上 下
20 / 20

3S 大学再受験

しおりを挟む

 S-1  大学再受験 一度目の大学は退学
 S-2  学生協議会 よく休むので無理
 S-3  放射能施設崩落 地震

 
 S-1  大学再受験

「山雅さん、この後どうするの?」
「何処か、良い大学を探す。」
「編入は出来るかな?」
「いや、一年間は無駄になるけど、他の大学を受験し直す。」
退学した大学は、この地方では一番の名門なので、試験もそれなりに難しかった。しかし今回も、勉強はして置かなくてはならない。すべったら面倒な事になる。
「何処の大学がいいかな?」
「この際、県外に行くしか無いけど、隣の県に無いかな?  そこなら通学出来る。」
「私大なら、この県内にも、面白そうな所が有るよ。」
その大学は、私立大神大学と言う。今の住居より少し東の街になる。
「私大なら、金が大分掛かるけど、そこにするか?」
その大学は、私立では有るが、理学部に力を入れている。
彩華や祥生も、その方面に進む方針である。県内なら通学もやりやすい。
「山雅さん、共通一次の申し込みは今月だよ。そろそろ準備しないと。」
「私立なら、共通一次試験は、必要無いんじゃない?」
「そうだけど、学力の確認の為、一応受けて見ようよ。」
「わかった、そうするか?  じゃ今週に申し込む。」
おそらく忘れた部分も有る。もう一通り、受験に向けて勉強をする。

何とか試験には合格をした。しかし、面接が残ってしまった。
二人は、滑り止めは受けていない。面接と言うのには不安が残る。
二人同時に呼び出された、と言うのにも何処か引っ掛かる。
その指定の日、二人は大学の面接室に向かっている。
「わざわざ済みません。ちょっと疑問が有りましたのでね?」
「はぁ、何でしょうか?」
「お二人は、大学を同時にやめられてますね、何か関係が有りますか?」
やつぱり、あれが原因になっていたか?  疑問に思われても仕方が無い。
「あれは、やめる原因が同じだったので、同時になりました。」
「その原因は何ですか?」
「私達は、学費を稼ぐ為に、アルバイトをして居たんですが、学校の行事を優先しろと言われて、断わったんですが、駄目だと言われました。この前の討論会も、仕事と重なってしまって、討論会を休みました。それが、三回も重なりました。」
「あれが、一番の原因だよね?」
「留学も断ったから、あれも怒った原因かな?」
彩華も、祥生と同じ様に思っている。留学先の大学は、アメリカでも結構有名で、そこへ留学すれば、大学の格が上がると思って居た節が有る。
「資格を得られたんですね、二人共ですか?  留学先は何処ですか?」
「興味が無かったので、詳しい話は、聞いて居りませんでしたが?」
「そんな話は、噂になります。勿体ない気もしますが?」
「そうなんですけど、金も掛かります。奨学金だけでは足りませんし。」
「そう言う事ですか、どの程度休まれるんですか?」
「二ヵ月に一週間程ですかね?  もっと短い間隔の時も有ります。」
「その日程は、変更出来ないのですね?」
「仕事のローテは、あまり変える余地が無いのです。こちらの都合で、仕事が組まれる訳では有りません。ましてや、急な変更は出来ません。
仕事の場合は、学生程甘くは無いのです。お金を頂く訳ですから。」
「単位を取れるんでしょうね?」
「殆んど毎日バイトをして居ても、卒業をしている人も居ますよ。私達は、少なく見積っても、七割は出席しますので。」
「その程度で、学費と生活費は稼げるんですか?」
「家から通う場合は、生活費は要りません。学費だけで良いのですが、急に仕事が来ます。その分バイト代も多いですけど。」
「分かりました。一応会議に掛けます。お茶でも飲んで居て下さい。」
会議に、どの程度の時間が掛かるのだろう?  二人は大人しくお茶を飲んでいる。
「どうなるかな?」
「どうだろうね?  今の人は、大丈夫みたいだったけど。」
「何処の学校でも、優秀な学生は、利用しようとするからね?」
「普通は、名誉に思って参加をするんだけどね?」
「それが、説明出来ないところが困るよね?」
それから30分程して、呼び出しが掛かった。面接室には、先に居た人と、もう一人が居た。
「お待たせしました。合格が決まりました。それでは、一回生の分学長を紹介します。澤田分学長です。因みに私は、副分学長の園田です。」
その澤田分学長は、祥生に頼んだ。
「どちらでも良いから、せめて入学式の挨拶を、頼めないかな?」
「彩華、頼むわ。僕は苦手だ。その代わり、仕事の方は僕が頑張る。」
「仕事が難しくなってるから、あの子達だけでは難しいね?」
「そう言う事で、挨拶だけはやります。神能彩華さんにお願いします。あっ、それより、僕達に資格が有りましたか?」
「失礼しました。お二人は一回生の一位と二位です。資格は充分です。」
二人は胸を撫で下ろした。学科はともかく、面接の基準は曖昧だ。何処で振分けられるか、分かった物では無いのだ。
「今度は、初めに事情を言ってるので、学校の仕事は来ないだろうな?」
「そうだよね、前の大学の様に、無理矢理の仕事は来ないわね?」
入学式当日、彩華は少し早めに大学に来た。最後の打合せが有ったのだ。
組織からの依頼も無かったので、祥生も出席をした。
「原稿は、あんな物でいいですね?」
「大丈夫です。まずい事は、書いて無かった様です。」
彩華は、挨拶の原稿を自分で書いた。そして、大学に原稿を見て貰った。
祥生は、彩華の両親と顔を合せた。迷惑を掛けた事を、謝まろうと思ったのだ。
「山雅祥生です。今回は申し訳有りません。彩華さんを巻き込んで。」
「いや、これは彩華の一生ですから。思う道を進むしか有りません。」
「おまけに、挨拶まで頼んでしまって。」
そこへ、挨拶の済んだ彩華が現れた。
「山雅さん、席に着かなくっちゃ。」
入学の挨拶は、彩華がやってくれたが、祥生は一応、一回生の首席でも有るので、前の方の役員席に座らされている。
式が済んだ次の日、彩華と祥生は、相変わらず一緒にお茶を飲んで居た。
「今度の大学も首席か?  私より、勉強は少なかったと思ったけど。」
「その代わり、中間試験等は、彩華の方が上だっただろう?」
「山雅さん、前の入試では、東大にも行けると言われて居たわね?」
「マグレだよ。彩華も行けたと思うよ。留学基準もその辺りだろう?」
「いや、私は、もう一段下じゃ無いかと思う。」
何やかやと言いながら、彩華も祥生の後にピッタリ付いている。
前の大学も、今の大学も同じであった。


