全種族の男の子、コンプリートを目指す魔女っ娘♂のお話

水無月

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七つの宝に勝るもの

09 試着室

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 陽光知らずの森から離れているとはいえ、空は今にも雪を吐き出しそうだ。
 酒場を改造したような店に入ると、ずらりと衣装が並んでいた。

「いっぱいある!」

 エイオットはムギの手を握り、店の奥へ走って行く。

「シャドーも何か着てみるか?」
「嫌です! それよりもごっちん様のお召し物を選びましょうよ!」

 子どもたちに負けないくらい目が輝いている。

「……私もそこまで、魔女の服を着たいとは思わないんだ」

 魔女に良い思い出がない。

「え? ……え?」

 見たかったのか、シャドーが敵前でも見せたことのない絶望顔をする。こいつらどれだけ私のことが好きなのだ。

「仕方ないな。紫色の物を選んでくれ」
「御意!」

 店で大声を出すな。
 服を選んでいるシャドーの背中にもたれていると、もはやムギを引きずっているエイオットが戻ってくる。

「ごっちん君! 見て見てー。この帽子、ごしゅじんさまっぽくない?」
「ああああー」
「……エイオット。はしゃぐな。それと後ろを見てやれ」
「え?」

 大きめの帽子を被ったエイオットが振り返る。しっかり手を握ったムギが目を回して倒れていた。

「あっ! ごめんね? 痛かった?」
「い、いえ。足が、速いのですね。エイオットさま」
「怪我してない? 舐めてあげるね?」
「えっ⁉ ああいえ大丈夫ですううぅ」

 じたばたと逃げようとするが、エイオットはしっかり腕を掴んでいる。抵抗虚しく引き寄せられ、いっぱいぺろぺろされる。

「はわわっああうああ大丈夫でうああああうああ」
「ぺーろぺーろ!」
「怪我したの?」

 ポッケから出てきたナナゴーも、ムギの頬を撫でる。主人殿が見たら発狂しそうだ。代わりにしっかりと見ておいてやろう。
 腕を組んでいるとぼすっと頭に何かを被せられる。見上げるとつばの広い三角帽子だった。
 乗せたシャドーはにかっと笑っている。

「薔薇もついていて、まお、ごっちん様にはピッタリかと!」

 どやぁっと胸を張っている。良いものを見つけたぜと思っているのだろう。
 可愛いので「これは薔薇ではないぞ」とは言わないでおく。

「ふふっ。そうか。エイオット、ムギ、ナナゴー。どうだ?」

 大きな帽子を頭に乗せたごっちん。

「そういう帽子、似合うよ」
「かわいい、です」
「なにそれ? あのおじょうさんの真似?」

 ナナゴーが「どうだ? 当たってるでしょ?」とドヤ顔してくる。流行っているのか、ドヤ顔。可愛いので撫でておこう。

 ……どこを触ってもぽよぽよしている。

 久しぶりにナナゴーに触れて口角が上がる。

「ナナちゃん。ごしゅじんさまって呼ぶんだよ?」
「はい? 何がです?」
「ごしゅじんさまのこと。おじょうさん、じゃなくて、ごしゅじんさま、ね?」
「?」

 ナナゴーは首を傾げ……過ぎてその場で一回転したが、エイオットの言葉には素直に頷いた。

「ごゆじんまま、だね。ばっちりだよ」

 ちっちゃい指でオッケーサインを作り、片目を閉じてエイオットが出来なかったウインクをして見せる。
 文句なく可愛いところ申し訳ないが、

「ご、ごしゅじんさま。だよ」
「ごゆゆんさま?」
「……えーっと」

 聞き慣れない言葉だし、仕方ないかもな。とごっちんが思っていると、エイオットが「おれの活舌が良くないのかな?」と肩を掴んでくる。思ったより力が強い。

「エイオットはいつもハキハキ話すから、聞いていて気持ちがいい。ナナゴーは単に、言い慣れてない言葉、なだけだ。そのうち慣れてくるだろうから、何度も言ってやるといい」
「う、うん。そっか。分かったよ」

