全種族の男の子、コンプリートを目指す魔女っ娘♂のお話

水無月

文字の大きさ
152 / 189
七つの宝に勝るもの

02 暖の取り方

しおりを挟む





「エイオット。話があると聞いたが?」

 扉を開けると子どもたちがエイオットの部屋に集まっていた。温度は同じでも見た目が涼しそうに感じるのか、ナナゴーの水槽部屋は冬になると人気がなくなる。
 子どもたちはカードゲームでもしているかのように、絨毯の上で輪になって座っていた。
 エイオットが俺に気づくと、ぷっと頬を膨らませグハァ。

「ごしゅじんさま! 何してたの? こっち来てよ」

 タックルされた後にローブを掴んで引きずって行かれる。輪に加わるとエイオットが背中に抱きついてきた。

「どうしたんだい?」
「今ね? みんなの尻尾に抱きついてぬーくぬーくしてたんだよ? ごしゅじんさまも混ざってね!」

 見れば、ファイアはアクアの尻尾に、アクアはムギの羽に顔を埋め、ムギはエイオットの尾をふさふさ触っている。俺の目の前にはファイアの尻尾。

「なん……」

 なんという。世界一可愛い暖の取り方を……

 涙があふれてくる。ナナゴーがぺしぺしと帽子を叩いてきた。ああ、大丈夫。悲しくて泣いてるわけじゃないよ。おおっぐほ、っぐふっぐほ(嗚咽)。
 尻尾がないので、エイオットは金の髪に顔を埋める。

「えへへ。ごしゅじんさまの髪、ふわっふわー」

 ――手入れしてきて良かった……。

 苦労が報われる瞬間である。
 ツゥ―と涙が流れた。ますますナナゴーがべしべし叩いてくる。あ、大丈夫ですから。

 じゃ、じゃあ俺は、ぐへへ、ファイアの尻尾に、ぐふふ、抱きつこうひゃっひゃぁ!

「……」

 不穏な気配を感じたのか、ファイアが場所を移動してしまった。勘が良くなってきたな。仕方ないのでナナゴーを捕まえ、ぽよんぽよんお腹を軽くつつく。

「ふうひゃひゃっ」
「お、可愛い」

 手のひらの上で、くすぐったいと両手をパタパタ。ちっちゃい……。
 コンコンッと素早いノック音が聞こえた。

「エイオット。私だ。入っていいか?」

 この声は。

「ごっちん君も来てくれたの? 入ってー」
「邪魔するぞ」

 エイオットが出迎える前に扉が開く。顔を見せたのはごっちんだった。長袖のシャツの上にキャットが編んだ愛が重いセーターを着て、もこもこの黒ズボンに白ソックス姿。
 魔王様も冬の装いになっている。

 早足で近寄ると、主人の隣で正座した。魔女っ娘がクッションを勧めるが見ていない。
 紫の瞳はナナゴーに釘付けだ。

「わ、私の手の上に、来てもいいんだぞ?」

 そわそわしながら両手を差し出すが、ナナゴーはすいっと、アクアの頭の上へと行ってしまう。

 ガ―――ン!

「ありゃりゃ」
「……」

 ごっちんが口を開けて放心している。分かるよ。俺も懐いてくれない子に素っ気ない態度を取られて、何度放心したことか。

「ごっちん君。元気出してね?」
「わ、わたしを撫でて、いいですよ?」

 あせあせとエイオットとムギが慰めている。
 撫でて良いと言われた気がするので、ごっちんはよろよろと赤い髪に手を滑らす。

「ムギ。ありがとう」
「いえ。わたしの頭でよければ、いつでも……」

 ムギの黒い羽が嬉しそうにバサバサと動く。真冬に扇風機をつけたように風が来て、アクアとファイアは俺の後ろに隠れる。盾にするな。

「……」

 二人が仲良くしていると抜群に不機嫌になるエイオット。二人の真横でぷっくーしている。ムギは慌てるが、ごっちんはすべすべとエイオットの頬を撫でる。
 なでなで。なでなで。
 「そんなんじゃこの怒りは収まらないんだからね!」という顔をしているエイオットの口元が緩んできた。それを見て、ムギも反対の頬を撫でる。

「……ぷう」

 耐えていたエイオットが吹き出す。

「ぷきゃっ。くすぐったいって!」
「あ、エイオットさまが笑ってくださいました」
「可愛いな」
「……うう」

 二人からちやほやされ頬を染めてうつむくが、尻尾が左右に揺れている。なんだこの癒しの空間は。深呼吸しよ。

「おい。ごすじん」
「ッゴホ! ……何かな?」

 吸い損ねて咽たが、笑顔で振り向く。

「俺も。その髪もふもふさせろ」

 ビシッと指を差してくる。ポーズがいちいち可愛いんだから。

「え? ええ。ああ。いつでもどうぞ」

 髪を触りたいと言ってくれるなんて。さっきから涙が止まらねぇや。金の髪をふかふかしているアクアの髪を撫でているファイア。マイペースにクッションで腹を上にして寝転がっているナナゴー。
 ……幸せだなぁ。未成年しかいないこの空間。この時間。

