恋せよ乙女のオカマウェイ!!

隆駆

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普通の女の子に戻りたい。

同類。

ーーーーもしかすると、今日という日は厄日なのかもしれない。

誘惑するような瞳をこちらにむける凌を正面から見つめ、そこに言葉とは裏腹な冷静な色を見た時。
明日夢はストンとこれまでの熱が全て覚めたような気がした。
結局のところ、彼はやはり明日夢のことなどこれっぽっちも眼中にはない。
彼の内側に入ることが出来るのは、友人である忍だけ。

彼の目に、今の明日夢は一体どう写っているのだろうか。

「ーーーーー言っておきますが、忍さんからの告白なら既に一度お断りさせていただきましたよ」
「……なに?」
「どこまで話を聞いていたかは知りませんが、私を試すつもりならここで車から下ろして下さい」

迷惑です、と。

はっきり口にしてのけた明日夢に驚く凌。
自分の仕掛けた誘惑にはまり、頬を赤くしていたはずの小娘が見せた突然の豹変に、彼はどう思ったか。

彼自身が纏う空気が、ガラリと変わったのがわかった。
これまでとは違い、張り詰めた空気が肌に痛いほどだ。

ーーーーーこれが、彼の本性。

明日夢が見抜いた、本当の意味での彼女の

だからこそ逆に、残念でならない。
こんな形でしか、彼と出会えなかったことが。

「忍さんの居所に関しても、もしかして何か掴んでいるんじゃありませんか?
あなたには焦りがまったくないし、先程運転手へ向けた指示も、明らかにどこか特定の場所を指していた」

闇雲に人を探している、という空気が彼にはまるでないのだ。

「それにあなたは、友人が危機に陥っているとき、平然とその想い人を誘惑できるような人ではない」

凌が彼の言うとおり、本当に「悪い大人」だったのならそれもありだっただろう。
だが、彼は違う。

囁かれた甘い言葉に、愛などという熱はなかった。
そこにあったのは、野生の獣が小動物を捕まえ、どうしてやろうかと舌なめずりをしているような、そんな加虐的な感情。

けれど、彼は間違っている。
明日夢は、哀れな小動物などではない。

「彼の居場所を、知ってるんですね?」

ーーーーー鋭い牙と爪を持つ、彼とはまた別種の獣だ。

余裕があるということは、それだけの情報を彼が所持しているという証。
忍を救い出すために必要な何らかの切り札を、間違いなく彼は持っている。

ならば、お遊びに付き合う必要などはない。

「忍さんはどこですか」

あれほど高鳴っていた心臓の音も、今はもう聞こえない。
ここにいるのは、二匹の獣。
互いに互を追い詰め、己のほしいものを奪い取る為に虎視眈々と爪をとぐ。

彼の目の色もまた、先程までとは明らかに違っていた。
だが、それでいい。

対等な交渉相手であると、認めてもらえのならば。

ーーーーーあぁ、やっぱりなぁ。

凌の鋭い視線を浴びながら、心の底で諦めに似た苦笑を漏らす自分がいる。

ーーーー私に、ラブロマンスなんて絶対無理だ。

若い娘であれば酔いしれるはずの甘いシチュエーションにも、すぐにその違和感に気づいてしまう。
そうして気づいてしまえばーーーー騙されたままでいることなど、到底できない。

「君はーーーーーーー」
「私はただ、忍さんを連れて店に戻りたいだけです」

彼のことを、待っている人がいるから。

一度でも一緒に働いたことのある人だから。
幼馴染の叔母に、頼まれたから。

友情でも愛情でもなく、ただの情。

今の自分を動かしているのはそれだけだという自覚が、明日夢にはある。

「あなたは忍さんを救えますか?」
「……なに?」
「私たちの存在が不愉快ならば、私達はこの場で手を引いても構いません。
ですがそれは、あなたにとっても不利になるだけなのではありませんか」

単純に人手が足りなくなるという話ではない。

一般に、餅は餅屋と言われるように。
荒事にはそれにふさわしい人種が存在する。

は、本来こういった荒事に直接関わるべきではないのだ。

「そもそもあなたは忍さんを見つけた後、その犯人をどうするつもりですか」
「……どういう意味だ、それは」

どういう意味だも何もない、言葉そのままの意味である。
まっとうな人間であれば、犯罪を犯した人間は捕まえて警察に突き出すのが当然。

だが、それはあくまで建前。

「警察の介入は、忍さんにとってもあなたにとっても、デメリットでしかないのでは?
曽根さんならばきっと、全て承知の上ででうまくしてくれますよ」

それこそなんの後腐れもなく、僅かな隙も残さず。
警察に突き出して、逆怨みでまた襲われる、などということが二度と起こらないように。
それは彼だけのことを考えていうのではなく、店のことや忍自身のことを考えても、今回の件は表沙汰にされるべきものではない。

そんなことを考えてしまう自分は、たとえどんなに否定したところで、やはり曽根の同類に違いなく。
凌と曽根、どちらがより自分に近い魂を持っているかと言われれば―――残念ながらその答えは既にでてしまっている。
勿論、それを認めるかどうかは全く別の話だが、とにかく今は。

「そもそも、今回の事件の原因は私にもあります」

あの時、もう少しちゃんと相手をしていれば。
その場を収めることを優先し、それ以外の要素に気を配ることができなかった。

あの時のサラリーマン風の男が今回の事件の犯人だというのなら、これは明日夢にとってただの他人事ではない。

「これは、私に売られた喧嘩です」
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