全種族の男の子、コンプリートを目指す魔女っ娘♂のお話

水無月

文字の大きさ
149 / 189
無礙

28 もうひとりくらい

しおりを挟む




「はー。やってられませんよ」

 ピリリと香辛料が効いた肉野菜スープを飲みながら愚痴る。

「ちょーっと寝て起きたら、レムナント様に変な虫がついてるんですから」
「……」

 レムナントは飯食ってる場合ではないほど顔を赤くし、クリアは人生最大のドヤ顔を炸裂させていた。腕を組んで踏ん反りがえっている。天狗のように伸びた鼻の幻覚が見るほどだ。
 ちょっと煮込みすぎかな、と静かに味わっている魔女っ娘に、ロイツはむうっと頬を膨らませる。

「なんで止めてくれなかったのですか」
「すまん。終始ガン見してた」

 濃い金髪君があまりにも真剣だったもので。ひっさしぶりにドラマ観ているような感覚になって、夢中になってしまった。

 観劇したいけど、そういうの行けるの貴族くらいだし。行っても貴族しかいないから暴れたくなるし。
 こいつらが未成年根らなお良かったが、まあいいものを見せてもらった。

 主(の弟)が取られて悔しいのか、ロイツはレムナントに詰め寄る。

「だいたい! レムナント様は〈優雅灯〉様が好きなのではなかったのですか⁉」

 レムナントと魔女っ娘がスープを吹く。

「〈優雅灯〉様なら文句ありませんでしたよ! 金ランクで品がありますし、虫怖いですけどお強いですうぅ! 自信を持ってラーベナ様に紹介出来ましたもおおん」

 どの立場で物を言っているのか、ロイツがダイナミックにのけ反って頭を抱える。

「それなのに!」

 ウェーブのかかった濃い金髪を指差す。

「こんな……、こんなクリアさんを選ぶなんてえええぇぇ~。うわ~ん」

 普段ならそろそろ怒り出すであろうクリアだが、余裕綽々で前髪をかき上げている。文句を言おうとしたのはレムナントだ。

「ロイツ。何をゲホゴホッゴホ、言う、ゲホゲホッ」
「おーい。落ち着けって」

 スープが変なところに入ったレムナントの背を、わざわざ肩を抱き寄せて摩る。

「す、すみません」
「礼とか良いから」

 さっそくいちゃつき出す青年ズに、ロイツが限界まで可愛い顔をしかめる。主人は気合でスープを飲み干した。
 ロイツに二人を祝福する気は無いのか、すくっと立つと、二人の間にどしーんと腰を下ろす。

「どこ座ってんだ。邪魔じゃ、邪魔」
「邪魔はクリアさんじゃないんですくわぁぁ~ん???」

 分かりやすく煽ると、今度こそクリアの顔に青筋が浮かんだ。
 恋の話か。何十年ぶりだろう。ちょっと話に混ざってみたくなる。
 ロイツ君の頬をみよーんしている青年の方を向く。

「では、きみたちは祝言を挙げるということか。一応袖すり合った縁だ。式には行けないが祝いの品は贈ろう」

 改めて言われると、ふたりの頬が赤く染まる。ロイツは不機嫌に染まる。

「ま、だ祝言を、あ、挙げると決まったわけでは」

 レムナントが何かごにょごにょ言っているが、主人は構わず続ける。

「だがきみは貴族の出なのだろう? もう一人くらいもらわないか?」

 一夫多妻、多妻一夫など人族では王侯貴族くらいだが、獣人や蟲人ではよくある話。

「へ? もうひとりって……?」
「アゲハとか、もらってやってくれないか?」

 割と真剣な顔の主人にレムナントはカァッと頬を染め、クリアはビキッと笑顔に青筋を増やす。

 あのままじゃあの子。一生結婚とか無理だ。そのうち、「虫ちゃんと結婚しました。孫を抱いてください父さん」とか言って、虫モンスターの嫁さんを連れてきそうで怖い。本気で怖い。

 話からして、アゲハに悪い感情を抱いているわけじゃなさそうだ。

 このまま流れでアゲハも引き取ってくれないかな~?

