましいそこ代われよ。

「ずいぶんと変わった気がするね」
「元はただの拷問部屋だったからなー」

 使わなくなったので子どもたちに悪戯、お仕置きという名の調教、躾するための部屋とすることにした。我ながらもっと可愛さ重視のお部屋にリフォームしたいのだが、ここに入った子どもたちの怖がる顔が可愛いのでやめた。現に唯一おばあちゃんではなくエイオットの肩に手を置いているムギは真っ青だ。んんーっ。かわゆのう。

「ここが必要なくなったのはあの子のおかげかい……?」
「そう……だな。アゲハが便利有能すぎるのは認めよう。いちいち詳しい奴をとっ捕まえる必要が減ったというか」

 地球に帰れる(絶対ではないが試すしかない)方法が判明してからというもの、俺がまだ手に入れていない種族や『幻獣種』の情報を搾り取るために大変だった。何しろ世界は広い。俺ひとりじゃ到底不可能だ。いや、成し遂げて見せるけど、何百年かかるかどうか。
 あと、必要な種族は……この世界に何種類の獣人蟲人がいるのかすら判明してない。こればっかりは魔王様も「知るか」だった。ですよね。魔王は魔族の守護神のような存在だ。他種族を気にかけたりしない。それでも洋館内がぎくしゃくしないのは、「魔王」ではなく「ごっちん」でいてくれているからだ。

 俺が今まで手に入れた獣人(子ども)リストを見たヴァッサー曰く。

『あと四種類くらいだと思うねぇ……。でもその一種類は随分と昔に滅びたって聞くから、三種類か』
『こっちの世界でも絶滅は止まらないものなのだな』
『……は?』
『おごごなんでもない! ありがとう』

 リストを引っ手繰り、お礼に砕宝糖(さいほうとう)詰め合わせ箱を渡しておいた。琥珀糖と同じでキラキラして美しいお菓子だ。おばあちゃんの好物。
 残りの種族はほぼ幻獣種だった。
 っかー! 気が遠くなるぜ。正直、初っ端に龍人とここ最近で狸獣人と黒鳥人が見つかったの、奇跡だと思っているから。やべぇわ。一生分の奇跡を使い果たしたかもしれん。……構うものか。
 たとえ神でも、俺の歩みは止められんぞ。
 まぶたの裏に浮かぶ愛しい顔。目を開けて一旦その面影を消し、眼前の獣人たちを見つめる。獣の特徴を備えた子どもたち。

「うふふ~。可愛いねぇー。さ、皆でム」

 言葉の途中なのにエイオットが飛びついてきた。ぎゅうぎゅうと抱きつき、頬を擦りつけてくる。やわらかくてあったかくて、ぐぐ苦しいくるじい!

 盾がなくなったムギはおろおろとしている。
 エイオットは抱きついたままぶんぶんと振り回し(俺を)、気が済むとようやく解放してくれた。すっきりした表情をしている。俺と違って。

「ど、どうしたんだい? エイオッうぷっ」
「くっつきたくなっただけー」

 両手を後ろで握り合わせ、にっと笑ってくる。白い歯が眩しい。
 かっ…………わいいな、おい! くっつきたくなっただけって。ふふっ。いつでもいいからね? ぐふふ。

「キモイねぇ」
「あんだと!」

 ぎっと睨んでから、ゴホンと咳払い。仕切り直す。

「エイオットとアクア、ファイアはここに来たことあるよね? 覚えてるかな?」

 アクアがビシッと俺を指差す。

「覚えてるぞ! そうだ。おま……ごすじんこの野郎! よくもやりやがったな。ファイアと引き離しただけでなく、宙づりにしやがってえええ~。ファイアも何か言ってやれ」
「たのちかったね?」
「そうだぞ! たのしか……っあれ?」
「?」

 ぽかんとするアクアと、きょとんとするファイア。んっふふ。
 ファイアにとってはいい思い出のようだね。
 ハテナを浮かべながら片割れの頬を両手で挟んでぽよぽよしているアクアを見てから、ヴァッサーが目線を寄こしてくる。なんか言いたげだなぁあ?

「覚えてるよー?」

 エイオットが手をあげ、ムギは控えめに黒ローブを摘んでいる。だからなんでそんなに懐かれるの早いんだよおばあちゃんよおお!

