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タコ殴り決定です。
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『シャァァアァア!!!!』
あらゆる生き物の中で、自ら死を選ぶ生物は人間
しかいない、そう言われている。
だが、果たして本当にそうだろうか。
自らの境遇に絶望し、死を選ぶのは人間だけなのか。
ーーーーーーシニタクナイ。
ーーーークルシイ。
ーーーモウ、オワリタイ。
一瞬にして触れた、この子の想い。
「……そうだよね、苦しいよね」
恐らくだが、完成品であるこの子は、もはや物理的な攻撃ではその活動を停止することができないのだ。
たとえ骨と皮だけになろうと、作り出した術者の望み通りに動き続ける傀儡。
だが、この子にはまだ、生きたいという意思がある。
ただの紙の人形ではないのだ。
だから。
「ーーーーーおいで」
「……タカ子!!!」
君は何を……!と、驚愕する竜児が見える。
けれど、これでいい。
先程チラリと見えた喉元には、かつて付けていたであろうちぎれた赤い首輪の残骸が見えた。
あの子はもともと、誰かの飼い猫だったのだ。
家族は、どんなにこの子の事を探していることだろう。
「帰ろう、みんなの元へ」
人に抱かれて育った育ち、人によって命を歪められたのなら、その最期くらいはーーーーー。
「ーーーーーー安らかに、眠れ」
まるで言葉を理解したかのように。
竜児を狙っていたはずのその爪をそのままに。
両手を広げた高瀬の腕に自ら飛び込む猫蟲。
「タカ子……!!」
鋭い爪が、高瀬の頬に一筋の傷を付ける。
考えてみれば、この姿で傷を負ったのは初めてかも知れない。
だがこれでいい。
高瀬の流した血に触れた瞬間。
爛々と輝いていた猫蟲の瞳がふとゆらぎーーーーーその体が大きく斜めに傾いだ。
まるで、それこそが致死量の毒であったとでも言うような、ほんの一瞬の出来事。
「あ……」
抱きとめようとした高瀬の腕の中で、猫蟲ーーーーいや、犠牲となった子猫は、跡形もなく姿を消した。
骨の一つも、残すことなく。
名残を惜しむようにぎゅっと空っぽの腕を抱きしめる高瀬を、竜児がその背中から抱き上げる。
「……血が」
「これ、本体の方はどうなってるんだろ?ベッドを汚してたらごめんね、竜児」
眠っていたかと思ったら突然流血していました、では結構なホラーであるが、驚くのはせいぜいあの若造くらいなもの。
人の顔にいたずらをして遊ぶくらいだ、そのくらいのドッキリは許される範囲だろう。
それよりも、あのいかにも高級そうなベッドのシーツに血が付くことを心配していれば、「バカなことを…!」と怒りを滲ませた竜児の声が。
「ーーーーそんなことは気にしなくても構いません。
それよりも」
細く長いーーーーけれども力強い男性的な竜児の指が頬の血を拭い、それを自らの口元に運ぶ。
「……君に血を流させた、この借りはいずれ返します」
「……竜児?」
自らに誓を立てるようなその言葉に、それは一体誰に対するものなのかと問いかけようとした高瀬。
それを遮ったのは、「すごいな、瞬殺か」と笑う男の声。
パンパンと手を叩く破裂音が聞こえ、のんきに男がこちらに向けて拍手をする姿が目に映る。
「あんがとな、嬢ちゃん。ぶっちゃけ助かったわ」
「……?」
助かった、とは。
「言ったろ?俺は猫好きでな。あんた、自分の血を使ってまであいつを浄化してやったんだろ?」
「ーーーーー浄化」
「纏っていたはずの穢れもなんもかんもみんな綺麗に消えてるからな。
これからいつか再び、生き物としてこの地に転生を果たすこともできるだろう。
俺やあの若造じゃ、封印や消滅させることはできても浄化してやることは不可能だったからな」
「…そっか」
こんな場合にも関わらず、男の言葉についほっとした。
敵ではあるが、専門家らしき男の言葉には確かに説得力がある。
あの子が無事に天に帰れたのならそれで満足だ。
そして、満足したのならあとはやることはひとつ。
「んじゃ例の術者は後で土下座するまでタコ殴りする方向で」
「それには僕も参加させてもらいます」
「もち!」
ご自由にどうぞ!!
「ーーーーーーーーーテンション違いすぎねぇか、嬢ちゃん達?」
「いいんです。私の拳はいま真っ赤に燃えている!!!」
ーーーーー敵は必ずとるからね、猫ちゃん!!
「とりあえず」
「とりあえず?」
竜児に子供抱きされ、背後からすりすりと頬ずりされたままの高瀬。
可愛らしい顔で、ニッコリと笑いオネダリする。
「美少女に免じてオッサンのことは見逃します。だから今すぐーーーーーーー術者の住所氏名年齢電話番号を!!!」
「後は写真もあるとなお良し、ですね」
うむ。
こっちには悪徳弁護士も付いてるんだ。
待ってろ悪徳術者。
まずは個人情報を丸裸にしてやらぁぁぁ!!!!!