 ぴとっとくっついてくる。エイオットの方が背は高いので、腕の中に納まってしまう。あたたかいな。

「邪魔だ」
「おや」

 振り向けば、入店してきた大柄の男がギロッと睨んでくる。その隣にはグラマーな美女がしなだれていた。ごっちんはエイオットを抱き締めた状態で横にズレる。

「すまなかったな」
「ケッ。ガキが」
「あーん。かわいい~」

 お姉さんはエイオット達に投げキッスをして店の奥へ。奥は大人用の衣装置き場のようだ。背伸びをするがあまり見えない。

「ごっちん様? 無礼者の首をもぎ取ってきましょうか?」
「果物狩りみたいに言うな。構わん。今のはこちらに非がある」

 軽く頷き、シャドーは大人しく引き下がった。
 怖かったのかムギもごっちんの背に抱きつく。前後の頭をあせあせと撫でるのに忙しい。

「衣装は決まったか?」
「ごしゅじんさまとお揃いのものがないんだけど」
「そこの黒いのでも良いと思うぞ。エイオットに似合いそうだ」

 適当に指を差すとエイオットが衣装に向かって走って行く。「自分たちも~」と言いたげに、ムギやナナゴーもごっちんを見つめる。

「え、えっとな。シャドー。シャドーはムギの衣装を選んでやってくれ」
「御意。さあ、来い」
「は、はい」

 聞き分けよく、ムギはとことことシャドーについていく。

「……」

 宙を浮いているナナゴーを見てハッとする。この子サイズの衣装って、あるだろうか。小柄な種族はいるがここまで小さい子はなかなかお目にかかれない。

「ま、まあ。最悪、帽子だけでも良いな。ナナゴーは飾らなくとも十分だし」
「? 早く選んでよ」

 くるっと背を向け、「おりゃおりゃ」と尾びれで鼻先をくすぐってくる。

 シルクのような肌触……

「っくしゅん!」
「あー」

 くしゃみでナナゴーが飛んでいった。慌てて拾いに行く。

「ぐしっ。す、すまない」
「むぷーっ」
「わわっ。怒るな」

 ぺちぺちとごっちんを叩いてきた。手が小さすぎてくすぐったい。「んふつ、んふふ」と笑いを堪える声になる。

「こら。くすぐったい」
「むかっ」

 まったくダメージを受けていないことに腹を立てたナナゴーが、襟からすぽっと服の中に入り込んだ。

「ッ⁉ ナナッ」
「おりゃりゃりゃりゃ」
「――ま、待っ!」

 服の上からでは効果が薄いと思ったのか、地肌をぺしぺし叩いて直接攻撃してくる。とはいえ痛みはなく、あるのはちいさなお手々によるくすぐり攻撃。

「ぐうっ。んっ、ナナ、待て、ん」

 笑い転げそうになったが人目の多い店内。
 ナナゴーを捕まえようとするが、服の中を自在に動き回られる。まさかここで服を脱ぐわけにもいかない。なんとか服の上からそっと抑えようとするが背中に回られるとどうしようもなくなる。

「んぐぐぐぐっ、待っ。やめ……ひゃあ」

 高い声に、周囲の人が目を向けてくる。

 いたたまれなくなり、試着室の中へと逃げ込んだ。

 カーテンを閉め、自分の身体を抱き締める。

「あ、はははは。やめ。ナナゴー。あっ、悪かった……んん」
「むー?」
「あ、あ。悪かったからやめ、あは、あ」

 へなへなとへたり込んでしまうごっちん。ナナゴーはもぞもぞと動くと、すぽっと顔を出した。襟からするっと出ていく。

「ふんっ。まいったか」

 両手を腰に当て、怒っているような得意げな顔でふんぞる。

「……ああ」

 怒りが収まったことにホッとした時だった。

「ここは子どもの遊び場じゃあ、ないぞ?」

 カーテンの隙間から、ぬるりと男が入ってくる。

「え? ああ。失……」
 
 「失礼」と言いかけたが、服装からして店員ではない。それに、なにか嫌な感じがする。その前に、カーテンが閉まっているのに声をかけることなく開けた時点でろくな人物ではない。