「ふふふ。ムギちゃんも命の危機を脱するほど肥えてきたし? 健康チェックしないとね」

 「命の危機を脱する程度の脂肪」なので、まだまだ細っこい。特に乱暴に引き抜かれた黒翼は痛みが激しく、不揃いで飛行は出来ないままだ。だが心配はしていない。キャットの栄養豊富飯を食べ続けていれば、羽もそのうち回復すると見込んでいる。万が一、飛べない未来が待っていたとしても、変わらない未来がひとつだけあるから安心しろ。

「健康チェック、ですか? そういえばわたし。ここにきてから、全然咳をしなくなったんです」

 ムギちゃんが喉を摩っている。ムギちゃん本人には教えてなかったっけ。俺が勝手に治したこと。……またヴァッサーに「言葉が足らない」って叱られる。

「ムギちゃん。きみは自分がなんの病にかかっていたのか、知っているかい?」
「え……? 病にかかってたんですか⁉ 妙に咳き込むとは思ってましたが……」

 ムギちゃんが患っていたのは「ハイエン」と呼ばれる病。前世の肺炎と名前が同じ過ぎて、初めて知った時は驚いたが似ているようで違う病だ。
 免疫が落ちている者がかかりやすく、咳、発熱、頭痛、手足のまひ。しかも空気感染しやすく、小さな村など一日で蔓延してしまう感染力を持つ(蟲人獣人の村は除く)。

 余談だが。この世界の病や怪我は回復薬がぶ飲みで治ってしまう。そのため、俺がビビるほど医療医学が発達していない。
 蟲人は病への耐性が高く、獣人は身体が丈夫で、小さな怪我なら一日で治る。一番身体が雑魚い人族が多く住むエリアはそこそこ進んでいるところも見かけたが、日本とは比べることも出来なかった。下手に豊かな国から転生するもんじゃないな。したくてしたわけでは無いが。
 ムギちゃんのハイエンは重症化していた。丈夫な獣人からすれば重症化は珍しいことだが、それだけ弱っていたのだ。クロスさまが命の糸を繋いでくれた。

 医療が発達していないと言うことは、病への理解度も低いと言うこと。大きな街であっても「病」は「呪い」だと信じられ、それを払うことのできる呪術師が権力を握っているところもある。
 俺は自分の子どもたちに―ー俺が素人なので―ー最低限の医療知識を叩き込むようにしている。
 いま、ムギちゃんが「呪いにかかっていた」ではなく「病にかかっていた」と言ってくれてホッとした。あの里は天から贔屓されまくった(嫉妬)聡明そうな長が仕切っていたもんな。多少の知識はあったか。

「ああそうだ。咳が出て辛かっただろう?」
「はい……」

 胸を押さえ頷くムギの背中を、よく分かってない顔でエイオットが摩っている。んんんなんて優しいんだ。その愛情が世界を救う。

「なんだ苦しいのか?」
「よしよし……」

 双子もムギを撫でだした。うつむいちゃうムギの頬が染まる。可愛いが可愛いをしている。

「お前の元で暮らしているとは思えないほど、いい子たちだね……」
「言いたいことは分かるが胸に仕舞っておけ。この子たちはこれまでの境遇が、酷かったからな。確かにグレ……性格が歪んだりねじ曲がったりしてもおかしくはなかった、かな」
「……? お前自身もどうしてこの子たちが優しい性格に育ったのか、把握してないのかい?」
「この俺を見くびるなよ? 俺に子育ての自信などないわ!」

 ヴァッサーがこっちを見てくれなくなった。よしよしし合っている子どもたちを見ている。
 拷問器具に腰掛け、ヴァッサーは子どもたちと目線を合わせる。

「あんたたち……。この変……こいつに『他者には優しくしろ』とでも、教わったのかい?」

 飛んできたクッションを受け止め、おばあちゃんはそれを尻に敷く。
 エイオットはムギを抱きしめたままピコピコっと耳を揺らす。ムギちゃん真っ赤になってるよ。

「言われてないよー?」
「じゃあ、どうして他者に優しくするんだい?」
「してないよ? 優しくないもん。おれ」

 アクアとファイアだけでなく、ムギちゃんまでエイオットを見上げている。俺も見ている。

「そうかい? ……じゃあどうしてその羽の子の背中を摩ってあげたんだい?」
「? 大人ごしゅじんさまがゴミ箱抱えてた時、背中摩ってって言ったから。こうすると楽になるのかな、って思って」

