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無礙
29 野営地の夜
しおりを挟む腹もいっぱいになった深夜。
就寝のために一番広いテントへとお邪魔する。黒ランクなどまだまだ駆け出し。高ランクに追いやられ、古く狭いテントで丸まって寝るのが常識。だが今夜は金ランクのお供。
入ったこともない一等部屋へお邪魔する。
「広い……」
「臭くない」
「きれいですね」
生まれが違うレムナントはほへーといった感じだったが、平民と奴隷は口を開けてテント内を探索する。勝手に引き出しを開けたりクッションに飛び込んだり。リーダーは母親のようなあきれ顔だ。主人もゲームでは住人との会話より、真っ先にタンスとか調べるので気持ちは分かる。なので、叱るのはリーダーの仕事だ。
「こら。二人とも。〈黄金〉様のテントなのですから私たちは隅っこで寝ますよ」
「えっ⁉ せっかく広いテントなのに。初夜を楽しむ流れでは⁉」
人のテントで良い度胸だテメェ。と思ったが、俺が怒る前にレムナントが靴を男前の顔にぶん投げた。
「アウチ!」
「ネジ飛んでいるんですかあなたは! やってしまいなさい、ロイツ!」
「とりゃああああ!」
日頃の恨み、とばかりにロイツ君がクリアの尻を蹴っている。和むわ。三十分ぐらいやってて。
「申し訳ありません。私たちは床で寝ますので」
「ははっ。ベッド六つもあるのだから、きみたちもベッドを使いたまえ。俺は気にしない。さて、野営地を一周してくるから、俺が戻ってくるまでにはベッドに入っていたまえよ」
そう言ってテントから出ていく。
「「「……」」」
新人がやるような雑務を率先してされると、気まずい。しかも一番上を差し置いてお邪魔している側が寝るなど。
ロイツは当然のようにレムナントのベッドに上がり込む。
「金ランクって、もっと偉そうな人ばかりかと思ってましたよ」
「人のベッドに……もう」
「だから甘やかさないでくださいってば。おい、あっちのベッドへ行け」
「やーです」
喧嘩を始める二人は置いておいて、レムナントは服を脱ぎ、濡れタオルで身体を拭き始める。野営地に水場はあるのだが、どうにもそこで身体を洗っていると、周囲からちらちらと見られるのだ。気にしすぎかもしれないが、クリアに相談したら水場使用禁止令が出た。
水を頭から被った方が汗も流れてサッパリするが、落ち着く場所の方が良い。
「あほやってないで、あなたたちも寝る支度をなさい。戻ってこられますよ」
頬の伸ばし合いをしていた二人の動きがピタッと止まる。
ロイツが足元に走ってきた。
「レムナント様~。今日も僕、頑張りましたよね?」
うるうる瞳攻撃。
いつもなら苦笑した後やさしく頭を撫でて、マジックドレインを了承してくださるのだが……
がばっと両肩を掴んできた。
「そうです! そうでした! 私の魔力は魔王の……ロイツ! あなた、身体に悪影響はありませんか? お腹痛くなってません⁉」
「おおぉぉおおっ」
がくがくと前後に揺さぶってくるリーダー。レベルに差がつくようになってきたため、ロイツの首が取れそうなほどカクンカクンする。
「レムナント様。首取れますって」
「あ。すみません」
「……」
泡拭いていたのでそっとベッドに寝かせる。
「どうしましょう、クリアさん! ロイツに何か影響が出たら! お腹は大丈夫でしょうか? 私がいないときに、お腹痛がってたりしましたか⁉」
「拾い食いと同じように考えてませんか? 魔力は腹に溜まる物じゃないっすよ」
「あなたは⁉ 私の近くにいて、何か、体調が不良になったりしてません?」
胸ぐらを掴んでくるリーダーを落ち着かせる。
「だーから落ち着けって。はい。深呼吸して」
「……は、はい」
肩を上下して深呼吸を繰り返す。だがモヤンと重いものが胸に残る。
そんなレムナントの顔色を見て、クリアは聞かれる前に口を開いた。