 関わらない方が良いな。

「それもそうだな。大人しくしていよう」

 こそっとナナゴーをポッケに仕舞い、男の横を通って試着室を出ようとした。
 が、抱きしめられ、試着室の壁に押し付けられる。

「んぐ」

 素早く口を押えられた。男の尾が器用にカーテンを閉める。音を立てて報せようとした両手も、頭上で一纏めにされてしまう。
 両足の間に身体をねじ込まれると、もう動けなくなった。

「ん……」

 男は景色に溶け込むことを得意とするカメレオンの獣人だった。大きな目をぎょろぎょろと動かし、手中に収めた男の子を舐め回すように見つめる。

「おお。やはり、だ。瞳の色が、白、黒、青、赤、金。どれにも属さない色。ひひっ。掘り出し物だぁ」

 ごっちんは一瞬、目を見開いた。だがすぐに納得したように目を伏せる。
 今までは周囲に派手な人物がいたからな。視線が分散していたのだろう。だが一人になったことで……ナナゴーは今、周囲からは見えない存在だ。

(まいったな)

 狙われたのが子どもたちでなくてよかったが、ここからどうしたものか。

 男はぐっと顔を近づける。

「……大人しいな。もうちょっと暴れてくれても楽しいのに、な」

 長い舌がごっちんの頬を舐める。ぴくんと身体が揺れた。

「ではそのまま店の外までついてきてもらおうか、な? 騒いだりしたら、わかるよ、な?」

 口を塞いだまま、男の子を立たせる。

「静かに、できるかな?」
「っ」

 背中に触れていた手が下に下がってくる。きゅっと尻を掴まれた。

「んっ」
「ンン? やけにいやらしい反応をするな? 男娼か何か、か? こりゃあいい。売る前に楽しめる」

 もみもみと尻肉を堪能していた手が、するりと前に回り、太ももの間に入り込んでくる。

「うっ」
「ははは。おい。見ろ。自分の姿を。鏡に映っているぞぉ?」

 ぐいっと鏡の方に身体ごと向けさせられる。鏡に映るのは、大人に遊ばれている男子の姿だった。

 ―ー見たくない!

 思わず男の手を掴むが、引き剥がせない。それどころか太ももを撫でられ、力が抜けそうになる。

「んんっ、ふう……。う、う」
「はは。いいな。飽きるまでペットとして飼うのもありかも知れない、な」
(シャドー。頼む。気づいてくれ)

 ビクビクと身体が揺れる。鼻ごと押さえられているため息苦しくなり、男の腕を掴んでいた手が落ちる。

 音もなくカーテンが揺れると、鏡に背の高い銀髪男が写り込んだ。

「――え?」

 あまりに滑らかに写り込んだことで、男は反応できなかった。

 コキャッと首を音速で捻られ、木の棒のように床に倒れる。

 支えを失ったごっちんも尻もちをつきかけたが、シャドーが受け止めてくれた。

「お呼びですか? ごっちん様」
「……う、ん」

 何とか頷けた。

 呼んだ。確かに呼んだぞ? 心の中でな? なぜ聞こえたんだ。

 幻かもしれないので目を擦ってからもう一度見上げる。
 シャドーだ。肩にナナゴーも乗っかっている。いつの間にポッケから抜け出したのやら。

「ナナゴーが、報せてくれたのか?」
「はい。『ごっちんが変な男に抱きつかれてる』と、耳元で言われた時は心臓止まりましたぞ。血液操作で動かしましたが」

 割とガチ目に心臓が止まっている。

 シャドーの後ろから、着替え終えたエイオットとムギも顔を出す。

「どうしたの? 大丈夫? 何かあったの?」

 マイナスチック制の星がついた黒い魔女帽子に、胸元にも星がついたローブのエイオット。

「ごっちん様? お着替え、手伝いましょうか?」

 ムギは赤い大きなリボンがかわいい魔女帽子に、赤いマントの付いたワンピース。
 ふたりともとても愛らしい。

「だ、大丈夫だ。試着室に変な男が入ってきて、シャドーが……おい。そうだ。殺してないだろうな」

 ピクリとも動かないカメレオンの男。

「あ。ゴミ捨て場に捨ててきますね?」
「おい待て。息があるか確認を――」

 する前に引きずって行かれた。

「……」
「ごっちん君?」
「どうしました?」

 ひとまずエイオット達を抱き締めておいた。もふもふで癒される。


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