「ぐへへへへへへへへ」

 全員が一斉にこちらを見たが、「なんだ主人の笑い声か」と判明すると気にも留めなくなる。アクアなどは真剣に三つ編みをしていた。

「おや。誰かに三つ編みの仕方を教えてもらったのか?」

 アクアが頭を振る。

「んーん。適当。大人ごすじんの三つ編み、飛びつきたくなるから」

 可愛いけど飛びつかないでね。首がグキッて鳴る。
 ごっちんの膝でごろごろしていたエイオットが、ころんと起き上がる。

「ねー。お兄ちゃんは?」
「俺の部屋でお菓……お茶飲んでるよ」
「お兄ちゃんも呼んであげようよ! 仲間外れは駄目っ、なんだよ!」

 ええー? 未成年だけの聖なる空間が。

 苦いものを噛んだような顔の主人に背を向け、エイオットがごっちんの両手首を掴む。
 あったかい手に掴まれ、ごっちんはきょとんとした。

「どうした? エイオット」
「ごっちん君が手を叩くとお兄ちゃん来るでしょ? はい。パチパチー」

 そう言ってごっちんを操り、手を叩かせる。ごっちんは子どもの遊びを見守るような笑みだ。ムギちゃんは熱心にエイオットの手を見つめている。

「お呼びでしょうか」

 音より速くやってきた執事が顔を出す。
 エイオットの表情がぱぁっと明るくなり、アクアが飛び跳ねる。

「おにーちゃん。こっち来て」
「おい執事! お菓子持って来いよ」

 足元でわちゃわちゃするこどもたちを踏まないような足運びで……面倒になったのか纏めて首根っこ掴み、ごっちんの隣で片膝をついた。

「参上しました」
「うむ」
「何用でしょうか? 何なりとお申し付けください」

 ごっちんに呼ばれたと思っているようで、表情がイキイキしている。

「エイオット達がお前に会いたがっていたから、呼んだのだ。くつろいでいろ」
「ふえ?」

 キャットの喉から聞いたこともない声が出た。

「く、くつろいでいろとおっしゃられても!」

 キャットが一番苦手なことだな。何もせずだらけている時間。
 だがごっちんはナナゴーの近くに行ってしまう。

「あ、ああ……」

 キャットはその背を悲しげに見送ると、何故か俺を殴った。

「最近! ごっちん様が構ってくれない!」
「俺に当たるな」

 ずぼっとクッションの山に埋まった魔女っ娘を、ムギが発掘している。

「お兄ちゃん。絵本読んで~。膝乗せて~」
「寒いだろ。くっついてやるよ!」

 アクアはぴょんとキャットの膝に座ろうとしたが、同タイミングで膝に乗ろうとしたエイオットと空中で頭ごっちんこする。そのままジャンプした位置に背中からぽよんと落ちた。

「ふぎゅ」
「えぐ」
「アクアー」

 アクアはファイアに助け起こされ、エイオットはしゅばっと自力で起き上がる。

「アクアったら。大丈夫だった?」
「いでで……。俺が先だぞ!」
「おれも本読んでもらうもん」

 キャットの膝を取り合うお子様たち。アクアがエイオットに飛び掛かるがレベル差という壁がある。エイオットの腹にぽよんと弾かれ、ころころとファイアの元まで転がった。

「ちっくしょー! なんだよちょっと強いからって!」
「強いから何?」
「え?」
「何?」
「……」

 じっと見てくるエイオットに、アクアはじりっと後退る。だが強気な性格が背中を押した。

「……ッ!」

 が、肝心の言葉が出てこない。強いからなんだろう。言われてみれば……

「え、えーっと……」

 確かにエイオットの方が強いが、別に一方的に何かされたわけでもない。

「やっぱ、なんでもない」
「そう? じゃ、話し合いで決めようね。順番こしようね。お兄ちゃんのお膝はひとつしかないんだよ」
「そう、だな」
「どっちが先に座る?」

 絵本を抱えたまま、エイオットはわくわくとアクアを見てくる。

「じゃあ俺が先な! あの砂時計が落ちたら交代するぞ!」
「分かったよ。アクア」

 エイオットはニコッと笑うと、砂時計をひっくり返しに行く。この世界の砂時計は込める魔力の量で、三分だったり十分だったりと、落ちる速度を調整できる。魔具の一種だ。高価な品だが、ここでは子どものおもちゃにすぎない。

 砂が落ち始めると、アクアはぽふっと膝に尻を乗せた。満足げな顔をするアクアの頬を、伸びてきた手が摘む。

「ぅえ?」
「お前ら……。喧嘩をせずに話し合いで決めたことは褒めてやるが、座られる俺に対しては一言もないんかい」

 びよーんと伸ばされる。
 だがアクアは冷静に見上げた。


しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜

春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、 癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!? トラブルを避ける為、夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)。 彼は見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい穏健派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!? 
他にも幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良だけど面倒見のいい悪友ワーウルフ(同級生)まで……なぜか異種族イケメンたちが次々と接近してきて―― 運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない! 恋愛感情もまだわからない! 
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。 個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!? 
甘くて可笑しい、そして時々執着も見え隠れする 愛され体質な主人公の青春ファンタジー学園BLラブコメディ! 月、水、金、日曜日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新) 基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

弟がガチ勢すぎて愛が重い~魔王の座をささげられたんだけど、どうしたらいい?~

マツヲ。
BL
久しぶりに会った弟は、現魔王の長兄への謀反を企てた張本人だった。 王家を恨む弟の気持ちを知る主人公は死を覚悟するものの、なぜかその弟は王の座を捧げてきて……。 というヤンデレ弟×良識派の兄の話が読みたくて書いたものです。 この先はきっと弟にめっちゃ執着されて、おいしく食われるにちがいない。

処理中です...