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肆意
16 ムギが拒めないもの
しおりを挟む「「「……」」」
子どもたちが口を開けて鎖を見上げている。
流石赤目の黒鳥人だ。子どもとは言え魔法を跳ね返すことができるとは。クロスさまが相棒に選んだだけあり、素質十分だな。
「素晴らしい。ムギちゃん。魔法を使ったことはあるかね?」
「まほう……? 無いです」
だろうな。ムギちゃんは罪人で生贄の子だったんだ。下手に力など付けさせるようなことはしなかったか。
「どうだ。ヴァッサー。この子は鍛えたらお前以上になるかもしれんぞ?」
「そうだね……。魔力量だけなら、すでにこの子の方が勝っているだろうしねぇ……」
おばあちゃんの魔力量が極端に少ないってのもあるが。俺以外の目が見ても、ムギちゃんは伸び代でいっぱいだ。もし固有魔法でも持っていたら金ランクも夢ではない。……無理に戦いの道に来なくていいけどさ。
「エイオット。お前の目でムギちゃんを鑑定してやってくれないか?」
「え? ……いいけど」
「鑑定持ち、なのかい?」
「そうだ。エイオットはすごいだろう! はっはっはっ。流石俺の子だあっはっはっは!」
「……」
おばあちゃんに自慢したが無視された。なんでやねん。
「レベルとか固有魔法とかスキルとか。読めなかったら描き映してくれればいい」
「はーい。じゃあ『視』るね」
「は、はい」
分かってなさそうだがムギが頷く。
名前 ムギ
レベル 2
固有魔法 無
スキル 無
エイオットは見たものをクレヨンで紙に書いていく。
「はい。ごしゅじんさま」
「ありがとう。エイオット」
受け取ったものを見るとやはりと言うか、予想通りだった。固有魔法もスキルも、持っている方が珍しい。
ムギが覗き込んでくる。
「あ、あの。それは……?」
「ムギちゃんの……。その前に固有魔法とかスキルとか、知っているかい?」
「?」
ムギだけでなく、アクアとファイアまで「なんだそれ」と首を傾げていた。知っているエイオットは教えてあげたいのか、うずうずしている。
この辺の説明もエイオットに任せ……ちょっと頼りすぎかな。
「あーそうだな。アクアとファイアにも教えておくか」
「おれが?」
「……」
尻尾をふわんふわんと揺らしながら自分を指差している長男。
「任せても良いかな?」
「まっかせてよ!」
目を輝かせている。あああああ可愛いいいい。
なでなでなでなで。
「えへへー」
ちょっと背伸びをしてエイオットの頭を撫でまくる。気を遣って若干屈んでくれている。そういうとこだぞ。きみを優しいと思うのは。
説明を頑張っているエイオットと、ふむふむと聞いている子どもたち。おばあちゃんがすごくほほ笑まし気に見つめている。
「そういえば、ヴァッサー。店の奴隷たちは?」
「ん? ミ……弟子に任せてきたよ」
「弟子?」
おばあちゃんはため息をつく。
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以前行ったときは居なかったから、最近の話か? だからすぐに洋館に来なかったのか。
「優しいお前のことだ。どうせその子が身よりがないとかで憐れになったんだろ」
「見てたように言うじゃないか……。まあね」
「で、その子と種族と年齢と名前は?」
「……」
「未成年な気がする! 俺の未成年センサーが反応しているっ! 言え! 白状しろ」
さっと、視界にもふもふが割って入ってくる。
「喧嘩は駄目だよ!」
「黒ばーに怒鳴るなよ。ちびごすじん!」
「あううう……。いじめ、ないで」
ちびっ子三名がヴァッサーを庇っている。俺の味方は⁉
ちらっとムギを見ると交互に俺とヴァッサーを見たが、そろそろとエイオットの方へ行く。自分の意志をしっかり持っているきみが好き。
「ああんもう。悪かったよ」
金の髪に手を突っ込んでがしがしと掻く。
「だが俺の味方をしなかったことは後悔しろ!」
小さく「泣くんじゃないよ。いい年して」とか聞こえたが関係ないわ! 大人だって泣くときは泣く!