「レムナント様の瞳の話を聞いた時、自分の身体を調べてみたんですけど異常はなかったですよ。金出して鑑定してもらったわけではないけど。むしろ調子いいぜ」
「調子がいい、のですか?」
クリアはばっと両腕を広げた。
「だってレムナント様……さんと、お付き合いできるようになったんだぜ⁉ 人生最高の日だよ!」
「……」
そこまで喜んでくれるとは。気まずそうに、だがまんざらでもなさそうにレムナントの口がにやけそうになる。
「はい。元気そうで何よりです。ロイツも、何もなさそうですね」
落ち着けば冷静に物事を見られるようになってくる。
レムナントはインナー姿になるとロイツが眠るベッドに潜り込み、抱き枕のようにぎゅっと腕を回す。
「それと、この子の『マジックドレイン』ですけど。クリアさんが不快な気持ちになるのなら、やめようかと思うのですが」
「え?」
クリアは水場を使ってもいいのに、服を脱いで乾布摩擦のように汗を拭いていく。
「……こ、こ、こ、こ、こいび……こ……こ、こ。あ、あなたが嫌がることをしたくなくて、ですね」
結局言えなくて、さらに顔が赤くなっていった。
虚を突かれたように目を丸くしたクリアだが、だらしなくにやにやっと表情が緩んでいく。
「そうですね! 恋人! ですもんね、俺たち! ッヒュー。最高だぜ。えー、なんでしたっけ? 『恋人』が嫌がることは、したくないんでしたっけ? 『恋人』だから? 気を遣ってくださるんですね~。『恋人』! ですもんね」
枕を投げる。
「何度も言わないくてもいいです! 質問に答えなさい」
片手で受け取った枕を丁寧にお返しする。
「ま、いうても子どもだしな。成人してもまだレムナント様に触れるようならともかく。今はいいんじゃないですかね? 子どもの奴隷を無償でこき使うのは、俺は構わないけど、レムナント様は心が痛むでしょ?」
上裸のクリアにさらっと髪を撫でられ、ピーッとやかんが沸騰するように赤面した。
レムナントのあまりの照れっぷりに、クリアもわずかに頬が染まり口は引きつる。
「そ、そんな照れなくとも!」
「ふがががががっ」
「人語忘れてるって!」
「おーい。まだ起きてるのか、そこの夫婦」
茶化しながら入ると、レムの頭がぼむっと爆発した。
トゥームの連中のおかげでなかなか楽しい時間だった。
纏まった金は手に入ったが目標金額には遠く及ばない。何かのミスで、ごっちんが二億稼いできてくれることも期待しておこう。
ギルドでもう一度確かめたが、やはり災害級モンスターの依頼は無かった。平和ってスバラシイナー。
災害級依頼がないギルドに用はない。
三日月で帰宅した。
🌙
洋館内はピッカピカのキラッキラだった。そんなことはどうでもいい! 出迎えたのが、メイド服姿のムギちゃんだったのだ。一緒に帰ってきたエイオットと双子も目を丸くする。
「お、おかえりなさいませ。ご主人様」
しかも完璧な台詞を吐いてくれる。これは一大事だ。
「ムギちゃん⁉ ただいまその服どうしたんだい?」
訊かずにはいられない。
箒を握ったまま、もじもじと内またになる。あざといわぁ……。
「その、ヴァッサー様がいらして。ご主人様はいませんと伝えると、服の入った風呂敷を置いて、お帰りに、なられました」
やはりおばあちゃんか!
「ムギちゃん、かーわいー」
むぎゅっとムギに抱きつく、が、エイオットはどうしてかすぐに腕を離した。
「あ、ナナちゃん。ここにいたんだ」
エイオットの手の中にナナゴーが握られていた。俺たちの方にぴこぴこと手を振ってくれる。ロイツ君を持って帰れずに荒んでいた心がやわらいでいく。
「おかえり」
「ただいまー」
「おう。ただいま」
「ただいま、でしゅ……」
「ナナゴー様はずっと、私の背中にくっついていてくれたんですよ」
掃除するムギの背中にくついているナナゴー……か。くっそ! 見たかった! あああああクッソ!
