愛の集う場所 ~Magic to love~

慧野翔

文字の大きさ
4 / 13
~ 真之介&清隆 ~

カフェ・AOZORA

しおりを挟む

 清隆の行動力というものを甘くみていたと真之介が思い知らされたのは、次の日の昼休みだった。

「はあ? 東京に来てる? なに、急にそんなことしてんねん!」

 会社で昼を食べようと机の上に弁当を広げた時に、意外な人物からの着信があったのだ。
 昨日の夜に電話で話したばかりだというのに、半日くらいしか経たないで何の用かと思って電話に出た真之介は、その内容に驚かされた。
 そして、そんな真之介の声に、隣に座っていた圭もびっくりしたようにこっちを見ている。

「あほ! こっちの都合も考えろや」

 真之介は電話の相手にそう怒鳴ると着信を切り、広げた弁当をそのまま圭へと押し付けた。

「ごめん、圭くん! 俺、ちょっと出てくるから、これ食べといて!」
「えっ、おい!」
「昼休み中には戻るから!」

 それだけ言い残すと、真之介は慌てて会社を飛び出した。
 向かう場所は会社から少し離れたカフェ・AOZORA。ビル街にあるわりには、そんなに混雑もしていない真之介のお気に入りだ。
 今、そこに清隆が来ているのだと言う。

(昨日の電話の時にはそれらしいこと、何も言ってなかったのに……急に東京に来てるってどういうことやねん?)

 しばらく走ると、目的のカフェが見えた。
 そこはビルとビルの間に挟まれながら建っている割には、それなりの存在感を出していて、店の前に置かれた手書きの店の看板やメニュー表に温かみがあって、どこか親しみやすさを感じる。
 だが、少し可愛らしいデザインの入り口は男性一人で入るのは勇気がいるのか、いつも女性客かこの店の味の虜になった常連の男性客くらいしかいない。
 そんな不思議なカフェの入り口に立つと、真之介は一度大きく深呼吸をして、その扉へと手をかけた。

「いらっしゃいませ~……ってカネか」

 真之介が店内に入ると同時に店員が声を出したが、真之介の顔を見た瞬間に顔をしかめた。

「アキ、そんなイヤそうな顔すんなや! 俺かて客やろ」

 真之介がそう言い返したのは、何度も通ううちに仲良くなったこのカフェのアルバイト店員の秋葉奏太アキバソウタ・二十二歳。
 同年代の男に比べると少し小柄で童顔なためか、どこか小動物のような愛らしさが女性客に人気で、さらに奏太の淹れるコーヒーを目当てに訪れる男性客もいる。
 だが、率先して愛想を振りまくわけでもなく、どちらかというとやる気の無さそうな態度が多い割には客受けがいいから不思議だ。
 そんな奏太は真之介の言葉もたいして気にした様子もなく言った。

「それより、ダンナ来てるよ。遊がつかまると俺の仕事が増えるじゃん」

 そう言った奏太の視線の先へと目をやると、真之介に気づいた清隆が軽く片手をあげた。
 その隣りには奏太と同じくアルバイト店員の夏目遊馬ナツメユウマ・二十三歳が立っている。

「ダンナ言うな」

 いくら自分達の関係を知られているとはいえ、気恥ずかしさから真之介は奏太にそう怒ると、清隆のもとへと向かった。

「あ、真。いらっしゃ~い」

 席に近づいた真之介に遊馬が笑顔で声をかけてきた。
 遊馬は細身で背も高めのモデル体型だが、その明るい性格と笑顔が親しみやすいと評判の店員だ。
 それでいて、夕方以降のお酒も提供する時間になるとバーテンダーとして真剣な表情でシェイカーを振る姿が様になっていて、昼と夜のギャップが彼の人気の一つでもある。

「良かったね~。ついにじゃん♪」
「……?」

 遊馬に肘でつつかれ、小声で楽しそうに言われた真之介がなんのことかわからず黙っていると、今度は背後から声がした。

「ほら、遊馬くんはそろそろ仕事に戻らないとアキに怒られるよ」
「あれ、冬聖トアがホールにいる」

 遊馬の言葉で振り返った先にいたのは、このカフェのキッチン担当の白濱冬聖シラハマトア・二十二歳。このカフェでは奏太と数ヵ月違いの一番年下だが、誰よりもしっかりとして落ち着いている。
 顔立ちのはっきりとした美形で、試食のカロリーをジムに通って消費しているため、その身体はなかなかに鍛えられていて、その見た目と料理に対するストイックさが裏方ながらにお客から人気がある。

「これ、特別にデザート。リーダーの奢りだから」

 そう言いながら、冬聖は清隆の前へと持っていた透明のデザートグラスを置いた。

「おお♪ ありがとぉな、冬聖。とよちゃんにもお礼言うといてな」

 真之介はみんなの言っていることが理解出来ず、会話に取り残されたまま清隆に促されて席へと着いた。    
 すると、遊馬と冬聖はその場を離れようとする。

「あ、ランチ一つ頼むわ」
「かしこまりました」

 立ち去り際に慌てて真之介が注文すると冬聖がそう答え、遊馬を引っ張りながらキッチンへと戻っていった。
 そうして、初めて真之介は落ち着いて、目の前のカラフルなフルーツが盛られているかき氷のようなデザートをのん気につついている清隆と向き合った。