 全員でこっちを見るな。頬が緩むほど可愛いから許そう。

「わたしは……。エイオットさまは、お優しい方だと思っております」
「そうかな~? 優しいって、よく分かってなくて」

 見つめ合っている二人。背中押して事故ちゅーさせたい。
 そんな妄想をしていると、くるっとエイオットの首がこちらを向く。

「ごしゅじんさま。優しいって何?」
「うぐ」

 哲学的な質問が飛んできた。そうだな~。人によって違うと流すのは簡単だが、俺の思う「優しい」とは、でも伝えておこうかな。

「優しさは愛で、時に愛ではない」
「「「「?」」」」

 ヴァッサーを除く全員が見事に目を点としたが、俺はこうだと思っている。押しつけるつもりはない。あくまで俺の思う「優しい」「優しさ」だ。
 人生経験の長いおばあちゃんは顎を撫でる。

「言いたいことはなんとなく分かるよ」
「そうか」
「ただ、あんたの口からまともな言葉がでるとキショイね……。慰謝料払ってほしいよ」

 はっはっはっ。おいおいあまり調子に乗るなよ。泣くぞ?

「愛なの?」

 そろそろムギちゃん放してあげて。

「俺の思う優しさは、な。これを鵜呑みにしないでくれ。人生の中で、自分で見つけていってほしい」
「優しいって、見つかるの? 落ちてるものなの?」
「……ヴァッサー助けてくれ早く」
「あんたが親だろ。子どもの『何故何期』くらい乗り越えな、自力で」

 そ、そうだ。今まで「自分の疑問が解消されるまで永遠に質問を続けてきた子」がいたじゃないか。あれはあれで。血反吐吐いて本を読み漁ったが、楽しかった。
 エイオットの頭をポンポンする。

「見つからなくても気にするな。見つけようとするエイオットの心が好きだ」
「……んーよく分かんないけど、大人になれば見つかるかな?」
「そうそう。焦らなくていい」

 例えジジイになろうと、生きている限り人生これからだ。

「おれは優しくないけど、ムギちゃんのことだいすき~」
「ほっ⁉ えええエイオットさま!」

 ぎゅう~と抱きしめている。バッサバッサと黒い羽が荒ぶり、風が天井の鎖を揺らす。
 アクアとファイアを羨ましそうに見ていたもんね。

「なんだよ! 俺らのことは好きじゃないのかよ」
「むすう……」

 ファイアと手を繋いだアクアが狐尾をツンツンしてくる。ファイアはツンツンしないが、むすっとした目で見上げてくる。
 笑顔のエイオットはまとめて抱きしめた。

「もちろんだいすきだよ~」
「むぎゅうう」
「うぎゅうう」

 ちょっと子どもたちのレベルをエイオットに合わせた方がいいかもしれん。ほっぺが潰れている。可愛いからいいか。

「はい。ではムギちゃんで遊、健康チェックしようかな」

 エイオットがムギを放して双子を抱きしめた瞬間を狙い、鎖が襲い掛かる。

「え、なに?」

 怯えたムギが身を竦めた途端、鎖が弾き飛ばされた。凄まじい勢いで天井に突き刺さり、沈黙する。


しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜

春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、 癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!? トラブルを避ける為、夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)。 彼は見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい穏健派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!? 
他にも幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良だけど面倒見のいい悪友ワーウルフ(同級生)まで……なぜか異種族イケメンたちが次々と接近してきて―― 運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない! 恋愛感情もまだわからない! 
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。 個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!? 
甘くて可笑しい、そして時々執着も見え隠れする 愛され体質な主人公の青春ファンタジー学園BLラブコメディ! 月、水、金、日曜日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新) 基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

弟がガチ勢すぎて愛が重い~魔王の座をささげられたんだけど、どうしたらいい?~

マツヲ。
BL
久しぶりに会った弟は、現魔王の長兄への謀反を企てた張本人だった。 王家を恨む弟の気持ちを知る主人公は死を覚悟するものの、なぜかその弟は王の座を捧げてきて……。 というヤンデレ弟×良識派の兄の話が読みたくて書いたものです。 この先はきっと弟にめっちゃ執着されて、おいしく食われるにちがいない。

処理中です...