うらにわのこどもたち

深川夜

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うらにわのこどもたち

case5.真白(2/2)

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 目的地にとーちゃくして、そっと中をのぞく。

 いた。もくひょーはっけん。

 木でできた小さなベンチにすわって、きらきらの男の子は本を読んでいた。おれやみんなとはちがう、ぎんいろのかみのけ。ねている間に雪がつもって、朝の光でかがやいているとき、こんな色になるのを思い出す。はだのいろも、おれたちよりずっと白い気がする。しらゆきもきれいな白いはだをしているけど、それよりももっとうすいいろ。同じ〝こども〟なのに、べつの生き物みたいだ。
 男の子はおれにきづかないまま、ときどきしずかにページをめくっている。
 どんな本を読んでいるんだろう?
 めずらしく、ひのおせんせーがいっしょじゃない。一人でいるところを見るのは、はじめてだった。

 これはもしかして、話しかけるぜっこーのチャンスというやつなのでは。

 聞きたいことはたくさんあった。
 その本なに? なんでいつもひのおせんせーといっしょにいるの? なんでおれたちとは別に生活してるの? いつもなにしてるの?どこの部屋にいるの? ともだちは?ほかのやつのことは知ってる? いつからはこにわにいるの? それから、それから。
 考えれば考えるほど、心がうずうずしてきて、おれはかげからとびだして、男の子に話しかけた。

「おまえ、名前は!?」
「……っ!?」

 男の子のからだがびくっとはねて、おれを見た。目をまんまるにしている。読んでいた本が男の子の手からこぼれて、足もとにいきおいよく落ちた。

「えっ……、あ、あの、……、だ、れ……?」
「おれ、ましろ! おまえは?」
「え、えっと……ぼく……僕、は……」

 びくびく、おどおどしながら、男の子が小さな声でこたえる。

「僕は、……カイ、です……」
「そっかぁ! おまえ、カイっていうのか!」

 カイの近くにかけよろうとしたら、カイはまたびくっとふるえた。カイってすごくこわがりなのかな。そう思って、こわがらせないように、そっと近づく。

「おれさ、前にこことカイを見つけてから、ずっと話しかけたかったんだ。どんなやつなんだろうって、ずっと気になってて。いつもはひのおせんせーといっしょにいるだろ? 今日はひとりだったから、つい」
「……僕のこと、知ってたの?」
「うん。でも、こわがらせちゃって、ごめんな」

 おれがあやまると、カイは小さくくびをふった。

「僕、……その、僕や姉さん達以外に、ここに〝こども〟がいるって知らなくて……。だから、僕の方こそ、ごめんなさい」

 小さな声をふりしぼって、カイもおれにあやまる。
 おれはカイの足もとの本をひろって、カイにわたした。カイがそっと、本をうけとる。

「あのさ、おれ、ときどきあそびにきてもいい?おれ、もっとカイのことしりたい。おまえと、なかよくなりたい」
「僕も。……でも、日野尾ひのお先生に聞いてみないと……」
「うーん……じゃあさ、せんせーのいないときだけ、ひみつであそぶのは? ひみつのともだち。それならどう?」

 おれよりちいさな、カイのかおをのぞきこむ。カイはすこしとまどったかおをしてから、くすっと笑った。カイの手をぎゅっとにぎって、おれも笑う。

「おれたち、これからともだちな! よろしく、カイ」
「……うん。よろしく、ましろちゃん」

 はにかんだカイは、とってもとっても、きれいでかわいかった。
 
 *
 
 ともだち。ともだち。きらきらのかみのけの、カイ。
 消灯前のベッドの中で、今日のことを思い出す。
 どきどき、わくわく。くすぐったくて、心のあちこちがきらきら、ぱちぱち、はじけてるみたいだ。
 こんなふうに、みんととも話せたらいいのに。もっといっしょに笑いあってすごせたら、ずっとすてきなのに。
 みんとは、夕食のときにいなかった。また、悪いことをしてせんせーたちにおこられたらしい。しらゆきは、かおに大きなガーゼをあてていた。白いガーゼと白いはだのあいだが、赤くはれているようにみえた。もしかしたら、みんとがしらゆきに、なにかしたんだろうか。せんせーたちはなにもいわなかったけど、もしそうだったら、ってかんがえると、こわい。
 昼間、せんせーから聞いた話を思い出す。

 こうせーせかいかせつ。
 いいことをしたら、いいことが返ってくる世界。

 みんなが、なかよくできて、毎日が楽しい世界。もちろん、今だってそうだけど。それが、ずっとずっと続けばいいなって思うのは。そう思ってすごすのは。

 もしも、この世界が、こうせーせかいかせつどおりの世界なら。
 
 きっと、悪いことじゃないはずだ。
 
 目を閉じる。今日がおわる。
 明日もいい一日になりますように。
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