全種族の男の子、コンプリートを目指す魔女っ娘♂のお話

水無月

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無礙

12 殺伐としないギルド内

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 あと二種なのに「やった! もうすぐで地球に帰れるっ」というテンションにならないな。自分でもわかっているんだ。その二種類が遠い道のりだって。人魚族も、シャドーリスとかいう規格外の水使いがいなければ、俺は海を干上がらせる暴挙に出ていたかもしれない。

 シュリンやアゲハといった息子たちにまで頼んでいるのに、どこにいるんだ。残りの二種は。

 海の中だし……次は地面の下とかやめてくれよ。
 三日月の上でため息をつく。下からはエイオットの楽しそうな声。

「ふたりとも、バスケットっていうか、高いとこ怖がってたのに、平気になったの?」
「はああ? 別に怖くねーし! なーに言ってんだおめー」
「下を見なかったら平気、って、言ってた」
「おい。ファイア! 余計なこと言うなよ」

 セリフだけ聞くと喧嘩しているようにだが、下を見るとバスケット内で抱き合っているツインズ。怖いんだね。
 ここで「もっと低く飛ぼうか?」と言ってもアクアは反発するだけだろう。
 主人はわざとらしく咳払いした。

「んんっ。あー……高く飛ぶの疲れてきたから、高度を落とそうーっと」

 ゆるゆると地面に近づいていく三日月。
 地表が近づくと、双子は一気に元気になった。ばっとバスケットから下を覗き込む。

「なんだよごすじん。もう疲れたのか? うひょー。速い速いぜ」
「たのちいね」

 左右に揺れる尻尾とお尻と温かい目で見守るエイオット。気に入ったのかエイオットはパーカーワンピ姿で、アクアとファイアは水の街で買ったバルーンズボンだ。

「まぶちい」

 日が昇り、陽の光が直撃する。眩しさから薄目になる二人と、後ろを向くエイオット。
 主人はすちゃっとサングラスを装備した。どっかの赤ランクを思い出すのであまり好ましいアイテムではないが、運転中は助かる。

 検問を通り抜け、『スクリーン』の門をくぐる。

「おや。〈黄金〉様。お久しぶりです」

 出迎えたのは掃除中だったシロンくんだった。背が伸びたように思う。エイオットと同じくらいか。ビロードのような毛が今日も輝いてちょっと触らせてください。

 変態にも白豹族の子は気を遣ってくれる。

「ギルマスを呼びましょうか?」
「いや。今日は仕事しにきただけだ」

 金貨一枚で倒せるレベルのモンスターを狩ってから、その報酬を元手に強いモンスターを狩って、金貨を増やしていく。ふふん。楽勝だな。

「〈黄金〉様。おじ、ギルマスが〈黄金〉様に片付けてほしい依頼があると……」
「では、俺はこれで」

 面倒な気配を察知した主人は、スケボー付きのバスケットをガーッと押して掲示板へ走って行く。

「シロンちゃ~ん」
「誰だ?」
「ち(知)りあい?」

 顔を出したエイオットが手を振っている。
 ごめんねエイオット。挨拶したかっただろう。でも今は金貨がない。無理難題を押しつけられている余裕は無いんだ。
 掲示板前でたむろしているハンター数人をバスケットで弾き飛ばし、ちょうど良さげな依頼を探す。

「おい。ごすじん。なんか轢いたぞ」
「俺の前に立っているのが悪い」

 上の空で返事をしつつ、じろじろと依頼表を眺める。ひたすらモンスターを狩るだけの依頼とかないだろうか。

(あ。あれとかいいな……)

 手を伸ばすが届かない。つま先で立つも、あと数センチ……

 すると、後ろから伸びてきた手がひょいと取ろうとしていた依頼表を剥がした。

「?」

 まさか金ランクの依頼を横取りするような命知らずが『スクリーン』にいるとは考えにくい。〈優雅灯〉が本拠地にしているせいで、ここの連中は金ランクの恐ろしさを身に染みて知っている。ついでに虫をやたら怖がっている。
 現に俺が入ったらギルド内の会話が一斉に小さくなったほどだ。

 予想通り、その手は依頼を横取りしたわけではなかった。

「はい。どうぞ」

 中腰になり、依頼表を差し出してきた。

 ……左右で異なる色の瞳。なっかなかの魔力量だが「まったく見覚えはない」ので、礼だけ言っておく。

「感謝する」
「いえ。あなたにも、助けられたので」

 と言うと薄くにこりと笑い、去っていく。

「?」

 ショタ時代にでも、俺が助けた子だろうか?

 まあ、育っちまったものに興味は無い。主人はバスケットを押しながら受付へと向かっ……赤い受付では、シロン君が大の字で立ち塞がっていた。

「無視しましたね?」

 さっと目を逸らす。

「いやあの。俺はこの依頼を……」
「〈黄金〉様っ!」

 まずい。今「可愛いアタック」をされたら断り切れない。また頭おかしい依頼を押し付けられる。なんとかこの子を掻い潜って――

「何やってんだ?」
「ちりあい?」

 退屈になったのか、ひょこっと双子が顔を出す。

「! 双子……」

 アクアとファイアの顔を見て、シロンの尻尾がピーンと立つ。シロンの声で受付の者がアクアたちに気づくが、息を呑むだけで何も言わない。

 金ランクに喧嘩を売りたい者などいないのだ。

 背後で「だーから、金ランクに無暗に近づいちゃ駄目って言ってるでしょうが!」「? お礼を言いたかっただけです」「金ランクの半分と顔見知りのレムナント様に引きます……」とかいう平和な会話だけ聞こえる。

「ごめんよ。シロン君。今はこの依頼を片付けたいんだ」
「しょ、承知しました」

 すっと道を譲ってくれる。

「でも、次はお話を聞いてくださいよ?」
「……あ。はい」

 上目遣いのプロにお願いされたので、断れなかった。内心泣いた。


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