全種族の男の子、コンプリートを目指す魔女っ娘♂のお話

水無月

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豪放磊落

24 私も働きたい

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 🌙








「ごっちん様! おおおんおんお御身が働くなど! 拙者が働いて参ります」
「落ち着け深呼吸しろ」

 静かな水槽の部屋に喧しいのが乱入してきた。ででででと走り、背もたれの無いソファーでまったりしている十歳児の足元に額づく。

「働く……? 働く⁉ ごっちん様が⁉ ないないないない無いですわぁ!」

 果てしない解釈違いがキャットを襲う。

 取り乱す大人が気味悪いのか、子どもたちはエイオットにくっついて遠目で様子を見てくる。ナナゴーは楽しそうに手を叩きリズムをとっていた。
 てっきり快くさわやかな笑みで送り出してくれると思っていたごっちんは、ひとまず臣下を落ち着かせる。

「これ。どうした? 戦果を期待しておりますと言って見送る場面であろう?」
「そんな俺がいたら殴り殺してます! だ、だいたい、どうやって、どこで働くおつもりで⁉」

 ごっちんはのほほんと腕を組む。

「そうさな……。どこかの旅館で、皿洗いでもやってみるか」

 キャットが人間では聞き取れない高音の悲鳴を上げた。獣人たちはそろって耳を押さえる。
 金の瞳が滝涙を流す。

「あなた様が⁉ おやめください! それなら俺と四天王共を働かせてきますよ!」
「なあ、今の悲鳴どっから出した?」
「俺は真面目に言っているのです! ごっちん様が雑用など……魔族に知られればその旅館、魔族全員に強襲されますよ」
「うーん。それは困るな……」

 しっとり悩んでいると、バンッと扉が開いた。

「皿洗いで二億稼ぐのに何年かかると思ってんの⁉ 二億って知ってる⁉ 稼ぐ前にその旅館無くなってるわ! 気が長いのも大概にしなよ飯出来たよ!」

 オタマを持った三つ編みの白ローブだった。子どもたちはちょこちょことそちらに歩いて行く。

「飯だ! 食える飯!」
「おなかすいたね……」
「ねえ。ごしゅじんさま。どうやってナナゴー君とご飯食べるの? ここに持ってくるの?」
「ごっちん様とキャット様。喧嘩、ですか?」

 聞き取れるけど、一人ずつ話そうか。

「ごっちんたちは放置で良いよ。ナナゴーも食堂に行こうか。金魚鉢に移ってもらうね」

 金魚鉢を持って近づくと、ナナゴーはサンゴの隙間にすいっと隠れた。

「どうした?」
「―――」

 こちらに顔だけを出し、口をパクパクさせている。ん、可愛い。
 エイオットを抱き上げ、聞き取ってもらう。

「もう一回言って」
「―――」
「ちょっと寝たいって言ってる。……疲れたのかな?」

 礼を言い、エイオットを下ろす。

「ありがとう。助かった。ふむ。長旅で疲れたんだろうな。ここは一人にして、休ませてやるか」
「抱っこ」

 エイオットが両手を上げている。もう一度抱き上げてやると、狸双子が背中によじ登ってきた。ムギは足に抱きつく。主人は両足を広げてプルプルと重みに耐える。
 それなのにキャットまで掴みかかってきた。

「おい! 絶対に許可するなよ。ごっちん様が働くなど、俺が出血死するわ!」
「やめろ75キロ! きみまで体重をかけるな、ちょ本当無理」

 重みを減らしてやろうと、ごっちんは狸双子をキャットの背に移していく。

「ありがとう! ごっちんさぁ、臣下がこう言ってんだし諦めなよ。俺がバシッと稼いで」
「ごしゅじんさま。またどこか行くの? しばらく洋館で一緒に遊ぼうよ」
「稼いで……くる、から。おおおおおお……」

