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七つの宝に勝るもの
02 暖の取り方
しおりを挟む「エイオット。話があると聞いたが?」
扉を開けると子どもたちがエイオットの部屋に集まっていた。温度は同じでも見た目が涼しそうに感じるのか、ナナゴーの水槽部屋は冬になると人気がなくなる。
子どもたちはカードゲームでもしているかのように、絨毯の上で輪になって座っていた。
エイオットが俺に気づくと、ぷっと頬を膨らませグハァ。
「ごしゅじんさま! 何してたの? こっち来てよ」
タックルされた後にローブを掴んで引きずって行かれる。輪に加わるとエイオットが背中に抱きついてきた。
「どうしたんだい?」
「今ね? みんなの尻尾に抱きついてぬーくぬーくしてたんだよ? ごしゅじんさまも混ざってね!」
見れば、ファイアはアクアの尻尾に、アクアはムギの羽に顔を埋め、ムギはエイオットの尾をふさふさ触っている。俺の目の前にはファイアの尻尾。
「なん……」
なんという。世界一可愛い暖の取り方を……
涙があふれてくる。ナナゴーがぺしぺしと帽子を叩いてきた。ああ、大丈夫。悲しくて泣いてるわけじゃないよ。おおっぐほ、っぐふっぐほ(嗚咽)。
尻尾がないので、エイオットは金の髪に顔を埋める。
「えへへ。ごしゅじんさまの髪、ふわっふわー」
――手入れしてきて良かった……。
苦労が報われる瞬間である。
ツゥ―と涙が流れた。ますますナナゴーがべしべし叩いてくる。あ、大丈夫ですから。
じゃ、じゃあ俺は、ぐへへ、ファイアの尻尾に、ぐふふ、抱きつこうひゃっひゃぁ!
「……」
不穏な気配を感じたのか、ファイアが場所を移動してしまった。勘が良くなってきたな。仕方ないのでナナゴーを捕まえ、ぽよんぽよんお腹を軽くつつく。
「ふうひゃひゃっ」
「お、可愛い」
手のひらの上で、くすぐったいと両手をパタパタ。ちっちゃい……。
コンコンッと素早いノック音が聞こえた。
「エイオット。私だ。入っていいか?」
この声は。
「ごっちん君も来てくれたの? 入ってー」
「邪魔するぞ」
エイオットが出迎える前に扉が開く。顔を見せたのはごっちんだった。長袖のシャツの上にキャットが編んだ愛が重いセーターを着て、もこもこの黒ズボンに白ソックス姿。
魔王様も冬の装いになっている。
早足で近寄ると、主人の隣で正座した。魔女っ娘がクッションを勧めるが見ていない。
紫の瞳はナナゴーに釘付けだ。
「わ、私の手の上に、来てもいいんだぞ?」
そわそわしながら両手を差し出すが、ナナゴーはすいっと、アクアの頭の上へと行ってしまう。
ガ―――ン!
「ありゃりゃ」
「……」
ごっちんが口を開けて放心している。分かるよ。俺も懐いてくれない子に素っ気ない態度を取られて、何度放心したことか。
「ごっちん君。元気出してね?」
「わ、わたしを撫でて、いいですよ?」
あせあせとエイオットとムギが慰めている。
撫でて良いと言われた気がするので、ごっちんはよろよろと赤い髪に手を滑らす。
「ムギ。ありがとう」
「いえ。わたしの頭でよければ、いつでも……」
ムギの黒い羽が嬉しそうにバサバサと動く。真冬に扇風機をつけたように風が来て、アクアとファイアは俺の後ろに隠れる。盾にするな。
「……」
二人が仲良くしていると抜群に不機嫌になるエイオット。二人の真横でぷっくーしている。ムギは慌てるが、ごっちんはすべすべとエイオットの頬を撫でる。
なでなで。なでなで。
「そんなんじゃこの怒りは収まらないんだからね!」という顔をしているエイオットの口元が緩んできた。それを見て、ムギも反対の頬を撫でる。
「……ぷう」
耐えていたエイオットが吹き出す。
「ぷきゃっ。くすぐったいって!」
「あ、エイオットさまが笑ってくださいました」
「可愛いな」
「……うう」
二人からちやほやされ頬を染めてうつむくが、尻尾が左右に揺れている。なんだこの癒しの空間は。深呼吸しよ。
「おい。ごすじん」
「ッゴホ! ……何かな?」
吸い損ねて咽たが、笑顔で振り向く。
「俺も。その髪もふもふさせろ」
ビシッと指を差してくる。ポーズがいちいち可愛いんだから。
「え? ええ。ああ。いつでもどうぞ」
髪を触りたいと言ってくれるなんて。さっきから涙が止まらねぇや。金の髪をふかふかしているアクアの髪を撫でているファイア。マイペースにクッションで腹を上にして寝転がっているナナゴー。
