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死の予告
17話
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あの後、「腹が減ったから何か作れ」と言い出したエメラルドに、簡単な夕食を作ったヴァーニスは、そのまま寝てしまったエメラルドを眺めながら、大きくためいきを吐いた。
予想以上に食事に時間がかかってしまったのは、ひとえにエメラルドがヴァーニスが意趣返しとしてしこたま投入した料理のピーマンをはじきまくっていたせいだろう。
テーブルにはいまだ、ピーマンだらけの皿だけが残っている。
結局、うつ伏せになったまま、ゆすっても声をかけても起きないエメラルドを、ヴァーニスは部屋へと送り、そのまま寝せておくことにした。
「まったく、本当子供みたいな人なんですからねぇ」
すっかり本当に寝入ってしまったらしいエメラルドに苦笑しつつ、それほど困った様子もない。
さんざん遊ばれて毎回とんでもない目に合わされてはいるものの、ヴァーニスはそんなエメラルドのことが嫌いにはなれなかった。
あの妙な所さえなければ、むしろ性格的には好ましいといってもいい。
「気を許してもらっていると考えていいのかな?」
でなければ、いくらなんでも目の前で眠り込みはしないだろう。
最もそれが、狸寝入り出なければの話だが。
しかし、見た限りエメラルドの寝息は安らかで、恐らく本当に疲れがたまっていた上のことなのだろうとは容易に想像がつく。
見下ろすその顔に、普段ヴァーニスをあれほど困らせるエメラルドのいたずらな面影はない。
ようやく訪れた穏やかな時間に微笑みを浮かべつつ、ヴァーニスは漆黒の連なる外を見つめる。
夜は、鳥達の導きとともにすっかり更けようとしていた。
「さて……と。こちらも、少しは動かせてもらおうかな?一方的に巻き込まれる、というのも、なんですから」
エメラルドの眠る寝室を後にし、玄関に最も近い聖堂に向ったヴァーニスは、壁にしつらえられた唯一の贅沢品とも言えるステンドグラスの窓をなんとはなしに見上げる。
さまざまな色彩で描かれた、聖母マリアの姿。
昼間、日の光の角度によって、まるで嘆くように一条の光の涙を落とすマリアも、今はその闇に瞳を閉ざしている。
それは、現実に存在する闇を、かたくなに拒絶しているかのようにも見える。
いとし子を見つめる優しげな微笑は、無知であるが故の残酷さ。
ヴァーニスは、その姿に”何か”を思い出したかのように顔をしかめ、視線を落とす。
「天にまします我らの父よ」
自然、祈りの言葉が口をついた。
ここ数年、すっかり癖になってしまった言葉だ。
「その御名において、我を導き給え――――」
なれた言葉を口にしながら、ふいに何もかもがおかしく感じ、口元に浮かぶのは自嘲の笑み。
(私は一体、どこに行こうとしているのか)
冷たい笑みを浮かべるヴァーニスを見つめるものは、闇以外存在しない・・・・。
予想以上に食事に時間がかかってしまったのは、ひとえにエメラルドがヴァーニスが意趣返しとしてしこたま投入した料理のピーマンをはじきまくっていたせいだろう。
テーブルにはいまだ、ピーマンだらけの皿だけが残っている。
結局、うつ伏せになったまま、ゆすっても声をかけても起きないエメラルドを、ヴァーニスは部屋へと送り、そのまま寝せておくことにした。
「まったく、本当子供みたいな人なんですからねぇ」
すっかり本当に寝入ってしまったらしいエメラルドに苦笑しつつ、それほど困った様子もない。
さんざん遊ばれて毎回とんでもない目に合わされてはいるものの、ヴァーニスはそんなエメラルドのことが嫌いにはなれなかった。
あの妙な所さえなければ、むしろ性格的には好ましいといってもいい。
「気を許してもらっていると考えていいのかな?」
でなければ、いくらなんでも目の前で眠り込みはしないだろう。
最もそれが、狸寝入り出なければの話だが。
しかし、見た限りエメラルドの寝息は安らかで、恐らく本当に疲れがたまっていた上のことなのだろうとは容易に想像がつく。
見下ろすその顔に、普段ヴァーニスをあれほど困らせるエメラルドのいたずらな面影はない。
ようやく訪れた穏やかな時間に微笑みを浮かべつつ、ヴァーニスは漆黒の連なる外を見つめる。
夜は、鳥達の導きとともにすっかり更けようとしていた。
「さて……と。こちらも、少しは動かせてもらおうかな?一方的に巻き込まれる、というのも、なんですから」
エメラルドの眠る寝室を後にし、玄関に最も近い聖堂に向ったヴァーニスは、壁にしつらえられた唯一の贅沢品とも言えるステンドグラスの窓をなんとはなしに見上げる。
さまざまな色彩で描かれた、聖母マリアの姿。
昼間、日の光の角度によって、まるで嘆くように一条の光の涙を落とすマリアも、今はその闇に瞳を閉ざしている。
それは、現実に存在する闇を、かたくなに拒絶しているかのようにも見える。
いとし子を見つめる優しげな微笑は、無知であるが故の残酷さ。
ヴァーニスは、その姿に”何か”を思い出したかのように顔をしかめ、視線を落とす。
「天にまします我らの父よ」
自然、祈りの言葉が口をついた。
ここ数年、すっかり癖になってしまった言葉だ。
「その御名において、我を導き給え――――」
なれた言葉を口にしながら、ふいに何もかもがおかしく感じ、口元に浮かぶのは自嘲の笑み。
(私は一体、どこに行こうとしているのか)
冷たい笑みを浮かべるヴァーニスを見つめるものは、闇以外存在しない・・・・。
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