 エイオットがすりすりしてくる。くっ、可愛い。
 ごっちんは項垂れた金髪を見上げる。

「では、主人殿はどうやって稼ぐつもりだったのだ?」
「災害レベルのモンスターを適当に二体くらい狩ってくる。それか病が流行している土地へ行って病の原因を絶滅させる。そうすれば二億などあっという間だ」
「ぐう」

 それは自分には出来ない。ほんの一年前なら余裕だったのだが。
 ごっちんは拗ねたような表情を見せた。

「私も……自分で稼いでみたいのだ」

 固まる大人二人。
 主人は「どうしたもんか」と眉を曲げ、キャットはあまりの愛らしさに思考停止している。
 ぐううぅ~。
 狸双子から腹の虫の音が聞こえたので、まずご飯にしよう。




 食べられる美味しいご飯に、アクアとファイアは夢中でかぶりつく。

「うめっ! これめっちゃうめっ」
「おいちいよ。おいちいよ……うっ、うえぇ」

 泣くほど感動している。あのおっさんのお菓子は一体どんな味だったのか。味見をしたらしいキャットが即捨てたと言うので、追求するのは控えよう。
 両手で食べているが辛い思いをしたっぽいので、今日だけは好きにさせる。涙と涎をこぼしながら食べているため、キャットがせっせと二人の顔を拭いて回っていた。自分の父親が原因なので、キャットも今日は厳しくしないようだ。むしろ申し訳なさそうな表情で世話を焼いている。
 その様子を見てエイオットが羨ましそうにするが、横からスプーンがにゅっと視界に入ってきた。

「え?」

 見ると、主人だった。薄い笑みを浮かべている。
 遠慮なく口を開けた。
 あーんしてもらえると嬉しい。

「えへへ」

 甘えさせてもらえるのは嬉しいが、主人からの反応は無い。薄い笑みを貼りつけたままだ。

「……」
「ごしゅじんさま? 元気ない?」
「気分悪いのですか?」
「! オエッってしそうなんだね? 薬持ってくる!」

 大人主人のことをよく分かってきた二人が慌てだすが、大きな手が二つの頭を撫でる。

「大丈夫。ありがとね。顔色悪く見えたかな?」
「(元の姿の)お前の顔色が悪いのはいつものことだろ」

 キャットが冷静に指摘してくる。
 深海魔法に加え、龍の空間魔法も同時に使用しているので、ちょっと頭がぼうっとする。
 ナナゴーに狭い思いをさせたくないので、龍の得意魔法「外観より内装の方が広く見える」魔法を使っている。魔法の二つ同時使用など大したことではないが、空間魔法はどうしても大魔法の域。なので、今は左手で数学をしながら同時に、右手で英語を和訳しているようなものなのだ。ぼーっとしてしまうのは許してほしい。
 そう言うと、エイオットはよしよしと撫でてくる。はああ嬉しい。

「ごしゅじんさま。大丈夫だよ。おれ、ひとりでご飯、食べれるよ!」

 ああ、もう。泣きそう。
 エイオットの方を見ているが、主人の目は虚空を映している。

「すまない。すぐ慣れてみせるから。寂しい思いをさせてすまない」
「大丈夫っ。ムギちゃんに『あーん』してもらうもん」
「え?」

 ムギが予想外の声を出す。
 ムギに情けないところを見せるのを嫌がっていたのに。甘えてみると心地よかったのか、「弱みを見せたくない」と肩を張っていた思いは海に捨ててきたようである。
 いいことだ。エイオットは「いいお兄ちゃん」をしすぎていて心配だったのだ。
 ムギもエイオットに「あーん」をするのはやぶさかではない。その証拠にいそいそとスプーンでご飯を掬う。
 本日のメニューは久しぶりのお肉。カリスが「安かった」と買っていてくれたものだ。
 それをオランジジャムに漬けて柔らかくし、香辛料と一緒に焼いたシンプルなメニュー。だが美味しい。お肉がとにかくぷるぷるでやわらかい。箸で切れる。オランジジャムにこんな効果があるとは。
 スプーンでお肉をほぐし、エイオットのお口に運ぶ。

