全種族の男の子、コンプリートを目指す魔女っ娘♂のお話

水無月

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七つの宝に勝るもの

08 この町の歴史

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 本人もずっとポッケ内は嫌と(エイオットの真似をしてか)ほっぺを膨らませて抗議してくる。私もツンツンしてみたいが今は案を出さねば。

「シャドー。お前の負担にならない程度で、この子を蜃気楼で隠してやってくれんか?」
「はっ! ですがこの子たちには普通に見えるように調節しておきましょう」

 脳筋のくせに繊細な魔法制御だ。こんなことも、可能なのだな。戦争中はイノシシのように暴れているところしか見てなかった。
 薄い霧のようなものがナナゴーを包み込む。一瞬だけ人魚の姿が霞むが、すぐに霧は晴れた。

 エイオットがナナゴーの頭を人差し指でなでる。ナナゴーは嬉しそうに頬に手を当て、目を細めた。

「これでナナちゃん。他の人には見えないの?」
「見える。見えづらいだけだ。完璧に隠すと違和感となり、獣人には見破られやすくなる。あえて、だ」
「ぽあ?」

 エイオットの頭上にハテナが浮かぶ。魔力を持たぬものには難しい話か。

 ムギも撫でようと指を伸ばすが、すいっと躱される。

「ああ」
「ムギちゃん。おれを撫でてもいいよ?」

 はいっと頭を差し出してくる。エイオットのかまってちゃんが顔を出している。ムギは狐耳に目を奪われかけるが、そろそろと頭を撫でた。

「ありがとーね。ムギちゃん」
「ほわわわわほへへへへへ」

 エイオットのこととなると、まだ真っ赤になってしまうのが見ていて癒されるな。……シャドーは全く見ていないな。こんなに癒されるのに、どこを見ているのだ。

 彼の目線の先を追うと、魔女の服を着た一般客が「カンパーイ」で盛り上がっている。

 ふむ。不愉快な仮装を……ああ、いやいや。華やかな仮装だが、なぜ魔女なのか。入り口でもらった花の飾りを帽子に乗っけて、可愛らしくアレンジしている。

 私も知らないということは、最近できた祭りなのか。

「失礼。この町の祭りは、どういったものなのだ?」
「ああ?」

 ごっちんが隣の席の人に声をかける。
 声をかけられた中年コンビはじろじろと黒髪男児を見つめニヤッと酒臭い息で笑うが――シャドーと目が合うとすんっと猫背になった。

「あ、はい。この町は危険な森の近く。陽の光も弱くて作物も育ちにくく、治安も最悪で廃れ切っていたのですが、森の奥に金の髪の魔女が住み着いたことで一変したのです」

 ごっちんと子どもたちは顔を見合わせる。
 その魔女にすごく心当たりがある……が、魔女違いかもしれない。最後まで聞こう。

 手が震えている方の中年が酒をあおる。

「モンスターは適度に間引かれ悪党が幅を利かせようとしても、森の奥からふらりとやってくる魔女がしばいていく。陽光がなくとも育つ作物の種を雑にばら撒いていく時もあったという。だよな?」

 すっかり酔いが冷めた方の中年が頷く。

「ああ。この町は魔女によって発展した。百年姿が変わらない赤い魔女。町の名の由来はそれだそうだ。……で、今日はその魔女を称える祭り――なんだとよ」

 あの変態野郎が神格化されているのか。ここでは。

 ごっちんは足を組む。

「ん? 赤い魔女? 黒とオレンジではなく?」
「黒? あー……古くから伝わる話だからな。そりゃー、所々間違ってるかも知れないぜ?」
「俺たちもガキの頃、じじいから聞いただけなんだ」
「そうか。感謝する」

 礼に金貨を渡そうとしたがすごく断られたので財布に仕舞っておく。

 エイオット達に向き直り、カップに口をつけた。

「微妙に違うようだが、主人殿は昔赤いローブを着ていたなど、聞いたことはあるか?」

 エイオットは首を横に振った。耳がふよふよと揺れる。

「知らなーい」
「わたしも」
「あの虫、気になる」

 ナナゴーが手を伸ばす。店の天井にある蜘蛛の巣。そこで店を見下ろしている黒い蜘蛛。
 モンスターでもなんでもない普通の虫。

「……」

 エイオットは青い顔で、そっとナナゴーをポッケに仕舞う。

「それで町の者は魔女っぽい服を着ているのか」

 ごっちんも聞かなかったことにした。

「おれたちも着てみたーい」

 「え? わたしも?」とムギが二度見しているが、エイオットと一緒なら……と嫌ではなさそうだ。

「ごっちん君も着たいよね?」
「ん?」

 エイオットの目が輝いている。

「あーうんそうだな。着てみたい、かもな。しかし、魔女の服など持っていないしな」
「あちこちで貸し出しているぞ。魔女の衣装」

 客の帰ったテーブルを片付けていた店主のおやじが声をかけてくる。

「ん……。そうなのか」
「あんたら来るのは初めてかい? 夜の店は魔女の姿だと半額になるんだ。祭りの間だけな」
「私たちは全員、男なのだが……」

 おやじはがははっと笑う。

「なーに。あんたら可愛いから問題ない! それに、この祭りで崇められている魔女は男だって噂もある。性別なんてどうだっていいんだ。祭りを楽しむ気持ちが大切だぜ」

 似合わないウインクをして去っていく。
 確かにエイオット達は可愛いから似合うだろう。

 夜の店に行く予定は無いが、記念に仮装して祭りを楽しむのもありかもな。この祭りを楽しんできたと言えば、主人殿は喜んで霧散するかも知れないし。

「シャドーは? どう思う?」
「ごっちん様の仮装を見たいです。ジュリスにすっごい自慢します!」

 喧嘩になりそうだからやめよ。

「そうではない。お前の意見を聞かせてくれ」

 祭りを苦手と思う者も一定数はいるしな。

 シャドーはよく分からないと言った顔で首を傾げる。毛先に行くにつれ銀に変わる髪がさらっと流れた。

「意見、とは?」
「……祭りが、苦手とか、ないか?」
「ないです」

 そうか。

「では、魔女に変身してみるか」

 わっと、エイオット達が飛び跳ねた。


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