全種族の男の子、コンプリートを目指す魔女っ娘♂のお話

水無月

文字の大きさ
105 / 189
豪放磊落

08 井戸に落ちたのかと

しおりを挟む
 










 山の形が変わり、村を飲み込むほどの土石流が発生したが……土砂は村に届く直前で不自然に止まっていた。村人がこれを見て、神の怒りだと騒ぐのも無理ないことだろう。エイオット達も外の騒ぎで目を覚ます。

「んうー? まぶしい……」

 くああっと欠伸をして、手の甲をぺろぺろと舐める。くしくしと耳を撫で、ついでに尻尾もぺろぺろしてきれいにする。

「ごしゅじんさまー? おにーちゃん?」

 寝ぼけ切った顔で呼ぶも、返事はない。キャットはともかく、主人は呼べばヌッと現れてくれるのに。

「むううっ。俺が呼んだのに来てくれないなんてぇ!」

 ぷくぅと頬を膨らませる。たしたしとベッドを叩いていると、同じベッドで眠っていたもう一人が身じろぎする。

「……? エイオットさま? おはようございます」
「あ。ムギちゃんおはよう! 起こしちゃった? ごめ……」
「いえ」

 ぼんやり眼のムギが抱きついてきたかと思うと、頬を擦りつけてきた。

「え? なに? えへへ。すべすべで気持ちいいよ」
「んんー」

 エイオットも抱きしめ、背中の羽をもさもさ触っていると、ぴゅうっとムギが離れていった。布団を被り、がたがた震え出す。

「はわわわわわ。なんてことを……」

 寝ぼけていた意識が覚醒し、恥ずかしくなったようだ。

「どうしたのムギちゃん。いまの、もう一回やってよー」
「うぎゅ」

 嬉しくなったエイオットはぼすっと、布団団子になっているムギの上に倒れ込むように乗っかる。
 ムギは暴れかけたが、エイオットがベッドから落ちてはいけないと思い、大人しくなった。
 エイオットがぱたぱた足を動かしていると、窓がノックされた。

「ほよ?」

 狐耳に意識を集中させると、遠くでお兄ちゃんの声もする。
 勢いよく、木の板をはめただけの窓を開くと、くたびれた顔の精霊が手を振っていた。

「大人ごしゅじんさま!」
「えっ?」

 ムギも顔を出し、エイオットと並んで窓から顔を出す。

「おふっ! かわいい……。おはようふたりとも。よく眠れたかい?」
「大人ごしゅじんさま。おはよー。また会いに来てくれたの?」
「お、おはよう、ございます」

 エイオットは今にも窓から出て、抱きついてきそうだ。

「待って。エイオット。ごめん。俺、泥だらけびしょ濡れで。ちょっと水浴びしてくるから」

 それだけ言うと、井戸の方へ歩いて行ってしまう。
 窓から身を引っ込めたエイオットは、ムギの手を握る。

「ムギちゃん。おれたちもお外行こう!」
「は、はい」

 寝間着のまま、てててっと駆け出していく。





「あんまり服持ってないのに、シャツ破きやがって。俺はどうすればいいんですか。マント寄こしやがれシャドーリス様!」
「おい。イケメンの半裸マントとかやめろよ。村人に変な性癖が芽生えたらどうする」
「お前は何言ってんだ」

 あの後。
 シャドーリスまでノリで小川のほとりで爆睡したため、三人そろって酷い有り様だった。騒ぐ村人を尻目にシャドーリスの家に乗り込み、服を漁っている主人とキャット。

「俺もあんまり服持ってないぞ! 農作業用のものと、後は謁見時用の衣装だけだな!」

 がっはっはっと笑う彼に、主人が服を投げつけ、キャットは椅子を投げた。

「朝から声が大きいんだよ。工事現場野郎」
「いいから服。何でもいいから寄こせください!」
「お前ら酷くないか?」

 ガンッと木製椅子が直撃するが、へこんだのは椅子の方だった。

「そういや俺は収納鞄から服取り出せば良いだけか」

 ぽんっと手を打つ主人。
 三角帽子とローブを召喚する。いつでも近くに現れるようにセットしているので便利だ。
 帽子に手を突っ込み、適当な衣服を引っ張り出す。
 焦った顔のキャットが詰め寄ってくる。

「俺のも出せ」
「俺の服でいいのかい? キャット君にはちょっと大きいんじゃベハァ!」

 ビンタされた。

「殴ったね⁉ ばーちゃん(ヴァッサー)にも打たれたこと(あんまり)ないのにっ!」
「数センチ高いからってイキってんじゃねぇぞ」

 三角帽子を引っ手繰り、服を取り出すと持ち主に投げ返す。

「これでいいか……」
「おーい。ジュリス」

 服を広げてホッとしていると兄貴分が抱きついてきた。命の危機を感じ、心臓が痛いほど跳ねた。

「な、なんですか?」
「お前は負けたんだ。ちょっとくらい好きにしてもいいよな?」

 サメが笑ったので、主人は三角帽子だけ掴むと外へ逃げた。後ろでキャットの悲鳴が聞こえた気がしたが振り返らない。前を向いて生きていく。

 雲ひとつない外は眩しく、憎いほど太陽が輝いている。
 井戸のところへ行くと、お子様二名が井戸の内部を覗き込んでいた。主人からはお尻が二つ並んでいるように見える。おいおい最高かよ。
 それにしても何をしているのだろう。水の汲み方なら教えたはずだが。