あらゆる生き物の中で、自ら死を選ぶ生物は人間
しかいない、そう言われている。
だが、果たして本当にそうだろうか。
自らの境遇に絶望し、死を選ぶのは人間だけなのか。
ーーーーーーシニタクナイ。
ーーーークルシイ。
ーーーモウ、オワリタイ。
一瞬にして触れた、この子の想い。
「……そうだよね、苦しいよね」
恐らくだが、完成品であるこの子は、もはや物理的な攻撃ではその活動を停止することができないのだ。
たとえ骨と皮だけになろうと、作り出した術者の望み通りに動き続ける傀儡。
だが、この子にはまだ、生きたいという意思がある。
ただの紙の人形ではないのだ。
だから。
「ーーーーーおいで」
「……タカ子!!!」
君は何を……!と、驚愕する竜児が見える。
けれど、これでいい。
先程チラリと見えた喉元には、かつて付けていたであろうちぎれた赤い首輪の残骸が見えた。
あの子はもともと、誰かの飼い猫だったのだ。
家族は、どんなにこの子の事を探していることだろう。
「帰ろう、みんなの元へ」
人に抱かれて育った育ち、人によって命を歪められたのなら、その最期くらいはーーーーー。
「ーーーーーー安らかに、眠れ」
まるで言葉を理解したかのように。
竜児を狙っていたはずのその爪をそのままに。
両手を広げた高瀬の腕に自ら飛び込む猫蟲。
「タカ子……!!」
鋭い爪が、高瀬の頬に一筋の傷を付ける。
考えてみれば、この姿で傷を負ったのは初めてかも知れない。
だがこれでいい。
高瀬の流した血に触れた瞬間。
爛々と輝いていた猫蟲の瞳がふとゆらぎーーーーーその体が大きく斜めに傾いだ。
まるで、それこそが致死量の毒であったとでも言うような、ほんの一瞬の出来事。
「あ……」
抱きとめようとした高瀬の腕の中で、猫蟲ーーーーいや、犠牲となった子猫は、跡形もなく姿を消した。
骨の一つも、残すことなく。
名残を惜しむようにぎゅっと空っぽの腕を抱きしめる高瀬を、竜児がその背中から抱き上げる。
「……血が」
「これ、本体の方はどうなってるんだろ?ベッドを汚してたらごめんね、竜児」
眠っていたかと思ったら突然流血していました、では結構なホラーであるが、驚くのはせいぜいあの若造くらいなもの。
人の顔にいたずらをして遊ぶくらいだ、そのくらいのドッキリは許される範囲だろう。
それよりも、あのいかにも高級そうなベッドのシーツに血が付くことを心配していれば、「バカなことを…!」と怒りを滲ませた竜児の声が。
「ーーーーそんなことは気にしなくても構いません。
それよりも」
細く長いーーーーけれども力強い男性的な竜児の指が頬の血を拭い、それを自らの口元に運ぶ。
「……君に血を流させた、この借りはいずれ返します」
「……竜児?」
自らに誓を立てるようなその言葉に、それは一体誰に対するものなのかと問いかけようとした高瀬。
それを遮ったのは、「すごいな、瞬殺か」と笑う男の声。
パンパンと手を叩く破裂音が聞こえ、のんきに男がこちらに向けて拍手をする姿が目に映る。
「あんがとな、嬢ちゃん。ぶっちゃけ助かったわ」
「……?」
助かった、とは。
「言ったろ?俺は猫好きでな。あんた、自分の血を使ってまであいつを浄化してやったんだろ?」
「ーーーーー浄化」
「纏っていたはずの穢れもなんもかんもみんな綺麗に消えてるからな。
これからいつか再び、生き物としてこの地に転生を果たすこともできるだろう。
俺やあの若造じゃ、封印や消滅させることはできても浄化してやることは不可能だったからな」
「…そっか」
こんな場合にも関わらず、男の言葉についほっとした。
敵ではあるが、専門家らしき男の言葉には確かに説得力がある。
あの子が無事に天に帰れたのならそれで満足だ。
そして、満足したのならあとはやることはひとつ。
「んじゃ例の術者は後で土下座するまでタコ殴りする方向で」
「それには僕も参加させてもらいます」
「もち!」
ご自由にどうぞ!!
「ーーーーーーーーーテンション違いすぎねぇか、嬢ちゃん達?」
「いいんです。私の拳はいま真っ赤に燃えている!!!」
ーーーーー敵は必ずとるからね、猫ちゃん!!
「とりあえず」
「とりあえず?」
竜児に子供抱きされ、背後からすりすりと頬ずりされたままの高瀬。
可愛らしい顔で、ニッコリと笑いオネダリする。
「美少女に免じてオッサンのことは見逃します。だから今すぐーーーーーーー術者の住所氏名年齢電話番号を!!!」
「後は写真もあるとなお良し、ですね」
うむ。
こっちには悪徳弁護士も付いてるんだ。
待ってろ悪徳術者。
まずは個人情報を丸裸にしてやらぁぁぁ!!!!!
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