 S-2  学生協議会

お茶の後、二人は北の方に歩いている。食事の為、レストランに向っているのだ。その途中、又もや十人程の学生に捉まった。
「山雅君だな、ちょっと用事が有るんだが?  そこの路地に来てくれ。」
「何か?」
「君は何故、代表挨拶もしないし、学生協議会にも参加をしない?」
「挨拶は勘弁して貰いました。協議会の用事は無理だと思います。」
「学生なら、学生らしくして貰いたい。大学の用事は、重要なんだよ。」
「それは、分学長に説明しましたけどね?」
「生意気な事を言うな、分学長は関係ない。学生協議会に協力しろ。」
それを言われても、詳しい説明は出来ないし、困ったものだ。何故、やれない者に強制するのだ?  暇な者も居るだろうに。祥生はそんな事を思っていた。
「用事を受けても急にキャンセルしますよ。こちらの方が大事なので。」
「まだ言うか、大学生は、大学の用事が優先されるべきだろうが?」
「大学は勉強する所だよ。仕事をする所では無い。」
「うるさい。黙れ。」
後にいた奴が、突然、祥生の胸を掴んだ。祥生は、それを逆に捻り、腕を離す。そいつは、蹴りに来た。祥生はその足を蹴り上げる。その男は宙に浮く。そして、背から地に落ちた。
「ぎゃっ。」
「くそっ。」
他の男が回し蹴りを放った。祥生は余裕で外す。
「素人は、余り喧嘩をやらない方が、いいですよ。」
その中の女子学生が、彩華の方にも現れた。
「あなたは、協力してくれるんだよね?」
「いやあ、大学の費用を、稼がなくてはならないので、無理です。」
「あなたも、逆らう気なの?」
「逆らうと言う様な問題では有りませんけどね?  あなた方の様に、無駄飯は食べさせて貰えないので。」
彩華は、無理に怒らせる様に言っている。こんな事には飽きているのだ。
「無駄飯とは何だ?  その女も捕まえて置け。」
「捕まえられるもんならね?」
今度は男の方が、彩華に殴り掛かる。彩華は余裕で避ける。今度は彩華の腕を掴もうとした。彩華はその腕を取り、背負いで放る。
「ぐわっ。」
そのグループは、喧嘩が出来る学生は少ない。半分は普通の大学生だ。
何人かは、向って来たのだが、倒れた奴に肩を貸して、路地奥に消えた。
この事件の結果、少なからず噂がたった。それ以来、彩華や祥生に、絡んで来る学生が居なくなった。人の噂もなんとやら、この状態が、いつまで続いてくれのか?


