全種族の男の子、コンプリートを目指す魔女っ娘♂のお話

水無月

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豪放磊落

07 真夜中の決着

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🌙












「キャット君。あれは?」
「はあ?」
「あれだよ! お前が使ってたはた迷惑な兵器! なんだっけ……杖だったっけ?」

 主人とキャットは上空から襲ってくる水の竜巻を避けながら山道を移動する。凄まじい速度で回転する水が、岩肌を抉っていく。歯医者さんのドリルが歯を削るように。耳を塞ぎたくなる音がする。
 ハテナを乱舞させていたキャットだが、ようやく思い当たるものが浮かんだのか、ハッとした顔つきになる。

「寒柝……のことか。ふっざけんな! 何が兵器だ。魔王様から頂いた剣だボケが!」
「兵器だろうが。俺の洋館カチンコチンにした衝撃と怒りは忘れてないぞ」

 罵り合いながらシャレにならない威力の水竜巻を躱していく。キャットが目覚めてくれたのは何よりだったが、目を開けると同時に殴られたんですが。なんで?
 洋館を閉じ込めた氷を溶かすのに一日かかったぞ。その次の日に平然と製造者(ごっちん)がやってきたのでよく覚えている。

「あれはお前が悪いんだろうが」
「いいから! その剣は?」

 水使いに対して嫌がらせのような能力が付与してあるあの細剣。あれを使えばシャドーリスの水を止められると思う。
 希望を口にするが、キャットは真顔で言い放った。

「あれなら洋館に置いてきたぞ?」
「???」

 真面目にキャットに斬りかかるところだった。

「なんでだ! 俺が納得できるだけの考えがあってのことなんだろうね⁉」

 大きな岩陰に飛び込むと、一秒前までいた場所が削られていった。水なので砂煙はそこまで上がらないが、飛び散った水に触れてもアウトだ。弾丸並みの威力がある。山の木々が穴ぼこになっていく。ゾッとしない光景だ。

「なんでって……ごっちん様がお残りになられてんだぞ? お守りとして置いてきたに決まってんだろ」
「うんんんんん? あそこにはまだおっさんが残ってたと思うんですけど」

 初代ベリルがいるのだから、最奥のモンスターくらい襲るるに足らず! なはずだろ?
 キャットはシャツの切れ端で邪魔そうに髪を結ぶ。

「そいつから、ごっちん様を守るために魔力込めて置いてきたんだろうが‼」
「なるほど。理解した」

 背後の大岩が砕け散る。
 余裕で飛び退ったキャットと、前に飛んだが顔から転んだ主人を見下ろす水使い。

「おいおーい。つまんねぇぞ。お前ら二人も揃ってこのザマかよ」

 巻き込まないよう村から離れるように動いているが、子どもたちが心配だ。
 トイレに行きたいのに大人たちがおらずに怖がって泣いているかもしれない。そして漏らしていたら最高だ。様子を見に行きたい。
 早くこの野郎を鎮めたいのだが、対シャドーリスみたいな剣がお留守番していたとは。

 キャットと顔の砂を払いながら立ち上がった主人は、同時に息を吐いた。

「もう終わりにしないか……? 疲れたんだけど」
「戦いに来たんじゃありません。シャドーリス様。話し合いの場を用意していただけませんか?」

 顔には疲労の色が濃く出て、白いローブも泥だらけだ。

 どちらも戦いに楽しさを見出し、興奮するタイプではない。
 戦いに楽しさを見出し、興奮するタイプの男は物足りなさげに大剣を担ぐ。

「なんだなんだ。お前らのその強さはなんのためにある? 戦って勝つ! ためだろう」

 ぐっと拳を握っている。彼から目を逸らし、キャットに「きみの兄貴だろなんとかしたまえよ」と目線を送るが、「無茶言うな禿げろ」と返ってきた。そんなに禿げてほしいんか?

「駄目だな……。一度倒すかあの脳筋が納得する力を見せない限り、協力を得られない人物っぽい」
「おお。その通りだ良く分かっているじゃないか……」

 キャットも遠い目をしている。
 そこできみの冷気の剣の出番だろうに。……置いてきてしまったものは仕方がない。俺がやろう。
 何もない空間から杖を取り出し、その手に握る。
 金の杖。
 おびただしい魔力が溢れ出るが、魔族の精鋭たちは少し顔をしかめた程度だった。

「そのキショイ杖。見当たらないと思ったらお前が持っていたのか」
「破壊されちゃたまらんからね。きみに。……どこがキショイんだ言ってみろ」

 このシンプルイズベストな杖が見えんのか。
 俺の魔力を高めてくれる効果もあり、魔力を溜めておく貯蔵庫でもある。普段使わない魔力が勿体ないと思ってな。身体を縮めるときにも多すぎる魔力は邪魔だし。
 俺の強さの源でもある。大人ごっちんにかなり使用したけれど……

 四天王如きを倒すには十分だ。

 主人の言葉にカチンときたらしい魔族が、攻撃魔法を放つ。水の槍を跳んで躱すも、キャットの蹴りが直撃した。背中に。
 水が爆発しなかったところを見るに、息の合った連携だ。

 ……じゃなくて!