血の涙を流していると孫が寄ってきた。
「お帰りなさいませ。お爺様」
「えらくフラフラだな。風邪か?」
「い、いえ……」
孫はちらっとムギに目をやる。ムギはいい子だがまだまだ子ども。この子のフォローでくったくたになった、ってところか。育児とか、貴族の長男には無縁だろうし。ま、いい経験になったろ? 子ども産んだ奥さんを蔑ろにするなよ? あと、生まれた子どもは絶対俺に見せろ。援助してやるから。あ、待って。いまお金ない。
「世話になったな、孫。でも素直に助かったぞ」
「いえ……。子どもの頃、お爺様には遊んでもらいましたから」
遊んだっけ? きみを放置して寂しい思いをさせていたお前の父親をぶん殴った記憶ならあるが。ああ、それで父親が構ってくれるようになったって意味か?
孫はすっとしゃがむとひそひそと話し出す。
「この二人の正体にびっくりしたんですけど。お爺様も、この子たちが誘拐されないように気を付けてください」
「無論だ。でもありがとう」
孫は速やかに帰って……行こうとしたがムギが縋りついて離れなかった。きっとおばあちゃんがすぐ帰っちゃったから寂しいのだろう。
「お、お爺様。どうしたら」
「ま、飯でも食っていきたまえ。ささやかな礼だ」
キャットがいないから俺が作るのか。
腕まくりするとエイオットが厨房に顔を出した。輝く笑顔で。
「おれも手伝ってあげるっ!」
「……」
三十秒ほど呼吸できなかった。
「か、帰ってきたばかりで疲れているだろ? ナナゴーたちと遊んでいていいよ?」
「おれは何すればいい? たまご、割るよ!」
てててっと走ってきてやる気満々に両手を握る。かわ……
「孫――――ッ!」
廊下に出て衛生兵を呼ぶ声量で孫を呼んだ。
食堂にいた金髪青目がすっ飛んでくる。
「どうしましたか? 火事ですか⁉」
「ええええエイオットと遊んでいてくれたまえ」
ヒョイとエイオットを抱き上げ、見た目は年上の孫にパスする。
狐っ子は孫の腕の中でもがもがと不満そうに暴れた。
「ごしゅじんさま! おれ、できるもん」
「エイオットは俺の仕事を手伝ってくれたんだ。労わせておくれ?」
そう言うも、エイオットの怒りは収まらない。
「やだやだっ! おれも、やる! ごしゅじんさまと一緒に作業したい」
「んぐ」
胸を殴られたようだった。
そうだな。ずっと宿でお留守番していてくれたもんな。一緒に何かできたわけじゃなかった。
――し、仕方ない。は、腹を括れ!
大丈夫だ。俺が横でしっかり教えれれれれれば問題ないはずだ!
エイオットと(巻き添えで)孫にもエプロンを渡す。
「行くぞ! 俺についてこい!」
「はい! ごしゅじんさま! やったぁ」
「……なんか、汗だくですよ? お爺様」
声が聞こえたらしい子どもたちもトーテムポールのように顔を出す。
「どうしたんです?」
「メニューは何だよ」
「うゆ……」
「手伝おっか?」
最後の台詞はナナゴーだな? 振り向かなくとも分かるぞ。手伝おうと思えるほどムギのお手伝いをしたんだね。火は怖がるかなと思ったのに。平気ならこの子のエプロンも必要だな。
ヴァッサーに……そろそろ怒られるか?
飯の後に作るのは、以前約束していたクッキーだ。
「……」
食堂を覗くとまだみんな倒れている。何故だ。エイオットが横で作業しているのをじっと見ていたのに。おかしいことなど何もなかった。こっそり変なものを入れたりもしていなかったのに。
俺もさっき気絶から目覚めたばかりだ。
「みんなお腹いっぱいで眠くなっちゃったかな?」
厨房にいるのは俺とエイオットだけ。ご飯だけでなくお菓子作りも手伝ってくれる気なのだろう。……涙がとまらねぇや。
「はーやーく。はーやーく」
唯一、難を逃れ……ゴホンッ。唯一気絶していないのはナナゴーだけだ。エイオットの頭上でふよふよしながら手を叩いている。
虫菓子も作るの慣れてきたな。心を無にする方法が分かってきたというか。虫の世話も自分でやっている。心を無にして。わざわざシャドーリス(虫が平気)を呼ぶのもな。
さて、今日もクッキーと虫菓子作るか。
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