チートな悪霊が悪役令嬢に憑依したら敵は全て下郎になりました

隆駆

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弱った獣を手懐けるだけの簡単なお仕事です

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『面白いくらい全方位で死亡フラグが建ってるのね』

ワタシの中の私……便宜上ルナと名付けた存在が、感心したように嗤う。

「でもまだこれはましな方よ。魔女として火刑にされたこともあるし、拷問でいたぶられたこともあるもの」

それも何度も何度も。

『その記憶はいつもあるの?』
「いいえ。いつも気づくのは全てが終わった後よ」
ルナマリアあなたは毎回同じ行動をとるのかしら』
「いいえ。記憶なんてなくても魂が覚えているみたい。
ここ最近はずっと引きこもり続けていたわ」
『それでも物語は都合よく進み、最後には必ずが気持ちよく処分されるって訳ね』
「それがこの世界のシナリオだもの」

逆らった所で無意味だ。

『あらそう?でも話を聞いてるとなんだかテンプレばかりでそろそろプレイヤーも飽き飽きしているんじゃないかと思うのよ』
「確かにお決まりの展開ばかりね」

ルナの話す言葉は特殊だ。
だが。私と彼女がふたりでひとりのになった時から、私たちの知識は全て互いに共有されることになった。
其処で初めて知ったのだ。この世界がルナ達の世界の人間によって作られた物語と、よく似ているのだと言うことを。

「乙女ゲームだったかしら。私ならすぐに飽きてしまいそうよ」
『ふふっ。折角だもの。愉しく改編しましょ』
「まずはどうしたらいいかしら?」

ルナ任せにすることには最早躊躇いはない。
だって既に私達は一つだ。

『そうね。まずは餌付けかしら。
傷ついて弱った獣を優しく癒し、深く依存させてマリアから離れられなくする』
「私から……?」
『そうよ。簡単なお仕事でしょ?
マリアなら獣人の言葉もわかるし、依存させるにはピッタリだわ』

罪を着せられ奴隷に貶められた王子。
奴隷として買われた先でただ一人言葉の通じる娘が優しく親身に接してくれたとしたら?

「確かに簡単そうね」

彼は今までもその手でコロリとヒロインに落ちてきた。
その姿を見ている私なら、尚更容易いことだ。

「ねぇルナ。今回私の記憶がリセットされなかった理由は、あなたなんでしょ?」

お陰で、既にわたしの世界は大きく変化を遂げている。

それに対し、『そんなことどうでもいいじゃない』と、事も無げに言い放つルナ。

『これまでさんざんヒロインに付き合ってきたんだもの。そろそろ特典の一つや二つ貰ってもかまわないでしょ』
「特典……」

確かに、そう言われるとそうかもしれないという気にはなる。
そんな時なんというか、ルナから得た知識によって私は既に知っている。

そう。

「『強くてニューゲーム』」

まずは手始めに、私は警戒心丸だしな目をしてこちらを睨んでいる《レオナルド》の前に立ち、「御父様」と前を行く父を呼んだ。

「ねぇお願い。この子が欲しいの」


〈GAME START〉
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