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無礙
26 魔王の余裕
しおりを挟む――信じるべき、か? 今の話。
目の前に飲み物があるが、クリアは飲む気にならない。
金ランクの話だ。嘘ではないだろう。だがこちらに判断材料がないのも事実。
(なんだか、魔族と面識があるような話し方だったな)
そんなわけないと首を横に振るが、ふくふくほっぺの少女が淡々と語る光景が脳裏に焼きつく。
しかし、第三の目を持つ種族などいない。紫の瞳も。
この世界にある目の色は約五色。ランクの色と同じか、もしくはそれに近しい色だけ。白い眼の者はよくよく見ると、薄い灰色をしており、魔力が増えると黒に近づく。
ベッドで気絶している横顔に目をやる。腹の上にロイツがぺったりくっついていた。
人類の敵。魔族の目を持つ青年。
それを理解してもなお、クリアに嫌悪の感情は湧かなかった。あるのはただ愛しさのみ。
(無武備に寝てられると……)
整った横顔に、頬が染まる。
見ているのが申し訳なくなり、ぱっと目線を外す。
人は恋をすると盲目になるというが、クリアはこのような話を聞いても、頭の中はレムナントでいっぱいだった。
「ロイツ。お前は今の話を聞いて、どう思った?」
「はい? 決まってるじゃないですか」
「……と言うと?」
ロイツはえっへんと胸を張る。
「魔王の側近が現れたら、クリアさんを囮にして逃げますっ!」
「へーそっか」
「ああーう」
寝ている人がいるため、くすぐりの刑ではなくほっぺびよーんで勘弁してやる。
🌙
農作業をしていたごっちんが二人を探していた。
「お前たち。そろそろ休憩にしないか? おばあさんが飯を……」
飯の誘いに来たごっちんの足がはたっと止まる。
作業着姿ではなく黒い服と銀の鎧、金薔薇刺繍が施された燕尾服。殺気を垂れ流し、戦闘時の衣装になっている二人の背中に驚いたからだ。
ただ事ではない。
すぐさま駆け出そうとした。
「どうした⁉」
「ごっちん様。来ないでください!」
一瞬だけ振り向いたキャットの制止の声。こんな鋭い声は聴いたことがなく、ビクッと肩が震えた。
紫の瞳がふと気づく。二人が睨んでいる相手。
「……主人殿?」
大人の姿だ。ごっちんを殺すことができた金の杖を握り、彼も明らかな戦闘態勢に入っている。
待てっ! こんなのどかな村で、化け物同士がやり合おうと思うことすらいけない。
「よせ」
「お下がりくだされ」
前に出ようとするが。シャドーリスの逞しい腕に阻まれた。
彼のマントを握りしめる。
「何をしている」
「この阿呆が……。この姿で現れたら警戒するでしょう?」
説明はキャットがしてくれた。だが目は主人殿から離さないでいる。
「主人殿。いかがした?」
「おお。ごっちん。元気かい? ちょっと話があったんだけど。とりあえずこの二人邪魔だから始末していいかな?」
良いわけないだろう。何を言っている。
「おばあさんがおむすびを作ってくれたから、食べながらにしよう」
キャットとシャドーの腕を引っ張る。
「お前たち。矛を収めよ」
「……はっ」
「かしこまりました」
「ふう。やれやれ」
戦うつもりはなかったらしい。ごっちんが来てくれて良かったぜ、と言いたそうな顔で主人も合わせて金の杖を消す。臣下二人も作業着へと戻る。
「おむすび冷めちゃうわよ? あらぁ。あなた、また来てくれたの?」
ほわほわ笑顔でやってきたおばあさんが、魔女っ娘に戻ったちび少女の手を握って引っ張っていく。
「あーあの話が……」
「ほら。あなたたちもいらっしゃいな」
「「「……」」」
魔族三名も、仕方ないのでついていく。
ギスギスした空気をものともせず、人数分のお茶を淹れてくれるおばあさん。
「これはうまいな!」
「そうでしょう? そろそろおじいさんも帰ってくるから、ゆっくりしていってね」