「はい。エイオットさま」
「わーい。ムギちゃん。ありがとう」
「美味しいですか?」
「むーしゃむーしゃ(おいしい)」

 いちゃいちゃしている。勝手に涙が出てきた。未成年のいちゃいちゃは脳の容量を増やす。
 ジャムに漬けたので「甘いのかな?」と思うが、口に入れると甘みは全く感じない。残っているのはオランジのさわやかな香りだけ。料理長だったかな? キャットは。

「キャット」

 ちびっ子たちをほんわかと眺めていたごっちんが口を開く。
 執事はぴしっと踵を合わせる。

「はっ」
「私の城は……まだ残っているのか? 誰か、管理している者などはいるのか?」

 ごっちんの城、か。
 乗り込んだ際に俺が半壊させたあれか。
 キャットはハテナを浮かべながらも頷く。

「もちろんでございます。ゆっくりではありますが、修復もさせておりますよ」
「そうなのか? てっきり取り壊し工事をしていると思ったぞ」
「な、なぜ⁉」

 二人の会話を、子どもたちは不思議そうに聞いている。

「ほら。みんなは食べなさい。冷めちゃうよ。よく噛んでね」

 主人が促すとはっとした顔で食べだす。

「財宝などはまだ残っているのか?」

 城は壊したけど、キャット以外何も持ち出してないぞ。俺は。

「もしかして。その財宝で城の修理をしているのか?」

 主君の言葉に、キャットがわずかに首を傾ける。

「ごっちん様の財宝に手を付けるなど死罪ですよ。裁判すっ飛ばして俺が処します」

 遺言も聞いてくれなさそう。

「ではどうやって城を修理しているのだ?」
「エデンヴァラス城と同じ石材を切り出し、魔法で組み立てております。あと冬になる頃には以前より大きく頑丈な城が完成いたします」

 肉が変なところに入りかけた。咽るところだった。
 魔族だもんな……。魔族としてはどれだけ下っ端でも、人族より上手く魔法を使える。
 たった一人。ごっちんが味方についただけで、魔族は厄介な種族となったものだ。
 でも魔族って多いし。魔法のエキスパート共が揃っているのなら城くらい……。

「もしかして、魔族全員にやらせているのか? 強制労働は感心せんぞ?」
「城の修復と言ったら全員やりたがりましたけどね。四天王岩使いを筆頭に、その部下三名で行っております」

 やめろ‼ 四人で城を直すな。ゴルドバードさえ殺せば魔族って弱体化すると思ったのに、全然そんなことないな。

「その給金はどこから出ているのだ?」
「はい? まお……ごっちん様の城を直す名誉が与えられるのですよ? こちらが支払いたいくらいです」
「へ、へー……」

 珍しくごっちんの口元が引きつっている。引いてやるなよ。魔族が「魔王ラブ」になったのは十割きみのせいだろ。
 内心でツッコミしながらも料理はおいしくいただく。付け合わせの野菜もおいしい。

「それが、どうかなさいましたか?」

 幸せそうな顔と声音だ。
 狸双子がわざわざ椅子を下りて顔を見に行っている。キャットに摘まみ上げられて椅子に戻されていた。

「ナナゴーの餌代を。二億だったか? そこから出そうと思ってな!」
「「……」」

 ごっちんがいきいきしている。めっずらしい……。いつも一歩引いて見ている保護者的な心情のごっちんが。そんなに気に入ったの? 海の宝石のことが。

(そういえば。ごっちんの宝石を盗んだ種族に呪いをかけたくらいだもんな……)

 ちらっとムギを見る。
 エイオットと「あーんのし合いっこ」をしていて目が離せなくなった。なんだこの愛しい光景は。一生見ていたい。
 盗まれた宝石に若干の心当たりはあるが、「もしかしてあれ?」というと今の持ち主を殺しに行きそうなので黙っておこう。

「ごっちん様の財産は、現金化すると114兆ギルほどです」

 日本の国家予算かな?
 貯えてんじゃねーよもっと金を流通させろ。ギルドの自動操縦のオートホース買ってええぇぇぇ!