鎖で動きを封じれないのなら、ムギが傷つけられないもので拘束すればいい。
「エイオット! ムギちゃんに『抱きつく』攻撃!」
「えっ?」
「うん。いいよー」
びしっと指を差せば、エイオットがぎゅうとムギを捕獲してくれる。
「エ、エイオットさま⁉ ち、近いです……」
「んー。顔赤くして。かわいい」
「あ、あの……」
最初ほど慌てず抵抗もしなくなってきたムギが、うっとりした表情で大人しく腕の中に納まった。エイオットはキリッとした表情で、キャットがいないのでまだボサっている赤い髪を撫でる。
おおおおおうおうおう。だから、俺が何も指示してないのにいい雰囲気になるなもっとやれ。
シャキンと愛用の筆を取り出す。
「うげ」
びくっとアクアが尻尾の毛を逆立てた。だがどんなに怯えようと、絶対にファイアの後ろに隠れないところは流石の一言だ。
「よーし。覚悟しろムギちゃん。洗礼を受けたまえ」
「せんれい?」
じりじり近寄るとエイオットも俺が何をしたいのか理解したようだ。
「おれにも筆ちょーだい」
などと、素晴らしいことを言ってくる。
「もちろんだとも」
何が始まるのか分からずに「え? え?」と高速で俺とエイオットを見る。アクアはファイアの手を握ると、ヴァッサーの後ろにぴゅうっと身をひそめる。
エイオットにもいくつか筆を渡してやった。これで準備は整った。
「なにを……するんですか? 手伝えることはありますか?」
ムギの性格の良さが出ている。勤勉……違うな。何か役割、やっていないと落ち着かないんだろう。好ましい性格だ。
「今からムギちゃんのこと、こしょこしょするからね」
「な、何故?」
「……」
真っ当な疑問に真顔で言葉に詰まるエイオット。だが、すぐににこっと愛らしい笑みを浮かべる。
「ムギちゃんの可愛い顔が見たいから」
「くすぐっても……わたしは可愛くなど、なりませんよ?」
「それはおれが決めるよ」
「……っ」
俺もたまに言い負かされるから、気持ちは分かるよ。エイオットは常に主語が自分ひとりで主語がでかくならないから、反論できずにうっと詰まるんだよな。
なるべくムギは羽を小さく折り畳む。
「駄目です。くすぐられてもし、暴れてしまったら。お風呂場の時のように、エイオットさまたちをまた、傷つけてしまうかも……」
「じゃあ、じっとしてようね?」
「…………⁉」
ムギが助けを求めてヴァッサーを見るも、おばあちゃんはのんきに毛布にくるまっている。双子は目が合うと出てきてくれた。渋々といった顔だったが。仲間意識がちゃんとあるようで俺は嬉しい。
「おい。嫌がってんだろ」
「いじわる、だめ」
ぺすぺすとふんわり狐尾を叩くアクアに、小さなバッテンを指で作っているファイア。
じっと双子を見たエイオットはムギの肩に両手を置き、真っすぐに目を見つめる。お、やめるのか? とツインズが見守るが、
「嫌なの? ムギちゃん」
「あ、そ、それは」
ムギの耳に、唇を近づける。
「おれに、可愛い姿、見せてくれないの?」
「――ひゅうううううううぅぅ!」
可愛い悲鳴を上げながらムギの腰が砕けた。ぽてんと尻餅をつく。顔は真っ赤でめがぐるぐると回ってしまっている。狐耳を装備した美少年に囁かれるとそうなるよな。
アクアとファイアが「お前の教育のせいだぞ」とでも言いたげな視線を向けてくる。ああん? 完璧な教育(仕込み)だろうが。美少年はエロく妖艶さが滲み出るように育てるのが世界の常識だ!
「はあ」
「ふう」
ツインズにため息つかれた。
目線で会話している子どもたちと変態を、おばあちゃんはほっこりと眺めている。
「ね? くすぐらせてね?」
「あ、いえ、あの、あの」
「ん? なぁに? なんでも言ってね?」
正面に回り、腰抜かしているムギと目線が合うようにしゃがむ。
「い、痛く、しないでくださいね?」
え? 痛くしなかったらいいの? と俺が何か言う前にエイオットが動く。俺本当に何もしてないな。
するりと顎の下に手を入れ、ムギの顔を持ち上げる。
「ぁう」
「うん。絶対に痛いことはしないよ。でももし痛かったら、すぐに言うんだよ? いい?」
「ふぁ、はい……」
後ろからアクアとファイアが覗き込んでいる。俺も。
ムギちゃんの表情がメロメロになっていた。惚れっぽいなぁこの子。顔の良い人にほいほいついて行きそうで怖い。外に出す時は絶対に護衛を付けよう。
ひしっと抱きついてくるムギを抱きしめ返してあげるエイオット。常夜の森で地下なのに朝日が差し込んでいるかのような澄んだ空気。少年たちの戯れは空気をも浄化する。
バニー服双子がぱちぱちとなんとなく拍手している。俺は全力で手を叩いている。ヴァッサーがうるさそうに見てくる。
「じゃ、いい子にしててね」
「はい……」
「床に座ってたら冷たいでしょ? ベッドに運んであげて」
俺がそう言うと、エイオットはひょいとムギを抱き上げた。
「わ!」
「おめー力持ちだよな……。いや俺も出来るけどな!」
「しゅごい」
狸双子に褒められ、エイオットはフフンと胸を張ってベッドに下ろす。
「いっぱい遊ぼうね、ムギちゃん」
「はい。エイオットさま」
おーーーい。俺も混ぜてくれ。
おまけ
主人「みんなはムギちゃんのこと、なんて呼んでるの?」
エイオット「ムギちゃん」
アクア「羽」
ファイア「ムギしゃん……」
主人「アクアはあとで説教ね」
アクア「はあっ?」
エイオット「メッ、でしょ」
つんつん
ファイア「んゆー」
つんつん
アクア「ほっぺツンツンするなぁ!」
ムギ「……」
アクア「なんだよ! 言いたいことあるなら……いつまでツンツンしてんだ!」
エイオット&アクア「「きゃー」」
アクア「えーっとお前なんだっけ?」
ムギ「ムギ、です。アクアさま」
アクア「ムギ。これでいいんだろ!」
主人「あー可愛い」
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