飯を見るなりシャドーの闘気が霧散した。ガハハと笑いながら片手におむすび、片手に湯呑。
「……」
そんな兄貴分に気が抜けたのか、キャットもお茶をもらうと静かにすすっていく。
「はあ」
「うめー」
魔女っ娘ももさもさとおむすびを頬張る。パンの時より明らかに伸びる手が早い。
「あの狐の子と羽の子は? 一緒じゃないの?」
おばあさんが頭……の上の三角帽子を撫でてくる。
「うむ。留守番してくれている」
「そうなの」
主人の帽子を撫で、ほっぺを撫で。気が済むとおじいさんを呼びに出て行った。
「……話とは? 普通に来い、普通に」
ムッとする。
「普通に来ただろ。戦闘態勢を取ったのは誰と誰かね」
「お前が大人の姿で現れたからだろうが」
だってすぐに帰らないといけないんだもん。お子様たちもトゥームも待たせているのに
この二人があれほど、俺の大人姿を警戒してるとは……。そりゃそうか。
「うむむ。釈然としないが、悪かった。で、ごっちんに話がある」
「ほほひほは?」
おむすびで頬がぱんぱんになっていた。静かだなと思えばめちゃ夢中で食べておられる。見習いなさいよこの余裕感を。魔族の精鋭共。
……聞いて無いな。キャットはごっちんの方見てるし。
頭痛そうに額を掻く。
「あーえっと。きみの盗まれた宝石のことだ。居場所は把握しているのかね?」
ごっちんは頷いた。当然の如く。
「ああ」
「……知ってたの⁉」
「何故、言って下さらないのですか⁉」
俺とキャットのリアクションが被る。こちらを見たキャットが舌打ちした。なんでやねん。タイミング被っただけやん。
暇なのか、ごっちんはシャドーの膝上にちょんと座った。
え。うらやまし……
「私の一部なのだから、どこに居るのかくらいは把握している」
なんで失くした目玉の位置が分かるんだよ。魔王になる前は人間だったなんて信じないぞ。
「俺が取り返してきましょうぞ!」
油断してた。工事現場野郎なんだった。耳痛え。
ごっちんも銀髪をぺちぺち叩いている。
おむすびを飲み込み、お茶で一息。
「……いや、構わない。捨ておけ」
「何故です⁉」
キャットが愕然とした表情で椅子から立ち上がる。片手に湯呑を持ったまま。
「せ、せっかく! 御身の一部が、行方が分かったというのに」
「俺も同意見だ。ごっちん。裏切者にもだが、魔族に甘すぎやしないか?」
「主人殿はエイオットに目を抉られたくらいで、嫌いになるのか?」
「……」
何も言い返せない。
例えが秀逸だったのか、キャットも口をつぐんでいる。
「では、第三の目は……? 放置しておくのかね?」
「今は誰かの目となっているはずだ。その者が寿命で死ねば、帰ってくるさ」
目が帰ってくるって何? 眼球の親父さん的な?
「命令を下されば。取って参りますよ……?」
気遣うような声音で胸に手を当てる。
「ありがとう。気持ちは嬉しいが、第三の目だけは主人殿に『殺されなかった私の一部』なのだ。今の私と融合しても魔力の多さに、今の器が耐えきれん」
「はい……」
分かっていたと言うように引き下がる右腕。
「そんな顔をするな。ありがとう。私のキャット」
「ふぐっ!」
頭を撫でられ、キャットが椅子から落ちた。こいつあのクソ真面目なジュリスだよな? と言いたげな目でシャドーが見ていたが、彼にしては珍しく無言を貫く。
主人は無意識で肺に溜まっていた空気を吐き出した。
「そうか。ならば、俺から言うことはもう何もない」
椅子から降りると、もう用はないと去っていく。
「あら。もう帰っちゃうの?」
「なんだ! もっとゆっくりしていけ!」
「うむ。世話になった」
和やかな会話が聞こえる。キャットが起き上がると、ごっちんは笑みを消した。
「キャット」
「心得ております」
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