「働く必要ございません」
「……っ、だが。た、足りないかもしれないし」

 足りるよ。ナナゴーが一生食いっぱぐれることなくなったよ。今。

「足ります。働く必要はございません」
「……~~~っ! つっ……ッ……」

 言い返したいのに言葉が出なくなっている。だってお金あるもんね。

「た、足りないかもしれないだろう! 主人殿の知り合いの、虫使いだったか? その者が200兆くらい要求してくるかもしれない!」
「落ち着いてくださいごっちん様」
「あの子はそこまでド畜生虫使いじゃないよ」

 流石にツッコんだ。
 ごっちんは「ぐぬぬぬぬぬ」っと頬をぱんぱんに膨らませている。そのせいでキャットが崩れ落ちた。

「私は働くぞ!」

 怒っちゃった……。ナイフとフォークを握ったまま。かわいい……。

「そこまで言うならさ。シャドーリスのところで働いてみたらどうかな?」
「あの子は、確か今は農家だったか?」

 咀嚼しながら主人はうんうんと頷く。

「キャットが作物枯らしたせいで大変そうだから、人手が増えると喜ぶんじゃない?」
「ほう……」

 紫水晶の瞳の奥がキラキラと輝きだす。

「言っとくけど、農作業って大変だからね?」
「何事も挑戦だ。キャット。あの子に手紙を書くぞ。便箋の用意を……」

 現実を受け入れられずに倒れている。アクアとファイアがぽむぽむ叩いているが反応は無い。

「……主人殿。便箋と封筒をくれないか?」
「あいつ(シャドーリス)、読み書き出来ないんじゃないのかい?」
「絵で描くから問題ない」

 なんだそれ可愛い。文字が読めなくても絵が描いてあれば多少は伝わる……か?

「何の柄と色が良い?」
「柄まで選べるのか。白い紙の薔薇模様はあるか?」
「あるよ」
「ではそれで」
「あいよ。食後、部屋に届けよう」

 日本+貴族家生まれだったせいで、封筒はともかく便箋は新紙じゃないと失礼だと思ってしまう。メールは楽だったが、手紙を書くのも楽しいな。

「インクは薔薇の香りがするものがいいのだが。持っているか?」
「ごめん。インクにはこだわってないし、俺が使っているのは墨汁なんだ」
「ぼくじょう……?」

 申し訳ないが吹き出した。真顔で聞き間違えないで。

「俺の部屋にあるから、見にくると良い。ちょっと、慣れないにおいがするとは思うけど」
「ふむ。そうしよう」
「ほら。アクア、ファイア。キャットに構ってないで食べなさい」
「もうちょっと」
「キャットしゃん……」

 おうおう。キャットが動かないのをいいことに、ぺたぺた触ったりぎゅっと抱きついたりしている。

「可愛いから置いておきたいが、きみたちが食べ終わらないと、キャットが皿を洗えなくて困るぞ」
「「……」」

 双子は顔を見合わせると、まったく同じタイミングで席へと戻り出す。

「だってあいつ、あんまり抱っこしてくれねーもん!」
「ぎゅっぎゅしてほちいよ……」

 かはっ! なんて可愛いことを。

「よ、よし。俺からキャットに言っておこう」
「私からも言っておこう。だから、ゆっくり食べると良い」
「「はーい」」

 ごっちんが言うと素直ね、きみたち。










「は? ま、ままままま魔王様が。は、はたらく……? は? え? は?」

 後日。手紙を受け取ったシャドーリスは、かつてないほど動揺していた。


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