……幸せだなぁ。未成年しかいないこの空間。この時間。
「ぐへへへへへへへへ」
全員が一斉にこちらを見たが、「なんだ主人の笑い声か」と判明すると気にも留めなくなる。アクアなどは真剣に三つ編みをしていた。
「おや。誰かに三つ編みの仕方を教えてもらったのか?」
アクアが頭を振る。
「んーん。適当。大人ごすじんの三つ編み、飛びつきたくなるから」
可愛いけど飛びつかないでね。首がグキッて鳴る。
ごっちんの膝でごろごろしていたエイオットが、ころんと起き上がる。
「ねー。お兄ちゃんは?」
「俺の部屋でお菓……お茶飲んでるよ」
「お兄ちゃんも呼んであげようよ! 仲間外れは駄目っ、なんだよ!」
ええー? 未成年だけの聖なる空間が。
苦いものを噛んだような顔の主人に背を向け、エイオットがごっちんの両手首を掴む。
あったかい手に掴まれ、ごっちんはきょとんとした。
「どうした? エイオット」
「ごっちん君が手を叩くとお兄ちゃん来るでしょ? はい。パチパチー」
そう言ってごっちんを操り、手を叩かせる。ごっちんは子どもの遊びを見守るような笑みだ。ムギちゃんは熱心にエイオットの手を見つめている。
「お呼びでしょうか」
音より速くやってきた執事が顔を出す。
エイオットの表情がぱぁっと明るくなり、アクアが飛び跳ねる。
「おにーちゃん。こっち来て」
「おい執事! お菓子持って来いよ」
足元でわちゃわちゃするこどもたちを踏まないような足運びで……面倒になったのか纏めて首根っこ掴み、ごっちんの隣で片膝をついた。
「参上しました」
「うむ」
「何用でしょうか? 何なりとお申し付けください」
ごっちんに呼ばれたと思っているようで、表情がイキイキしている。
「エイオット達がお前に会いたがっていたから、呼んだのだ。くつろいでいろ」
「ふえ?」
キャットの喉から聞いたこともない声が出た。
「く、くつろいでいろとおっしゃられても!」
キャットが一番苦手なことだな。何もせずだらけている時間。
だがごっちんはナナゴーの近くに行ってしまう。
「あ、ああ……」
キャットはその背を悲しげに見送ると、何故か俺を殴った。
「最近! ごっちん様が構ってくれない!」
「俺に当たるな」
ずぼっとクッションの山に埋まった魔女っ娘を、ムギが発掘している。
「お兄ちゃん。絵本読んで~。膝乗せて~」
「寒いだろ。くっついてやるよ!」
アクアはぴょんとキャットの膝に座ろうとしたが、同タイミングで膝に乗ろうとしたエイオットと空中で頭ごっちんこする。そのままジャンプした位置に背中からぽよんと落ちた。
「ふぎゅ」
「えぐ」
「アクアー」
アクアはファイアに助け起こされ、エイオットはしゅばっと自力で起き上がる。
「アクアったら。大丈夫だった?」
「いでで……。俺が先だぞ!」
「おれも本読んでもらうもん」
キャットの膝を取り合うお子様たち。アクアがエイオットに飛び掛かるがレベル差という壁がある。エイオットの腹にぽよんと弾かれ、ころころとファイアの元まで転がった。
「ちっくしょー! なんだよちょっと強いからって!」
「強いから何?」
「え?」
「何?」
「……」
じっと見てくるエイオットに、アクアはじりっと後退る。だが強気な性格が背中を押した。
「……ッ!」
が、肝心の言葉が出てこない。強いからなんだろう。言われてみれば……
「え、えーっと……」
確かにエイオットの方が強いが、別に一方的に何かされたわけでもない。
「やっぱ、なんでもない」
「そう? じゃ、話し合いで決めようね。順番こしようね。お兄ちゃんのお膝はひとつしかないんだよ」
「そう、だな」
「どっちが先に座る?」
絵本を抱えたまま、エイオットはわくわくとアクアを見てくる。
「じゃあ俺が先な! あの砂時計が落ちたら交代するぞ!」
「分かったよ。アクア」
エイオットはニコッと笑うと、砂時計をひっくり返しに行く。この世界の砂時計は込める魔力の量で、三分だったり十分だったりと、落ちる速度を調整できる。魔具の一種だ。高価な品だが、ここでは子どものおもちゃにすぎない。
砂が落ち始めると、アクアはぽふっと膝に尻を乗せた。満足げな顔をするアクアの頬を、伸びてきた手が摘む。
「ぅえ?」
「お前ら……。喧嘩をせずに話し合いで決めたことは褒めてやるが、座られる俺に対しては一言もないんかい」
びよーんと伸ばされる。
だがアクアは冷静に見上げた。
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