恋せよ乙女のオカマウェイ!!

隆駆

文字の大きさ
19 / 47
性別が行方不明になりました

騙された!

結果として、宣言通りかすり傷一つおわなかった。
は。
最初に文句をつけてきたチンピラ以下、話を聞きつけて集まってきた組の舎弟はボロボロ、本来であれば組のメンツが潰されたと怒り狂ってもおかしくはない事態だが、当の曽根は楽しそうに笑っている。
「曽根さん、やりますか?」
「いえ、やめておきましょう。楽しすぎてついやりすぎてしまいそうです」
………。
ちょっと興味はあるが、美咲の前でこれ以上はどうかと自分でも思う。
「本当に強かったのね…明日夢」
感心した、というよりはどこか呆れているような美咲に、明日夢はさらっと軽く汗を拭く。
「ちょっとした護身術ですよ」
「ヤクザを軽く倒せるほどのちょっとした護身術があれば、確かにそれは安心ですねぇ…」
――ええ、そうですね。
夜道で痴漢にあったら間違いなく半殺しにします。
ちなみに自身が痴漢に狙われずとも、痴漢を捕まえたことなら何度もある。
あと、ホモの変態に迫られて再起不能にしてやったことも。
うん、やっぱり人生に備えは必要だ。
「で、この始末はどうなさいますか、明日夢さん?」
喧嘩上等の荒くれ者から一変、もはや明日夢の下僕と化した舎弟どもを一瞥。
「どうする…とは?」
「どうやらここにいる連中はあなたに心酔してしまったようで。……よろしければ、一人二人お持ちになりますか?肉の壁くらいには役に立つでしょう」
「はい!!!アネキ!是非俺を!!!」
「あ、ずるいぞ!!俺も立候補します!!」
俺も、俺もと次々に手をあげるチンピラども。
だがちょっと待て、よく考えろ。
「肉の壁が必要になる事態が想定できません」
それって、銃撃戦とか狙撃された場合とかだろう、普通。
日常生活の護衛としては正直役に立たない。
何しろ今さっきこてんぱんに畳んだばかりだ。
「謹んでお断りいたします」
「そうですか、残念です。必要に迫られたら何時でも仰ってくださいね…?」
「その時になったら」
当たり障りなく答えながら、心の底で願うのは「もう関わらずに済みますように!」という切なる思い。
美咲はともかく、曽根は本当に勘弁してもらいたい。
性格的に気に入らない、というのもあるが、こちらの闘争心がくすぐられてしかたない、という意味でも。
――――いかんいかん。
ヤクザの若頭相手に何を考えてるんだ自分は。
間違っても一般人の思考ではない。
「明日夢、気が済んだなら食事にしましょ。いい加減お腹がすいたわ」
「そうですね。ではくだらない後始末はこいつらに任せて、戻りましょう」
曽根の声に、「はい喜んで!」というまるで居酒屋なような声を張り上げる男ども。
確かに、後片付けは任せられそうだ。
「曽根さん、ちょっとお願いがあるんですが」
「はい?」
「今日のことは、ここだけの話にしてもらえますか?何度も言っているとおり、こちらは一般人なので、あまり名前が広まるのは……」
「勿論です。……聞いたな、お前たち」
「ハイ!」「わかりました!」「誰にも話しません!」「アネキのことは俺たちの秘密です!」
片付け始めた手を止めて、一斉に口止めされることを約束する。
よし、これで一安心……か?
「ヤクザの世界は信用第一…ですよね?」
「ええ、その通りで」
そうか。
なら、約束はなんとしても守ってもらおう。

          ※

「今日はごちそうさまでした、美咲お嬢さん」
「いろいろ楽しかったわ、また遊びに来て頂戴」
その後の食事は何事もなくすみ、ようやく解放の時間を迎えた。
後のことはいろいろ気になるが、とりあえず今日を乗り切ることができそうだ。
「そうそう、明日夢」
「?」
「車の中で言ったでしょ?私が貴嗣の婚約者だって」
「ええ…」
確かにそう聞いた。
でも、そのあとに美咲は言ったのだ。
『確かにもっと子供の頃はすっかり周りに乗せられて貴嗣に憧れていたこともあったけど、今は正直なんとも思ってないわ。だって、年齢差を考えてご覧なさいよ。私が適齢期の頃、貴嗣は立派なおじさんよ?』
誠に最もなご意見だった。
『第一ね、世襲で組を継がせるために私の婿に貴嗣を、なんて古いのよ。私が貴嗣を連れ回すのはそうすれば牽制になるから。組の看板目当てで私に近寄ってくる連中が、貴嗣相手に張り合えると思う?』
思いません。軽い気持ちならまず諦めるだろう。
そのせいで貴嗣に気があると思われるのは業腹だが、少なくともまだ色恋に興味が出るのは先の話、今はそれで構わないと思っている、と。
大人顔負けのしっかりした意見だった。
それを聞きながら、曽根が終始笑顔を浮かべていた事を考えると、恐らくは曽根も共犯。
明日夢に言った「お嬢さんは私に気がある」と言うセリフは真っ赤なウソだったということだ。
そう言っておけば警戒心が薄れるとでも思ったのだろう。
すっかり騙された。
「私ね、貴嗣には明日夢みたいな人がいいと思うのよ」
「…はい?」
車の中での美咲との会話に思いを馳せていた明日夢は、一瞬その言葉に大して反応が遅れた。
「やぁね、抜けた顔をして」
「…えっと…今何かとんでもないセリフが聞こえた気がしたんですけど」
焦りのあまり軽く地が出ているが、気にしている余裕はない。
「だから、貴嗣と付き合うなら、私が応援してあげるって言ってるのよ」
「申し訳ありませんがお断りいたします」
即決即答だった。
こればかりは遠慮している場合ではない。
「なぜ?あなたと貴嗣ならうまくやっていけると思うわよ?」
「私も同感です、お嬢さん」
笑顔で尻馬に乗る曽根に、ピクっと明日夢の眉が寄った。
「ほら、貴嗣だってこういってるし…。おじい様だって、明日夢のことは気に入ってるんでしょ?私のことは気にせず、貴嗣と組を継いでくれても…」
「お嬢さん、それは少し気が早いかと…」
「そう?」
一見たしなめているように見えるが、そう安安とは騙されない。
明らかに曽根は面白がっている。

―――――まさか、今日明日夢をこの場に引っ張り出したのはこれが目的か!?

先ほどチンピラどもが言っていたように、妙な噂を流された意趣返しだったのか!

「……曽根さん……」
「はい?」

「とりあえず後で顔を貸してもらえます?」
「喜んで」
私たちの間にもはや会話は必要ない。
必要なのは”殴り合いボディランゲージ”だ。





「……なんだ、っぱり仲がいいじゃないの…」


感想 6

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

とっていただく責任などありません

まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、 団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。 この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!? ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。 責任を取らなければとセルフイスから、 追いかけられる羽目に。

離婚すると夫に告げる

tartan321
恋愛
タイトル通りです

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

橘若頭と怖がり姫

真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。 その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。 高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。