愛の集う場所 ~Magic to love~

慧野翔

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~ 真之介&清隆 ~

圭とのすれ違い

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 結局、あれからの清隆や薫とのやり取りから、清隆が本気で東京への上京を進めていることがわかり、真之介は自分も覚悟を決めなければいけないと考えていた。
 とりあえず、同僚へは自分で報告するからと伝えたうえで上司にだけは退職の意志を伝えてみると、最初はひき止められたが最後には『一応、退職の件は覚えておく。でも、残りたいなら残ってもいい』と承諾をもらえた。
 これで、後はちゃんと圭と話をして、すっきりとした気持ちで退職届を出すだけ。
 その来たるべき日に向けて真之介が退職届を書いていると、呆れた様な声が話しかけてきた。

「普通、そういうものって家で書くだろ。こんなとこで書くの、お前くらいだよ」

 そう言ってコーヒーをテーブルに置いたのは奏太だった。

「家やと変に緊張して書かれへんねん」

 そんな理由から、真之介は外回りの帰りにAOZORAを訪れ、退職届を作成しているのだ。

「とりあえず、転職は問題なく出来そうなの?」
「ん~、一応、上司には伝えた。後は色々と決まったら同僚に話すとして……問題は、圭くんやな」

 一番、大きな問題が残っていて真之介はペンをテーブルに置くと大きくため息を吐いた。

「まだ言ってないのかよ?」

 驚いたように奏太に聞かれ、真之介は無言で頷く。
 途端に今度は奏太に大きくため息を吐かれた。

「いい加減、覚悟決めたら? そいつに嫌われたからって世の中終わるわけでもないし」
「そうは言うても、もし嫌われたら残りの期間が気まずいやろ。圭くんとはそんなさよならしたない」
「ふーん……」

 真之介がキッパリと言い切り、奏太がどうでも良さげに言った時だった。
 真之介のスマホがメールを受信して震える。送り先の相手は……。

「圭くん!」

 噂をすればなんとやら。
 狙ったかのようなタイミングでの連絡に、真之介は驚きながら内容を確認する。

「…………」
「どうした?」

 スマホ片手に固まってしまった真之介に奏太が聞いてきた。

「……アカン」
「はあ?」
「俺が会社辞めることが圭くんにバレた!」

 そう言いながら、真之介はスマホの画面を奏太へと押しつける。

「おい、近すぎるって……えーっと『会社辞めるんだってな。何も言ってくれないなんて、俺ってそんなに信用なかったんだ』……こりゃ完全に怒ってるね」

 迷惑そうに真之介からスマホを受け取った奏太は文面を読んで、顔をあげてから言った。

「やんな……」

 タイトルもなく、問いかけでもない内容のメールからは、何も伝えなかった真之介への圭の怒りが感じ取れた。

「どないしよう?」
「そんなこと俺に聞かれても……とりあえず、言い訳するなら早い方がいいんじゃないの?」
「そうやんな。俺、圭くんに会ってくる!」

 今日は外回りの後はそのまま直帰の予定だったが、真之介はメールではなく直接圭に言おうと思い、支払いをテーブルに置いて荷物を手に取った。
 そのまま急いで真之介が会社へと戻ると、ちょうど圭が帰宅するために会社から出てきた所だった。

「圭くん!」
「金城……」

 まさか真之介が会社まで帰ってくるとは思っていなかったようで、真之介の姿を見た圭は少し驚いたようだ。
 だが、すぐに今の状況を思い出したのか不機嫌そうな表情へと変わる。

「…………」

 無言のまま、真之介の横を通り過ぎようとした圭を慌てて真之介は止める。

「ちょお待って!」
「何だよ、俺に話すことなんてないんだろ! 大事なこと何も言わなかったくせに」
「違う。圭くんにはちゃんと話すつもりやったよ」

 その気持ちに嘘はない。
 確かに、話すのを迷ってはいたが圭にはちゃんと自分の口から転職を打ち明けるつもりでいた。

「じゃあ、なんで何も言わなかったんだよ」
「それは……」

 この転職は真之介にとっても大きな出来事の一つだ。
 だから『友達が立ち上げる会社を手伝うことになって』なんて簡単な嘘はつけない。
 自分の本気度を圭に伝えるためには、清隆との関係を説明しないことには始まらないが、そうなると圭に『自分は男と付き合っている』とカミングアウトすることになる。

(圭くんを信用してないわけやない……でも……)

 そんな迷いから、一瞬言葉に詰まった真之介を圭は見逃さなかった。

「結局、俺には話せないんだろ……お前とは一番、いい関係を築けてたと思ってたのに」

 そう言って睨みつける圭の表情は怒りとともにどこかとても寂しそうで、真之介は返す言葉がみつからない。

「言いたくないことを無理に聞き出すつもりないから」

 冷静な声でそう告げた圭は真之介から顔を反らすと、そのまま脇を通り過ぎる。

「あっ……」

 条件反射で振り返ってはみたが、何も言えない真之介は手を伸ばして圭を引き止めることが出来なかった。
 圭も振り返ることはなく、その場を離れて行ってしまった。

「何やってんねん、俺……」

 だんだんと小さくなっていく圭の後姿を眺めながら、真之介は情けなくそう呟いた。



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