 熱を込めた瞳で見つめるが、ロイツを放り投げたクリアに遮られた。
 腕をバッテンにする。

「はい駄目! 駄目です! そんなの認めませんよお義父さん!」

 ぷっつーん。

「誰がお義父さんじゃボケがぁ! 貴様のような馬の骨のダシに、あの子はやらん!」
「どっちなんですか!」
「てめーじゃないんよ。レムだよ、レム! アゲハは好みじゃないかい?」
「好みなんかじゃないですよね⁉ レムナント様!」

 二人に詰め寄られ、ロイツのほっぺで遊んでいたレムナントはぶわっと汗が吹き出す。

「お、お、落ち着いてください。とりあえずクリアさんは、様呼びやめましょう……?」

 混乱のあまり関係ないことを口走ってしまった。
 ドキッと、クリアが背筋を伸ばす。

「え? いいんですか?」
「……はい」
「不敬ですよふがもが!」

 レムナントに口を塞がれている。ここまで可愛いと才能だな。
 目を泳がせた後、クリアはレムナントと目線を合わせた。

「レ、レムナント、さま」
「やり直し」
「レム、ナント、さん」
「……はい」

 目を伏せ、満足そうに毛先を弄る想い人に、クリアの獣が理性を押しのけて出てこようとする。

(あ、危ない!)

 何とか抑え込んだが、あまりの可憐さに子どもの前で押し倒すところだった。危ない危ない。少女もいるってのに……いや、いないわ。この空間に少女居ない。

「それで、その。アゲハ様の件は。う、嬉しいのですが。アゲハ様は私のことは、眼中にないと思うのです」

 魔女っ娘は髪先が地面につくほど項垂れた。

 ……そーなんだよなぁ。あの子が惚れてるのは、あの子のエースモンスターのマダム(でかい蝶)なんよな。

「はー。誰だよ。あんな虫野郎に育てたやつは」

 クリアがそっと鏡を差し出してくる。
 ありがとう。いらない。

 ふと気づく。

「よく知ってたね。俺とアゲハの関係」

 隠していないが言いふらしているわけでもないので、知っている者は少ないはずだ。
 頬を掻きながら、レムナントはあからさまに視線を逸らす。

「レムナント様? 間違えた。レムナントさん? 何かあるのなら言ってください。隠し事は良くないですよ?」

 肩を抱き寄せ、形の良い顎を掴んで自分の方へ向けさせる。
 クリアと目が合ったレムナントは咄嗟に突き飛ばした。
 クリアは少しよろけただけだが、ハッと我に返る。

「すみません」
「いえ」

 クリアはすぐにぱっと両手を上げる。

「その……。クリアさんは積極的なので、近くにいられると、ドキドキするんです」
「……」

 目元を押さえて幸せを噛みしめているクリア。
 ドラマを見ている感覚の魔女っ娘は、仕事終わりのビールタイムのように頭を空っぽにして眺めていた。妻と並んで見るほどだったので、頭を真っ白に出来る。ストレス発散にいいなこれ。

「レムナント様が歳の割に初心なことを失念してたぜ。これからじっくり距離を詰めるようにしますね?」
「やり直し」
「えっ⁉ あ、れ、レムナントさん」

 レムナントは彼に寄りかかる。自分からはぐいぐい行くくせに、クリアの顔は真っ赤だった。肩を抱くべきか、左手がうろうろしている。

 ロイツは背中を向けていじけた。木の枝で地面に呪いのように「クリア」と「殺」の名を書いている。

 見かねたレムナントが手招きした。

「何をしているのです。ロイツ。来なさい」
「ぷいっ! そんなんで僕の機嫌は直りませんよ!」

 別人のように顔を輝かせ、レムナントの膝に飛びつく。表情と台詞が一致してない。身体は素直、というやつか。

「んんん~。いい香り」
「てめー。俺のレムナント様だぞ。感謝しながらくっつけよ?」
「クリアさん。うるさいです」
「そろそろぶん回すぞ」

「で? アゲハに聞いたのかね?」

 すっかり忘れていたレムナントがピシッと固まる。

「あ、えっと……」

 しどろもどろになり誤魔化そうと考えるが、三人の視線に観念した。

「あ、ああ、アゲハさんのこと知りたくて。しら、べていたことがあって」

 もう、気の毒なほど真っ赤だったのでこれ以上は聞かないであげた。

 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜

春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、 癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!? トラブルを避ける為、夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)。 彼は見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい穏健派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!? 
他にも幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良だけど面倒見のいい悪友ワーウルフ(同級生)まで……なぜか異種族イケメンたちが次々と接近してきて―― 運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない! 恋愛感情もまだわからない! 
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。 個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!? 
甘くて可笑しい、そして時々執着も見え隠れする 愛され体質な主人公の青春ファンタジー学園BLラブコメディ! 月、水、金、日曜日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新) 基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

弟がガチ勢すぎて愛が重い~魔王の座をささげられたんだけど、どうしたらいい?~

マツヲ。
BL
久しぶりに会った弟は、現魔王の長兄への謀反を企てた張本人だった。 王家を恨む弟の気持ちを知る主人公は死を覚悟するものの、なぜかその弟は王の座を捧げてきて……。 というヤンデレ弟×良識派の兄の話が読みたくて書いたものです。 この先はきっと弟にめっちゃ執着されて、おいしく食われるにちがいない。

処理中です...