わらしな生活(幼女、はじめました)

隆駆

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クーリングオフは不可能ですか。

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『きゅ?』
「どうしてこうなった……?」
あからさまに自分のものではないベッドの上。
枕元には、当然のように小首を傾げるハムスター。

①ときめきを感じる。
②カラオケデート(主任つき)
③気づけば朝チュン(ならぬ朝ハムスター)←今ここ。

もう一度いう。
「なぜこうなった」
――そしてここはどこですか。
カラオケ店に入店し、主任におだてられてミッキーマ○スマーチを熱唱していたりしたことはしっかり覚えている。
美味しい中華の残りをその場で食べたことも。
「……んで、問題はそのあとか。
確か……主任がまた例の発言を持ち出してきて……」
そうだ、だんだん思い出してきた。

        ※

「でさ、高瀬君。
結局答えてもらえてなかったんだけど、谷崎とあの男、どっちがタイプなの?」
「だからそういうところが空気読めないって言ってるんですよ!」
ようやく落ち着いたところで、再び終わったはずの話を蒸し返され、ドリンクバーのグラスを叩きつけながら高瀬が吠える。
折角部長の機嫌が治ってきたところなのに、その話題のせいでまた不機嫌になったらどうしてくれるのだ。
そう思ってちらりと部長を見れば、その表情にはまだ変わったところはなく。
すっかり落ち着いたように見えるのに安心する。
「というかちゃんと答えたじゃないですか、あの時」
「いやあれ答えじゃないだろ。正確に比較するためには谷崎の裸も見せろと言われただけで」
「だからそれは比較するなら同じ土俵に上げてからにして下さいよという意味で…」
決して、セクハラをしたいわけではない。
ただ、片方だけ見て片方を見ていないのに正確な比較なんてできないじゃないかと……。
もう一度言うが、裸が見たいだけじゃない。
だからそんな冷たい目をしないで下さい、部長っ!!
「そりゃ?性格的なもので言えば断然部長ですよ。そりゃ部長ですよ。主任と部長でも断然部長ですよ。
でもですね。それを抜きにして純粋に造形美だけで選べと言われた場合、顔だけなら正直五分」
というより、系統がだいぶ異なっているので甲乙が付けがたい。
「五分ねぇ…」
意味ありげににやにやとつぶやかれ、「何か文句ありますか」と反論を返す。
「つまり、甲乙つけがたい位には谷崎の顔も好みだってことだろ?」
その曲解したセリフに、高瀬は告げた。
「部長を顔だけで語るのには無理があります。部長の価値は顔のみにあらず!!」
「うんうん、わかったわかった。だから顔だけじゃなく体も見せろって言うんだろ?それが痴女だから」
「ちっが~~~う!!!」
言いたいことはそれじゃない、と地団駄を踏み、ぎろっと主任を睨みつける。
「体も大事でしょう!?」
「力説するのそこなんだ……」
「だって比較しろって言うからっ!!!」
冗談半分に言ったセリフだったのに、何もそれをここで蒸し返さなくてもいいと思う。
「まぁねぇ…。確かに体も大事だよ?主に相性とか…」
「その発言には、そこはかとなく下衆なものを感じます」
「え?これ結構重要だよ?性格の不一致があっても体の相性が良ければ結構長続きするよ?」
「!!」
「なんだろうなぁ…。今、ものすごく汚れたものを見る目で見られたけど…」
さりげなく主任から距離をとり、部長に近づく高瀬。
「なんなら試させてもらえば?体の相性」
徐々に部長との距離を縮めているところで飛び出したその発言に、ぴたりと動きが止まった。
「……試す?」
「そうそう。見ただけじゃわからないものもあるじゃない」
「……部長をお試し?」
「そうそ。今なら持ち帰りOKだよ」
軽い口調で勝手にOKを出した主任に、さすがの部長も眉をしかめる。
「まぁまぁ、お前はしばらく黙って聞いてろって…」
何事かをいいかけた部長に、ぼそぼそと耳打ちする主任。
「……なら今だって……ときめき………既成事実が……」
「あの、なんか不穏な単語が漏れ聞こえてるんですけど」
―――――それはお試しという名の詐欺じゃないか!?
クーリングオフできそうにありません!!
得体の知れない危機感を覚え、部長と主任を引き離したところで、ぽんと肩に手を置かれた。
「高瀬君。折角の機会なんだから一度お試しさせてもらってから責任を…」
「責任!?」
なんか押し付けられようとしてるっ。
しかも責任を取るのはこの場合、高瀬なのか部長なのか、どっちなんだ。
「というかお試しするとかお持ち帰りするとかそんなこと一言も言ってませんからっ!主任が勝手に言ってるだけでしょ!」
「え~~。そこは素直に好意を受け取ろうぜ。むしろ何が不満?」
「この状況全部が不満です!」
「贅沢なこと言わないの。…早く責任とってあげなさい」
「私がですか!?」
私まだ何もしてませんが!と叫べば、主任から大きなため息が。
「無意識にあんだけ誑かしといて……」
「だから人聞きの悪いこと言わないでくださいって!!……というか部長!!なんとか言ってくださいよ!」
勝手に人をお試し販売するな!とかそろそろ怒っていいと思う。
「大体部長っていいところのお坊ちゃんだって聞きましたよ?見合い話とか、婚約者の一人や二人いたりしないんですか??」
「あ、高瀬君は修羅場が希望なの?」
そういう意味じゃなくて!!と全力で首をふり、「どうなんですか部長!」と再び声を上げる。
それに対し、非常に面倒くさそうではあったが、ようやく口を開いた部長。
「見合い話は確かにあったが……。少なくとも婚約者はいないな」
「そもそもコイツ、プライベートで女の面倒をみるのなんてごめんだっていうタイプなんだよ、実は」
「へ?」
主任の補足に、意外な思いで首を傾げる。
今までの自分に対する扱いからして、てっきり世話好きかと思ってた。
むしろオカンだとばかり、と言うセリフに苦笑する主任。
「君みたいに素直に世話を焼かれるタイプならいいんだけど、大体の女って自分が上じゃないと満足しない所があるだろ?自分が一番綺麗で、誰よりも愛されてないと満足できない。自分の弱みをさらすなんてもってのほかで、相手の弱いところもまともに見ようとしない。――――――上辺だけ、ってやつだな」
「………」
「まぁ、大してよく知りもしない相手を好きになるんだから、どうしたって最初が上辺から入るのは仕方ないだろうが、そんな相手に素顔を晒す気になれると思う?」
意味深に尋ねられ、仕方なく「……難しいですね」と相手の望む答えを吐き出した。
「ちなみに、谷崎をオカン呼ばわりしたのは君が初めてだから。こいつが、そこまで面倒見たのは君だけ」
だからさ、と。
「責任とって、こいつ貰ってやってよ!」
「はい!?」
かる~く言われた発言は、はっきり言ってむちゃくちゃだ。
なんに対する責任なのかもはっきりしない。
しかもここまで全くと言っていいほど、部長の意思は不在のまま。
ぐるりと振り返って改めて部長を見る。
「部長にも選ぶ権利が……」
「それ、自分で言ってて悲しくない?っていうか、大丈夫大丈夫、そこはもうクリアしてるから」
「????」
「なぁんでここまで言って通じないかねぇ…。まぁいいや、とりあえずほら、歌うか」
「勝手に地上の星入れないでもらえます?」

プロジェクトXが頭から離れません。
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