 S-3  放射能施設崩落

「山雅さん、組織から連絡が有った。今回はちょっと難しそう。」
彩華の話によると、日本海側の放射能廃棄施設が、地震で壊れた。
ある部屋の中に、作業員が数人閉じ込められて居る。助けに行くには、放射能の漏れた部屋を通らなくてはならない。
作業員が取り残された部屋も、放射能漏れの心配が有る。長時間放置する訳には行かない。
「いつも外に逃げるのに苦労する。もっと考えて作れないものか?」
「助ける方法はある?」
「瞬間移動を使えば、救助は可能だけど、後が困る。」
「だけど、見殺しには出来ないよ。」
「二重装甲で何とか誤魔化すか?」
「二重装甲って何?」
「僕達は、特殊機能服を着た事になっている。上に防御服を着ける。」
「前に使った事が有るよね?  それで、放射線を防げるの?」
「放射線は、僕達の保護能力で防げる。それを隠す為に理屈を付ける。」
彩華は、組織に連絡を入れた。直ぐに出発が出来ると言って置いた。
彩菜達も行けると言うので、祥生の車で皆んなを集めた。そして、そのまま現地に向かう。
「我々は、特殊機能服を着ている事になっている。その上に、放射能防護服を着けて行動する。放射線は、我々の能力で防げるが、それを隠す為の方便だ。」
「私達の仕事は何ですか?」
「彩華以下、民間人の見張りをして貰う。メディアでも入れない様に。」
「誰が助けに入るの?」
「僕が行く。この前は二人で行ったけど、今回は入り口が広い。」
メディアの中に、特攻気味の命知らずが居るので、警戒を要する。
内情を見られると、嘘がバレないとも限らないし、彼等の命が危ない。
普通のルートを通るには、二カ所ほど錠が有る。地震で壊れた部屋に廻って、鍵を探すより、錠を壊して入った方が早い。
「しかし、放射能まで、保護対象に入るとは、不思議だね?」
「放射能の構成要素は、微小粒子の放射と高エネルギー電磁波だ。」
「その、微小粒子って何なのよ?」
「電子、陽子、中性子やその他の、極小粒子状物質だよ。」
「何だか、良く分からないけど、素粒子等の物質の粒と電磁波だね?」
「そう、物質と電磁波は保護範囲に入っている。」
これは、祥生の認識で有るが、祥生も、これ以上難しい事は分からない。
とにかく、経験による認識だ。ただ、放射線の強度の限界は分からない。
「そろそろ着く。絶対に侵入は防いで。放射能は一般人には命取りだ。」
「そうだね、我々が入って居るのを見て、勘違いする奴が居るかも?」
現地へ着いて話をしたが、高校生や大学生では、中々信用されない。毎度の事だが、組織と話をした人が、現地に話を通して居なかったのだ。
すったもんだの末、やっと仕事の準備が出来た。人の命が、掛かって居なければ、職場放棄をするところだ。祥生は、無理に仕事をする気は無い。
「やっと行ける様になったか?  このルートで行く事にする。その状況によっては、他の壁も抜くかも知れない。一応、頭に入れて置いて。」
「いざと言う時は私が行く。そんな事にならない様、頑張ってね?」
祥生に何か有れば、彩華が行くと言う。
「了解。行ってくる。」
作業員の部屋へ行くには、錠を二つに壁の二ヶ所を壊す必要が有った。
壁は、自然崩壊と思える様に、穴を空けなければならない。
祥生は、入念に偽装を施して、部屋の前に来た。放射能の有る空気は、その部屋に入れたくない。ドアを一瞬だけ開けて中に入る。放射能の充満する部屋も有ると言う事で、防護服を付けさせる。
「この防護服を着けて下さい。多少は放射能を防げます。」
「本当に、この放射能で、大丈夫なのか?」
「私の服を掴んで置いて下さい。特殊服の機能が少しは影響します。」
「そんな危険な賭けをさせるのか?  俺は、正規の救助隊を待ちたいのだが?」
「そうですね、二ヶ月もすれば来るかも知れません。それに賭ける人は、残ってください。この部屋も、放射能は完全には防げませんけど。」
「無責任じゃ無いか?」
「私の責任は有りません。責任問題で片付くのなら、待ってて下さい。」
「そうだな?  ここでは長くは待てない。」
「行きますよ。残る人は、頑張って下さい。一日ぐらいは、保ちます。」
結局、皆んな行くと言うので、防護服を付けさせた。
もう少し遠ければ、瞬間移動を使うのだが、今回は比較的近いので、走って行く。
「もう直ぐ外に出ます。頑張って下さい。」
常識的に考えれば、出来るだけ短時間に、外へ出る必要か有る。この放射能では、防護服の機能は充分では無い。まあ、それが普通の認識で有る。
祥生の保護範囲に居る限り、放射線の影響を受けないのだが、それは説明する訳には行かない。因みに、祥生の保護範囲は祥生から10米である。
「やっと、出られました。あの防護服だけでは、放射能を防ぎきれませんので、直ぐ病院へお願いします。」
彩華達は、そう提案をして、どさくさに紛れて、その場から消えた。
「入ろうとする人が居て、阻止するのが大変だった。」
「そりゃ、高校生が入って居るのを見れば、大丈夫と思うよね?」
「そうなんだよ。それを力ずくで、排除しなくてはならなかった。」
「ご苦労さん。ご飯でも食べに行こうか?」
「賛成。」
祥生としては、原子力等、核の問題には関わりたくないのだが、人の命が掛かっている以上、無視も出来ない。しかし、それを誤魔化すのに、毎回苦労をしている。
そんな核問題が、あまり起こらない事を祈っている。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...