恋せよ乙女のオカマウェイ!!

隆駆

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普通の女の子に戻りたい。

ひのきのぼうは鈍器です。

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「曽根の野郎を何とかしてくれ?そりゃ無理だ。明日夢、お前完全に失敗したな」
道場内に入り、真面目に相談に訪れた2人に対する島本の返答は、まったくもって身も蓋もないものだった。
「あいつはな、男だろうと女だろうと、とにかく強い奴が好きなんだ。
そもそも、本来はエリート街道まっしぐらだったはずのあいつが、極道を選んだ理由もそれだしな」

より強い人間に会いたい。
より強い人間と戦いたい。
より強い人間と――――殺しあいたい。

曽根の心の声が聞こえてきたような気がして、ぞぞぞっと悪寒が走る。
「あいつは強いぞ。しかも躊躇がない。お前と同じで、人の急所を何のためらいもなく攻撃できる」
「お願いですから私を同類に数えないで下さい」
「あ?無理だろ。お前もそっち向きだ」
「そっちってどっち!?」
「そりゃ外道だろ」
「外道!?」
既に極道ですらなくなっている島本の答えに、明日夢は愕然とする。

「普通の人間はな、たとえどんなに訓練を積んでたとしても、ある程度ためらいってもんが生まれるもんなんだ。
ま、理性のストッパーってやつだな。間違って殺しちゃまずいと、無意識に動きが鈍る」
「それで言うと私は、無意識に相手を殺してもいいと思ってるってことですか」
流石にそこまで物騒な思考を持った覚えないのだが。
「流石に殺していいとまでは思ってねぇだろうが、お前は自分が本気を出したら人を殺せることをわかってるだろ」
「……まぁ、それは」
常々、島本にも言われてきたことだ。拳は立派な凶器であると。
「だからこそ逆に、お前の拳は無慈悲なほど正確に急所を打ち抜く。殺す前に相手を仕留めちまおうと考えるからな」
そう言われると、確かに否定はできない。
だがそもそも、そうするように教えたのはこの目の前の島本本人なのだが。
「まさかあのちっちぇ嬢ちゃんが、極道相手にステゴロで殺し合いできるまで成長するとは…」
感無量だな、と涙をこらえる振りをする島本。
ステゴロとはつまり、武器を用いない格闘の事だ。
子供の頃からここに通っているだけに、ちっちゃいと言われることに不満はないが、誰も殺し合いをしてきたとは言っていない。
「あ?殺し合いだろ。曽根のやつ、お前相手なら確実に本気出してくるはずだぞ」
「……だから、本気出してやり合う前に辞めたんですよ」
言われるまでもなく、そうなる予感がしたからやめたのだ。
それに対し、「もったいねぇな」と嘆く島本。
「ここらで実戦経験を積んどくのも悪くねぇと思ったんだがなぁ…。曽根のやつなら、腕の一本や二本持ってかれた所で、グダグダ言うようなたまじゃねぇし…」
「「このクソ親父」」
止めるどころかもっとやれとでも言わんばかりのその言葉に、太一と二人、物騒な言葉がぴたりと揃う。
「あぁ?なんかいったか、太一?悔しかったらお前もやりあってきたらどうだ?」
「なんで俺が…」
「覚悟を見せるって奴だよ、覚悟を。
まぁもっともお前程度の腕前じゃ、逆に足の一本や二本もってかれるのを覚悟しないと……」
「んなもん誰がやるかよ…」
「師匠、太一はもう就職も決まったんだから変なことそそのかさないで」
本気になるとは思えないが、こんなことで道を踏み外したら最悪だ。
太一もまた、明日夢のことになるとムキになるところがある。
そこを上手くついたつもりだろうが、だしに使うのはやめてほしい。
「明日夢、お前は仕事は決まったのか?」
「まだこれから。でも今受けてる会社の2次面接まで残ってる」
「ほぉ、そりゃ頑張ったな」
相好を崩し、ぐしゃぐしゃと明日夢の頭を撫で回す島本。
「仕事が決まらないようなら、うちの婿としてこの道場を譲ってやってもいいと思ってたんだが…」
「だから婿は無理だって!!」
いつまでその冗談を引っ張るのかと、じろりと島本を睨む。
「婿じゃなきゃ、嫁に行くのか?」
「え?」
突然まっとうなことを言い出す島本に、一瞬反応が遅れた。
「そりゃ…いつかはそうするだろうけど」
それなりに結婚に対する夢はある。
漠然とだが、30歳前には結婚したいな、とか。
「曽根はやめとけよ。あいつは一度執着したもんは死んでも離さねぇ。
一緒に血みどろの道を歩かされんのがオチだぞ」
だから誰もそんなこと言ってない、と否定しようとする明日夢。
それを封じるように、更に島本は続ける。
「共に戦えるだけの能力を持ち、自らの手を汚すことを厭うこともなく、返り血で身を汚しながらも輝き続けられる女。――――――お前は、あいつの理想そのものだ」


理想。

そういえば、曽根も確かにそんなことを言っていた記憶がある。
あなたは理想の人です、というようなセリフだ。

「勘弁して、本当……」
血みどろの道を歩く覚悟など持ち合わせていない。
そんな物騒な日常生活などごめんだ。

「お前がそっちの世界に足を踏み入れるってんなら応援してやっても良かったんだがなぁ…」
「応援しないで。お願いだから止めてください」
むしろそのために今日はここに来たのだ。

「師匠から組長さんになんとか言ってもらえませんか?
曽根さんが、もうこれ以上ちょっかい出してこないようにって」

極道は上下関係が大切。
さすがの曽根も、組長からの命令であればお遊びを辞めるだろうと。
そう思い、ここまでお願いしに来たのだが。
「最初に言ったろう。無理だ。
……どうしてもってんなら、話はつけてやるから、親父に直接直談判してみるか?」
「直談判、って……」
つまり、そのオヤジとは、あれか。大親分のことか。
自分の落とし前は自分で付けろと。
明日夢は隣に立つ太一の腕をそっと引いた。
「どうしよう太一。布の服とひのきのぼうでラスボスに挑む勇者の気分なんだけど」
「……」
「鈍器…。鈍器と思えばイケる…?」
「――――お前、そこをリアルに考えるなよ」
例えだったはずが、実際の戦闘に置き換えてシュミレーションを始めた明日夢に呆れかえる。
「だって!!」
「ヤクザの親分をひのきのぼうで殴り倒したらそれこそ大問題だぞ」
「あ」
確かにそれもそうだ。
「そもそもなんでやり合う前提なんだよ…」
はぁ、と深いため息をつく太一。
ごめん、それが私だと諦めて欲しい。
「オヤジさん、その親分さんってのは話のわかる人なのか?」
「まぁ、物分りの悪いタイプではないと思うが…。曽根の奴が本気だとしたら、そう簡単には手放さんぞ」
「組長さんの命令でも?」
「あいつは、いざとなれば一人でも生きていけるだけの力と勢力を持ってるからな」
造反することも容易い、と。
さすが恐怖の大魔王。
生半な覚悟では退治できそうにない。
「装備を……エクスカリバーを下さい」
「床の間の日本刀なら持って行ってもいいぞ」
「…ちょっとまって、あれ本物!?」
偽物だと思ってた、と慌てて道場の奥に飾られた刀の鞘を見る。
「当たり前だろ。ちゃんと手入れをしてるから、骨までキレイに断ち切れるぞ」
包丁の通販番組のようなセリフだが、この場合キレイに切れるのは魚の骨ではなく、人骨だ。
「洒落にならん……」
冗談すら通じないこの脳筋、どうしてくれようか。


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