「ぐっふ! なんできみまで怒ってんだ! きみ四天王じゃないだろうが! ……ごめんね?」

 このように二対一から三つ巴になってしまうので、言葉には気を付けよう。

(これくらい離れれば『裁き』を撃っても大丈夫か……?)

 『落花星・裁き』。むしゃくしゃしたときに放つとスカッとする、威力と爆発力に振り切った魔法攻撃だ。
 ただ、威力と範囲がでかすぎるので場所は限られる。
 何より困るのが、

(この手のタイプは俺の魔法に合わせて『俺も全力で迎え撃とう』と強魔法を使ってくる可能性が高いことだ)

 あまたの少年漫画を読んできた主人は、そこから相手の行動を予想していた。外れたことがあまりないのだ。……少年漫画恐るべし。
 ここで肝心なのが、相手のテンションを上げないようにすること。つまり――
 速攻。
 砕けた岩の上に立つ相手に、杖を突きつけるように構える。

「落花星・針」
「大いなる水よ! 激流となって地に落ちよ」

 山が、悲鳴を上げた。








 主人の『針』が貫通力に秀でている攻撃だとしたら、シャドーリスの魔法は水を大量に含んだ土石流だ。範囲が広すぎて躱せずに、主人もキャットも貫かれたシャドーリスまで巻き込まれた。
 まったく同時に魔法を使うとは思わなかったんだ……。息が合ってるな。嬉しくないわ。


「ぶはああぁぁ……」

 空中で待機している三日月をなんとか掴むことができた。
 まとわりついてくる泥を蹴とばし、腕の力だけで這い上がる。ローブは水を弾くが、ブーツに入った泥や砂利が最高に気持ち悪いし重い。輝く金の髪も、泥水でぐちゃぐちゃだ。
 三日月の上で正座し、眼下の惨状に顔を歪める。山は完全に形を変えていた。

 このマップ兵器共が! だから高レベルの奴と戦いたくないんだよ。使う魔法がめちゃくちゃだ。

 自分のことは棚上げし、これでもかと心の中で毒づく。

「はっはっはっはっはっ! なんだ。やるではないか」

 暑苦しい声がする。
 顔を向ければ、汚れひとつないシャドーリスが泥の上を歩いてくるところだった。生きているとは思っていたけれど。胸元の服に穴が空いているだけで、皮膚はもう元通り塞がっていた。

「キャット君は……?」

 一面泥の大地。イケメンの姿がない。

「おい! もしかしてキャットって泳げないのか?」

 シャドーリスも探しながら首を横に振る。

「いや? あいつめちゃくちゃ泳げるぞ? 人魚族や海龍を除けば生物で一番速く泳げるかもしれん」

 え、そうなの?
 だからといって泥の中でも自在に、とはいかないはずだ。
 二手に分かれて探せば小川の近くで倒れている人影があった。

「キャット……おあっ」

 気が急いて泥で滑ってしまった。
 三日月から落下した主人は川にドボンする。

「なんだ厄日か?」

 土石流の土砂でせき止められ、水深が浅く流れがゆるやかな川で助かった。ざぶざぶと水から上がる。
 おかげで泥汚れは落ちたが、どんどんみすぼらしくなっていく気がする。
 髪を絞りながら近づけば、やはりうちの執事だった。
 両手で金のモノクルを握っている。これを庇ったせいで逃げ遅れたのか。キャットは完全に熟睡していた。

「……」

 蹴飛ばしてやろうかと思ったがやめた。気持ちは分かる。俺だって眠い。寝ている時間はとうに過ぎている。一番寝るのが遅いキャットでも就寝している時間だ。

 欠伸が出る。

「眠い……。頭動かねー」

 ぐらっと傾くと、三日月にもたれずるずると座り込み、主人もその場で眠りについた。
 小走りで足音が近づいてくる。

「……マジかよ。こいつら」

 のんきに眠った青年ふたりを見下ろし、シャドーリスはあきれ顔で大剣を消した。


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