愛の集う場所 ~Magic to love~

慧野翔

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~ 真之介&清隆 ~

良き相談相手達

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「で、何を悩んでるの?」

 しばらくすると、紙から顔を上げずにいきなり海音がそう言ったので、最初それが自分への問いだと真之介は気づかなかった。

「真、何か悩んでるんじゃないの?」

 だが、黙っていた真之介の顔を海音が真っ直ぐに見つめてもう一度聞いてきたので、真之介はなんと説明するか迷いながら口を開いた。

「キヨが会社を建てるとなると、やっぱり俺が手伝わなあかんよな?」

 ポツリと呟いた真之介の言葉に海音は驚いたように、少し目を見開いた。

「嫌なの? だって、そのために東京で頑張ってたんでしょ」
「嫌っていうか……急やなぁって。キヨが会社作るなんて、まだ先のことやと思てたし。今の職場でもうまくやってたから」

 社会人の責任として、今すぐに辞めるわけにはいかないけれど退社の意志は伝えなければいけない。
 会社には一身上の都合で済むかもしれないが、同僚である圭へはちゃんと説明して、今後も友人関係を続けていきたい。
 だが、いきなり会社を辞めるなんて、どう伝えても驚かれるだろう。

「同僚になんて説明したらいいかなぁ、って。同い年やし、俺が入社した時から色々世話になってたし。嘘はつきたない」
「正直に恋人から誘われて転職するって言えば?」

 悩みの一つを打ち明けた真之介に海音が不思議そうに聞いてきた。
 だが、その言葉を真之介はすぐさま否定した。

「それは無理!」

 あの真面目な圭へと『男の恋人がいる』なんて直球で伝えたら、それこそ思考を停止させてしまうかもしれない。

「少し短気で天然なところもあるけど、すごく真っ直ぐで真面目なタイプやから。いかにも常識人って感じの」

 圭のことを思いだし、笑いながら真之介がそう言うと、海音がしみじみと言った。

「へぇ~……そういうタイプ、昔、僕の周りにも一人いたけど。今、どうしてるかなぁ~。元気にしてっかな」

 海音が特定の誰かを懐かしそうに言うのが珍しくて、もっと詳しく聞いてみようと思った瞬間、いきなり誰かの大声で遮られた。

「なに、それ! リーダーにとって忘れられない人ってこと?」

 突然の会話への乱入に、声の元へと向くと、ふて腐れたような顔をした遊馬が立っていた。

「お~、おはよう、遊ちゃん。予想より早かったな」
「それより、何なの? 今の話」

 いつも通りに海音が挨拶をすると、今にも泣きだしそうな表情で遊馬が海音へと詰め寄る。
 実はこの二人は、真之介と清隆のような恋人同士の関係なのだ。
 ここで遊馬が働くようになってからお互いに惹かれ合い、いつの間にかお付き合いが始まったらしい。
 そのことを全く隠そうとしない天然コンビに、周りも自然と受け入れ態勢が出来ていたようで今ではカフェメンバー公認である。

「昔、バイトしてた時の後輩だよ。僕が教育係だっただけ」

 遊馬に詰め寄られた海音は全く動じることもなく、遊馬の頭を撫でながらのんびりとそう答えた。

「とよちゃんが教えたん?」

 海音が後輩に指導する姿が想像出来なくて、真之介が聞いてみると、海音は笑いながら言った。

「いや、僕が教える必要ないくらい自分でしっかり出来てたよ。ただキッチンだけは立ち入り禁止になったけど」

 それはつまり、調理関係が苦手という事だろうか。

「就職しなきゃいけないからって辞めちゃって、その後はこの店も移転してここに来ちゃったからそれっきりで……」
「じゃあ、リーダーとは何でもないんだ?」
「当たり前だろ」

 海音の答えにやっと遊馬の顔に笑顔が戻る。

「なんだ、安心した」
「ふふ、ほら早く着替えて来ちゃいな。アキに怒られちゃうよ」

 遊馬の安堵の表情を和やかな笑みで見つめながら海音が言った。
 そして、そのまま二人でキッチンの方へと行ってしまう。

「ゴメンね、代わってもらっちゃって。でも、とよちゃんの制服姿も新鮮でいいよね。たまには着てよ」
「じゃあ、遊ちゃんも僕の希望する格好してくれる?」
「二人の時にね♪」
「何がいいかな~」

 二人の世界に完全に入ってしまった姿を見送りながら、真之介は言葉を失ったまま呆然としてしまっていた。
 さすがに自分には清隆とあんな会話を交わす勇気はない。

「あのバカップルが」

 いつの間にかそばに戻っていたアキがぼそっと呟いたので、その声で真之介は我に返る。

「なんか……すごいな」
「店内ではいちゃつくなって言ってんだけどね。天然コンビにはきかなくて。まあ、あまりに酷いと冬聖くんが怒ってくれるけど」

 そう言えば、このカフェのメンバー達は真之介と清隆の関係を最初からすんなり受け入れてくれたが、それは身近なところに遊馬と海音のような二人がいたからだろうか。

「圭くんも、これくらい柔軟ならなぁ」

 あっさり清隆の存在をカミングアウトして、すぐにでも転職の相談をしていたことだろう。

「同僚の人? カネはその人のこと信じてないの?」

 奏太に真面目に聞かれて、真之介は悩みながら言葉を選ぶ。

「……そんなことで圭くんの態度が変わるとは思わへんけど『同性と付き合う』なんて、常識人の圭くんには想像したこともないんやないかな」

 圭を見ていると、今まで真面目に真っ直ぐに生きてきたんだな、ということがわかる。

「なんせ、ドライブで横浜の夜景を見るのに憧れてるからな」
「なに、そのベタで王道過ぎるデートコース」

 休みは家に引きこもりゲーム三昧の奏太が理解できないと言うように顔をしかめたので、真之介はつい笑ってしまった。

「それだけ純粋なタイプなんやて」
「ふーん……でもさ、それだけ純粋ならあれこれ考えても無駄じゃない?」
「え……?」

 いきなり真剣なトーンで言われ、真之介は奏太の次の言葉を待った。

「だから、なんて伝えたらいいか……なんて考えるだけ無駄。どうせ伝えなきゃいけないなら、全部を話して反応待つしかないじゃん。それで軽蔑するような相手なら所詮その程度の友情なんだよ。そんなヤツ、こっちから見限ってやれ」

 もっともな意見を直球で投げてきた奏太に、真之介は苦笑しながら答える。

「それが出来たら楽なんやけどな……まあ、近いうちに話すつもりでおるよ」
(圭くんとは会社代わっても縁切りたくないし……上手い言い方考えないとな)

 そう思いながら、真之介は少し氷が溶けて薄くなってしまったコーヒーを飲み干した。
 




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