恋せよ乙女のオカマウェイ!!

隆駆

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性別が行方不明になりました

一日だけのアルバイト

新宿2丁目ネオン街の端くれ。
深夜になろうというのに今が盛りの一件の店で、酔った男が会計に難癖を付け、暴れていた。
散乱した椅子やテーブルに、割れた酒瓶。
「…おい。これ以上店で暴れるなら、怪我する覚悟で来いよ」
バーカウンターに置かれていたアイスピックを片手で弄び、低い声でおどしつけるのは派手なドレスの女。
「う…訴えてやる…!こんな化物しかいないような店…!だれが金なんか払うかよ…!」
ようやく半分酔いがさめたのか、完全に腰が引けた態度でソファにへ垂れ込むのは、背広姿のサラリーマンだ。
先程まで暴れまわっていた威勢の良さは既にほぼ消失し、現在はただ片意地を張っているに過ぎない。
「ちょっとぉ。だぁれが化物ですってぇ??」
「あら、あんたのことじゃないの?もう化粧落ちてるし」
「あんたこそ、そのヒゲ何とかしてきなさいよ。青くなってんじゃない」
「やだぁ、早く言ってよそれ!」
サラリーマンを取り込むようにわらわらと現れたのは、身長もガタイも、おまけに顔もでかい派手なホステス風の女。…いや、どこから見ても、オカマだ。
荒事にもなれているのか、誰ひとり動揺した様子はない。
取り囲まれると、これがまた結構な圧迫感だ。
「金を払わないなら客じゃないな。…さぁ、どの指を持ってかれたいか言えよ」
アイスピックを男の指のほんのコンマ数ミリ横に叩きつけ、女が囁く。
「ちょっと明日美ちゃんったら、もう男がでちゃってるぅ!」
「いやん私がしびれちゃうっつ!抱いて明日美ちゃん!」
ひゅーひゅーと、低い男の声を無理やり高くしたような作り声が店内に響くが、肝心の人物は表情一つ変えず、再びアイスピックを構えると、今度はサラリーマンの眉間のすぐ上でぴたりと止めてみせる。
「金…払うよな?」
「はいぃぃ!!!!!払わせてもらいますぅぅぅ!!!」
男はすぐさま懐から財布を取り出し、万札を全部テーブルに叩きつける。
それをすかさず数えるオカマ。
十分な料金が支払われたことを確認して、「OKよ、明日美ちゃん!」とばっちりサインを出す。
そこでようやくアイスピックを手放すと、明日美と呼ばれた人物はここでようやく表情を変え、にこりと微笑んだ。
「ご利用ありがとうございました。お帰りはあちらです」
「もう来るかこんな店ぇぇぇぇぇ!!!」
去っていく男の遠吠えにも、笑みを崩さない。
「やだ、明日美ちゃんってばこの商売天職なんじゃないの?」
「もうウチに来ちゃいなさいよぉ。明日美ちゃんなら大歓迎」
「オーナーァ。下手なバウンサー(用心棒)を雇うくらいなら明日美ちゃん雇ったほうがお客さんも喜ぶし、真剣に口説いちゃってぇ~」
よくやったとばかりのその肩を叩き、労をねぎらうオカマ軍団。
先ほど万札を数えていたオカマは、「ちょっと多かったけど、迷惑料よね」とゲラゲラ笑っている。
オーナーと呼ばれた人物―――恐らく女性―――は、そのオカマの声に押されてか、「それもそうよね」と納得し、猫なで声で件の人物を呼んだ。
「明日美ちゃぁん、何か欲しいものあるぅ?おばさんがなんでも買ってあげるから、ちょぉっとおばさん相談が…」
「やりませんよ」
「えっとね、だから話くらい聞いてくれてもぉ~」
「絶対やりません」
「なんでも買ってあげるわよぉ?なんならドンペリ開けても…」
「いや、飲めないんで」
「あら、そうだったわね…じゃあ…ブランド品とか…?」
「興味あると思います?」
小首をかしげて尋ねられ、逆に自分も首をかしげる。
「…なさそう…ね」
どうしよう、鉄壁のガードが崩せない、と。心の声がダダ漏れしている。
物で釣るのを諦め、改めて正攻法で頼んでみよう。そう思ったオーナーが「あのね、明日美ちゃん…いいえ、明日夢ちゃん…?」そう、口を開いた時。
