わらしな生活(幼女、はじめました)

隆駆

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不倫は文化?

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人間以外の記憶を覗くことなど、そうそうあることではない。
そもそも人の記憶だってそういつも覗いているわけではないのだが、非常時には別だ。
人間の記憶とは曖昧で、見たものの半分以下しかまともに覚えていないと思っているが、実際には違う。
記憶はされている。ただ、それを取り出す術がないだけなのだ。
夢の中で出てくる見知らぬ人物は、実はその日に道ですれ違った相手だという話もある。
夢の中は記憶の整理を行う場所であり、登場する人物は全て必ずどこかで見知った相手なのだと。
つまり何が言いたいかといえば。
本人が覚えていずとも、本人の脳みそは、間違いないく記憶を残している。
「ノイズが多い」
記憶を潜ると、大体の人間は直ぐに目的の記憶にたどり着くことができる。
高瀬が見ようとしているのが、その人物に取って重要な記憶でもある証拠なのだが、今回の場合は違う。
ないしろ、本体となっている白狐――――マルちゃん自身が、相当年季の入った大型PCのような状態だ。
記憶している容量が半端ではない。
つい先日あった記憶を探すだけでも、一苦労だ。
いくら人外といえどもプライバシーは大切と、必要な記憶以外には触れないように細心の注意を払って意識を潜っていったのだが、先ほどちらりと、気になる記憶があった。
巫女姿でをした、ひとりの少女の姿だ。
一体いつの記憶なのかさっぱりわからないが、マルちゃん自身にとって大切な記憶に分類されているらしく、覗いてすぐにはじかれるような感覚を覚えた。
だが。
「……見られた気がする」
勿論これが記憶である以上、そんな事が起こるはずもないのだが、あちらを除いた一瞬、向こうの少女のと目があった。そんな気がしたのだ。その瞬間、確かに少女は微笑んだ。
「気のせい気のせい……」
不可解な出来事をそう自分に言い聞かせ、なんとか目的の記憶にたどり着く。
矢部先輩の姿を見つけた。
「待って……!!!」
そう叫んだ矢部先輩が、コート姿の男性の背中を追いかける。
中塚女史が言った通りだ。
少し後ろからそれを追いかける映像が続き、中塚女史が尾行を続けていることが分かる。
「約束が違うでしょう!!……かするって………のに!!」
男の胸ぐらをつかみ、なじるような素振りを見せる矢部先輩。
少し距離が空いたせいか、何をしゃべっているのかまではよく聞こえない。
「あなたのせいで………のよ………………しょう……!?」
男の顔が、チラリと見えた。
矢部先輩よりも少し上くらい、40代から50代程度の中年男だ。
口元にほくろのある特徴のある顔で、確かに初対面だとは言えるのだが、どこかで似たような顔を見ているような気もした。
――――どこで見たんだろう?
よく思い出せないが、この記憶は竜児も共用している。
竜児ならば、何か答えが出るかも知れない。
「責任を…………のせいであの子が………お金………………殺して」

どうしよう。聴こえてくる言葉がなんだか不穏な単語になってきた。
相変わらず男に追いすがる矢部先輩。
必死の形相で言ってる言葉が「責任」「あの子」「お金」「殺す」だ。
まさか、子供ができた挙句に捨てられたとかじゃないだろうな……?
それでせめて慰謝料をを払えと請求してるとか・・・・。
ちょっと別の意味で心配になってきたのだが。
やがて展開は中塚女史の説明通り、矢部先輩が男に振り払われて終了。
矢部先輩は倒れ、見ていられなくなった中塚女史が退場。
そこで記憶は途切れるかに思われたのだが、実は違った。
映像の中に、去っていく中塚女子が映る。
そして再び矢部先輩を追う視線。
・・・と、いうことはだ。
この狐、中塚女史を守れという命令を破って勝手に移動してたな。
しかも面白そうだと思ったのか、矢部先輩を少し遠くから見ていた様子。
近づけば気づかれることくらいは分かっているのだろう。
勝手なことをしてと思わないでもないが、今回ばかりはファインプレーだ。
やがて矢部先輩が服についた汚れを払いながら立ち上がり、男が去っていった方向に向かって呟く。
「死ねばいいのに」と。
うん、怖い。
これやっぱ捨てられた恨みとかじゃないだろうか。
実は偽装工作とか何も関係なかったりして……。
肩をいからせ、ヒールを激しく鳴らしながら歩き出した矢部先輩。
時間的な問題なのか、通っている道が大通りから外れていることが悪いのか、あたりに人気はない。
そこへ現れた男の影。
まるで自分の後を付けるように少し後ろを歩くそれに気づき、歩調を早める矢部先輩。
だが、男も同じように早足でついてくる。
やがて走り続けた矢部先輩が派手に転んだ。
ろくに前もみず、後ろを振り返りながらヒールで猛ダッシュすれば当然の結果だ。
そこにやってくる男。
手に、何か光るものを持っている。
あれは――――ナイフか。
矢部先輩もそれに気づき、悲鳴をあげながら脱げたヒールを手に持ち、男に投げつける。
そして叫んだ。
「甘く見ないで!この人殺しっ!私はそう簡単には殺されないわよ!!!」
そのあまりに大声に、近所に家にぱっと明かりが灯った。
誰かが不審に思い、様子見に道路まで出てこようとしているのが分かる。
閑静なとはいえ、住宅街を通っていたのが幸運だった。
怯んだ男はそこで逃げ出し、矢部先輩はついでとばかりにもう片方のヒールも去っていく男に投げつけ、「一昨日来やがれ変態野郎!!!」と声をあげる。
矢部先輩つえぇぇぇ。ちょっと見直した。
近所の家から出てきた中年男性が、道路に座り込んだ矢部先輩に気づきすぐに駆け寄る。
そこで事情を説明し、警察に連絡。
パトカーの男が聞こえ出したところで、記憶は途切れた。
つまり、そこでこの場を去ったのだろう。
潜り込んだ記憶の海からふっと意識を浮上させ、己の体の中に戻るなり、高瀬はポツリと呟く。
「……偽装じゃなかったってことか」
「どうやらそのようですね」
同じ記憶を見ていた竜児も、犯人らしき男を目撃している。
あれが偽装とは思えない。
そもそも自作自演ならともかく、わざわざ別の男性に犯人役を頼めるような性格はしていない。
会社でも、部長に媚を売る以外は特に浮いた噂のないお局様なのだ。
疑って申し訳なかった。
「ってことは、犯人はあの男ってことだよね?」
「……しかし彼女はなぜ一目見て『人殺し』と叫んだのでしょう」
「え?」
竜児の疑問はこうだった。
自分をつけてきた怪しい男。不審者扱いをするのは当然だが、それを直ぐに「人殺し」と呼ぶものだろうか、と。
そもそも例の通り魔だが、まだ殺害までにはいたっていない。
重症を負ったものはいるが、現在はまだ障害事件として捜査が進んでいるのだ。
ニュースなどでよく流れていることから、矢部先輩もこのことは知っているはず。
「……つい、口から出たとか?」
「だとしても妙に確信名ていた気がしますがねぇ…」
「う~ん……」
ちょっとだけ、謎が深まった。
だがこれは、矢部先輩に直接聞くしか方法はない。
「ところで竜児、その前の男の人。なぁんかどっかで見覚えがあるような気がするんだけど、知ってる?」
喉元まででかかっているのだが、答えがでなくて非常に気持ち悪い。
「知っていますよ。まぁ、僕も写真で見ただけですが……」
「写真?」
「例の寺尾婦人が若い頃に不倫をしていた相手です」

「………は?」
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