わらしな生活（幼女、はじめました）

サクリファイスの行方

「……あぁ。言われてみれば確かに似ているな」

珍しく意見が一致したのは龍一。
そういえばこの男もあの場に居たのだ。
顔を知っているのは当然の事。
同じくあの場にいた中塚女史もまた似ていることは認めたものの、あり得ないと首を横に振る。

「あの方の息子さんは事故の影響で今も入院中のはずよ？今回の黒幕なんてあり得ないわ」
「う～ん」

そう言われると確かに。

「じゃあ、他に誰か兄弟とか親戚とかは………」

いませんかね、と。
問い掛けようとしたところに帰ってきたのは、「残念ながらそれはない」という主任の言葉。

「彼は一人っ子だったはずだよ。
他に兄弟はいない」
「彼ですか………」

それはまた、随分意味深な呼び方ではないか。

「もしかして主任、その人と面識があるんですか？」
「……………相原」

部長もまた高瀬に同調し、急かすように主任の名を呼ぶ。

「ちなみにそういう部長は、この写真の人に全く心当たりがないんですか？」

一応念の為に確認すれば、「少なくとも件の人物と直接の面識はないな」との事。

まぁ、見合いを打診された社長の娘ですら実際には会ったことがないというのだから、それも仕方がないことかもしれない。

ではなぜ主任はその彼に心当たりがある様子なのか。

それは意外な話に繋がっていた。

「………今だから言える話だけどね。例の高木君が関わったセクハラ問題。それの調査に関わった向こう側の役員が、この彼だったんだ。
……やっぱり彼で間違いない」

だが、なぜ今このタイミングで彼の写真が登場するのか。

それが理解できないと首を傾げる主任。

「ちょっと待ってくださいよ？
え～と、今の話だとつまり、師匠が会社をやめる原因になった事件の関係者がこの専務の息子さんで？ケンちゃんいわくの今回の黒幕も………この、専務の息子さんってこと？」

ここまでくるともはや全くの意味不明。　
依頼人は、師匠に強い関わりを持つ人間だろうと思っていたのだが、なぜ彼が……。

そこで、「まさか……」と声をあげたのが中塚女史。
かつて師匠とは仲の良い先輩後輩だったという彼女は、師匠から聞いたとある昔話をよく覚えていた。

「以前………ほんの少しだけど、聞いたことがあるわ。高木先輩には昔結婚を約束した人がいて……。
でも、高木先輩の体の弱さを理由に交際を反対されて、二人はなくなく別れ、男性側はそのまま、親に言われた通りの女性と愛のない結婚をしたって………」

「政略結婚………」

そういえば例の息子さんは、自分の子供と妻を捨てて例の社長令嬢を選んだと聞いているが……。

それはつまり、愛のない結婚をした相手だったから、あっさりと切り捨てることができた。

そういうことなのか。

「でも、おかしいですよね？
その人が師匠の昔の恋人だとして、なんでこんな事件を起こす必要があるんですか？」

わざわざあの土地を狙ったその理由が、何かしらあるはずだ。

「それは……………」
「それは？」

やはりまだ情報を持っているとおぼしき主任を徹底マークの高瀬。

そんな主任が、少しためらいをみせたあと、実に気まずそうな表情を浮かべて告げたのは、当時の責任者しか知ることのなかった残酷な事実。

「高木くんは………例の社長に強引にホテルに連れ込まれたと証言していたんだ」

「………それって………」

まさか。

「………ただのセクハラじゃなく、強姦。彼女は、その被害者だったんだ」