「何か落としたのかい?」

 声をかけるとエイオットとムギはがばっと顔を上げて振り向いた。

「ごしゅじんさまー」
「おお! 待って待って。ごめん。まだ着替えてない」

 頭からロケットのように突っ込んでくるエイオットを受け止める。

「ご無事でしたか」

 ムギは安堵したような表情だ。おかしいな。この子たちは俺が乱闘していたことは知らないはずだが。
 エイオットがローブを掴んで見上げてくる。

「大人ごしゅじんさま、井戸の方に行ったのにいなかったから。落ちちゃったのかなって……」
「あー。それは心配をかけたね」

 水浴びしてくるって言いながらシャドーリスのとこに行っちゃったからな。
 あの水使いが暴れたせいで村は雨が降ったように水浸しだ。井戸は、爆発で壊れたと思いきや、切り株が欠けていただけで損傷はなかった。流石は魔族。魔法の扱いに長けているな。
 感心しながら髪を解き、ローブを脱ぐ。
 ブーツも、逆さまにして干しておこう。インナーとズボン姿になった主人に、ムギが水を汲んでくれる。

「おや。ありがとう」
「いえ」
「髪の毛、洗ったげよっか?」

 わくわくと拳を握るエイオット。
 主人はその場に腰を下ろす。

「じゃあ、お願いしようかな」
「任せて!」
「おにい、ご主人様。お疲れ、ですか?」

 疲労が顔に出ていたか。ムギが心配そうにのぞき込んでくる。見ないでください。

「ムギちゃんが手伝ってくれたら元気出ると思う」
「何をすればいいでしょう」

 待機しているムギを抱きあげ膝に座らせると、鼻を赤い頭につけてスゥ―――っと息を吸う。ああああこれこれ! 元気になるわぁ。いいにおい。

「?」

 何をしているんだろうと思いながらも、痛くも恥ずかしくもないのでじっとしておく。
 長男が水をかけ櫛で梳いてくれるが、長いため手こずっている。

「エイオット。大変だろ? 適当でいいよ」
「ごしゅじんさま。どうして髪を伸ばしてるの?」
「んー? 深い意味は無いよ。願掛けさ。願いが叶うまで切らないってやつ」

 ムギが振り向き、エイオットも覗き込んでくる。さて。吐き気止めはどこに仕舞ったかな?

「願いと髪を伸ばすのに、意味があるの?」
「単に、髪を切るのが面倒くさいってのもある」
「ふうん?」

 髪を整えてもらうとムギを横に置き、着替え始める。
 裾の長いゆったりとしたベージュ色の服。最後にストールを肩にかける。

「これでいいか」

 防御力の高いローブばかり着ていたので、薄っぺらい一般的な衣服が落ち着かない。

「ごしゅじんさま。髪、三つ編みしてあげる」
「そうかい」

 適当にやりかけたが、エイオットがやってくれるというので任せよう。

「ご主人様。あの、執事のお兄様は?」
「え? あ、あー……キャットは」

 そういや見捨ててきたんだった。シャドーリスの家あたりを振り向くと、ヒュウウッと真冬のような風が吹き抜けた。

「ひゃ、涼しい」
「?」

 もう冬が来たのかと、子どもたちがキョロキョロしているとキャットが歩いてきた。

「あ。お兄ちゃん」
「おはようございます」
「……ああ。おはよう」

 井戸の縁に腰掛けると、ぐったりと項垂れる。ムギちゃんがよしよしと背中を摩っている。

「ごしゅじんさま。三つ編み、あんまりきれいに出来なかった……。やり直すね?」
「いや。いい。ありがとう」
「いいの?」
「ああ」

 俺が編んだ三つ編みよりエイオットがやってくれた方が、価値があるに決まっている。俺が嬉しい。
 俺の服を着ているキャットにストールを投げ渡す。

「? いらねぇぞ」
「首にキスマークついてるよ」

 とんとんと鎖骨の上を指で叩く。
 キスマークと言うには物騒な歯型だけどな。

「っ!」

 親切に教えてやったというのに井戸に叩き落とされた。なんで? ありがとうって言葉を知らないのかな?

「ごしゅじんさまー。だいじょうぶー?」
「あわわわわ……」

 再び井戸を覗き込むお子様たち。
 ストールを巻きつけるとキャットは顔を赤くしたまま、朝食を作りに行った。


しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜

春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、 癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!? トラブルを避ける為、夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)。 彼は見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい穏健派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!? 
他にも幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良だけど面倒見のいい悪友ワーウルフ(同級生)まで……なぜか異種族イケメンたちが次々と接近してきて―― 運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない! 恋愛感情もまだわからない! 
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。 個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!? 
甘くて可笑しい、そして時々執着も見え隠れする 愛され体質な主人公の青春ファンタジー学園BLラブコメディ! 月、水、金、日曜日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新) 基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

弟がガチ勢すぎて愛が重い~魔王の座をささげられたんだけど、どうしたらいい?~

マツヲ。
BL
久しぶりに会った弟は、現魔王の長兄への謀反を企てた張本人だった。 王家を恨む弟の気持ちを知る主人公は死を覚悟するものの、なぜかその弟は王の座を捧げてきて……。 というヤンデレ弟×良識派の兄の話が読みたくて書いたものです。 この先はきっと弟にめっちゃ執着されて、おいしく食われるにちがいない。

処理中です...