(相変わらず色白で、キヨは黙っていれば美人やのにな)

 インドア派の清隆は日に焼けることも少なく、色白でスラッとした体型だ。
 これで圭みたいに大きな二重の瞳だったりしたならば可愛いと評される顔なのだろうが、残念ながら清隆は切れ長の一重だ。
 しかも、ゲームのやりすぎで寝不足の時などはさらに目つきが悪くなるものだから、真之介が何度注意したことかわからない。
 それでも、その目元が男らしくて清隆は可愛いと言うより綺麗で、圭が可愛い系の美人なら清隆は綺麗系の美人と言ったところだろう。

(なんで、こんな奴が俺となんか付き合ってんねんやろ?)

 久しぶりに見た清隆の姿に、真之介は一人で考えこんでしまった。
 すると、そんな真之介の視線に気づいたのか清隆がニヤニヤと笑いながら言う。

「なに、俺の顔に見とれた?」

 あながち間違ってはいないその問いに、真之介はわざと話を誤魔化すために早口で捲し立てた。

「見とれてへん! それより、なんでいきなり東京に来んねん? 昨日の夜は何にも言ってなかっただろ。普通、事前に連絡くらいするやろ。それに、遊馬が言うてたことの意味は?」
「ん~……まあ、落ち着けって。ほら」

 清隆はのん気にそう言うと、デザートを掬ったスプーンを真之介の口元へと持っていく。

『俺は仕事の合間に来て忙しいんや!』

 そう言い返す言葉を飲み込んで、真之介はそのスプーンを口に入れた。

(あ、美味いやん……さすが冬聖。でも、冷たっ!)
「…………」
「どないした?」

 冷たい刺激に耐えて俯いた真之介に清隆が聞いてくるが、真之介は答えられずにいた。
 すると、その様子で気づいたのだろう。清隆が一言呟く。

「……知覚過敏?」

 真之介が無言で頷くと、清隆に盛大なため息を吐かれた。

「まったく、なにやってんねん」
「はい、お待たせ……って、何してんの?」

 ランチのスープとサラダを持ってきた奏太が真之介の様子を見て聞いてきたのに対して清隆が答える。 

「知覚過敏中」

 その答えを聞いて、奏太も呆れたようにため息を吐いてから言った。

「冬聖くんに言って、カネには冷たくないデザート用意してもらうよ」
「頼むわ~」

 勝手に目の前で交わされるやりとりに真之介が恨めしそうな視線を送ると、奏太を見送った清隆が気まずそうな表情をした。

「あ~……怒んなや」
「何の説明もなしに、怒んな言うんが無理やろ!」

 さすがに真之介のイライラが伝わったのだろうか、清隆が宥めるように言う。

「とりあえず、お前の昼飯がすんでからな」
「……昼休み中なんやから手短にな。それからここはお前の奢りじゃ」
「はいはい」

 清隆が笑いながら返事をしたのを聞いて、真之介はサラダを食べ始めた。
 そして、自分から言い出したのを守ってか、デザートを食べ終わってしまった清隆は少し退屈そうに真之介の食事が終わるのを待っていた。
 ときおり、近くまで来た奏太を捕まえて二人の共通の趣味であるゲームの話をしたりして時間を潰している。
 この二人は真之介の知らないうちにオンラインゲームで交流を深めていたようだ。

「……で、何しに来たんや?」

 メインのランチを食べ終えて、オマケにデザートを用意してくれると言うのでそれを待つ間に、真之介は清隆へと本題をふった。

「ん~……物件の下見に」
「物件の下見?」

 手持ち無沙汰にストローの袋を結いながらサラッと告げた清隆に真之介は聞き返す。

「ほら、昨夜の電話で真が色々と話してくれたやろ?」

 確かに調べてあった事務所候補などをいくつか清隆へ説明はしたが、まだネットや不動産屋で調べただけで実際の物件は真之介も見ていないし、そこまで詳しい話はしていなかったはずだ。

(…………なんか、嫌な予感がする)

 そんな心配を真之介がしていると、清隆は嬉しそうに笑顔で言った。

「これはやっぱり、実際に見てみやんと! って思ってな。今日の朝一でこっちにきて、午前中に下見してきた」
(そうや、キヨの行動力を甘くみてたらあかんかった。そのことは俺が一番よくわかっているつもりやったのに)

 軽く混乱している真之介を気にせずに、清隆は目をキラキラさせながら告げる。

「やっと東京に会社作るで!」
「…………はあ~?」

 あまりにも突然な清隆の発言に、真之介の大声がカフェ内へと響いたのだった……。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

壁乳

リリーブルー
BL
ご来店ありがとうございます。ここは、壁越しに、触れ合える店。 最初は乳首から。指名を繰り返すと、徐々に、エリアが拡大していきます。 俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 じれじれラブコメディー。 4年ぶりに続きを書きました!更新していくのでよろしくお願いします。 (挿絵byリリーブルー)

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優
BL
ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

処理中です...