133 / 189
無礙
12 殺伐としないギルド内
しおりを挟むあと二種なのに「やった! もうすぐで地球に帰れるっ」というテンションにならないな。自分でもわかっているんだ。その二種類が遠い道のりだって。人魚族も、シャドーリスとかいう規格外の水使いがいなければ、俺は海を干上がらせる暴挙に出ていたかもしれない。
シュリンやアゲハといった息子たちにまで頼んでいるのに、どこにいるんだ。残りの二種は。
海の中だし……次は地面の下とかやめてくれよ。
三日月の上でため息をつく。下からはエイオットの楽しそうな声。
「ふたりとも、バスケットっていうか、高いとこ怖がってたのに、平気になったの?」
「はああ? 別に怖くねーし! なーに言ってんだおめー」
「下を見なかったら平気、って、言ってた」
「おい。ファイア! 余計なこと言うなよ」
セリフだけ聞くと喧嘩しているようにだが、下を見るとバスケット内で抱き合っているツインズ。怖いんだね。
ここで「もっと低く飛ぼうか?」と言ってもアクアは反発するだけだろう。
主人はわざとらしく咳払いした。
「んんっ。あー……高く飛ぶの疲れてきたから、高度を落とそうーっと」
ゆるゆると地面に近づいていく三日月。
地表が近づくと、双子は一気に元気になった。ばっとバスケットから下を覗き込む。
「なんだよごすじん。もう疲れたのか? うひょー。速い速いぜ」
「たのちいね」
左右に揺れる尻尾とお尻と温かい目で見守るエイオット。気に入ったのかエイオットはパーカーワンピ姿で、アクアとファイアは水の街で買ったバルーンズボンだ。
「まぶちい」
日が昇り、陽の光が直撃する。眩しさから薄目になる二人と、後ろを向くエイオット。
主人はすちゃっとサングラスを装備した。どっかの赤ランクを思い出すのであまり好ましいアイテムではないが、運転中は助かる。
検問を通り抜け、『スクリーン』の門をくぐる。
「おや。〈黄金〉様。お久しぶりです」
出迎えたのは掃除中だったシロンくんだった。背が伸びたように思う。エイオットと同じくらいか。ビロードのような毛が今日も輝いてちょっと触らせてください。
変態にも白豹族の子は気を遣ってくれる。
「ギルマスを呼びましょうか?」
「いや。今日は仕事しにきただけだ」
金貨一枚で倒せるレベルのモンスターを狩ってから、その報酬を元手に強いモンスターを狩って、金貨を増やしていく。ふふん。楽勝だな。
「〈黄金〉様。おじ、ギルマスが〈黄金〉様に片付けてほしい依頼があると……」
「では、俺はこれで」
面倒な気配を察知した主人は、スケボー付きのバスケットをガーッと押して掲示板へ走って行く。
「シロンちゃ~ん」
「誰だ?」
「ち(知)りあい?」
顔を出したエイオットが手を振っている。
ごめんねエイオット。挨拶したかっただろう。でも今は金貨がない。無理難題を押しつけられている余裕は無いんだ。
掲示板前でたむろしているハンター数人をバスケットで弾き飛ばし、ちょうど良さげな依頼を探す。
「おい。ごすじん。なんか轢いたぞ」
「俺の前に立っているのが悪い」
上の空で返事をしつつ、じろじろと依頼表を眺める。ひたすらモンスターを狩るだけの依頼とかないだろうか。
(あ。あれとかいいな……)
手を伸ばすが届かない。つま先で立つも、あと数センチ……
すると、後ろから伸びてきた手がひょいと取ろうとしていた依頼表を剥がした。
「?」
まさか金ランクの依頼を横取りするような命知らずが『スクリーン』にいるとは考えにくい。〈優雅灯〉が本拠地にしているせいで、ここの連中は金ランクの恐ろしさを身に染みて知っている。ついでに虫をやたら怖がっている。
現に俺が入ったらギルド内の会話が一斉に小さくなったほどだ。
予想通り、その手は依頼を横取りしたわけではなかった。
「はい。どうぞ」
中腰になり、依頼表を差し出してきた。
……左右で異なる色の瞳。なっかなかの魔力量だが「まったく見覚えはない」ので、礼だけ言っておく。
「感謝する」
「いえ。あなたにも、助けられたので」
と言うと薄くにこりと笑い、去っていく。
「?」
ショタ時代にでも、俺が助けた子だろうか?
まあ、育っちまったものに興味は無い。主人はバスケットを押しながら受付へと向かっ……赤い受付では、シロン君が大の字で立ち塞がっていた。
「無視しましたね?」
さっと目を逸らす。
「いやあの。俺はこの依頼を……」
「〈黄金〉様っ!」
まずい。今「可愛いアタック」をされたら断り切れない。また頭おかしい依頼を押し付けられる。なんとかこの子を掻い潜って――
「何やってんだ?」
「ちりあい?」
退屈になったのか、ひょこっと双子が顔を出す。
「! 双子……」
アクアとファイアの顔を見て、シロンの尻尾がピーンと立つ。シロンの声で受付の者がアクアたちに気づくが、息を呑むだけで何も言わない。
金ランクに喧嘩を売りたい者などいないのだ。
背後で「だーから、金ランクに無暗に近づいちゃ駄目って言ってるでしょうが!」「? お礼を言いたかっただけです」「金ランクの半分と顔見知りのレムナント様に引きます……」とかいう平和な会話だけ聞こえる。
「ごめんよ。シロン君。今はこの依頼を片付けたいんだ」
「しょ、承知しました」
すっと道を譲ってくれる。
「でも、次はお話を聞いてくださいよ?」
「……あ。はい」
上目遣いのプロにお願いされたので、断れなかった。内心泣いた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される
マンスーン
BL
王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。
泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。
穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜
春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、
癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!?
トラブルを避ける為、夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)。
彼は見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい穏健派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!?
他にも幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良だけど面倒見のいい悪友ワーウルフ(同級生)まで……なぜか異種族イケメンたちが次々と接近してきて――
運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない!
恋愛感情もまだわからない!
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。
個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!?
甘くて可笑しい、そして時々執着も見え隠れする
愛され体質な主人公の青春ファンタジー学園BLラブコメディ!
月、水、金、日曜日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新)
基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
弟がガチ勢すぎて愛が重い~魔王の座をささげられたんだけど、どうしたらいい?~
マツヲ。
BL
久しぶりに会った弟は、現魔王の長兄への謀反を企てた張本人だった。
王家を恨む弟の気持ちを知る主人公は死を覚悟するものの、なぜかその弟は王の座を捧げてきて……。
というヤンデレ弟×良識派の兄の話が読みたくて書いたものです。
この先はきっと弟にめっちゃ執着されて、おいしく食われるにちがいない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる