全種族の男の子、コンプリートを目指す魔女っ娘♂のお話

水無月

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無礙

27 告白

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 ごっちんがああ言ってくれたのなら安心だ。
 主人は三日月を飛ばす。トゥームのリーダーは落ち着いただろうか? その前に起きているか。
 窓から宿に戻るとふたりはリーダーの背中を摩っているところだった。

「ただいま」
「あ、お、おかえりなさい」
「んもー! あなたがお腹蹴ったせいで僕のレムナント様がご飯食べモガッ」
「こら」

 喧嘩を売るな死にたいのか、と金髪に箱に詰められているロイツ君。可愛い……。ピンク髪は素晴らしい。

「そうか。俺もよく吐いているから気持ちは分かる。回復薬渡そうか?」
「い、いえ。落ち着いてきましたので」

 レムナントは青い顔で笑う。

 ……確かに魔力は多いが、ごっちんの器なら受け止められると思わなくもない。
 まあ、いい。

「では、働いてもらおうか」
 






 金ランクが「面倒臭い」と言うほどの依頼の手伝いだ。覚悟はしていた。
 倒す手段がとにかく面倒なツガイモンスターに、数が驚異の虫モンスター。あれは夢に出る光景だった。記憶を消す魔法、誰か使えないか。
 防具や武器を溶かす特殊モンスターに苦戦させられた。無事だったのは金ランクと、リーダーの紫インナーのみだった時は悲惨だった。どうやって帰ればいいのか、途方にくれたものだ。
 〈黄金〉が帽子の中から服を出してくれて助かった。レムナント様のエロい姿はしっかりと心に刻んでおく。ロイツはすっぽんぽんでも平気そうだった。何故か〈黄金〉が鼻血を噴いていたが。

 幻を見せ、同士討ちを企むモンスターの攻撃で俺とロイツは見事に惑わされた。が、判断が早い金ランクに即、気絶させられた。このモンスターは〈黄金〉とレムナント様が倒された。リーダーもしっかり幻術にかかっていたらしいが。

『左目はデーネさんを見ているのに、右眼があれは幻だと、冷酷なまでに教えてくるのです。……もう少し、幻に浸っていたかった……いえ。なんでもありません』

 泣きそうな目をしていたのに、クリアは顔を背けてしまう。
 精神的にも肉体的にもへとへとになった俺たちが野営地にたどり着いたのは、日も落ちた頃。
 しかし仕事はまだ終わらない。下のランクである俺たちが飯の準備をしなくてはいけないのだ。

「……、……」
「ロイツ。休んでいて構いませんよ」

 野菜と包丁を持ったまま、白目でカクンカクンと首を揺らしている最年少の肩を叩く。眠気と疲労で気絶しかかっているのだ。危ない。色んな意味で。
 ロイツは白目のまま振り向く。

「へふ……。らーいじょうぶです、レムにゃんとしゃま」

 なるほど。駄目っぽいですね。

「クリアさん。この子をテントに放り込んでおいてください」
「おーっす」

 首根っこを掴まれ、ぷらーんとテントまで運ばれていく。刻んだ野菜を鍋に放り込んでいると、足音が近づいてくる。

「クリアさん。味見してくれま……あ」

 てっきり彼だと思って振り返れば、まったく違うハンターたちだった。

「おや。失礼しました」

 覇気のない笑顔を咲かせると、二人組のハンターは顔をニヤつかせる。何を思ったのかレムナントを挟んで腰を下ろした。

「あの……?」
「おう。兄ちゃん。サポート役の人かい?」
「どうだ? 俺たちと組まないか? 待遇よくするし、夜の仕事だって回してやるぜ?」

 男の手が太ももに伸びてくる。
 以前なら馬鹿正直に「夜の仕事って何です?」と聞いていただろうが、クリアと会話しているだけでもそういった知識が増えてきた。
 太ももをまさぐってくる手を払う。

「時にはサポートにも回りますが、私は戦闘もこなしますよ。トゥームのリーダーですから」

 そう言い、黒ランクのカードを見せてやる。彼らは一番下の白ランク。顔つきからして彼らの方がハンター歴は長いのだろうが、舐められる筋合いはない。
 男たちは絡んでいた相手が格上だと分かると、びしっと立ち上がった。

「申し訳」
「ありませんでしたあぁ」

 脱兎の勢いで逃げて行く。そんな怯えなくとも。

「……」

 見送っていると拍手が聞こえた。

「いやー。追い払えるようになりましたね。ああいう手合いを。お見事です。レムナント様」

 クリアだった。
 彼も馴れ馴れしく隣に座るが嫌な気はしない。むしろ温かい気がする。

「……えー、えの、その。あ、味見しましょうか?」

 まともに顔を見つめていたせいか、クリアの視線が泳ぐ。見つめていたことに気づき、レムナントもぱっと顔を逸らした。

「お願いします」
「はい」

 少し装った小皿を渡す。
 彼は冷ますことなくぐいっと口に入れた。

「……どうですか?」
「肉が欲しいです」
「文句言わないでください。装備がこの有様なのです。買い替えるために節約しなくては」
「分かってますよ」
「この肉を使いたまえ」

 ……誰かが、しれっと会話に混ざった気がする。

 二人同時に横を見ると、見た目だけ愛らしい魔女っ娘が腰かけていた。
 確か彼は見張りをしていてくれていたはず。金ランクが一人いるだけで(さっきのようなお馬鹿さんはともかく)野営地の治安は抜群に良くなっている。いきなりおっぱじめる者や、カツアゲする者が皆無だ。
 彼が差しだしてくるのは霜降り肉。一目で高価なものだと分かった。
 反射的に断りかけたが、よく考えればこのスープは彼も口にするのだ。有難く受け取っておこう。
 クリアが子どものように飛びあがる。

「肉! 肉ですよ。レムナント様。見てくれよ! 生でも食えそう」
「ハイハイ良かったですね。適当に切って鍋に入れてください」

 テキパキとクリアが肉を入れていくと、少女も鍋に香草や香辛料を足してくれる。
 野営地とは思えないいい香りが漂った。
 ぐううぅ~。
 一気に食欲が刺激され、二人の腹の音が鳴る。

「……ッ」

 顔を赤らめるレムナントをニヤニヤ眺めるクリア。リア充爆発しろと怨嗟の念を送る周囲のハンターたち。そわそわとロイツを探す金髪魔女っ娘。

「ロイツ君は?」

 木べらで鍋を混ぜながらクリアが答える。

「え? ああ。疲労で白目剥いていたので、テントに放り込んでます」
「そうか」
「やけにロイツを気にかけてくれますね」

 戦闘時も、一番守ってもらっていた気がする。

「まあ、な。きみたちの中で一番防御面が不安なのはきみだが、やはり幼い子を庇おうとしてしまうな」

 この台詞に、クリアは目を白黒させた。

「は? え? 金ランクに防具をもらったリーダーはともかく、俺の方が防御固めてますよ」
「黒ランクだしな。魔法学園の制服よりは上の装備だろう。が、奴隷の首輪に守りの魔法もかけられている。それを合わせると、ロイツ君の方がわずかに上だ」

 クリアが落ち込んでいるが、魔法の力を見抜く目を持つレムナントは知っていたようで、彼の背をポンポンしている。

「しっかり把握していないと、パーティー崩壊に繋がるぞ。物理的な意味合いで」
「はい」

 リーダーがしっかり頷いたので大丈夫だろう。
 いかんな。ソロじゃない奴らが眩しくて、ついおせっかいを焼いてしまう。

「飯出来たら報せてくれ」
「はい」

 すっとその場を離れる。あれだけ派手なローブを纏っているのに、すぐに闇に溶けてしまう。
 化け物がいなくなると空気が弛緩した気がする。クリアが復活した。

「レムナント様。ちょっと話、いいですか?」
「は? パーティーを抜けたいとか言うなら殺しますよ?」

 クリアは乙女のように、ときめく胸を押さえる。今の台詞のどこにときめく要素があったんだよと、周囲のハンターの目が言ってるが、クリアにはレムナント以外雑草としか映らない。

「そうではなく。……キスしていいですか?」

 レムナントは二色の瞳を見開いて固まった。ハンターたちは胸やけの気配を察知して、ささっと離れていく。

「ど、どうしたんです? 馬鹿から取り返しのつかないお馬鹿になったのですか?」
「俺の評価そんなんだったんですか⁉ ……ゴホン。レムナント。好きです」
「……」

 真っすぐ見つめられ、固まってしまう。普段のちゃらけた雰囲気が一切ない。こういう時のクリアは本当に男前だった。

「あなたは貴族で、婚約者がいるなら身を引きますが。いないのなら俺を選んでください」

 一分ほど、野営地は静寂に包まれた。松明や焚き火が弾ける音以外、しなくなる。

「クリアさん。私のこと好きだったのですか?」

 今度はクリアが硬直した。

「は、はああっ⁉ 告りましたやん! 〈優雅灯〉の目の前で!」
「あれは命乞いの一種だとばかり……」

 滝のような冷や汗を流すレムナントに、自分の気持ちが伝わっていなかったことを知る。
 クリアは崩れ落ちた。屍のように動かなくなる。

「……」

 レムナントは焦げないように木べらで鍋底をこする。

「私は……。私以外の目を持ってますし、魔族を引き寄せる、かも知れないんですよ? それでも私の側に、い、いたいんですか……?」

 周りに聞こえないようしぼめた声が震える。
 クリアは木べらを奪い取ると、レムナントの手を握る。

「あなたの心に、違う人がいるのは知ってる。それでも俺は、貴方が好きだ!」
「……」

 緑の護石が焚き火の光を映す。

「魔族とか魔王とか、どうでもいい。貴方が想い人の幻を見たって聞いて、俺は頭が狂いそうなほど嫉妬した。でも忘れろなんて言わない。忘れられない人がいてもいい! 俺に、貴方の隣を歩く許可をくれ!」

 ハンターたちまで息を呑んで見守る。酔っ払いが絡みに行こうとしたが、青白いレーザーに吹き飛ばされていた。

「……それも、こ、告白ですか?」
「はい」

 力強く、こくんと頷く。

 沈黙が降りる。だが、気まずくはない。
 互いに火が出そうなほど、顔が真っ赤だ。

「……私、まだ。本当に。この人のことが」

 ぎゅうっと胸元の石を握る。身体の半分を失ってもなお、レムナントの身を案じていた人。

 涙で揺れる二色の瞳が、クリアを見つめる。

「……それでも、いいんですか?」
「はい!」

 即答だった。

「私はこれ以上、失うことに耐えられません……。クリアさん。別れたいと言ったら魔法ぶつけますよ」
「はい」
「……う、浮気したら干物にしますよ」
「どうぞ」

 どんどんうつむいていくレムナント。

「…………死んだら、殺しますよ?」

 クリアは白い歯を見せて笑う。

「おうっ!」

 ボロッと涙が零れた。


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