ガランガランガラン!
「店、空いてる?」
「いらっしゃいませ~!!どうぞどうぞ~」
入ってきた客に、店員(オカマ)が全員笑顔で振り返った。
出迎えるキレイ目オカマを囮に、残りのメンバーでさっさと先ほどの乱闘の名残を消し去ると、何事もなかったかのように営業を始める。
それはまた、明日美も例外ではなかった。
「…貴子さん。今日一日だけって約束ですよね?」
「…そうで~す…」
にこやかな笑顔で客を迎えながら、話す声は氷のように冷たい。
「で、でもね。おばさん確信したの。明日夢ちゃんならきっと、この業界でやっていける。
ううん…きっとトップだって取れるって…!」
「まず有り得ません」
キラキラと瞳を輝かせ力説するオーナー相手に、即答する明日美―――いや、明日夢。
「なんでよぉ。暴力沙汰だってあっさりいなせるし、アクの強いあのニューハーフ集団にもうまく溶け込んでるっじゃない?バイト代弾むから…」
「いや、ですからそういう問題じゃなく」
胸に手を当て、よぉく考えて欲しい。そう言われ、言われた通りに胸に手を当てるオーナー。
「いいですか?ここはオカマバーですよね」
「そうね。正確にはショーパブだけど」
ホステスは100パーセントオカマ。
オカマによるオカマづくしのショーが売りの店、それがこの「パープルヘブン」。
「私の性別、覚えてます?」
「…………………………女の子よね?」
沈黙がやけに長かった理由を教えてもらいたい。
そう心の中で思いながらも、表面上は笑顔を崩さず明日夢は続ける。
「生まれつき女のはずの私が、なぜオカマバーで、オカマの振りして働く必要が?」
―――そう。
この、むくつけき化物の巣窟にあって、明日夢はオーナーと二人、正真正銘の女性。
なのにもかかわらず、なぜか店ではオカマ扱い。
しかもちょっと脅しをかければ「男が出てる」と言われる始末。
出てないし。というかそもそも男じゃないし!
内心の苛立ちがつい行動に出て必要以上にさっきのサラリーマンを虐めてしまったのは否めない。
「だって明日夢ちゃん。身長は高いし、顔つきは凛々しいし、ちょっとボーイッシュな格好しただけでメンズモデルから引き抜きが来るくらいのイケメンじゃない?だからその明日夢ちゃんが女装したらさぞや綺麗なニューハーフが出来上がるだろうと…」
「いや、そもそも女なんで」
女装言うな。
なぜ私が女装したらニューハーフになるんだ。
流石に笑顔の額に青筋が浮かび始める。
「わ、忘れてたわけじゃないのよ?ただね、ただそれっぽく見えるかなぁって…」
女装したらオカマに見えると言われて喜べる女がどこにいるだろうか。
どう考えても非常に不名誉な話だ。
それはオーナーにも理解できるのか、なんとか次の言葉を探そうとするものの、全く出てこない。
「明日夢ちゃぁ~~~ん」
最後には泣き落しにかかるが、その手には乗らない。
「今日だけですからね。あくまで今日一日、病気で休んだホステスさんの代わりする約束なんですから」
ちなみにホステス=オカマだ。
子供の頃から何かとお世話になっている近所のおばちゃんの頼みだけに断りきれず受けたが、やはり納得がいかない。
アイスピックをさりげにアイスーペールに戻しながら、明日夢はゆっくり客の方へと歩き出す。
「約束…忘れないでくださいね」
「…勿論!」
あぁ、勿体無い、総心で血の涙を流しながらその背中を見送るオーナー。
立ち姿もやたらと凛々しい明日夢は、どう見ても女装したイケメンだ。
間違いなく美しいのに、なぜか美女ではなく女装した美形に見えるのが謎である。
メイクをそれっぽくしているのも原因の一つだが、一番の原因は…。
「明日夢ちゃん…本当に男気のある性格をしてるのよね…」
はぁ…。


――――本人の気質、それに限る。
感想 6

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